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2022年1月 4日 (火)

夢のシネマパラダイス585番シアター:家族の愛のカタチ

万引き家族

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出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ、池松壮亮、高良健吾、池脇千鶴、柄本明

監督・脚本:是枝裕和

(2018年・日本・120分)TOHOシネマズ日本橋

内容:東京の下町の古ぼけた一軒家で暮らす5人の家族。治(リリー・フランキー)の日雇い稼ぎはあてにならず、一家の暮らしはおばあちゃん(樹木希林)の年金頼り。それでも足りない分は万引きでまかなっていた。そんなある日、治は団地のベランダで幼い女の子が部屋を閉め出され寒さに震えているのを見かねて連れ帰る。ゆりと名乗るその子は家に帰るのを拒否したため、そのまま一家と暮らし始めるが・・・。 

評価★★★★☆/85点

この映画で1番好きなシーンは、家族で海に行った時に祥太が亜紀姉ちゃん(松岡茉優)のビキニの胸元に目が釘付けになっているのを父リリー・フランキーがめざとく見つけて茶化すところ。オッパイに興味が湧くのも、朝起きた時にアソコが大きくなっているのも、それは病気じゃなくて大人の男なら誰でもそうなるんだと言って祥太を安心させるシーンにほっこり。

このシーンがなんで印象的だったかというと、名作ドラマ「北の国から」でシチュエーションは違えど、純くんと田中邦衛が全く同じやり取りをする場面があって、それを真っ先に思い出したから。パクリかと思ったくらいww

でも、この祥太とリリー・フランキーの関係性にしても、初枝ばあちゃん(樹木希林)と信代(安藤サクラ)や亜紀の関係性にしても、一言一言の会話の裏側にある複雑なバックグラウンドを想像させる演出が途轍もなく緻密かつ奥深くてホント見入っちゃった。

そして、余計な期待のいらない打算的なつながり、それでも芽生えてくる愛情と切りがたい心のつながり、そして結局まとわり付いてくる血のつながりという呪縛、これらが渾然一体と絡み合った一筋縄ではいかない疑似家族のカタチにいろいろと考えさせられて、終わってみればエゲツない余韻。。

いや、正確にいえばモヤモヤ~としたかんじに襲われて何とも言えない気持ちになったけど、自分の中でこんな良い意味でのモヤモヤ映画は初めてかもw

このモヤモヤは、セーフティネットからこぼれ落ちた彼らを見て見ぬふりをして、時にはワイドショーの表面的な情報を鵜吞みにして上から目線で断罪する世間様のひとりである自分が、彼らを善悪の物差しで測りかねている居心地の悪さだったのか。それともスカイツリーは見えるけど隅田川の花火は音しか聞こえないワンルームに独り暮らす自分も、下手したら彼らのような境遇に転げ落ちてもおかしくないのではないかという一抹の不安を感じた怖さなのか。

自分の心の中も渾然一体・・・。

とりあえず、自分の部屋はキレイにしておこう!とだけは決心したww

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浅田家!

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出演:二宮和也、妻夫木聡、黒木華、菅田将暉、渡辺真起子、北村有起哉、風吹ジュン、平田満

監督・脚本:中野量太

(2020年・東宝・127分)WOWOW

内容:幼い頃から写真を撮るのが大好きだった浅田政志は、なりたい&やりたいことをテーマに家族全員でコスプレした姿を撮った写真集を出版する。すると写真界の芥川賞・木村伊兵衛写真賞を受賞!プロの写真家として歩み始めるが、軌道に乗り出した矢先に東日本大震災が発生する・・・。

評価★★★★/75点

「湯を沸かすほどの熱い愛」では末期がんの宣告を受けた肝っ玉母ちゃんのダダ漏れの愛を、「長いお別れ」では認知症になった父親の介護の悲喜こもごもをそれぞれユーモアを交えて描いた中野量太監督。

絶望的な悲しみを陰うつなシリアスドラマではなく陽気なポジティブ喜劇に切り取っていくセンスは、その先にある生きる喜びこそ人の営みの本質であるということを謳い上げていて、昨今の閉塞リアリズム全盛時代において稀有な存在になっている。

繊細なテーマである東日本大震災という悪夢のような喪失を取り上げた今作でもそのスタンスが変わらないのがスゴイところで、家族写真にフォーカスして絆を描き出す演出にはあざとさがなく素直に見ることができる。ラストの二段落ちにもほっこり脱力w

ちびまる子ちゃんに出てくるたまちゃんのお父さんばりに写真好きだった父親からカメラを向けられると一目散に逃げまどっていた自分のことを少し後悔(笑)。

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湯を沸かすほどの熱い愛

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出演:宮沢りえ、杉咲花、伊東蒼、篠原ゆき子、駿河太郎、松坂桃李、オダギリジョー

監督・脚本:中野量太

(2016年・日本・125分)WOWOW

内容:銭湯を営んでいた幸野家。しかし、1年前に旦那の一浩が失踪してからは休業状態になり、妻の双葉は女手一つで中学生の娘・安澄を育てていた。そんなある日、双葉は末期ガンで余命2か月の宣告を受けてしまう。絶望に沈みながらも、家業の銭湯の再開やイジメにあっている安澄のことなど、死ぬまでに解決しなければならない問題が山ほどあると思い立った彼女は、すぐさま行動に移していく・・・。

評価★★★★/80点

冒頭、銭湯の入口に貼られた“湯気のごとく店主が蒸発しました。当分の間、お湯は沸きません”という張り紙のユーモアセンスがとにかく秀逸。

これを書いた双葉さんって人のパーソナリティに多大な魅力を感じさせるとともに、このてのジャンル映画お得意の涙の安売りというアウトラインを良い意味で裏切ってくれるのではないかとさえ期待。

で、結局泣かされちゃったけど(笑)、泣かせのポイントが死にゆく者の喪失によるセンチメンタルな悲しみではなく、残される者の絆の回復による救済の喜びにあるところが白眉。

しかも、その絆をつなぐのが先立つお母ちゃんの偉大な愛というのが良いし、作為的にもほどがある疑似家族描写のミルフィーユ状態が“ごっこ”に見えず納得させられてしまうのも、宮沢りえ=双葉さんの太陽のような存在感あってこそだったと思う。

総じて男はボケーッとだらしなくて、女は現実に立ち向かう強さを持っているんだよねw

その中でも、娘役の杉咲花には瞠目!助演女優賞です。

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おおかみこどもの雨と雪

Mainvisual声の出演:宮崎あおい、大沢たかお、黒木華、西井幸人、染谷将太、谷村美月、麻生久美子、菅原文太

監督・脚本:細田守

(2012年・東宝・117分)DVD

内容:都内の大学に通っていたわたしの母親・花は、学内でもぐりの学生だった父と出会い恋に落ちた。父は自分が二ホンオオカミと人間との間にできた末裔“おおかみおとこ”であることを打ち明けたが、母の気持ちは変わらなかった。やがて一緒に暮らし始めた2人の間には、雪の日に生まれたわたし・雪と、雨の日に生まれた弟の雨という2人の“おおかみこども”を授かった。しかし、雨が生まれて間もないある日、父親が突然亡くなった。そして母はわたしたちを一人で育てていくと決め、遠い田舎の農村に移り住んだのだった・・・。

評価★★★★/75点

母が好きになった人はオオカミ男でした、という突拍子もない一言から幕を開ける今回の作品。

ところが、人と獣が混じり合うというのは「トワイライト」のようなアメリカンファンタジーなら何の抵抗もなく見られるのだけど、ことこれが日本となると若干のアレルギーを催してしまうのはなぜだろう・・。

って考えると、手塚治虫がさんざん描いてきた異形と変身の系譜、あるいは今村昌平がイヤというくらい暴き立てた日本に深く根付く土着の自然信仰(オオカミの場合は山神信仰といっていいかもしれない)と近代化の間にはびこる差別、そしてなにより両者の作品に潜む特異なエロスの匂いを想起してしまうからかもしれない。

要は、差別という言葉を用いたように、ジブリ的な人と自然の対立の構図とは異なるもっと生々しい現実=タブーを避けては通れないということだ。

母が好きになった人はオオカミ男でした、という開巻宣言にはそういう命題が否応なく含まれてくるわけで、そこを見せられる怖さみたいなものを違和感というかアレルギーとして感じてしまうのかもしれない。

が、、フタを開けてみたら、それはほぼ杞憂に終わった

避けては通れない要素をさわりだけなぞってはいるものの、純然たる母性愛讃歌に特化することで、そういう描写を周到に回避しているのが本作の特徴といえるだろう。

まず、異形への恐れという点では、雪の変身シーンを見れば分かるように非常に漫画チックで愛嬌のあるものになっていてグロテスクさを排除しているし、花と彼氏が結ばれるくだりでも狼男と交わることに花は何ら逡巡することなく受け入れていることから異形というキーワードはかなり薄められているといってよい。

また、差別という点でも花の親や友達を登場させず、人里離れたド田舎に早々引っ込むことで差別に対し無自覚なマジョリティを排除しているし、それどころか人目を避けて引っ越してきたのにいつの間にか周りの人達にお世話になっていると花が言うように、外部との交流を前提としない村社会に簡単に受け入れられていて、もはやただの「北の国から」状態ww

そしてエロについては、ファミリー向けアニメをして排除されるのは当然なこととはいえ、狼男とのベッドシーンを描くこと自体すでにチャレンジャーだと思うけど、そのシーンで男の姿をオオカミの影として描いたことまでがギリギリのラインだったか。

ということで、何もそこまで難しく考えることはない。

“その程度の”作品なのだ(笑)。

しかし、その程度であることに失望よりも安心感の方が大いに上回ったのが正直なところで。。

自分はこの程度で良かったと思う

ただ、この映画のビジュアルポスターで両手に雪と雨を抱いてすっくと立っている花の力強い母としてのイメージを劇中の花から感じられなかったのは唯一の失望ポイントで、やっぱ結局線の細い10代少女キャラから抜け出せてないじゃんっていう思いは強く持った。

その点では宮崎あおいの声もいただけない。可愛すぎる宮崎あおいとしか聞こえないことがその違和感を増幅させてしまっているからだ。

清純な良き妻をイヤというほど演じてきても、なぜかほとんどの作品で子を育てる強き母親にはなれずじまいの宮崎あおいとダブって見えてしまうのは痛い。

まぁ、演出力は図抜けているし、背景画の細密さとかも良いし、一筋縄ではいかない作家性も出してきて、次回作が待ちきれない監督になったことは確かだ。

Posted at 2013.7.12

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人魚の眠る家

174949_02出演:篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎、川栄李奈、山口紗弥加、田中哲司、田中泯、松坂慶子

監督:堤幸彦

(2018年・松竹・120分)WOWOW

内容:娘・瑞穂の小学校受験が終わったら離婚する。播磨薫子と別居中のIT機器メーカー社長の夫・和昌はそう決めていたが、ある日、瑞穂がプールで溺れて意識不明になってしまう。医師から脳死と告げられ、臓器提供を一旦は受け入れる薫子だったが、直前になって翻意。和昌の会社の研究員・星野が開発した最新技術を取り入れて延命措置を取るのだが・・・。

評価★★★/65点

科学の力を駆使して死を操作してしまう神の領域に踏み込んだある種クレイジーな人間のエゴを描き出している今作。

そのエスカレートしていくベクトルが、逆に脳死や臓器移植という他人事のように考えていた難しくて重いテーマに対するハードルを下げることに繋がっていて、自分の無知に気づかされるとともに、常に自分の価値観と対峙させられて、なかなかに考えさせられる映画だったと思う。

まぁ、母親(篠原涼子)に感情移入するのは難しかったけど、母娘の愛情という普遍的なテーマに落ち着かせるのはグウの音も出ない展開ではあった。ただ、当たり前すぎてちょっと淡泊だった気もするけど。。

あと、もうちょっとホラーテイストを含んでるかと思ったら、エンドクレジットで東野圭吾原作と知ってビックリ!堤幸彦の演出スプレー臭だけは相変わらずだったのに(笑)

しかし、日本は臓器移植が極端に少なかったり、死の境界線があいまいだったり欧米のように合理的にならないのは、日本人の死生観が独特だったりするからなのかな。ホントに難しい問題。。

2019年8月 3日 (土)

夢のシネマパラダイス530番シアター:原爆が残したもの・・・

母と暮せば

D0_hzneucaicqbd出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、小林稔侍、橋爪功

監督・脚本:山田洋次

(2015年・松竹・130分)WOWOW

内容:長崎に原爆が投下された昭和20年8月9日、医大生の浩二は一瞬にしてこの世からいなくなった。夫を病気で、長男を南方戦線で亡くしている母親の伸子は、次男坊はどこかで生きていると思いながら助産婦の仕事をしながら一人で暮らしていた。浩二の婚約者だった町子はそんな伸子のことを気にかけ、足繁く訪ねてくれていた。そして3年目の8月9日、伸子の前にひょっこり浩二の幽霊が現われる。そして2人は思い出話に花を咲かせるのだった・・・。

評価★★★☆/70点

終戦から70年経ち、今や戦地に行った兵士たちは年齢的に考えてもほとんどいない世の中になってしまった。13歳の時に終戦を迎えたという山田洋次もすでに85歳。

銃後の世代でさえもはや危うい。自分が思っている以上にあの戦争は風化してしまっているのだと思う。そして高齢になっても精力的に映画を撮り続ける山田洋次にとって最近のきな臭い世の中の風潮もあいまって撮らずにはいられなかったのだろう。

昭和15年の東京を舞台にした「母べえ」(2007)で市井の人々のささやかな幸せを喰いつぶしていく不気味な戦時の空気を描いていたけど、今回は数多の生命を一瞬で消し去った原爆投下から3年後の長崎を舞台に、いまだ消えることなく日常に刻まれた傷跡を描き出した。

広島が舞台の「父と暮せば」と対になった作りになっていて、生き残った者の負い目というテーマは同じなのだけど、生き残った自分は幸せになってはいけないんだと自問自答する娘の痛々しさが心に刺さった「父と暮せば」と比べると、今回は母と息子というマザコンすれすれの親子愛とキリスト教の死生観が根本にあるために若干メッセージ性が甘めの方向に出てしまった感はあるかなとは思う。

けど、原爆を語り継ぐことをライフワークとしてきた吉永小百合の演技は心に響くものがあったし、菩薩のような彼女でさえも「どうしてあの娘だけが幸せになるの?」と呪詛の言葉を吐かざるを得ないところに、戦争・原爆のもたらした虚しさとおぞましさが胸をついた。

あとは何といってもたった2カットで表現した原爆投下直後の惨劇シーンだろう。

医科大の教室内がビカッと真っ白に光った後に万年筆のインク瓶がトロトロと溶けていき、ガラス片の粉塵が猛烈な爆風で吹きすさび真っ暗闇に覆われていく、、、そのあまりの衝撃に何も言葉が出てこなかった。

山田洋次渾身の一作になったといっていいだろう。

ただ、映像から色や温度は伝わってきても匂いまではあまり伝わってこなくて、戦争を知る最後の世代の山田洋次でさえも描き切れないところに風化の恐ろしさを感じてしまったことも付け加えておきたい。

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父と暮せば

Kura 出演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信

監督・脚本:黒木和雄

(2004年・日本・99分)NHK-BS

評価★★★★/80点

 

内容:広島に原爆が投下されてから3年。図書館に勤める美津江は、愛する人たちを原爆で失い、自分だけが生き残ったことに負い目を感じながらひっそりと暮していた。そんな彼女はある日、図書館で大学助手の木下という青年と出会い、互いに惹かれあっていったが、「うちは幸せになってはいけんのじゃ」と恋心を押さえ込んでしまう。それを見かねた彼女の父・竹造は亡霊となって姿を現し、“恋の応援団長”として娘の心を開かせようとするのだが・・・。

