夢のシネマパラダイス560番シアター:1917命をかけた伝令
1917 命をかけた伝令
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、マーク・ストロング、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ
監督・脚本:サム・メンデス
(2019年・英/米・119分)東宝シネマズ日本橋
内容:1917年、第一次世界大戦の西部戦線。ドイツ軍の後退を好機と捉えたイギリス軍は追撃作戦を開始するが、それはドイツ軍の罠であることが判明する。そこで若きイギリス兵スコフィールドとブレイクに、作戦中止の命令を最前線の部隊まで届けるよう指令が下る。ブレイクの兄を含む兵士1600人の命がかかる中、2人は塹壕を抜け出し、敵の陣地へ歩を進めていく・・・。
評価★★★★/85点
歴史好きの自分にとって欠かせなかったテレビ番組にNHKスペシャル「映像の世紀」がある。その第2集だったか、大量殺りくの完成という副題で第一次世界大戦を扱った回があった。
愛国心というロマンにあふれた若者たちが、「クリスマスまでには帰れる」と無邪気に戦場に向かったものの、その先に待っていたのはクリスマスどころか何年にも渡る果てなき消耗戦の地獄、、そして爆撃で吹き飛ばされた顔の右半分を型取ったマスクを装着した若者がカメラに向ける眼差し、、こんなはずではなかった、と。。
今回の映画では人類が初めて経験した近代戦の惨状を、ジグザグに延々掘られた塹壕、その中で泥まみれになってうずくまる兵士たち、張り巡らされた鉄条網、砲弾でできた無数の穴ぼこの大地に放置される軍馬の死骸、腐乱していく兵士の屍に群がるハエとネズミ、大量に散らばっている高射砲の薬きょう、崩れ落ちた橋、もはや更地寸前の廃墟と化した街、、そういったリアルなプロダクトデザインや美術セットにより大々的かつ直接的な戦闘をほぼ描かずに表現しているのが特筆もの。
中でも印象的だったのが桜の花で、撤退したドイツ軍が道を塞ぐために桜の木々を伐採していったことによる戦争の酷さ悲しさだったり、主人公が川に流されている時に流れてくる桜の花びらは「西部戦線異状なし」のオマージュとも思ったけど、ものすごく心に残った。
話題となったワンカット風撮影については、没入感はハンパない一方、各ステージのイベント・ミッションをこなして進んでいくかんじが、まるでLOTRのフロド&サムの冒険譚のように見えてきてしまうドラマ性の乏しさや、映画好きにとってはどうやってワンカットのように見える映像を繋いでいるのか技術面ばかりに気が向いてしまうといった一長一短はあったものの、今まで見たことのない“戦場”映画だったのは疑いようがない。
ただ、水面上を滑空しているような切れ目ないカメラワークとか本当にどうやって撮っているんだろうという興味は尽きなくて、全編メイキング見てみたいw
P.S.ロシアの侵略によるウクライナ戦争の最中に再見した。破壊のかぎりをつくされたマリウポリと映画に出てくるエクーストの街がだぶって見えて暫し言葉を失う・・・。
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戦場のアリア
出演:ダイアン・クルーガー、ベンノ・フユルマン、ギョーム・カネ、ゲイリー・ルイス、ダニー・ブーン
監督・脚本:クリスチャン・カリオン
(2005年・仏/英/独/ベルギー/ルーマニア・117分)盛岡フォーラム
評価★★★★/80点
内容:1914年、第一次世界大戦下のフランス北部デルソー。ドイツ軍とフランス・スコットランド連合軍の戦いは熾烈を極め、戦況はますます悪化の一途をたどっていく。そんな両軍とも譲らぬまま迎えた雪のクリスマス、花形テノール歌手だったドイツ軍のニコラウスは素晴らしいテノールを塹壕から響かせる。すると、スコットランド軍はバグパイプの伴奏を奏で始め、一夜限りの休戦が実現、いつしか3カ国の兵士たちによる「聖しこの夜」の合唱がこだまする、、、というウソのようなホントの話。。
