夢のシネマパラダイス585番シアター:家族の愛のカタチ
万引き家族
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ、池松壮亮、高良健吾、池脇千鶴、柄本明
監督・脚本:是枝裕和
(2018年・日本・120分)TOHOシネマズ日本橋
内容:東京の下町の古ぼけた一軒家で暮らす5人の家族。治(リリー・フランキー)の日雇い稼ぎはあてにならず、一家の暮らしはおばあちゃん(樹木希林)の年金頼り。それでも足りない分は万引きでまかなっていた。そんなある日、治は団地のベランダで幼い女の子が部屋を閉め出され寒さに震えているのを見かねて連れ帰る。ゆりと名乗るその子は家に帰るのを拒否したため、そのまま一家と暮らし始めるが・・・。
評価★★★★☆/85点
この映画で1番好きなシーンは、家族で海に行った時に祥太が亜紀姉ちゃん(松岡茉優)のビキニの胸元に目が釘付けになっているのを父リリー・フランキーがめざとく見つけて茶化すところ。オッパイに興味が湧くのも、朝起きた時にアソコが大きくなっているのも、それは病気じゃなくて大人の男なら誰でもそうなるんだと言って祥太を安心させるシーンにほっこり。
このシーンがなんで印象的だったかというと、名作ドラマ「北の国から」でシチュエーションは違えど、純くんと田中邦衛が全く同じやり取りをする場面があって、それを真っ先に思い出したから。パクリかと思ったくらいww
でも、この祥太とリリー・フランキーの関係性にしても、初枝ばあちゃん(樹木希林)と信代(安藤サクラ)や亜紀の関係性にしても、一言一言の会話の裏側にある複雑なバックグラウンドを想像させる演出が途轍もなく緻密かつ奥深くてホント見入っちゃった。
そして、余計な期待のいらない打算的なつながり、それでも芽生えてくる愛情と切りがたい心のつながり、そして結局まとわり付いてくる血のつながりという呪縛、これらが渾然一体と絡み合った一筋縄ではいかない疑似家族のカタチにいろいろと考えさせられて、終わってみればエゲツない余韻。。
いや、正確にいえばモヤモヤ~としたかんじに襲われて何とも言えない気持ちになったけど、自分の中でこんな良い意味でのモヤモヤ映画は初めてかもw
このモヤモヤは、セーフティネットからこぼれ落ちた彼らを見て見ぬふりをして、時にはワイドショーの表面的な情報を鵜吞みにして上から目線で断罪する世間様のひとりである自分が、彼らを善悪の物差しで測りかねている居心地の悪さだったのか。それともスカイツリーは見えるけど隅田川の花火は音しか聞こえないワンルームに独り暮らす自分も、下手したら彼らのような境遇に転げ落ちてもおかしくないのではないかという一抹の不安を感じた怖さなのか。
自分の心の中も渾然一体・・・。
とりあえず、自分の部屋はキレイにしておこう!とだけは決心したww
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浅田家!