“広島の原爆慰霊碑に記銘されている「安らかに眠って下さい。過ちは二度と繰り返しませんから。」という言葉を忘れずに受け継いでいくためには、とにかく語り継いでいくことしか道はない。”

戦争・被爆体験の記憶を風化させてはならないという声は、戦後70年が経ち、TVゲームばりのシミュレーション感覚で戦争がTV画面から流れてくることにどこか感覚が麻痺しかけている現在、特に声高に叫ばれていることだが、風化を防ぐためにはとにかく戦争体験者の悲惨な記憶を世代を越えて語り継いでいかなければならない。

風化させてはならないのならば語り継いでいかなければならない。~しなければならない、それは義務であり責任であり使命である。戦争を体験した者としての。

と、疑問のはさみ込む余地などないような当然なこととして自分なんかは考えてきたのだが、この映画を見てハッと気付かされたことがある。

それは、語り継ぐ者の苦悩とツラさだ。

思い出したくもない、他人に話したくもない悲惨な体験の記憶を吐露すること。そのエネルギーと勇気はそれを受け取る側からは計り知れないほどのものがあるのだろう。

原爆投下から3年後の広島で生きる美津江の苦悩、未来を断絶させてしまうほどの人間そのものを深くえぐる傷。

「あんときの広島では死ぬるんが自然で、生き残るんが不自然なことじゃったんじゃ。」という言葉にしばし絶句してしまう。

生き残った者としての苦しみを切々と表現した宮沢りえと、その何十倍もの苦しみを背負いながら美津江を大らかに包んでいく「恋の応援団長」原田芳雄の存在感にただただ脱帽するばかりだ。

次の世代に継いで行く、それにはもちろん受け取る次の世代の側にも義務と責任と使命が課されるわけだが、はたして語り継ぐ側とどれだけ価値観を共有できるのか、どれだけ彼らのつらく苦しい記憶を実体と重さのあるものとして受け止められるのかという問題も最近は出てきたように感じられる。

先の戦争では日本軍兵士の多くが実は餓死で亡くなっているというのは事実だが、この飽食の時代に、はたして飢餓を想像できるだろうか。以前TVで、あまりにも空腹で、炭をガリガリかじって食べたんです、という元兵士の話を聞いたが正直自分はわけが分からなかった。だって、炭って・・・。

また、例えば、ひめゆり部隊の沖縄戦に関する語り部の証言が「退屈で飽きてしまった」などということが高校の入試問題に平気で出てしまう、今はそんな時代になってしまったのだ。

風化は日々進んでいる。

とにかくもう時間がない。次の世代に継いでいかなければならない時間が・・・。

戦後70年経って、涙を流しながらやっとで重い口を開く方もいる。戦後70年経っても、いまだに戦争の悪夢にうなされる方々がいる。

自分の祖父はシベリア抑留を経験していたが、中学生の時に交通事故であっけなく逝ってしまった。

祖父には右手の親指がなかったが、戦争で銃弾を受けたせいだと言っていた。

結局、祖父からは戦争体験らしいものを聞くことなく別れてしまったのだが、今となっては少し心残りな気もする。

シベリア抑留、ほとんど分からないし知らない。

これは、問題だ。。

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黒い雨

Bnashzxau 出演:北村和夫、田中好子、市原悦子、小沢昭一、三木のり平、沢たまき

監督・脚本:今村昌平

(1989年・東映・123分)NHK-BS

評価★★★★★/90点

 

内容:1945年8月6日、高丸矢須子は瀬戸内海の小船の上で強烈な閃光を見た。その直後、空は見る見る暗くなり、矢須子は黒い雨を浴びてしまう。5年後、福山市に移り住んだ矢須子は、原爆症の疑いをかけられて縁談がなかなかまとまらず、彼女の面倒を見る叔父は気をもんでいた。やがて、矢須子は発病し、被爆の後遺症に悩まされる・・・。

“「正義の戦争より不正義の平和の方がマシ」という印象的なセリフがあったけど、昭和20年の日本より平成20年の日本の方がマシ、、、と今の後期高齢者の方々は本当に思えるんだろうか、、というのもなんだか怪しい世の中になってきちゃってるような気がしてならない。。”

自分にとってトラウマになっている映画というのは何本かあって、それは例えば「ターミネーター」だとか「オーメン」「バタリアン」など小学校低学年で見た映画が多いのだけど、その中で最強のトラウマ映画といえるのが、小1で見せられたアニメ版「はだしのゲン」。

ヤッター!アニメ見れるぜー!と意気込んで見に行ったが最後、劇場の座席が電気イスに感じられてしまうほどの苦痛を味わってしまったわけで。それはまさに永遠に続くかと思われるほどの醒めない悪夢だった・・・。

ただ小さい頃、親にこの手の反戦映画を網羅させられたのは今となっては良い経験になったと思うし、戦争という悲劇のトラウマを小学生くらいで植え付けるというのは教育上大変によろしいことだと思うので、親には感謝しております(笑)。。

んで「火垂るの墓」をはさんで「黒い雨」を見たのが小5くらいだったと思うんだけど、これがまたエライ思い出があって。

母親に連れられて自分と弟、妹の4人で見に行ったのだけど、劇場窓口でチケットを買って劇場に入っていったら、職員のオバちゃんが風船だとかキャラクターもののお面だとかの特典グッズをくれるわけ。

お、ラッキーと思いながら「黒い雨」が上映される2階に上がっていこうとしたっけ、そのオバちゃんが「東映アニメ祭りはそっちじゃなくて1階ですよ!」と教えてくれる(笑)。ようするにそのオバちゃんは自分らが東映アニメ祭りを見に来たんだろうと早合点してそのグッズをくれたのだ。そりゃそうだよなぁ妹なんてまだ幼稚園かそこらだったんだから、まっさか今村昌平のゲテモノ作品を見に来たなんて露ほども思わないだろうよ。

しかし母親が「いいえ、黒い雨を見に来たのでこっちでいいんです!」とキッパリ。ポカーンとしてるオバちゃんの顔が今でも忘れられない・・。

とともに田中好子のオッパイを見てしまったという記憶もしっかり残ってるんだけど(笑)。

いやぁ、、、自分が親になったら絶対に東映アニメ祭りの方を見せるよ、ウン。

ただ、ガキの時点でこの映画、半分分かって半分分からないような映画だったんだけど、胃の中を何かドス黒く熱いものがうごめき、這いずり回っているような息苦しさと圧迫感を終始感じたのはたしかだ。

電車の中で叔父さん(北村和夫)が被爆するシーンの衝撃、そして死屍累々の廃墟と化し、焼けただれた皮膚がズルリと剥け落ちてくるゾンビと化した人間たちが呻き声を上げながら方々をさまよう広島の街を、叔父さん、叔母さん(市原悦子)、矢須子(田中好子)の3人が必死で逃げ回る情景はあまりにも強烈で、川を流れてくる死体とか、道ばたに転がっている黒コゲになった死体だとか、おそらくこういう衝撃は自分の中の記憶としてずっと残っていくんだろうと思う。

つい先日、二次被爆の悲劇を描いた「夕凪の街、桜の国」の原作マンガを読んだときに、髪の毛が抜け落ちるシーンを見て、この「黒い雨」を見たときの圧迫感と同じものを感じて何とも言い表すことのできない重苦しさにとらわれてしまった。

遠い国で起きている戦争が、夕飯時のTVから流れてくるヴァーチャルなものとしか感じられない今の時代にあって、いかに戦争の悲惨さを子供たちに実感できるものとして伝えていくかというのは、戦後から3世代経った自分たちに課された大きな宿題なのかもしれない。

そういう意味では映画の果たす役割って大きいんだよなぁ。

人間、こういうことはすぐ忘れていっちゃう生き物だから・・・。

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夕凪の街 桜の国

Ph1_yugagi20comic 出演:田中麗奈、麻生久美子、吉沢悠、伊崎充則、藤村志保、堺正章

監督:佐々部清

(2007年・日本・118分)2007/08/07・盛岡フォーラム

評価★★★/65点

 

内容:原爆投下から13年後の広島。母(藤村志保)と2人で暮らす平野皆実(麻生久美子)は、会社の同僚・打越(吉沢悠)から告られるが、原爆で死んでいった多くの人々を前にして自分だけ幸せになっていいのだろうかとためらってしまう。やがて、そんな彼女を原爆症の恐怖が襲う・・・。所かわって現在の東京。定年退職した父・旭(堺正章)と暮らしている娘の七波(田中麗奈)。ある日、父の行動を不審に思った七波は、親友の東子(中越典子)と父の後をつけるが、乗り込んだバスがたどり着いたのは広島だった・・・。

“いい映画だったな止まり。根本的に何かが足りない。。”

佐々部清という監督は、一貫して理想的な人間関係のもとにある心優しき人間ドラマを描きつづけていて、その作風はどこまでも爽やかかつ良心的、なおかつ昭和の良き時代の家族観と温かさ、懐かしさを共有しているという点では山田洋次の系譜に連なる作り手さんだと思う。

しかし、今回はその持てる特徴がアダになってしまった感が強いのではないかと思う。

こうの史代の原作を素直なほど忠実に映像化しているのは認めるが、翻っていえば100P足らずの物語をトレースすることは誰にでもできることだ。

問題は、原作でこうの史代が描く温かく優しい街並みや笑顔の絶えない人々、その表面と上っ面だけをバカ正直にトレースしてしまったことであり、その裏にある決して癒されない悲しみ、決して終わることのない憎しみと怒り、決して消えることのない記憶、つまりは広島が「ヒロシマ」になってしまった原爆という毒がすっぽり抜け落ちているのだ。

たった1発の爆弾、たった一瞬の閃光が60年間3世代にわたり刻みつける負の遺産、その重みと痛みがこの映画からは伝わってきにくい・・・。

原作を読み終わったときの読後感は、かなり精神的にズシリとくるものがあり、なんて哀しいマンガなんだと思ったものだが、この映画を見終わると、いい映画だったな止まりで終わっちゃうんだよね。

そういう意味ではかなりガッカリしたかも。。。

マンガと映画、どっちを薦めるかといったら、100%マンガの方をすすめるな。

記憶が歴史というものを形づくるとするならば、この記憶を決して風化させてはならない、決して忘れてはならない。

今も続く物語・・・。

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ひろしま(1953年・日本・104分)WOWOW

 監督:関川秀雄

 出演:岡田英次、原保美、加藤嘉、山田五十鈴、月丘夢路

 内容:昭和28年夏の広島。高校教師北川が受け持つクラスで、授業中に女子生徒が鼻血を出して倒れた。それは原爆の放射能による白血病が原因で、このクラスでは生徒の3分の1が被爆者だった。8年前のあの日、彼らが見たもの体験したこととは・・・。8万人を超す広島市民がエキストラとして参加し、原爆投下直後の広島を再現。ベルリン国際映画祭で長編劇映画賞を受賞。しかし、大手配給元がGHQに忖度して反米的な描写シーンのカットを製作側に要求するも折り合わず、一般公開が中止になったことで、長らく日の目をみることがなかった幻の作品。

評価★★★★☆/85点

原爆を扱った映画というと真っ先に思い浮かぶのが今村昌平監督の「黒い雨」とアニメ映画「はだしのゲン」で、小学生時分に見たこともあってトラウマともいうべき強烈な映画体験として記憶に刻まれている。

あれから約30年、最近ではヒロシマ・ナガサキの映画をとんと見なくなってしまったのだけど、まさか60年以上前に製作され、一般公開されることなくお蔵入りになっていた原爆の映画があったとは驚きだったし、なにより今回初めて見て、その凄絶すぎる映像に衝撃を受けた。

特に原爆投下直後の広島の惨状を映し出した30分以上のシーンは今まで見た原爆映画の中で最も生々しく直視に堪えないものだった。

3ヘクタールのオープンセットを作り80棟に及ぶ家屋や電車を燃やし、黒焦げに焼き尽くされガレキに埋まる街の様子を映像化したそうで、使われたガレキは原爆で生じた実物だったそうだ。

しかし、なによりこの地獄絵図が真に迫り心に突き刺さるのは、阿鼻叫喚の修羅場を彷徨する群衆を演じているのが一般市民のエキストラで、その中には実際の被爆者も多くいたということで、原爆の恐ろしさや被爆の苦しみ、その一人一人の思いや声が画面から圧倒されんばかりに伝わってくることにある。

しかもこれが原爆投下からたった8年後に地元で作られたというのが凄いところで、それこそ戦争と天災の違いはあれど東日本大震災での惨状をここまで克明に描けるかと考えると、今回の映画のもの凄さはある意味常軌を逸しているとまで言えると思う。

しかし、それが政治的圧力で未公開になってしまったというのは本当に悲劇としか言いようがないけど、記憶をつなぎ語り継ぐという意味で全ての日本人そして世界中の人々に目をそらすことなく見てもらいたい映画だ。そういう普遍性を持ったかけがえのない作品だと思う。

P.S. 宮島のおみやげ屋さんでピカドン土産として原爆で亡くなった人々の頭蓋骨(一応セリフではレプリカに決まってるだろうと言っていたが・・)が売られていたり、その後のシーンで戦災孤児が掘り出した本物の頭蓋骨を米兵に売ろうとするシーンがあったけど、これって実話だそう・・。

他にも墨汁のような黒い雨や、被爆直後の灼熱地獄から逃れるために飛び込んだ川で女学生たちが「君が代」を歌うところなど本当に脳裏に焼き付くようなシーンの連続する映画だった。

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鏡の女たち(2002年・日本・129分)NHK-BS

 監督・脚本:吉田喜重

 出演:岡田茉莉子、田中好子、一色紗英、山本未來、室田日出男

 内容:東京郊外に住む川瀬愛(岡田茉莉子)。以前は亡き夫と娘・美和の3人で暮らしていたが、美和は娘の夏来を産むと、母子手帳だけを持って失踪した。それから24年後、その母子手帳を持った女性が見つかるが、その女性は尾上正子と名乗る記憶喪失者(田中好子)だった。実の娘か確信を持てない愛は、アメリカに住む夏来(一色紗英)を呼び寄せる。やがて、正子の記憶の断片は、3人を愛が美和を産んだ地、広島へと向かわせる・・・。

評価★★☆/50点

割れた鏡、抑揚のない語り口、泳がない視線、微動だにしないカメラ・・・。

様々なメタファーが込められているとは思いつつ、まるで能でも見せられているかのような様式美に彩られたつくりは、はっきりいって不気味以外の何ものでもない。

能面の下に覆い隠された、一瞬の閃光で焼きつくされたヒロシマの亡霊。

かがみ合わせのように表裏一体となったあの世とこの世、その死の世界に向かって開かれた窓である鏡が割れているというのは、両者の間に決定的な欠落があるということだろうか。

すなわち、生者は死者について語ることはできない、ヒロシマの真実を語ることはできないのだと。それをアイデンティティを喪失した女性たちを通して描き出そうとしたのかもしれない。

しかし、逆説的にいうならば、この映画には決定的にヒロシマというものが欠落しているともいえ、個人的には理解に苦しむ難しい映画だったというのが正直なところ・・・。

でも、語りつくせないからこそ、我々は絶えず原爆について語り継ぎ語りつくそうと努力しなければならないのかもしれない。

忘却の彼方に決して置き忘れてはならないために・・・。

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TOMORROW 明日(1988年・日本・105分)NHK-BS