“やや一本調子な旋律で、思ってたより盛り上がりに欠けるが、戦争の愚かさがこれほど素直に伝わってくる映画も珍しい。戦場における人間讃歌に心打たれる。”
凍てつく大地に野ざらしになった死体がゴロゴロしている中で、敵味方が共にシャンパンを酌み交わし、語り合い、共に歌い、共にサッカーをし、トランプまでして、そして共に祈る、、そんな世にも奇妙な風景のどこまでが真実なのか知るよしもないが、戦争のバカバカしさ、愚かさが実に端的に伝わってくる光景ではある。
以前、NHKスペシャルで太平洋戦争の激戦である硫黄島玉砕戦を特集していて、生き残った元兵士の凄絶な証言の中で、あの生き地獄という名の戦場を一言で言い表すならばそれは“畜生の世界”だと言っていたのが印象に残っている。
人間性を破壊し消失させてしまう、人ではないものが巣食う世界、それが戦場なのだとしたら、その中でかろうじて人間たらんとすることはそれこそ神のおぼし召しにすがるより他にないのかもしれない。
クリスマス聖夜、賛美歌の合唱とバグ・パイプの音色によって引き起こされた奇跡。
戦場の最前線で人間性を取り戻したかけがえのない喜びが暖かく描かれる一方で、その取り戻した人間性が自国の正義という名の下に徹底的に排除されていく絶望と悲しみも冷徹に描かれ、なんともやるせなくなってくる。
また、戦場で敵味方も国境も人種も越えたクリスマスミサの祈りによって心を通わせることに貢献した神父がいる一方で、聖戦と称して若者を戦場に駆り出していくのも同じ宗教者の司教であることに空しさを感じずにはいられない。
「ドイツ兵を殺せ!皆殺しにしろ!と命令するお偉方よりもドイツ兵の方がよっぽど人間的だった。」というセリフが心に残る。
現代、相も変わらず宗教は権力と戦争の道具として使い回されているが、音楽はいまや数百万曲が世界中のネットを飛び交う時代だ。
奇跡を起こすのは神でも宗教でもない。
音楽なのかもしれない。
そういえば「ビルマの竪琴」でも日本軍と英軍が水島上等兵の奏でる竪琴に合わせて合唱するシーンがあったっけ。
歌ってやっぱりスゴイ
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バルトの楽園(2006年・東映・134分)WOWOW
監督:出目昌伸
出演:松平健、ブルーノ・ガンツ、高島礼子、阿部寛、國村隼、大後寿々花、平田満、市原悦子
内容:第一次世界大戦中の1914年、日本軍はドイツの極東根拠地である中国の青島を攻略し、ドイツ兵4700人を捕虜として日本全国に12ヶ所ある俘虜収容所へ送還する。1917年、収容所を6ヶ所に統合するため、劣悪な久留米収容所で2年を過ごした捕虜たちは徳島の板東収容所に移送された。同収容所の松江豊寿所長は、彼らに対して寛容な待遇で接するのだが・・・。日本で初めてベートーベンの「交響曲第九番:歓喜の歌」が演奏されたという実話をもとに描いたドラマ。
評価★★★/60点
“安倍晋三がこれ見たらもろ手を挙げて喜びそう・・・。”
なんていうのかなぁ、言葉は悪いけど、まるで北朝鮮の将軍様の国策映画を見せられているかのような気持ちの悪さを感じてしまった。
いや、ものすごく真摯で感動的なストーリーなんだけど、そこにこれでもかというくらいに輪をかけて乗っかってくる何のひねくれもない平々凡々な演出に、逆にうすら寒さを感じてしまったというか。。
自分の映画の見方がひねくれちゃってるだけかもしれないけど、この映画ははっきりいってヌルすぎる。
なぜ収容所が牧歌的な理想郷のように描かれなければならないのか、あまりにも出来すぎていやしないだろうか。
まだ日本がイカれる前の貧しくも古き良き時代にあった奇蹟といえば聞こえはいいけど、ちょっと誇張しすぎの感も・・・。
唯一、大後寿々花の演技力と存在感には今回も脱帽したけども。
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