出演:二宮和也、妻夫木聡、黒木華、菅田将暉、渡辺真起子、北村有起哉、風吹ジュン、平田満
監督・脚本:中野量太
(2020年・東宝・127分)WOWOW
内容:幼い頃から写真を撮るのが大好きだった浅田政志は、なりたい&やりたいことをテーマに家族全員でコスプレした姿を撮った写真集を出版する。すると写真界の芥川賞・木村伊兵衛写真賞を受賞!プロの写真家として歩み始めるが、軌道に乗り出した矢先に東日本大震災が発生する・・・。
評価★★★★/75点
「湯を沸かすほどの熱い愛」では末期がんの宣告を受けた肝っ玉母ちゃんのダダ漏れの愛を、「長いお別れ」では認知症になった父親の介護の悲喜こもごもをそれぞれユーモアを交えて描いた中野量太監督。
絶望的な悲しみを陰うつなシリアスドラマではなく陽気なポジティブ喜劇に切り取っていくセンスは、その先にある生きる喜びこそ人の営みの本質であるということを謳い上げていて、昨今の閉塞リアリズム全盛時代において稀有な存在になっている。
繊細なテーマである東日本大震災という悪夢のような喪失を取り上げた今作でもそのスタンスが変わらないのがスゴイところで、家族写真にフォーカスして絆を描き出す演出にはあざとさがなく素直に見ることができる。ラストの二段落ちにもほっこり脱力w
ちびまる子ちゃんに出てくるたまちゃんのお父さんばりに写真好きだった父親からカメラを向けられると一目散に逃げまどっていた自分のことを少し後悔(笑)。
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湯を沸かすほどの熱い愛
出演:宮沢りえ、杉咲花、伊東蒼、篠原ゆき子、駿河太郎、松坂桃李、オダギリジョー
監督・脚本:中野量太
(2016年・日本・125分)WOWOW
内容:銭湯を営んでいた幸野家。しかし、1年前に旦那の一浩が失踪してからは休業状態になり、妻の双葉は女手一つで中学生の娘・安澄を育てていた。そんなある日、双葉は末期ガンで余命2か月の宣告を受けてしまう。絶望に沈みながらも、家業の銭湯の再開やイジメにあっている安澄のことなど、死ぬまでに解決しなければならない問題が山ほどあると思い立った彼女は、すぐさま行動に移していく・・・。
評価★★★★/80点
冒頭、銭湯の入口に貼られた“湯気のごとく店主が蒸発しました。当分の間、お湯は沸きません”という張り紙のユーモアセンスがとにかく秀逸。
これを書いた双葉さんって人のパーソナリティに多大な魅力を感じさせるとともに、このてのジャンル映画お得意の涙の安売りというアウトラインを良い意味で裏切ってくれるのではないかとさえ期待。
で、結局泣かされちゃったけど(笑)、泣かせのポイントが死にゆく者の喪失によるセンチメンタルな悲しみではなく、残される者の絆の回復による救済の喜びにあるところが白眉。
しかも、その絆をつなぐのが先立つお母ちゃんの偉大な愛というのが良いし、作為的にもほどがある疑似家族描写のミルフィーユ状態が“ごっこ”に見えず納得させられてしまうのも、宮沢りえ=双葉さんの太陽のような存在感あってこそだったと思う。
総じて男はボケーッとだらしなくて、女は現実に立ち向かう強さを持っているんだよねw
その中でも、娘役の杉咲花には瞠目!助演女優賞です。
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おおかみこどもの雨と雪
声の出演:宮崎あおい、大沢たかお、黒木華、西井幸人、染谷将太、谷村美月、麻生久美子、菅原文太
監督・脚本:細田守
(2012年・東宝・117分)DVD
内容:都内の大学に通っていたわたしの母親・花は、学内でもぐりの学生だった父と出会い恋に落ちた。父は自分が二ホンオオカミと人間との間にできた末裔“おおかみおとこ”であることを打ち明けたが、母の気持ちは変わらなかった。やがて一緒に暮らし始めた2人の間には、雪の日に生まれたわたし・雪と、雨の日に生まれた弟の雨という2人の“おおかみこども”を授かった。しかし、雨が生まれて間もないある日、父親が突然亡くなった。そして母はわたしたちを一人で育てていくと決め、遠い田舎の農村に移り住んだのだった・・・。
評価★★★★/75点
母が好きになった人はオオカミ男でした、という突拍子もない一言から幕を開ける今回の作品。
ところが、人と獣が混じり合うというのは「トワイライト」のようなアメリカンファンタジーなら何の抵抗もなく見られるのだけど、ことこれが日本となると若干のアレルギーを催してしまうのはなぜだろう・・。
って考えると、手塚治虫がさんざん描いてきた異形と変身の系譜、あるいは今村昌平がイヤというくらい暴き立てた日本に深く根付く土着の自然信仰(オオカミの場合は山神信仰といっていいかもしれない)と近代化の間にはびこる差別、そしてなにより両者の作品に潜む特異なエロスの匂いを想起してしまうからかもしれない。