 監督・脚本:黒木和雄

 出演:桃井かおり、南果歩、仙道敦子、黒田アーサー、佐野史郎、原田芳雄

 内容:昭和20年8月8日の長崎。結婚式が執り行われていたある家では、肺病で兵役を免除された花婿と看護婦の花嫁を、両家の家族が祝福していた。花嫁の姉は臨月のお腹を抱え、花婿の友人は戦場で捕虜を見殺しにしたことを悔やみ、花嫁の妹は召集令状を手にうろたえる恋人を慰める。やがて姉が産気づき、難産の末、明け方に小さな命が誕生した。そして8月9日・・・。

評価★★★☆/70点

「どうやって子供はできるの?」という少年の問いかけに対し、「こうやってできるんだよ」というのを丹念に綴った夏の一日、、、1945年8月8日。

少年は性に目覚め、乙女は恋に恋焦がれ、花嫁は花婿と結婚式をあげ、女は男と結ばれ、子供を出産し、女は母になり男は父になる。

「アメリ」(2001)で、アメリが「今この瞬間に愛を交わし合い絶頂を迎えているカップルはどのくらいいるんだろう・・」と想像するシーンがあるけど、そうやって日々生命は紡がれ、次の世代につながっていく。

そうやって家族というものはできていくのだ。

「どうやって子供はできるの?」「こうやってできるんだよ」

その日常が、一瞬で霧のごとく消されてしまうラストの衝撃はあまりにも重い。

連綿とつながれてきた彼らの生の営みがブツリと断絶されてしまうことが最初から予定調和として分かっている映画、、、それをはたして映画と呼んでいいのだろうか。

いや、そんな映画があっていいはずがない。こんな恐ろしい映画があっていいはずがない。

彼らに明日が来ないことをはじめから知っている映画なんて・・・。

と同時に核兵器の恐ろしさをこれほど如実に描き出した映画もないこともまたたしかなのだ。

閃光が走る直前に映し出される路地裏で遊ぶ子供たちの楽しそうな姿が目に焼きついて離れない。

2018年3月14日 (水)

夢のシネマパラダイス565番シアター:崖の上のポニョ

崖の上のポニョ

Img62011412zik8zj 声の出演:山口智子、長嶋一茂、天海祐希、所ジョージ、土井洋輝、吉行和子、奈良岡朋子

監督・脚本:宮崎駿

(2008年・東宝・101分)DVD

内容:海辺の小さな漁師町で崖の上の一軒家に暮らす宗介はある日、ジャムの瓶に頭を突っ込んだ金魚を見つける。宗介はポニョと名付けて連れ帰るが、実はポニョは海界の女王の娘だった。そしてポニョは、もともとは人間だった父フジモトによって海の中へ連れ戻されてしまうが・・・。

評価★★★/65点

小1でナウシカ、小3でラピュタ、小5でトトロ、小6で魔女宅という最も良い時期に宮崎アニメの最も輝いている作品をリアルタイムで見られたオイラはホンットに幸せ者ですっ!

という自分にとって宮崎アニメとは突きつめていえばこの4作品にカリオストロの城(1979)を加えた5作品といっても過言ではない。

勝手な解釈では前記作品が宮崎駿のスタンダード確立期、紅の豚(1992)が転換期、もののけ姫(1997)以降が宮崎駿の暴走期と決めつけてるんだけどw

その中で、えてしてスタンダードを確立した芸術家というのは映画作家でも音楽のアーティストでも往々にしてニーズに応えることを放棄して自己の内面世界へ没入していく傾向にあり、黒澤明など巨匠であればあるほどそれは明確になる。

その変容は構成力と調和の世界からイメージと幻想の世界へということになろうか。

その点でいえば宮崎駿もまさにそうで、もののけ姫以降、その変容の振り子の針の振れ幅は大きくなるばかりで、物語ることの放棄と物語りの破綻は目を覆うばかりだ。

宮崎アニメというのは大別すれば、未来少年コナンやナウシカなどのディストピア・ファンタジーと、トトロや魔女宅などの日常の中に潜むファンタジーとに分けられると思うんだけど、その中で、前者の破綻作がハウル(2004)であり、後者の破綻作が千と千尋(2001)ということになろうか。

しかし、宮崎駿の恐るべきは、この変容によって大多数の人はふるいにかけられコアなファンしか残らないのが普通なんだけど、なぜか宮崎駿の場合は客が減るどころか逆に客が右肩上がりで増えつづけるというありえない現象を巻き起こしているのだ。

これは宮崎駿の成し遂げたスタンダードの確立が、日本国民はすべからく宮崎アニメを見るべし、という宮崎アニメの義務教育化ともいうべき恐るべき成果によるところが大きいのと、構成と調和を度外視したイメージの洪水があまりにも凄すぎて見る側が中毒患者のように頭のどっかが麻痺してしまうからだろう(笑)。

おそらく、こういう監督、世界中を見渡してもそうはいない。

そして、今回である。

もうね、、イッちゃってます!逝っちゃってるんですww!

5歳向けの絵本のような作品世界ということで、そんなもんに大の大人が御託を並べてとやかく論評すること自体バカバカしいのは百も承知だけど、いや、しかし、少なくとも自分自身6歳でナウシカをスクリーンで見た者から言わさせていただきますれば、これはどうなんだろうと。。

昔っからそうなのかは知らないけど、創作過程において宮崎駿はシナリオからではなくイメージボード=絵から入り、そのイメージを広げて構想を広げていくというけど、これは常人にはかなり困難な作業なはずで、一歩間違えれば物語が容易く破綻してしまう危険性をはらんでいる。

千と千尋でイメージの洪水と物語を無理やり結合させた豪腕も寄る年波には勝てなかったのか、あるいは要らないものを削ぎ落としていった結果こうなったのかは知るよしもないが、今回の物語のいい加減さには思わず戦慄を覚えた。というか、気持ち悪いといった方が正確かもしれない。

では、この映画の何がそんなに気持ち悪いのか。

それは、日常を舞台にしているようにみえて、その実まったく日常に見えない不気味さ、日常という化けの皮をかぶった異様な非現実で覆われていることが大きい。

この映画にはたしかな日常の感触がないのだ。

それがトトロや魔女宅にあってポニョにないものであり、それがこの映画に対する気持ち悪さにつながっているのだと思う。

これはオープニングからしてすでに、恐るべき魔法力を持ったポニョがフジモトの結界を破って人間と接触したため、非現実が津波のように現実を侵食しているせいなのかもしれないし、その点でみれば、月の満ち欠けが女性のカラダに影響を与えているとするならば、月が地球に接近した影響で精神に変調をきたしたリサが子供そっちのけで暴走するのにも理由がつく、のかもしれないけど・・。

でも、手足を生やす変態したギョロ目のポニョなんてまるで千と千尋に出てきたカエル男にそっくりでキモイし。そういえばあのカエル男って欲望の亡者だったっけ。

ポニョも欲望の趣くままに波の上を疾駆し、5歳の少年の元をひたすら目指す。たとえ大津波を引き起こし、町を海中に没し、世界の均衡のバランスを崩壊させようとも。

これをカワイイとみるか、恐いとみるかは人それぞれだけど、自分はちょっと違和感が・・・。

しかし、すべてが手描きという絵柄は全く違和感なく見れたし、宮崎駿の持つ絵の力はまだまだ健在だなと。蛇口から出た水が飛びはねるラフな描線など面白かったし、ハム入りラーメンはめちゃ美味しそうだったし、幾通りもの波の描写も素晴らしかった。

やっぱシナリオやなぁ。。物語に調和と均衡を・・。

でも、宮崎駿にそれを求めるのはもうムリなのかもしれないな。後進に期待するしかないか。。

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夜明け告げるルーの歌

172384_01声の出演:谷花音、下田翔大、寿美菜子、斉藤壮馬、篠原信一、柄本明

監督・脚本:湯浅政明

(2017年・日本・113分)WOWOW

内容:さびれた港町の日無町。父と祖父と暮らしている中学生のカイは、親の離婚で東京から越してきたが、なかなか解けこめずに心を開けないでいた。そんな彼にとって唯一の楽しみは、自分で作曲した音楽をネットにアップすること。そんなある日、カイの音楽の才能に気づいたクラスメイトの国夫と遊歩に彼らが活動しているバンドに誘われる。カイは仕方なく練習場所の人魚島へ行くが、そこで3人の音楽に合わせて楽しそうにダンスする人魚の少女ルーと遭遇する・・・。 

評価★★★★/75点

宗介とポニョをプラス10歳設定にしたかんじで、どうしてもかの作品の幻影がオーバーラップしてしまったけど、二番煎じ感よりも独創性の方が100倍勝っていると感じられたのは素直に湯浅監督の力量を認めたいところ。

が、キャラ設定が決定的に弱いのが玉にキズで、デフォルメした絵の描線がフニャフニャなのは感性的で良いとしても、その割にどうも生命力に乏しくてキャラクターの躍動が結局理性的なところに落ち着いちゃうんだよね。そこの突き抜けなさが少しもったいなかったかなぁと。

音楽はポップな世界観とマッチしていて良かっただけに、まだまだ爆発力があってしかるべき作品だったように思う。

2017年12月20日 (水)

夢のシネマパラダイス479番シアター:ハードボイルドは男の美学

アウトロー

Poster出演:トム・クルーズ、ロザムンド・パイク、リチャード・ジェンキンス、デヴィッド・オイェロウォ、ヴェルナー・ヘルツォーク、ロバート・デュバル

監督・脚本:クリストファー・マッカリー

(2012年・アメリカ・130分)WOWOW

内容:ピッツバーグで5人の男女が狙撃銃で殺害される無差別殺人事件が発生。現場に残された遺留品から、イラクに従軍していた陸軍狙撃兵ジェームズ・バーが容疑者として逮捕された。警察の取り調べに黙秘を続けるジェームズは、元米軍の秘密捜査官ジャック・リーチャーへの連絡を要求する。ところがその直後、ジェームズは護送中に他の囚人に襲われ意識不明の重体に。そんな中、ジャック・リーチャーがどこからともなく現われる・・・。

評価★★★☆/70点

顔と名前だけで客が呼べるハリウッドのドル箱スターシステムは00年代以降完全に廃れてしまったといっていい中で、いまだにミスターハリウッドであり続けるトム・クルーズは稀少な絶滅危惧種である王道スターだ。

それは言いかえれば演技力よりスターオーラの方が勝ってしまうタイプということができるけど、例えばキムタクがどんな役を演じようともキムタクにしかならないように、トムもどんな映画をやろうがトム・クルーズ映画にしかならない。

キューブリック、オリバー・ストーン、レッドフォード、スピルバーグ、ロン・ハワード、デパルマ、マイケル・マン、キャメロン・クロウ、JJエイブラムズetc..とこれだけ名の知れた大物作家や新進気鋭の監督と組んでもトム・クルーズというブランドイメージが消えないというのはある意味別格に凄いことだと思う。

しかも、そのブランドイメージはカジュアルでクリーンなものなので、ことさらスター気取りというクドさが感じられないのもトム・クルーズ特有の強みで、自己プロデュース能力に関しては天賦の才を持っているといっていい。それが長くハリウッドの顔であり続けられる理由なのだろう。見る側としてもトム・クルーズというキャラクターを承知の上でとりあえず見てみようという気になってしまうのだからw

しかし、そんな王道の中の王道スターがアウトロー役というのは本来なら相容れないキャラクターのはずで、例えばミッション・インポッシブルシリーズのイーサン・ハントのようなヒーローアクションのひな形とは真逆のアプローチがうまくフィットするのだろうかというイメージのしづらさはあった。

また、初の悪役を演じた「コラテラル」が映画としていまいちスッキリしなかったことも頭にあって、ハードボイルドはトム・クルーズにはどうなんだろうという不安もあった。

しかし、フタを開けてみれば一匹狼の元軍人という役柄は思った以上にフィットしていてよく出来ていたと思う。

これにはトムの魅力の他に話の作り方も大きく関与したといっていい。

アウトローというと、えてして復讐譚を軸とし、たった一人で法で裁かれない巨悪に立ち向かうのが定石なのだけど、この映画は“復讐”ではなく“正義”を軸とすることで、アウトローでありながらヒーローというありそうでなかったキャラクターを作り上げた。これだとトムの魅力を削がずにうまく合わせられることができるだろうし、ヒールに徹した「コラテラル」ほどの無理さもない。

実はこれは「シェーン」などの西部劇の作劇とほぼ同じだと思うのだけど、これを現代劇として当てはめたことが新鮮で面白かったと思う。大団円の採石場での決闘なんてイーストウッド西部劇に出てきそうなシチュエーションで面白かったし。

シリーズ化するにはやや地味めな気がするけど、もしその企画を通すのであれば、ジャック・リーチャーとは何者なのか、彼を真にアウトローたらしめている奥底にあるべき“喪失”を描かなければ意味がないと思う。そういう点で、それこそイーストウッドに監督させたら絶対に見たいと思わせる魅力はあるんだけどねw

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ジャック・リーチャー NEVER GO BACK

O0480064113796584990出演:トム・クルーズ、コビー・スマルダーズ、オルディス・ホッジ、ダニカ・ヤロシュ

監督:エドワード・ズウィック

(2016年・アメリカ・118分)WOWOW

内容:元陸軍内部調査部のエリート軍人で除隊後は流浪の旅を続けるジャック・リーチャー。ある日、かつての同僚スーザン・ターナー少佐を訪ねるが、彼女がスパイ容疑で逮捕されたことを知る。陰謀の可能性を察知したリーチャーは、陸軍基地から少佐の拘束を解き2人で逃亡するが・・。

評価★★★☆/70点

フォーマットとしてはリーアム・ニーソンの「96時間」。

さすらいの一匹狼的なハードボイルド感は薄まり、子連れ狼のファミリー感丸出しで前作の趣旨とはかけ離れてしまったかんじ。

が、従来から他を寄せ付けないオーラで単独で何でもやり遂げてきたオールマイティのトムに非力な女性を庇護するという足かせをつけたことで、相対的に不死身感が減殺されたのは格闘乱戦アクション主体の作品にあっては完全にプラス。

そっか、これは「96時間」というより「ターミネーター2」だということに気づいたw

しかも、15歳の思春期娘がトムの言うことを聞かなくて手を焼かせるものだからさぁ大変!って、これでホントに良かったのかトムさんw!?

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ダーティハリー

00000436165l 出演:クリント・イーストウッド、ハリー・ガーディノ、アンディ・ロビンソン

監督:ドン・シーゲル

(1971年・アメリカ・103分)NHK-BS

評価★★★/65点

内容:性格異常の殺人狂を追う刑事の冷酷非情な執念を描いた犯罪アクション。サンフランシスコのビルの屋上から一般市民が銃撃される事件が起きた。犯人は10万ドルを要求し、支払わなければ次の犠牲者を狙うと警察に通告する。殺人課の敏腕刑事ハリーは犯人を待ち伏せするが、激しい銃撃戦の末に犯人を取り逃がしてしまった。その後、犯人は14歳の少女を誘拐して20万ドルの身代金を要求。ハリーは20万ドルを手に、犯人の指定したマリーナへと向かった・・。

“44マグナムよりも女の素っ裸の方が多く出てきたと思ったのは、気のせいか・・・。”

なんか1870年代の西部劇を100年後のサンフランシスコにそのまま移し変えただけのようなかんじ。

1870年代だったら“ヒーロー”ハリーになっただろうが、100年経った現代アメリカ社会では“ダーティ”ハリーになっちゃうってことなのかな。

しかし、趣味で人殺しをする殺人鬼はハリー以上に法の限度を超越しとるやろ。法の掟などなんのそののハリーじゃないとどうにもならないのではないかな、とも思ってしまったのもたしかだ。。

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ブリット(1968年・アメリカ・114分)NHK-BS

 監督:ピーター・イェーツ

 出演:スティーヴ・マックイーン、ジャクリーン・ビセット、ロバート・ヴォーン、ロバート・デュバル

 内容:サンフランシスコの街に、仲間を裏切って200万ドルの金を持ち逃げしたシカゴのギャングが潜入した。ある裁判の証人としてこの男の証言を必要としている政治家チャルマースは、男の護衛を一匹狼の刑事ブリットに命じる。ところが、ブリットの油断から男が何者かに射殺されてしまった。ブリットは、男が生きているように見せかけて敵をおびき出そうとするが・・・。

評価★★★/65点

マックイーンといえば「大脱走」「パピヨン」「ゲッタウェイ」において逃走の美学を自由気ままに体現したイメージが強いけど、今作における追走の美学を体現した硬派なマックイーンもめちゃくちゃ良い。

タートルネックをあんなにカッコ良く着こなす男をマックイーン以外に自分は知らない。

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夜の大捜査線(1967年・アメリカ・109分)NHK-BS

 監督:ノーマン・ジュイソン

 出演:シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー、ウォーレン・オーツ

 内容:ミシシッピーの田舎町。パトロールの警官が路上に殺人死体を発見。捜査が開始され、駅で張り込み中の警官が列車を待っていた黒人を容疑者として連行してくる。ところが、その黒人はフィラデルフィア警察殺人課の敏腕刑事ティッブスで、故郷の母を訪ねた帰途であった。殺人事件を扱ったことのない署長のギレスビーは、ベテランのティッブスに協力を求めたいと思ったが、人種偏見の強い土地柄、彼自身も黒人に頭を下げる気にはなれずにいた・・。

評価★★★★/75点

道なき道を切り拓いてきたポワチエその人から発せられるオーラと佇まいがそのままティッブスにのり移っているのも凄みがあるが、ガムを噛みながらコーラを飲むロッド・スタイガーの田舎の頑固なオッサン臭にも凄いものがある。

好対照な2人の見事なブレンド!

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刑事ジョン・ブック/目撃者(1985年・アメリカ・113分)NHK-BS

 監督:ピーター・ウィアー

 出演:ハリソン・フォード、ケリー・マクギリス、ルーカス・ハース、ダニー・グローバー

 内容:独自のコミュニティを作り、信仰のもと簡素な生活を送るアーミッシュの少年サミュエルは、殺人事件を目撃してしまう。刑事ジョン・ブックは捜査への協力を依頼するが、サミュエルの母親は他者との関わりを恐れて協力を拒もうとする。ところが、ようやくサミュエルが明かした犯人は警察の麻薬課長で、真相を知ったブックは母子とともに命を狙われてしまう・・・。

評価★★★★/75点

本当の題名は「刑事ジョン・ブック/のぞき見男」だと思うんだけど・・(笑)。

それはさておき、M・ナイト・シャマランの「ヴィレッジ」(2004)に出てきそうなアーミッシュの人々。黒服を着た彼らは、まるで西部開拓時代の「大草原の小さな家」に出てきそうな人々なんだけど、現代文明の中では奇異に映るその姿からは変な新興宗教をも想起させる。

しかし、その創始は17世紀のスイスにあるんだそうで。その後、弾圧を受けた彼らはアメリカに移住し、そこで自給自足の生活を営み、アメリカに入植した18世紀そのままの生活様式を守っているという。

しかも厳格な聖書解釈に基づき、あらゆる文明機器を使用せず、投票や徴兵などアメリカ国民の権利や義務さえ拒否しているというんだから徹底してるわな。

しかし、そんな禁欲社会にカッコいいバリバリの白人男がやって来たら、という異文化コミュニケーションがこのての刑事ドラマにしてはかなりしっかり描かれていて好印象だし、ちとエロイのも良いww

見てはいけないものを見てしまった、知ってはいけないことを知ってしまったという人間心理をくすぐる構成が大人の恋愛劇と絡めて上手くまとめられていてなかなかに偏差値は高い映画だと思うな。

ケリー・マクギリス、、イイです

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ヒート(1995年・アメリカ・171分)仙台第1東宝

 監督・脚本:マイケル・マン

 出演:アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、バル・キルマー、ジョン・ボイト、トム・サイズモア

 内容:ロサンゼルスの犯罪組織のボス、ニール・マッコーリー(デ・ニーロ)は、クリス(バル・キルマー)、チェリト(サイズモア)らと現金輸送車を襲い有価証券を強奪。捜査にあたるロス市警の敏腕刑事ヴィンセント(パチーノ)は、少ない手がかりから次第にマッコーリーたちへ近づいていく・・・。12分間に及ぶ市街での銃撃戦は映画史に残るド迫力。

評価★★★☆/70点

“敵”と書いて“とも”と呼ぶ。そんな漢(おとこ)映画!

まぁ、古臭いっちゃあ古臭いんだけど・・。しかも下手するとただの傷の舐め合い、いや馴れ合いでっせ。

しかし、そこはさすがのロバート・デニパチーノ。なんとか見れたけど。

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フレンチ・コネクション

Lbfawpzu出演:ジーン・ハックマン、フェルナンド・レイ、ロイ・シャイダー

監督:ウィリアム・フリードキン

(1971年・アメリカ・105分)NHK-BS

内容:NY市警の実在の2人の刑事の活躍を描いたノンフィクションをもとにしたポリスアクション。NYのブルックリンでジミー・ドイルとバディ・ロッソの2人の刑事は、麻薬の密輸ルートを追求していたが、ドイルはこの仕事に深く関与するにつれて命を狙われるようになる。やがて2人は張り込み中のチンピラが事業家を装ってマルセイユからやって来た中年紳士シェルニエと接触するところを突き止め、尾行を開始。そしてフレンチ・コネクションと呼ばれる大犯罪組織の解明に乗り出していくのだが・・・。アカデミー賞で作品・監督賞など5部門で受賞した。

評価★★★★/75点

“地獄の果てまで追いかける!!”

たとえ世の子供たちに夢を与えるサンタクロースになろうとも、その足で、その執念で、その野蛮な目つきで、その獰猛な嗅覚で、とにかく走って走って走りまくって犯人たちを執拗に追いつめていく。

ポパイことジミー・ドイルに追っかけられたらもう最後。車に乗ろうが電車に乗ろうが金をいくら積もうが逃げつく先に待つのは地獄の門番ジミー・ドイルその人なのだから。

問答無用の存在にしばし言葉も出ず・・。

2017年3月15日 (水)

夢のシネマパラダイス131番シアター:さあ!妖怪退治にお出かけよっ!

ゴーストバスターズ

Img_1074出演:メリッサ・マッカーシー、クリステン・ウィグ、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース

監督:ポール・フェイグ

(2016年・アメリカ・116分)WOWOW

内容:名門コロンビア大学の物理学者エリンは、学生時代に書いた心霊現象に関する本が問題視され大学を追われるハメに。かつての親友で共同著者の科学者アビーがWEB販売をしてネットに出回ったことが原因だったことから、エリンは久しぶりにアビーのもとを訪れるが、アビーはエンジニアのジリアンを助手に今でも心霊研究を続けていた。そんな中、3人はついに本物の幽霊と遭遇、それがきっかけで地下鉄職員のパティを合わせた4人で幽霊退治専門の“ゴーストバスターズ”を結成するが・・・。

評価★★★/65点

オリジナル作から30年。アメリカのお化けは陽気なギャグになるということを定着させたユルユルな悪ふざけが幅を利かせる80年代テイストを、子供だましのVFX(当時は最先端だったがw)に至るまでご丁寧に再現してみせたのは、もろ世代の自分にとってはノスタルジーが喚起されて微笑ましく見られる。

けど、結局1時間経たずに飽きが来るんだよね。主要キャラを女性に衣替えしたのは買いだけど、30年ぶりにリブートするならもう少しオリジナリティを出してほしかったかなと。

唯一、クリス・ヘムズワースのボケっぷりだけはツボにはまったw

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どろろ

Dororo 出演:妻夫木聡、柴咲コウ、瑛太、杉本哲太、土屋アンナ、中村嘉葎雄、原田芳雄、原田美枝子、中井貴一

監督:塩田明彦

(2007年・東宝・138分)2007/02/05・盛岡フォーラム

評価★★★/60点

 

内容:戦国の世。天下統一の野望を抱く武将・醍醐景光(中井貴一)は、生まれてきた我が子の体48箇所を48体の魔物に差し出し、代わりに強大な力を手に入れる。そのまま捨てられた赤子は医師・寿海(原田芳雄)に拾われ、医秘術によって仮の体を与えられて育てられる。それから20年後、成長した百鬼丸(妻夫木聡)は、魔物を倒すごとに失われた部位を一つずつ取り戻せることを知り、魔物退治の旅に出る。やがて、女ながら男装して乱世を生き抜くコソ泥のどろろ(柴咲コウ)は百鬼丸のたずさえる妖刀を手に入れたくて彼の後について行くことに・・・。手塚治虫の同名漫画の映画化。

“この手の映画には言い古されているフレーズかもしれないが、あえて言う。安っぽい!”

140分という長尺を後半ヨレヨレグダグダになりながらもなんとかまとめきったという点では、最後まで飽きずに見られる作品ではあるのだが、後半あれよあれよという間に尻すぼみになっていくチープさはいかんともしがたく、CG・VFXのちゃちさも含めて心に残る映画にはならなかったというかんじ。

うーん、、なんだろ、失われた身体を取り戻すという“自分探しの旅”というテーマにおいては、監督塩田明彦の得意とするジャンルなのだろうけど、それが後半、ギリシャ悲劇はたまたシェイクスピアにつながるような“親殺し”へと変容していく中で一気にトーンダウンしてしまっているんだよね。

しかも、そういう重いドラマの中で、思わず笑っちゃいそうな着ぐるみ妖怪とか、ラストの中井貴一の変身を出してくるというのが、またなんとも脱力しちゃうというか・・・。

まぁ、手塚マンガに出てくる妖怪とか魑魅魍魎ってたしかにユニークで見るからにマンガチックな造型なんだけど、実写化するにあたって明度を落とした巧い絵作り(ろうそくの揺らめく灯とか)でせっかく作り出した魅力的な世界観の中では、どう考えても合わないと思う。20億もかけてるんだったら、もうちょっと頭の方も使ってもらいたかったな。

後半の展開から、ふと黒澤明の「蜘蛛巣城」(1957)を連想してしまったけど、「蜘蛛巣城」てシェイクスピアの『マクベス』を下敷きにしているんだよね。

傑作「蜘蛛巣城」と比べるのもかわいそうだけど、でもCGに依存なんてしなくてもスゲェ映画は作れるんだってこと。

ま、アクションを前面に出した冒険活劇エンタと考えれば、それなりの映画になっているとはいえるのだが。

あ、あとこれは言っておかなければ。柴咲コウ最高っス

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妖怪大戦争

20060214_94083 出演:神木隆之介、宮迫博之、南果歩、成海璃子、菅原文太、忌野清志郎、竹中直人、岡村隆史、栗山千明、豊川悦司

監督:三池崇史

(2005年・松竹・124分)WOWOW

評価★★☆/45点

 

内容:妖怪をこよなく愛する人気作家陣、水木しげる・荒俣宏・京極夏彦・宮部みゆきの4氏がチーム「怪」を結成し、’68年の「妖怪大戦争」をもとに原案を作成、鬼才・三池崇史が映画化した冒険ファンタジー。一人の泣き虫少年が、ひょんなことから日本各地の120万の妖怪たちと力を合わせ、人類滅亡をもくろむ謎の魔人に立ち向かう。

“ぶっちゃけキャラクターの品評会それだけでよかった。異種格闘技戦とか、そんな簡単なのでよかったというか期待していたのだが、なぜに帝都物語?焼酎にブラックコーヒー入れても意味ないやろ”

この映画がまだ公開されてない頃に、あるテレビ番組で東京国際映画祭のフィルムマーケットの様子を追った映像を見たことがあるのだが、その時に取り上げられていたのがこの映画だった。

セールス担当者が海外の映画会社のバイヤーに売り込みをかけてたのだけど、海外のバイヤーからは「妖怪って何?日本人にとってポピュラーなものなの?それって怖いの?」などの質問が飛んでいて、で結局キャラクターをいかに浸透させるかよく工夫しないと分かりづらいし難しいけど、一応は好感触といったかんじだった。

が、いやいや待ってくれ。栗山千明の妖怪アギはキル・ビルからそっくりそのまま出てきたゴーゴー夕張ではないか。水木しげるのあの顔もどう説明するんだ。

いや、それはまだいいとしよう。

1番問題なのは、魔人加藤だよ。まるで象徴天皇のごとく祭り上げられただけの存在、、売り込みようがないだろ、これw海外ではちょっと通用しないんじゃないかなぁ・・。

なんだろ、変に難しくしないでぶっちゃけキャラクターの品評会でもいいんだよね。こういうタイプの映画はさ。せっかく独創的で面白いキャスト当ててるんだから。見ててなんだかもったいない気分になったわな。

1+1が0.7くらいになっちゃってる気まずさともったいなさに終始ついて行けなかったし、ややあきれ返っちゃったというか、逆に疲れちゃった。。

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ゲゲゲの鬼太郎(2007年・松竹・103分)DVD

 監督:本木克英

 出演:ウエンツ瑛士、井上真央、田中麗奈、大泉洋、間寛平、小雪、室井滋、西田敏行

 内容:鬼太郎のもとに、人間界の小学生・健太が助けを求めてきた。彼が住む団地で裏山の稲荷神社の解体工事が始まってからというもの、妖怪たちが出現するというのだ。一方、同じ頃、ねずみ男が狐一族の至宝“妖怪石”を質屋に売ってしまい、それが回りまわって健太と姉の実花の手に渡ってしまう・・・。水木しげるの国民的妖怪マンガの実写映画化。

評価★★★/60点

田中麗奈のミニスカコスチュームの太股の奥に見え隠れするモジャ毛ばかりが気になって気になって仕方なかった・・・。

えっ?パンツだったんですか(笑)。そ、そんな・・。ってお前は一体何を見とるんじゃ!

いや、でもマジメな話、鬼太郎はウエンツじゃなくて、えなりかずきやろ。ってそこかよ!

いや、もっとマジメな話、漫画やアニメから一気にあか抜けてしまった映画のつくりにやや違和感・・。あと、砂かけババアと子泣きジジイの必殺技がなくて不満。

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花田少年史 幽霊と秘密のトンネル(2006年・松竹・123分)WOWOW

 監督:水田伸生

 出演:須賀健太、篠原涼子、西村雅彦、北村一輝、安藤希、杉本哲太

 内容:小さな港町に暮らす9歳の悪ガキ、花田一路。ある日、彼は自転車で行った町で噂の幽霊トンネルでトラックと衝突する大事故に遭う。奇跡的に九死に一生を得た一路だったが、それ以来彼には幽霊たちの姿が見えて話せるという不思議な能力が備わってしまい・・・。

評価★★☆/50点

家族向けの心温まる人情話と思って見たら手痛いシッペ返しをくらうシロモノ。

なんてったって大団円の決めゼリフが「地獄に落ちさらえーー!」だからね。引くちゅうねん(笑)。幽霊とはいえ少なくともカワイイ娘が父親に言う言葉じゃないだろ。

もうはっきりいって中盤の運動会のところで映画を締めてもらった方が個人的には良かったよ。それくらい後半はヒドイ、というかジャンルが明らかに前後半で衣替えしちゃってる。

花田家の夕食中に幽霊の女子高生・聖子が怨霊・沢井に向かってフォークや茶碗を投げて挙句のはてにテレビを爆発させるというポルターガイスト現象はまだ笑って許せるとしても、宙に浮いた聖子vs沢井のカメハメ波対決はいくらなんでもやりすぎ。

って原作マンガ読んだことないから分からないけど、原作もこうなの??