要は、差別という言葉を用いたように、ジブリ的な人と自然の対立の構図とは異なるもっと生々しい現実=タブーを避けては通れないということだ。
母が好きになった人はオオカミ男でした、という開巻宣言にはそういう命題が否応なく含まれてくるわけで、そこを見せられる怖さみたいなものを違和感というかアレルギーとして感じてしまうのかもしれない。
が、、フタを開けてみたら、それはほぼ杞憂に終わった
避けては通れない要素をさわりだけなぞってはいるものの、純然たる母性愛讃歌に特化することで、そういう描写を周到に回避しているのが本作の特徴といえるだろう。
まず、異形への恐れという点では、雪の変身シーンを見れば分かるように非常に漫画チックで愛嬌のあるものになっていてグロテスクさを排除しているし、花と彼氏が結ばれるくだりでも狼男と交わることに花は何ら逡巡することなく受け入れていることから異形というキーワードはかなり薄められているといってよい。
また、差別という点でも花の親や友達を登場させず、人里離れたド田舎に早々引っ込むことで差別に対し無自覚なマジョリティを排除しているし、それどころか人目を避けて引っ越してきたのにいつの間にか周りの人達にお世話になっていると花が言うように、外部との交流を前提としない村社会に簡単に受け入れられていて、もはやただの「北の国から」状態ww
そしてエロについては、ファミリー向けアニメをして排除されるのは当然なこととはいえ、狼男とのベッドシーンを描くこと自体すでにチャレンジャーだと思うけど、そのシーンで男の姿をオオカミの影として描いたことまでがギリギリのラインだったか。
ということで、何もそこまで難しく考えることはない。
“その程度の”作品なのだ(笑)。
しかし、その程度であることに失望よりも安心感の方が大いに上回ったのが正直なところで。。
自分はこの程度で良かったと思う
ただ、この映画のビジュアルポスターで両手に雪と雨を抱いてすっくと立っている花の力強い母としてのイメージを劇中の花から感じられなかったのは唯一の失望ポイントで、やっぱ結局線の細い10代少女キャラから抜け出せてないじゃんっていう思いは強く持った。
その点では宮崎あおいの声もいただけない。可愛すぎる宮崎あおいとしか聞こえないことがその違和感を増幅させてしまっているからだ。
清純な良き妻をイヤというほど演じてきても、なぜかほとんどの作品で子を育てる強き母親にはなれずじまいの宮崎あおいとダブって見えてしまうのは痛い。
まぁ、演出力は図抜けているし、背景画の細密さとかも良いし、一筋縄ではいかない作家性も出してきて、次回作が待ちきれない監督になったことは確かだ。
Posted at 2013.7.12
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人魚の眠る家
出演:篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎、川栄李奈、山口紗弥加、田中哲司、田中泯、松坂慶子
監督:堤幸彦
(2018年・松竹・120分)WOWOW
内容:娘・瑞穂の小学校受験が終わったら離婚する。播磨薫子と別居中のIT機器メーカー社長の夫・和昌はそう決めていたが、ある日、瑞穂がプールで溺れて意識不明になってしまう。医師から脳死と告げられ、臓器提供を一旦は受け入れる薫子だったが、直前になって翻意。和昌の会社の研究員・星野が開発した最新技術を取り入れて延命措置を取るのだが・・・。
評価★★★/65点
科学の力を駆使して死を操作してしまう神の領域に踏み込んだある種クレイジーな人間のエゴを描き出している今作。
そのエスカレートしていくベクトルが、逆に脳死や臓器移植という他人事のように考えていた難しくて重いテーマに対するハードルを下げることに繋がっていて、自分の無知に気づかされるとともに、常に自分の価値観と対峙させられて、なかなかに考えさせられる映画だったと思う。
まぁ、母親(篠原涼子)に感情移入するのは難しかったけど、母娘の愛情という普遍的なテーマに落ち着かせるのはグウの音も出ない展開ではあった。ただ、当たり前すぎてちょっと淡泊だった気もするけど。。
あと、もうちょっとホラーテイストを含んでるかと思ったら、エンドクレジットで東野圭吾原作と知ってビックリ!堤幸彦の演出スプレー臭だけは相変わらずだったのに(笑)
しかし、日本は臓器移植が極端に少なかったり、死の境界線があいまいだったり欧米のように合理的にならないのは、日本人の死生観が独特だったりするからなのかな。ホントに難しい問題。。
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