2016年10月16日 (日)

夢のシネマパラダイス364番シアター:犯人は、まだそこにいる。

64-ロクヨン-前編/後編

A0163972_8525372出演:佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、窪田正孝、鶴田真由、芳根京子、瑛太、椎名桔平、滝藤賢一、奥田瑛二、仲村トオル、吉岡秀隆、緒形直人、永瀬正敏、三浦友和

監督・脚本:瀬々敬久

(前編2016年・東宝・121分/後編2016年・東宝・119分)WOWOW

内容:昭和64年1月3日に発生した少女誘拐殺人事件。三上刑事(佐藤浩市)らが捜査にあたる中、1月7日に昭和が幕を閉じる。そしてロクヨンと隠語で呼ばれるその事件も未解決のまま時が経った平成14年。刑事部から警務部広報官に異動になった三上は、ある交通事故の報道方針をめぐる記者クラブとの対応で県警との板挟みにあい、神経をすり減らしていく。そんな中、ロクヨンの時効を1年後に控え、警察庁長官が被害者家族の雨宮(永瀬正敏)と面会する話が持ち上がる。三上は14年ぶりに雨宮のもとを訪ねるが・・・。

評価★★★★/80点

原作未読。NHKドラマ視聴済。

「八日目の蝉」といい「紙の月」といいNHKドラマが映画をしのぐハイクオリティだったため、今回もどうなんだろうと思ったら、やっぱりTVドラマの方が見応えがあった。

もちろん尺の違いはあるんだけど、地方の閉塞感の中で蠢く様々な感情や葛藤が澱のように沈み溜まっていく陰うつな質感や、ノイズの気色悪い響きが重苦しさを喚起する劇伴などTVドラマの方が印象的だったし、主人公三上も受け身な中間管理職オジさんの悲哀をよく表していたという点でドラマ版のピエール瀧の方がハマっていたと思う。佐藤浩市はやっぱカッコ良すぎなんだよねw

でもまぁ、映画の方も豪華すぎるオールスターキャストの演技合戦は十分見応えがあったし、前後編に分けてボリューム感を出した気概は買いたい。

ただ、唯一どっちらけだったのが、ヘリウムガスが切れてなんとか地声を隠そうと頑張る吉岡秀隆の声つぶし演技。もうコントでしょあれ・・

あと、ひとつ消化不良だったのが、後編で雨宮(永瀬正敏)が目崎(緒形直人)の次女を車に乗せて家まで送る時に雨宮が号泣するシーンが唐突に出てくるんだけど、常識的に考えて小さい女の子がそんな簡単に知らない男の車に乗るかなぁ(雨宮翔子ちゃんは目崎の車に乗っちゃったわけだけど・・)という疑問があって、もしかして当初雨宮は誘拐しようとしたのか!?とも勘繰りたくなったけど、何の状況描写もなかったので、そこは見終わった後も引っかかった。

あと、TVドラマでは目崎の逮捕を匂わせるところで終わるものの、映画の方は目崎逮捕のために三上がとんでもない行動に打って出て目的を果たすものの警察を追われることを匂わせるところで終わるという違いがあって、随分と突っ走ったものだなぁと驚いたけど、これはこれで悪くない着地点だなとは思った。

結局最後に言いたいこと。今後はNHKドラマより映画の方を先に見ることにします(笑)。

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予告犯

142642565665371468179出演:生田斗真、戸田恵梨香、鈴木亮平、濱田岳、窪田正孝、小松菜奈、小日向文世、滝藤賢一、荒川良々

監督:中村義洋

(2015年・東宝・119分)WOWOW

内容:ある日、新聞紙製の頭巾をかぶった男が、集団食中毒を起こした食品加工会社に制裁を加えるとする予告動画がネットに投稿され、翌日実際に会社の工場が放火された。その後も、“シンブンシ”と名付けられた男は、世の中の不正義に対してネットで私刑を予告し次々に実行していく。一方、警視庁サイバー犯罪対策課の捜査官・吉野絵里香は、男の正体を探ろうと捜査を続けるが・・・。

評価★★★/65点

日本文化礼賛番組が幅を利かせる一方、「腎臓を売ってまで来たかった国がこんなザマでごめん」というセリフを真と受け取らざるを得ない現実、そして自分の境遇を社会のせいにするなんて卑怯だという詰問に対し「あなたには分からない」と言い放つ格差社会の諦念が胸に迫る。

この頑張っても報われない時代が生み出した勝ち組と負け組の断絶はよく描けていたと思うし、予告犯と警察との攻防戦も見ごたえがある。

ただ一方、どこかでこの映画に一抹の違和感を拭えなかったのもたしかで、それはネットの動画配信で法で裁けない悪をさらし者にして成敗するシンブンシの行為に、痛快さよりもイスラム国の残虐動画を連想させる怖さを感じ取ったからだ。

しかもこれを正当化するのに情緒話に落として風呂敷を畳もうとするのも少し気持ち悪くて興ざめしたし、犯人目線で描いているだけに死をもって解決するというのがなおさら後味が悪くてすっきりしなかったなと。

まぁ、共感できそうでできないというか、共感したくない自分がいるというか・・。そういう意味では戸田恵梨香の女刑事の方に6:4で肩入れしたいんだけどねw

現代版「天国と地獄」にはなりえなかったな・・・。

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犯人に告ぐ

Xnqrhdllga 出演:豊川悦司、石橋凌、小澤征悦、笹野高史、片岡礼子、井川遥

監督:瀧本智行

(2007年・日本・117分)WOWOW

評価★★★/65点

内容:6年前、自ら指揮を執っていた誘拐事件でミスを犯し、人質の少年を殺された責任を取らされ左遷された神奈川県警警視・巻島は、川崎市内で起きた連続児童殺人事件の捜査責任者として本部に呼び戻された。そして生放送のニュース番組に出演した巻島は、BADMANと名乗る犯人に直接語り始め、犯人を挑発。ここに劇場型捜査の幕が切って落とされた・・・。

“今夜は震えて眠れ!”

かっちょええーー!!スィ、スィびれますた。。

このセリフ聞いただけでも、これ見た甲斐はあったかんじだけど、映画としてはバカ正直なまでにご丁寧なつくりで、映画的な躍動に乏しい面はあったかな、と。

また、プロローグの6年前の誘拐事件の捜査でナンパ男を犯人と間違えてしまうところで、あんなオバハンをナンパする奴なんているのか?という点・・。

過去に会見で逆ギレした巻島(トヨエツ)が、左遷された足柄署から、テレビ慣れしているという理由で呼び戻されるというのもフツーありえるのか?という点・・。

また、同級生のニュースキャスター杉村(片岡礼子)の胸元を見てとち狂った植草(小澤征悦)の暴走ぶりや、ラスト近くでトヨエツが刺されちゃうのも「踊る大捜査線」をもじったようで間が抜けるし、全体的にもうちょっと精査してもらいたいような出来ではあった。

ただその中で、トヨエツの刑事っぷりは見応えがあったし、あとは笹野高史が要所要所でイイ味出してるんだよねぇ。

そんなこんなでなんとか最後まで見れてしまったけど。まぁ、テレビで見る分にはちょうどいいかなというかんじかな。

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大誘拐 Rainbow Kids(1991年・東宝・120分)NHK-BS

 監督・脚本:岡本喜八

 出演:北林谷栄、緒形拳、風間トオル、西川弘志、樹木希林、嶋田久作

 内容:紀州一の大富豪・柳川とし子刀自がド素人3人組に誘拐された。ところが、刀自は犯人たちから自分の身代金が5千万円と聞くや、自分のプライドが許さないとブチギレ、身代金を100億と勝手に決めてしまう。てんやわんやの犯人たちに毅然とした態度で指図をしていく刀自。一方、和歌山県警本部長の井狩は、捜査に全力を注ぐが・・・。

評価★★★☆/70点

風間&内田&西川の大根役者っぷりが際立つ冒頭15分を見て思わず心が折れそうになったけど(笑)。。

しかし、彼ら誘拐犯のトーシロ同然のお粗末ぶりも、彼らを取り巻く緒形拳や樹木希林、天本英世、竜雷太といったプロの名役者たちで固めた脇役陣との対比が物語上うまくリンクしていて、そういう点では適材の配役だったのかも。

そしてそして忘れてはならない北林谷栄の素晴らしさ。

微笑ましく見ていられる可愛いお婆ちゃんの裏の顔にプロを手玉にとるしたたかさと、ダテに資産家やってるんじゃないのヨ!というプライド、そして子供たちをお国に持っていかれた戦禍を乗り越えてきた経験値を36キロの小さな身体に沸々とわき立たせるその姿はなんとも凛々しく、痛快なオチもあいまって印象的だった。

しかし、、場になじまない音楽だけはダサくて気になったなw。

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模倣犯(2002年・東宝・123分)日劇2

 監督:森田芳光

 出演:中居正広、藤井隆、津田寛治、木村佳乃、山崎努、伊東美咲

 内容:東京の下町で豆腐屋を営む有馬義男。20歳になる孫娘・古川鞠子が失踪してから10ヶ月、事件は何の進展も見せていなかった。が、そんなある日、下町の公園のゴミ箱から女性の右腕とショルダーバッグが発見される。そして、それを報じるワイドショーの生放送中に犯人からの電話が入り、一連の女性誘拐殺人の犯行声明を告げるのだった・・・。

評価★★/40点

山崎努以外オーバーアクションにしか見えない役者陣にはなんら落ち度はない。脚本もつとめた監督にこそ難があるのは一目瞭然。

特に犯人が説明セリフで逐次報告してくれる映画ほどツマラナイものはないわけで、小説と映画は別物とはいうけど、登場人物の心の機微を子細に描いていく宮部原作をここまでシュールに換骨奪胎してしまう森田演出が自分には全く合わなかった・・・。

だって犯人が遺体を埋めるために闇夜に山中で土を掘っているところをわざわざ下から見上げるアングルで撮って、その上空の星空にこれ見よがしに流れ星がいくつも流れていくなんて、もうドン引きするしかないでしょ(笑)。

食べ物が全然美味しそうに見えない食事風景も含め、何かしらの演出意図があったのだろうけど、それを知ったとしてもダメだなこれは。。

映画化するのが10年早かった気がする・・w

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レディ・ジョーカー(2004年・東映・121分)DVD

 監督:平山秀幸

 出演:渡哲也、徳重聡、吉川晃司、國村隼、大杉漣

 内容:新製品発売を1週間後に控えたビール業界最大手の日之出ビール社長・城山恭介が“レディ・ジョーカー”と名乗る5人の犯行グループによって誘拐された。その5人とは、小さな町薬局の老店主、元自衛官のトラック運転手、信用金庫の職員、町工場の若い旋盤工、ノンキャリア刑事。彼らは競馬場で知り合い、それぞれ異なった理由で犯行に至った。しかし、誘拐の2日後、捜査陣が事件解決へ動き出す中、犯人側が突然城山を解放する・・・。

評価★★/40点

NHKの土曜ドラマでじっくり見たいなぁ、、ってかんじ。。

2016年3月 5日 (土)

夢のシネマパラダイス587番シアター:紙の月

紙の月

Poster2出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、小林聡美、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司

監督:吉田大八

(2014年・松竹・126分)WOWOW

内容:バブル崩壊直後の1994年。銀行の契約社員として働く梅澤梨花は、地味だが顧客の信頼も得ていて上司の評価も高い。しかし家庭では、エリート商社マンの夫の冷めた態度に空しさを抱き始めていた。そんなある日、彼女は資産家の顧客の孫で大学生の平林光太と出会い恋に落ちる。そして、光太に多額の借金があることを知った彼女は銀行のお金に手をつけて渡してしまう。それをきっかけにあの手この手で着服を繰り返していくのだが・・・。

評価★★★/65点

原作未読。NHKドラマ視聴済。

テレビドラマの方が映画1本分尺が長く、にもかかわらず大金横領(ドラマでは計1億円)に走る主人公・梅澤梨花の行動原理と心情が最後までなかなか理解できずじまいだったので、映画はそれをどう凝縮して描くのか興味津々だったのだけど、文字通り映画1本分、だと何もなくなっちゃうのでw、ドラマ2話分底が浅かったかんじ。

体裁としては、妻を人形みたいにただ家にいればいい存在としか見ていない夫の悪意なき無関心が生み出すモラハラにより、自分の存在証明を喪失した妻が若い男に走って愛のない孤独感を埋めるというのが入口になっていて、そこは定番としてありがちなんだけど、問題はその先。

恋におぼれて男に貢ぐために大金を横領し続ける単純な話かと思いきや、それは表の顔にすぎないことがあらわになってくる。要は、お金があればあるだけ違う自分になれて誰かに必要とされ愛される何者かになれる、つまりお金によってもたらされる万能感におぼれて自分ではない自分を演じ続けるために大金を横領し続けていたというのが本当の顔だったのだ。

高級セレブを装った目で世の中を見ると、みんな笑顔で親切で、そこには悪意も無自覚も乱暴も軽べつもなく、ふわふわとした善意に包まれ、世の中が柔らかく見えるのだと。

しかし、これは普通ならば金持ちの優越感で片付けられるところなのだけど、梅澤梨花にとっての“違う自分になる”本質はそこにはなくて、問題はさらにその先にあるところがやっかいこの上なく・・(笑)。なぜなら彼女はいいとこのお嬢さま育ちで、旦那もカルティエの時計をさらっと買ってこれるような高級取りで何ひとつ不自由のない暮らしをしてきたはずだからだ。

では彼女の違う自分になる本質は何なのか。そこでヒントになるのが彼女がミッション系スクールに通っていた少女時代のエピソードにさかのぼる。

外国の恵まれない子供への募金活動がクラスで先細りになっていった時に、彼女が父親の財布から5万円を抜き取って募金箱に入れて、それがバレて募金活動が中止に追い込まれてしまうが、しかし彼女は悪びれるどころか恵まれない子供のためになるのであれば別にいいではないかと開き直る。

この意味するところは、要するに最終的に本当にお金を必要とする人にお金が渡ればお金の出どころや途中の流れや手段はどうであろうと関係ないということであり、その底流にあるのは、お金はただの紙切れにすぎないのだからモラルや信用に縛られるのはバカバカしいという考え方だ。

これは高級化粧品を買う時に持ち合わせのお金が足りなくて、あとでATMで下ろせばいいやということで預かった顧客のお金で立て替えてしまったり、交際相手の大学生が学費の借金があることが分かった時に学費補助を出し渋る祖父は親族だから別にいいじゃんということで簡単に横領してその大学生に渡してしまうことにつながっている。

そしてその上で最も彼女をつき動かしている“違う自分になる”本質というのは、貧しい弱者にお金を恵んであげることができるほどの高みにいる自分が1番幸せという欲求なのだ。

この純粋な善意と虚栄心、また拝金主義をバカにしながらも誰よりもお金に依存しているという大きな矛盾をわけもなく両立させているところが彼女をつかみどころのない理解しがたい存在にしているのだと思う。

ただ、それでもテレビドラマは彼女の心の闇に説得力をもたせるだけの小さな要素の積み重ねを描くことで正義感と罪悪感の葛藤といった等身大のキャラクターに寄せていこうとしているのだけど、一方映画の方は、そういう心情をスルーして昼の顔と夜の顔をこともなげに使い分け横領をさらりとやってのける身軽さが前面に出ていて、より能動的な悪女感が強調されている。

そのファム・ファタールが颯爽と堕ちていく転落劇は2時間枠の中では一応の形を成しているものの、彼女が大学生と不倫関係になる過程の内面など端折りすぎで腑に落ちない点も多く、全体的に突き抜けた面白さはなかったかなぁ、と。。

テレビドラマの質量にかなわない中で、バレバレの手口で横領に手を染める動機に説得力をもたせるには、やはり少女時代の生い立ちにもっと焦点を当てるとかした方がよかったような気がするし、悪女感より透明感の方が勝っている宮沢りえのキャスティングもどうだったんだろうという気も・・・。

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夢売るふたり

20120606_yumeuru5_v出演:松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈、鈴木砂羽、安藤玉恵、木村多江、倉科カナ、伊勢谷友介、香川照之、笑福亭鶴瓶

監督・脚本:西川美和

(2012年・日本・137分)WOWOW

内容:東京の片隅で小料理屋を営む貫也と妻の里子。ところが開店5周年の日に店が全焼してしまう。前向きな里子はパートに出ながら家計を支えるが、すっかりヤル気を失くした貫也は店の常連客と浮気してしまう始末。里子はそんな夫の浮気に怒りながらも、再び店を持つ夢をかなえるための資金集めに、夫を使って結婚詐欺をすることを思いつく・・・。

評価★★★/65点

この監督の撮る濡れ場はなんでこんなに生々しいんだろうというのが真っ先に思い浮かぶ感想だけど、それは置いといて、、いややっぱり置いとかなくてw、気だるい自慰行為とか生理用ショーツを履くシーンも含めてホント女性にしか描けない生々しさというのがあるんだけど、個人的には阿部サダヲが旦那だし、もっとライトなコメディ路線でいくのかと思っていた。

またそっちの方を期待していたので、ここまでシリアス路線だとはちょっと意外だったし、な~んかビミョー

というか、里子(松たか子)の複雑怪奇でおどろおどろしい女のサガや内面というのが、男の自分からするとなかなか掴めなくてイマイチ乗り切れなかったというかんじかな。

1番理解に苦しんだのが結婚詐欺に手を染めていくきっかけになった里子の内面描写だ。

貫也(阿部サダヲ)の一夜の過ちに対し何かタガが外れたような表情をするのだけども、これが貫也への復讐の決意なのか、それとも小料理屋を再建しさえすれば幸せな日々を取り戻すことができると考え、その資金を得るためなら何だってしてやるという開き直りなのか、いやそのどちらも真なのだろうけど、その時点ですでに旦那に見切りをつけてもいいはずなのになぜそこまで執着するのか、といったことがない交ぜになっていて、男の自分には何かこうストンと胸に落ちてこないのだ。

それが複雑怪奇な女のサガと呼ぶべきものなのだろうが、お金を手に入れてもまだ足りないとボヤく里子の心情とは一体どういうことなのか。いったい何をもって心を満たそうとしているのか、、分からなくて怖い(笑)。

いや、実はだんだん見ていくうちに、里子の本当のオンターゲットは貫也ではなく、結婚詐欺にハメる独身女性たちそのものだったのだということは分かってくるのだけども。。

要は、自分は幸せな結婚生活を送っていたはずなのに、という傷ついたステータスを修復するためのオンターゲットが結婚できない独身女性に対する優越感であり、そこから金を巻き上げることに快感を覚えていったということなのだろう。

さらにその際、旦那を駒にして自分の思い通りにコントロールする、端的には他の女と寝て金獲ってこいと命令することで旦那に復讐を果たし、しかもちゃんと自分の元に旦那が帰ってくることで傷ついた自尊心をも満たしてしまおうという魂胆だったのだろう。

当の旦那にとっては、浮気はバレないから浮気なのであって、妻から強制され報酬までもぎ取ってこなければならないというのはただの強制労働でしかないわけだ。

しかし、そんな彼女の思惑も最初は結婚というステータスが欲しくて欲しくてたまらないOL(田中麗奈)たちからまんまと金を巻き上げることで味をしめていくのだけど、次第に貫也が里子の手綱を放れて羽を伸ばし始めたことで、夫を支える良妻賢母という理想にどっぷり浸かっていた自分の生き方の空虚さに気づかされていく。

それを物語るシーンで最も強烈だったのが、ウエイトリフティングをしている女性アスリートを引っかける際に里子が貫也に「気の毒だから止めよっか」と言うシーン。

純真な彼女をダマすのは可哀想という意味なのかと思いきや、あんな図体のデカい女とSEXするのは不憫だろうという意味で、そんな最低発言を平気でかましてしまう里子にはさすがにドン引き

自分の足でしっかりと立ち自分の人生を歩いている独身女性たちと、自分の夢や生きる目的ひっくるめて全て旦那に任せて生きることを選んだ女の対比は、貫也に里子の方がよっぽど気の毒だと言わせしめるに至る。

そして、シングルマザーの女性が持ちうる団らんという最強の武器を前に、自分を保っていた優越感が崩れ去り、旦那への殺意へと変容していくのは当然の流れであった。

独身女性の孤独につけ込んでいたはずが逆に自分が孤独の中に落ちていく悲哀・・。

港でフォークリフトを操る里子の漆黒の闇を湛えた瞳は、他人の力ではなく自分の力で生きていくという凛とした決意に見えた。

とはいえ、後味はビミョーに悪いw

やはり里子の秘めた愛憎があまりにも屈折しすぎていて、自分の価値観とは決定的に相容れない一線をゆうに踏み越えていってしまう彼女を理解できない自分がいる。

まぁ、でも最低なのはやっぱ旦那なんだけどねww

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後妻業の女

81pplozcyll_ac_sl1414_出演:大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、津川雅彦、泉谷しげる、柄本明、笑福亭鶴瓶、永瀬正敏

監督・脚本:鶴橋康夫

(2016年・東宝・128分)WOWOW

内容:後妻業とは、高齢資産家男性をたぶらかして後妻に収まり、最期を看取って遺産を根こそぎ奪うこと。そんな悪行に手を染める女・小夜子は、結婚相談所の所長・柏木と組んで次々と獲物をモノにしてきた。そして9番目の夫・耕造が結婚2年後に脳梗塞で死亡する。葬儀の席で小夜子は、全財産を小夜子に譲るとした公正証書の遺言を耕造の2人の娘に突きつけた。納得いかない娘は、元刑事の探偵とともに小夜子の過去を調べ始めるが、当の小夜子は次なるターゲットに狙いを定めていた・・・。

評価★★★☆/70点

大枠ではピカレスク映画といっていいけど、レベル的には品のないエロ週刊誌に連載されるような娯楽小説テイストでかなり軽め。といっても5人も殺しちゃってるのだがw

社会に対する憎悪だとか男への復讐だとか小夜子目線のバックグラウンドがスルーされているので、お金しか目がない罪悪感ゼロの醜悪女にしか見えないはずなんだけど、それが大竹しのぶの手にかかると後妻業をまさに天職として変幻自在に顔を使い分ける生き生きとした大阪のオバハンになるのだから恐れ入る。

お笑いモンスターの明石家さんまも敵わないわけだ(笑)。

そいえば2人の交際がバレないように、さんまが大竹しのぶをスーツケースに入れて運んだことがあるってテレビで面白おかしく言ってたけど、ホントに納まっちゃうんだねw

もっと尾野真千子とのガチバトルを見たかったし、ブラックコメディ寄りにするならもっと笑わせてほしかったという不満はあるけど、ストーリーよりキャスティングで見る映画とすれば十分及第点。

夢のシネマパラダイス175番シアター:生涯モラトリアム宣言

もらとりあむタマ子

Poster2出演:前田敦子、康すおん、伊東清矢、鈴木慶一、中村久美、富田靖子

監督:山下敦弘

(2013年・日本・78分)WOWOW

内容:東京の大学を卒業したものの就職もせず、スポーツ用品店を営む父親が一人で暮らす甲府の実家へ戻ってきたタマ子。店を手伝うわけでもなく、家事も父親任せで、漫画を読んだりしてただゴロゴロと過ごす日々を送っていた。そんな中、父親にアクセサリー教室の講師との再婚話が持ち上がり・・・。

評価★★★★/80点

天下のAKBでセンターを務めたスーパーアイドルが劇中ではアイドル志望のぐうたらニートを演じるというのは大きなチャレンジだったと思う。

ところが、履歴書用の写真を見て父親がププッと吹き出してしまうシーンで、実際そのアイドルっぽいブリッ子な写真を見るとたしかに笑わずにはいられなくて

この写真一枚でアイドルから女優に脱皮したといっていい(笑)。それくらい、前田敦子の性格ブスなタマ子はハマっていた。

また、20代の頃に延べ2年プータローを経験し、30代となった今は職を得てはいるものの相変わらずパラサイトシングルと化している自分にとってはタマ子のモラトリアムな生活はかなり身に覚えのあることで・・はっきりいって面白かったww

ただ、三十路ともなると、年頃の娘と暮らす男やもめの心持ちもよく分かり、そんな2人の絶妙な距離感というのがよく描けていたと思う。

その距離感というのは、減らず口は一丁前でも少なくとも今は動きたくないと父親に甘えっぱなしの娘と、それに苛立ちながらも本音では可愛い子には旅をさせたくない父親の共犯関係ともいえる。

しかし、実は最も敏感にその相互依存に気付いているタマ子。季節を追うごとにモラトリアムの居心地の良さを侵食してくる包囲網が狭まっていき、ラストで「夏終わったら家を出てけ」という父親の一言に「合格」と答えるやり取りはこれまた絶妙だった。

やっぱ親にも突き放す勇気がないとダメなのかもしれないけど、なかなか言える言葉じゃないよねぇ。

そういえば自分の大好きなTVドラマ「北の国から帰郷編」で、東京から帰省してきた純が父・五郎にこのまま富良野に残って父さんと一緒に居ていいかと訊くとそれを断る名シーンを思い出したw

ま、、自分のこと考えると笑えなくなっちゃうけどね

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百円の恋

Poster2出演:安藤サクラ、新井浩文、稲川実代子、早織、宇野祥平、根岸季衣

監督:武正晴

(2014年・日本・113分)WOWOW

内容:実家にひきこもり、仕事もせずダラダラと過ごす32歳の一子。ある日、離婚して子連れで実家に戻ってきた妹とケンカしたことがきっかけで、アパートで一人暮らしをするハメに。仕方なく100円コンビニで深夜のバイトを始めるが、人付き合いが苦手で接客なんてやる気なし。そんな中、近所のボクシングジムで練習に励む中年ボクサーの狩野と知り合い、デートに誘われるという珍事に見舞われるのだが・・・。

評価★★★☆/70点

実家でスナック菓子をボリボリ頬張りながらぐうたらしている三十路の独身ニート女、、おそらく世の中で1番イタイ人種であると同時に映画の主人公に1番なりづらいキャラクターではないだろうか。

さらにそこにボクシングときたらもう南海キャンディーズのしずちゃんくらいしか思い浮かばないんだけどw、安心してください、ここにいますよ!安藤サクラが!

最近の女優で役のためなら太ることもいとわないデニーロアプローチをするほどの演技派は「そこのみにて光り輝く」の池脇千鶴くらいしか思い浮かばないけど、今回の安藤サクラの女優魂にはほとほと感服した。

「モンスター」のシャーリーズ・セロンと「ミリオンダラー・ベイビー」のヒラリー・スワンクを一人で演じきってしまったような凄さといっても過言ではないだろう。

最初見た時は安藤サクラと気付かないくらいでっぷりとしたオバハン体型に仰天したけど、そこからシャープなボクサー体型に変貌をとげるのだから恐れ入る。しかも撮影期間がたったの2週間って、ライザップでも無理だろ(笑)。

また、ボクシングシーンも凄いのなんの。聞くところによると朝の6時から深夜2時半までぶっ通しで撮影してたらしく、極限の向こう側にイッた妥協のなさに圧倒された。

負け犬が一念発起して立ち上がるというありきたりなストーリーを安藤サクラの身ひとつで説得力をもたせてしまう、、この映画を見て役者の力量がストーリーを転がしていくという意味をあらためて再認識した気がする。

安藤サクラ。

ガチの女優である。

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横道世之介

8bf053b7出演:高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛、井浦新、國村隼、きたろう、余貴美子

監督・脚本:沖田修一

(2012年・日本・160分)WOWOW

内容:1987年。長崎から大学進学で上京してきた横道世之介(高良健吾)。あか抜けないお人好しの世之介は、嫌みのない図々しさが人を吸い寄せ入学式早々から友達ができる。一方、年上の女性・片瀬千春(伊藤歩)に片思いをするも、お嬢様の与謝野祥子(吉高由里子)から猛烈アタックをかけられたりと大学生活を満喫していたが・・・。

評価★★★★/75点

不思議な映画だ。

160分間大きな山場も感動もないにもかかわらず、最後まで心地よく見られ、しかも160分という大長編を見た疲労感もなく後味も爽やかなのだ。

これは一体何なのか、見終わったあともよく分からないけど、なにかこう全体的にNHKの朝ドラの味わいに似た安心感はあったかな。それはドラマに無鉄砲なドタバタや非日常的な逸脱を排し、あくまで日常に寄り添った作劇の安心感といえばいいだろうか。

例えば、サンバサークルが牧場で合宿する一見シュールな場面であっても、ジャージ姿というアイテムが日常あるあるに落とし込み豊かなユーモアにしてしまう。

そういう巧さがこの映画にはあると思う。

そしてなにより人の懐に土足で踏み込んでくるKY男でありながら、他人の頼み事ははなっから受け入れる根っからのお人好しという世之介の天然キャラが良い。

鬱陶しさが優しさや真面目さと両立されているため、かえって共感を呼ぶ不思議な魅力に引き込まれてしまったし、さらなる天然ぶりを発揮する吉高お嬢さまとの相性もバツグンで、とにかく見ていて楽しい。

まさか楽しいなんていう感想をこの映画に抱くとは思いもよらなかったけど、世之介の屈託のない笑顔が過去のものだと分かる中盤以降はせつなさも加わって、より心に残る映画になっていたと思う。

この映画を見て、なにか特別な出来事とかではなく、長い時を経てふと甦ってくる懐かしい日々の思い出の中に登場することが、自分の生きた証なんだなぁと感じて、なんかちょっと楽になったw

いや、別に人の心に残る生き方をしようなんてこれっぽちも思ってないけど、あるひと時を一緒に過ごしていくであろう仲間たちとの何気ない日常こそ大切なんだなぁって。だからこの映画を見ていて楽しかったんだと思う。

忘れた頃にまた横道世之介に会いにこよっかな

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百万円と苦虫女

100man出演:蒼井優、森山未來、ピエール瀧、竹財輝之助、齋藤隆成、笹野高史、佐々木すみ江

監督・脚本:タナダユキ

(2008年・日活・121分)NHK-BS

内容:短大を卒業したものの、アルバイト生活を送る21歳の鈴子(蒼井優)。ひょんなことから警察沙汰を起こしてしまった彼女は、受験中の弟に前科者扱いされ、勢いあまって百万円貯まったら家を出て行く!と宣言する。そして百万円が貯まると、宣言通り実家を後にして、誰も知らない土地へと旅立つ鈴子だったが・・・。

評価★★★★/75点

三十路で独身で実家暮らしで低収入の典型的パラサイトチルドレンの自分は、自分のことを誰も知らない土地で暮らしてみたいと思うことが少なからずある。自分の所在をなくしてしまいたいという願望だ。

それは18で地元から都会に出て10年もたずに舞い戻ってきてしまった自分の場合、いつまでたっても結婚も自立もできずに親に迷惑をかけ続けていることからくる所在のなさだ。家族、親せき、地元の目が精神衛生上の圧迫になっていることは否めない・・

一方、映画の主人公、鈴子は21歳。前途洋々の若さであるが、就職浪人中のフリーター生活を変えようと家を出ること自体オイラから言わせればすでに自立している(笑)。

しかもこの女、決定的にモテるのである。どこ行ってもモテまくるのであるww

他者とのつながりに思いやりを求めるよりも傷つくことの方を恐れている鈴子の冷め具合いは自分も含めた現代の若者世代に共通する感性だとはいえ、ここまでモテる女のコが人間関係を忌避して土地をさすらうというのは若干の無理がある。

また、そこで出てくるのが“前科”というキーワードになるのだけど、同居人の男の持ち物を全て捨てたというのは後ろめたい犯罪というよりは武勇伝という方がまっとうで、所在なさの根拠とするには弱い気がする。

要は全体的にリアリティがないのだ。

まぁ、友達とその彼氏と3人でルームシェアするというそもそものところからしてあり得ない話だけど。。

しかし、このリアリティのなさを蒼井優のぶっちぎりの存在感が吹き飛ばしていて、映画を最高に魅力あるものにしているのだから、やっぱり映画はやめられない。映画も自分にとってある意味現実逃避だけど・・・w

でも、ホントにこの映画見て蒼井優にゾッコン

床に大の字になって寝転がるところとか、キュートな外面とは裏腹にグチや毒を吐くところとか最高にイイ♪

良妻賢母ぶりが板につきすぎている宮崎あおいが聖母マリア化している一方、いまだに手の届きそうなところにいるフツーの女のコでいつづける蒼井優の良さに今さらながらに気付かされただけでもこの映画を見てヨカッタ×2(^^♪

今一番好きな女優は誰かと訊かれたら迷うことなく蒼井優と答えます!

あ゛ー、蒼井優みたいな人いないかなぁw

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パレード

52897d159a6db740790ccace4e77482e出演:藤原竜也、香里奈、貫地谷しほり、林遣都、小出恵介、キムラ緑子、正名僕蔵、石橋蓮司

監督・脚本:行定勲

(2010年・日本・118分)NHK-BS

内容:都内のマンションの一室。そこでは映画会社の宣伝マン・直輝(藤原竜也)、酒好きのイラストレーター・未来(香里奈)、先輩の彼女に恋をした大学生・良介(小出恵介)、若手人気俳優と極秘交際中の琴美(貫地谷しほり)の男女4人がルームシェアしていた。彼らの共同生活の基本理念は、居たければ居ていいし、居たくなくなったら出ていけばいいというチャットのようなもの。しかし、ある日そこに男娼のサトル(林遣都)が加わったことで彼らの穏やかな日常は微妙に歪み始めていく・・・。

評価★★★☆/70点

冒頭、マンションの一室の外からヘリコプター音がしているのを見て真っ先に思い浮かべた映画があった。

森田芳光監督の「家族ゲーム」だ。

あの映画では、同じく外でけたたましくヘリの音がしているにもかかわらず、そんなのお構いなく惰眠をむさぼる家族の姿が印象的だった。それは社会や他者に対する無関心のカリカチュアといえるけど、その“家族”すら“個人”にとって代わられた現在にあっては、マンションの一室は家族団らんの場ではなく、チャットや掲示板のような匿名空間と化してしまった。

孤独はイヤだけど干渉されたくない、干渉されるのはイヤだけど誰かとは繋がっていたい、イヤなら去ればいいし居たければ笑っていればいいという、なあなあで居心地が良いかわりに真実味のない上辺だけの付き合いの場。

しかし一方では、ヘリの音がすれば目を覚まして外をのぞき見るし、隣の住人が怪しいことをしていると思えば詮索してみたりと、自分たちのテリトリーの外には人一倍好奇心旺盛だったりする。

まさにその他大勢が跋扈する“世間”と仮装して仮面をかぶった彼らとは本質的には変わらないのだ。

しかもその自分たちのテリトリーであっても匿名と実名の狭間にあるという危ういバランスの中にある。しかし、彼らにとってはそれが予定調和の日常に安住するための強固な土台となっているのだ。

そこらへんのビミョーかつ絶妙な若者の距離感をこの映画は非常にうまく描き出していたと思う。

そして、仮装行列“パレード”に仮面を付けずに闖入してきた男娼のサトルによって彼らの匿名性が徐々に引きはがされていき、ついには直輝が仮面を取っ払おうとしてそのバランスが崩壊するのかと思いきや、「それでも今まで通り仮装行列を続けていくよね?分かってんだろKY男!」というラストの同居人たちの刺すような冷めた視線は強烈だった。

赤信号みんなで渡れば怖くない的な、ゆるそうに見えて実はスゴイ窮屈な運命共同体だったのか。

自分含めて現代人がストレス溜まりまくりなのも道理なわけだ・・

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ばしゃ馬さんとビッグマウス(2013年・東映・119分)WOWOW

 監督・脚本:吉田恵輔

 出演:麻生久美子、安田章大、岡田義徳、山田真歩、秋野暢子、松金よね子、井上順

 内容:学生時代から脚本家を目指すも一向に芽の出る気配のない34歳の馬淵みち代(麻生久美子)は、友人を誘ってシナリオスクールへ通うことに。するとそこで、超自信過剰な28歳の自称天才脚本家・天童義美(安田章大)と出会う。ものの見事に対照的な2人だったが、天童はばしゃ馬のように頑張り続ける馬淵に一目惚れ。対する馬淵は、口先だけの天童を毛嫌いしていたが・・・。

評価★★★☆/70点

この映画のシナリオがコンクールの1次予選を通過するとはとても思えないんだけどw、何気ない日常をイタイ笑いに切り取っていく描写力はグランプリ級!

ちょっとした会話の間や表情、雰囲気など微妙なニュアンスを的確につかみ取るさりげない演出を一貫して持続できる才はなかなかのもので、なにより役者のオーラを消し去る容赦のなさは唯一無二。

それにより、自分は特別な何かなのだと頑なに信じ込む何ものでもない者のどんぐりの背比べと傷の舐め合いに生々しいリアリティが生み出されている。

そして、ばしゃ馬さん(麻生久美子)とビッグマウス(安田章大)のこじらせぶりのいたたまれなさがどこか身に覚えのある自分に跳ね返ってきて、見ていて笑えるんだけど切なくてツラくなってくるんだよね・・・。

でも、この映画の教えてくれる教訓は、自分をさらけ出さないと夢をあきらめることを肯定して真に前に進んでいくことはできないってことなのだろうけど、誰に吐き出すでもなく人知れずフェードアウトしていった自分はあの2人に比べたらよっぽどカッコ悪いよなぁ、、と身につまされていくのは自分だったというオチ・・

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中学生円山(2013年・東映・119分)WOWOW

 監督・脚本:宮藤官九郎

 出演:草彅剛、平岡拓真、鍋本凪々美、刈谷友衣子、YOU、ヤン・イクチュン、坂井真紀、仲村トオル

 内容:妄想癖のある中2の円山克也は両親と妹と団地住まい。今日も頭の中はエロい妄想でいっぱいの克也は前々から“エッチなあること”を成就するために日夜柔軟体操に励んでいる。そんなある日、仕事はせずベビーカーを押しながら団地をうろつく謎めいたシングルファーザーの下井が上階に引っ越してくる。そしてほどなくして、団地で殺人事件が発生。克也は下井が犯人ではないかとの妄想に取り憑かれていくのだが・・・。

評価★★★/60点

神が人間に与えたもうたオマケみたいな力=妄想を人並み以上に持ち合わせている自負はあるものの、あのような目的の屈伸運動にいそしんだこともなければ試してみたいと思ったことすらない自分としては(笑)、この中2のガキに共感しうるところはあまりなかった。

まぁようするにプロットの1つ1つがツマラなかったといえばそれまでだけど、悪ノリと悪ふざけと映画的でたらめさだけで出来ているかんじでイマイチ乗り切れなかった。

唯一、「息もできない」のヤン・イクチュンが出てくる韓流くずれネタはウケたw、、ってそれもちょっと悲しいな。。

うーん、、クドカンの映画畑でのクリエイティブな仕事はもう底が見えたかなぁ・・。小ネタの天才であることは疑う余地はないけど、映画という枠内で大きな物語を描くことにかけては凡庸なのだということで、やっぱこの人は舞台とテレビの人なんだと思う。

あまちゃんでクドカンワールドに初めて触れた年配の人はこれ見て卒倒するだろうなww

2015年10月21日 (水)

夢のシネマパラダイス222番シアター:ウソは生き抜くための芸術品!?

ユージュアル・サスぺクツ

Pya03_2出演:ガブリエル・バーン、ケヴィン・スペイシー、スティーヴン・ボールドウィン、チャズ・パルミンテリ、ケヴィン・ポラック、ピート・ポスルスウェイト、ベニチオ・デル・トロ

監督:ブライアン・シンガー

(1995年・アメリカ・105分)

評価★★★★★/100点

内容:コカイン密輸事件の陰で集められた5人の犯罪者たちと、それを追う捜査官の姿を描いたクライム・ミステリー。ある夜、コカイン取引き現場の貨物船が大爆発し、27人が死亡、大量のコカインと9100万ドルが消えるという事件が起きた。捜査官のクイヤンは、現場でただ1人生き残ったヴァーバルを尋問。ヴァーバルは、事件の黒幕が伝説のギャング、カイザー・ソゼで、彼が襲撃の実行犯として5人の犯罪者を集めたと語り始める・・・。

“映画を観つづけていく指標”

映画が好きになる端緒になったのが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「インディ・ジョーンズ」であるとすれば、週1必ずレンタル屋に行くルーティンワークを定着させるきっかけになったのが「ゴッドファーザー」(1972)と「スティング」(1973)だ。

そして映画なしでは生きられない体質にさせてしまった映画が、この「ユージュアル・サスペクツ」なのだ。

当時高校生だった自分は、この映画を観終わるやいなや親や友達、恋人にあたりかまわず薦めて、一緒に観て驚愕のラストの反応を脇で眺め、そうだろそうだろスゲェだろと一人ニヤケていたのを今でも覚えている(笑)。

とにかく誰かにこの興奮を伝えたくて伝えたくてタマらなくなった最初の映画でもあったわけで、間違いなく自分の中で殿堂入りしている映画といっていい。

二転三転するプロット、ドッヒェーと驚くどんでん返しのラスト、そしてそれとともにドミノ倒しのごとくそれまでの伏線や暗示が一気に答えにつながるカタルシスと快感を味わえるという点では、「スティング」の系譜に連なる映画といえるけど、この「ユージュアル・サスペクツ」が映画史に残る1回限りの大ウソにダマされる快感であるとすれば、ちょうど同時期に公開された「セブン」では、あまりにも理不尽な絶望のラストが同じケヴィン・スペイシーによってもたらされることになる。

さらに「ゲーム」(1997)における全く先の読めない展開と、開いた口がふさがらなかった幸福のどんでん返し、そして「シックス・センス」(1999)のトンでもない秘密と系譜は続いていくわけだけど、「ユージュアル・サスペクツ」ほど純粋にダマされた、シマッタァァ、、と思った作品はない。

たぶんこういう映画にまた出会いたいがために、自分はこれからも映画を観つづけていくのだと思う。

カイザー・ソゼに再び出会うために・・・。

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スティング

20051003220003 出演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ロバート・ショウ、チャールズ・ダーニング

監督:ジョージ・ロイ・ヒル

(1973年・アメリカ・129分)

評価★★★★★/100点

内容:「明日に向って撃て!」の監督・主演トリオが再び組み、アカデミー作品・監督賞など7部門を獲得。全体を7章に分け、それぞれに本の扉のようなタイトルを挿入したクラシカルな構成、当時のファッションを念入りに再現した衣装デザイン、ラグタイムピアノをアレンジした音楽など、古き良き時代の雰囲気に満ちたノスタルジックなスタイルが特色の娯楽映画の傑作。

シカゴの下町を根城にケチな詐欺を働いていたフッカーら3人組のチンピラは、大組織の手下と知らずに1人の男をカモって大金を手にする。怒った組織はリーダー格のルーサーを殺害。ルーサーの親友ゴンドーフを頼ったフッカーは、ルーサーを殺したのが大親分のロネガンだと知るやゴンドーフとともに復讐を計画する。ゴンドーフは昔の詐欺仲間を集め、競馬のインチキノミ屋を開いてロネガンから50万ドルをだまし取る計画を練る。。。

“とどめの一撃!ヤラれた!イッた!ヌケる!鮮烈!快感!失神!オシャレな最強絶頂計画全7コース(前説付き)3800円!レンタル体験コースも実施中!”

ダマされたと思ってご購入下さい。

なんてったって映画というものにのめり込むきっかけになったのがこの作品ですから。

「スティング」と「ゴッドファーザー」。

自分の生涯ベスト1です。

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アメリカン・ハッスル

Poster2出演:クリスチャン・ベイル、ブラッドリー・クーパー、ジェレミー・レナー、エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンス、マイケル・ペーニャ、ロバート・デ・ニーロ

監督:デヴィッド・O・ラッセル

(2013年・アメリカ・138分)WOWOW

内容:ハゲ頭のセットに余念がない中年親父アーヴィンは、愛人シドニーと詐欺を働いていたが、ある時ついに摘発されてしまう。ところがFBI捜査官リッチーは司法取引として、カジノ建設に絡む政治家の汚職を暴くための捜査協力を2人に迫ってきた。そして市長を狙ったおとり捜査が開始となったが、アーヴィンは別居妻ロザリーとシドニーの間に挟まれ右往左往。さらに、リッチーがシドニーにベタ惚れしてしまい・・・。

評価★★★/60点

ダマしダマされの痛快な犯罪サスペンス劇であるコンゲーム映画を思わせるストーリーライン、アクの強い個性的なキャラクター、脂の乗り切った演出術、とそれぞれの要素は最高なのに、それらが面白さに全く繋がっていかない作劇に心底驚いた(笑)。

話の本筋はFBIと詐欺師がタッグを組んでカジノ利権に群がる汚職政治家とそのバックにいる大物マフィアを出し抜いて検挙することなんだけど、出し抜く側の捜査チームが一枚岩ではないことと、真っ黒だと思われていた市長(ジェレミー・レナー)が実はクリーンな善人だったことが話をややこしくしているんだよね。

特に前者については、そもそも上から目線で無理難題を吹っかけるFBIとそれに従うしかない詐欺師の危うい信頼関係があるところに、さらにハゲ詐欺師(クリスチャン・ベイル)&セクシー愛人(エイミー・アダムス)&チリチリ頭(ブラッドリー・クーパー)の三角関係と、ハゲ詐欺師&セクシー愛人&バカ妻(ジェニファー・ローレンス)の三角関係がダブルで加わって、そっちの方が本筋よりも本筋になっちゃってw、要するに命をかけた危険なおとり捜査の緊迫感を惚れた腫れたのグダグダ感が相殺してしまい、カタルシスの欠片もなくなっていき・・。

さらに市長が真っ当なシロだったことで、生き残りをかけた詐欺師の矛先がFBIに変わるオチも唐突でカタルシスはもはやゼロ。

もうこうなると役者陣の演技合戦しか見所がないよねっていう・・。まぁ、それで元は取れるっちゃあ取れるし、エイミー・アダムスの半チチ丸見えファッションは目の保養になったし

でも、アカデミー賞10部門ノミネートという勲賞を期待して見ると、正直肩すかしだよなぁ~。。

って、無冠だったのね。納得ww

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レインディア・ゲーム(2000年・アメリカ・104分)WOWOW

 監督:ジョン・フランケンハイマー

 出演:ベン・アフレック、ゲイリー・シニーズ、シャーリズ・セロン

 内容:クリスマスに起こったカジノ襲撃事件。犯人は射殺されたが、全員が殺されたわけではなかった。生き残ったのは3人。いったい誰が誰を欺き、誰と誰が憎みあっているのか?複雑に絡み合う人間関係とドラマが繰り広げられるサスペンス。

評価★★/40点

何なんだこれは。。出てくる奴みんな低脳。コメディとしても見れないという救いようの無さ。

ヌードになる価値があるのかいシャーリズさんよ・・。

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コンフィデンス(2003年・アメリカ・97分)WOWOW

 監督:ジェームズ・フォーリー

 出演:エドワード・バーンズ、レイチェル・ワイズ、アンディ・ガルシア、ダスティン・ホフマン

 内容:詐欺師のジェイクが奪った金は、暗黒街の大物キングのものだった。ジェイクは穴埋めのため別の詐欺計画を練るが、新たに女スリ師やFBI捜査官も登場し、二転三転の騙し合いが始まる・・・。

評価★★/40点

詐欺というかパクリというか盗用というか三番煎じというか盗作というか、、、ようするに訴えたら勝てるんちゃう。「スティング」からのまんま盗用だろこれって(笑)。

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パーフェクト・ストレンジャー(2007年・アメリカ・110分)CS

 監督:ジェームズ・フォーリー

 出演:ハル・ベリー、ブルース・ウィリス、ジョヴァンニ・リビシ、ゲイリー・ドゥーダン

 内容:毒薬で殺害された幼なじみのグレースの殺人事件を追う女性記者のロウィーナ。彼女は、グレースが出会い系サイトで知り合った広告業界の大物ハリソン・ヒルと不倫関係にあったことから、ヒルに疑いの目を向けるが・・・。

評価★★★/60点

<ラスト7分11秒、衝撃の事実にあなたは絶対ダマされる>というキャッチコピーからして胡散臭いものがあるけど(笑)、微に入り細をうがつような伏線を描いてこそ、その強弁も生きてくるだろうに、故意にそれを描かない中で豪語するんだから、ただのタチの悪い誇大広告でしかない。

たしかにラスト7分11秒までは真相が分からないんだけど、何度も言うようだけど、これといった伏線を描かないのだから当たり前なわけで、そんな中でネタばらしされても何のダマされた感も沸かないし、ただストーリーを追うことしかできない映画としか言いようがないっしょ。

そこに何の面白味も見出すことができない中で、ハル・ベリーのお色気しか印象に残らないという・・。まぁ、その目の保養にプラス1点なんだけど(笑)。

2015年10月14日 (水)

夢のシネマパラダイス478番シアター:許されざる者

許されざる者

Mv705_1_f265400出演:渡辺謙、柄本明、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、近藤芳正、國村隼、滝藤賢一、小澤征悦、三浦貴大、佐藤浩市

監督:李相日

(2013年・日本・135分)WOWOW

内容:明治維新から10数年経った1880年の北海道。かつて人斬り十兵衛と恐れられた旧幕府軍の殺し屋・釜田十兵衛。彼は落ちのびた最北の地で所帯を持ち農夫として暮らしていたが、3年前に妻を亡くし、残された2人の娘との生活は極貧の有り様。そんな時、昔の仲間だった馬場金吾が現われ、賞金首の話を持ちかける。もう人殺しはしないという亡き妻との約束を心に留める中、十兵衛はその話に乗るのだが・・・。クリント・イーストウッドが監督・主演したアカデミー賞受賞作のリメイク。

評価★★★★/75点

はたしてイーストウッド西部劇を時代劇としてリメイクしたらどうなるのか。

昔は黒沢映画の「七人の侍」や「用心棒」が西部劇にリメイクされたけど、今回はその逆、しかも「用心棒」のリメイク版「荒野の用心棒」で主役を張ったイーストウッドの作品ということで、歴史がひと回りしたんだなと感慨深くなった。

そして、そのバトンを受け継いだのは李相日。

ロマンや勧善懲悪とは一線を画すリアリストで、清濁のきれいごとではない荒んだ負の部分をしっかり描ける骨太演出が真骨頂の正統派監督だけに、三池崇史のスキヤキ・ウエスタンジャンゴのようなハチャメチャな娯楽映画にはなりようがないなと安心できる人選w

しかも、前作「悪人」では人間の奥底にある善悪のあやふやさを描き出していて、これは「許されざる者」に通底するテーマでもあり、李相日にとってはチャレンジ精神を大いにかき立てられる企画だったに違いない。

そしてその大胆な挑戦は、借り物ではないれっきとした日本映画として見事に結実していたように思う。

なにより北海道という大地がこれほど和風西部劇にマッチしているとは思いもよらなかった。まるでダンス・ウィズ・ウルブズに出てくるサウスダコタの平原かと見まがうばかりで、まさに目からウロコだったけど、本場西部劇のドライな風土とは異なる日本ならではのウェットな気質が反映されていたのはまた趣が違って面白かった。

陽気な空っ風に巻き上がる砂じんではなく陰うつな寒風に粉雪が舞う北の大地、そこはあくまでも“辺境”であり、そこに赴任するということは“左遷”を意味することは自暴自棄になっている警察署長(佐藤浩市)をみれば分かる通り。さらに、「賞金を元手に石炭でひと山当てるという話はウソで自分には行く場所がもうない。」という金吾(柄本明)の告白は決定的で、そこには無限の可能性を持ったフロンティアスピリットなど欠片もないことが明示される。

まさにそこは本土では生きていけない逆賊、敗残者、行き場のない人々がいやいや流れ着いた最果ての地なわけで、北海道=蝦夷地のもつ歴史性がイーストウッドのオリジナル作にはない閉塞感を醸成している。

しかし、アメリカの西部開拓史が先住民を暴力で駆逐し、土地を奪い取っていった暗黒史の一面を持っているように、蝦夷地開拓もアイヌ民族を迫害し駆逐していった歴史があり、その点をアイヌの血を引く青年・五郎(柳楽優弥)に仮託して描いているのも上手い。

総じて穴のないよく出来た作品だったと思う。

しいていえば、冒頭で佐藤浩市が森で熊と出くわす話を引き合いに出して、自分が殺されると分かれば人も獣も死に物狂いで向かってくると生存本能の強烈さを語っていて、死にたくない&生き残るためには何だってするという映画の開巻宣言と捉えたのだけど、そのわりにその点が思ったほどではなかったのは不満点だったかな。

結局、十兵衛も署長も自ら望んで彼岸に片足を突っ込んでいるようなキャラクターなので生きることに懸命じゃないんだよねw

少なくとも署長をその立ち位置に置いたのは失敗だったと思う。

その点では、死んだフリして生きるのはもう飽き飽きしたと吐き捨てる女郎や、初めて人を殺したことに後悔の念に駆られる五郎の方が生きることに執着しているわけで。一方、金吾は葛藤の末に脱落して去っていくけど、それはイコール生への執着からも脱落したことを暗示していて、あの後どこかで野たれ死にしたのではないかと思う。

そういう意味ではラストの十兵衛が涙をこぼしながら雪原を彷徨するシーンは強烈で、自分なんかは思わず仲代達矢が満州の雪原をひたすら彷徨し力尽きていく「人間の条件」のラストを想起してしまったけど、このラストになんか上手いこと言いくるめられてしまった感もするな

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夕陽のガンマン

5201 出演:クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、ジャン・マリア・ヴォロンテ

監督・脚本:セルジオ・レオーネ

(1965年・イタリア・132分)NHK-BS

評価★★★★/80点

内容:2人の賞金稼ぎ、モンコと初老の元南軍“大佐”は、凶悪な強盗殺人犯インディオを追いかけてエル・パソにやって来た。インディオの銀行襲撃を待ち伏せた彼らは、裏をかかれて逆にリンチに遭ってしまう。ようやく命が助かった大佐は、自分の弟を惨殺した犯人がインディオであることを知り、彼に決闘を挑む。。

“能ある鷹は爪を隠さない!”

この映画はどこからどう見たってモーティマー大佐が主人公だろう。

汽車の中で聖書を読んでいる登場シーンから、停車しないはずの駅で無理やり汽車を止めて悠々と馬で降りるシーン、そして街でお尋ね者を確実に仕留めるシーンとつづくオープニングは前菜からいきなり黒トリュフを使ってきやがったといってもいいくらい魅力満載なお腹一杯状態にさせてしまう。

そして猛禽類の風貌と、追う獲物は決して逃がさない鋭い眼差しに思わずゾクゾクしてしまうのだ。

さらに彼の秘められた過去と心の傷が明らかになってくるや、もうイーストウッドなんかどうでもよくなってくる。

そしてラスト、妹の思い出とともに響くオルゴール時計を耳に当てながらひたひたと夕陽に向かって去っていくモーティマー大佐の姿がなんとも印象的。イーストウッドの姿はもはやそこには、なかった。。

いやはや「夕陽のガンマン」という邦題はズバリこの映画の真実を見抜いていてよろし。

原題“For a Few Dollars More”はおそらく荒野の用心棒の原題“For a Fistfull of Dollars”からモジッたんだろうけど。金のために、というのはあまりにも味気ない。

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続・夕陽のガンマン(1966年・イタリア・155分)NHK-BS

 監督・脚本:セルジオ・レオーネ

 出演:クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、イーライ・ウォラック

 内容:お尋ね者の懸賞金をだまし取っていたジョーとテュコ。2人はある日、逃走中の強奪犯から20万ドルもの大金を奪う。だが、その金を狙ってセテンサという凄腕のガンマンがやって来て・・・。3人の男たちの虚々実々の駆け引きをユーモラスに描いた痛快ウエスタン。ちなみに原題は「いい奴、悪い奴、醜い奴」。

評価★★★★☆/85点

“実は「荒野の用心棒」よりも黒澤臭の濃度が高いセルジオ・レオーネのマカロニウエスタン集大成!西部劇史上最強のエンターテインメントだ!”

黒澤が娯楽作をつくる際に「カツ丼にカレーとソースをぶっかけて思いっきりかき込む」というコンセプトを提示したことは有名だが、この作品はまさにこのコンセプトを具現化した作品ではないだろうか。

質量ともに見どころ満載、善玉・悪玉・卑劣漢という3人のキャラクターの造形力の魅力も凄まじい。

ハゲタカそのものの鋭い目を持ったリー・ヴァン・クリーフにエンジェル・アイという名前を付けたのには度肝を抜かれるとともになんとも乙だなぁと感心したし、あとは特にイーライ・ウォラック。

あの汚っねえ歯を前面に出してくる笑顔の憎めなさといったら(笑)、ホントいい味出してる。黒澤映画に出てくるよね、ああいうストーリーの道先案内人キャラ。

そしてラストの衝撃の三角形には思わずめまいが・・・。

西部劇って、すぐに分かる定型パターンがあって、自分の中で西部劇を見るというのはある種のダルさとユルさとのお付き合いでもあったのだけど、この作品は180度違っていた。

倦怠とは無縁の最高エンタメだ。

もう、今の自分はぶっちゃけ首に縄を掛けられてもいい気分だね。誰か、椅子の足を銃で撃ってくれ!

エンニオ・モリコーネにも乾杯!

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アウトロー(1976年・アメリカ・137分)NHK-BS

 監督:クリント・イーストウッド

 出演:クリント・イーストウッド、チーフ・ダン・ジョージ、ソンドラ・ロック

 内容:南北戦争末期、たった一人で北軍に抵抗を続ける7丁の銃を持つ男がいた。妻子を北軍のゲリラに惨殺され、復讐に燃えるその男の名はジョージ・ウェルズ。北軍は彼にアウトローの烙印を押し、多額の賞金をかけた。賞金目当ての殺し屋たちが次々と狙ってくるが、ジョージは彼らを早撃ちで倒し、開拓者たちを見方につけて北軍部隊との戦闘を繰り広げる。。

評価★★★☆/70点

“旧来の伝統的な西部劇では決して描かれることはなかった人々を描くというイーストウッドの性格と作家姿勢が表れていてヨロシイ。”

妻子を殺された農夫の復讐劇でありながら、まるでドラゴンクエストのパーティのごとき疑似家族を呈していく不思議かつ温もりのある旅を描いていて、なかなか見どころの多い作品だったと思う。

しかも仲間になるのが、老インディアン、宿場で虐げられていたインディアンの女性、南軍ゲリラ、犯されそうになるソンドラ・ロック、あげくの果てに婆さんときたもんだ。

さらに、その彼らが一丸となって銃で闘う大団円もフツーなら非現実的なんだけど、そこまでのストーリーの転がし方だとか描写力といったイーストウッドの手腕に加えて、孤高のジョージ・ウェルズのキャラクターにも確かな説得力があって一気に見させてしまう。

いわば、それまでの伝統的な西部劇では決して描かれてこなかった人々を描いているという点でも新しいし、ガトリング砲をブッ放すところなんかはやはりイーストウッドの原点であるマカロニ・ウエスタンの系譜を見て取れるという点でも、それまでの西部劇とは異なる匂いのする映画だと思う。

奇しくも、同じ年にジョン・ウェインの遺作となった「ラスト・シューティスト」が公開されているが、いわばこの作品をもって西部劇のもつ神話性は消滅し、西部劇=時代遅れという図式が成立してしまった。

ジョン・ウェイン&ジェームズ・スチュワートの「リバティ・バランスを射った男」(1962)で、“西部は事実よりも伝説を選ぶ”というセリフが語られたのは有名だけど、西部劇のもつ伝説や神話性はアメリカン・ニューシネマの台頭で完全に打ち砕かれることになるのだ。

そういう観点でみると、イーストウッドの作る西部劇というのは、決定的にオールド・ウエスタンのノスタルジーに欠けるし、伝統的な西部劇の醍醐味とはやはり異なる味のする西部劇なのだと思う。

なんかこの映画のジョージ・ウェルズが16年経つと「許されざる者」のアウトロー、マニーに繋がっていくのかと思うと、それもまた感慨があっていいね。

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許されざる者(1992年・アメリカ・131分)DVD

 監督:クリント・イーストウッド

 出演:クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマン

 内容:1880年のワイオミング。列車強盗や殺人で悪名を轟かせたマニーは、今では農場を営みながら2人の子供と静かに暮らしていた。しかし家畜や作物は順調に育たず、妻にも先立たれたマニーは、2人組の強盗にかけられた1000ドルの賞金を得るために一緒に組もうという若いガンマン、キッドの誘いにのり11年ぶりに銃を手にする。マニーのかつての相棒ネッドも加わり、3人は保安官ダゲットが牛耳る町へ足を踏み入れるが・・・。アカデミー作品・監督賞受賞。

評価★★★☆/70点

この映画が当時公開された時は高校に上がったばかりだったけど、今どき西部劇なんて古臭くない!?みたいな認識を持っていて、それはいわば水戸黄門みたいな型にはまった勧善懲悪を見てスカッとする感性はジジババ連中しか持ち得ていないと思っていた

しかし、ふたを開けてみると、主人公はジョン・ウェインとは程遠いかつての凶悪な無法者、対する保安官もゲイリー・クーパーとは程遠い権力欲の強い偏見に満ち満ちた人物で、単純な勧善懲悪から脱したあやふやな設定になっていて、一筋縄ではいかない作品になっていた。

イーストウッドはこの映画を“最後の西部劇”と銘打ったけど、実際のところは“現代の西部劇”と言った方が正確なのかもしれない。

加害者、被害者、傍観者みんな罪びと。それが如実に垣間見える今この時代だからこそ鋭い印象を残す映画になったのだと思う。

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