夢のシネマパラダイス500番シアター:ゴッドファーザー・オブ・Jホラー黒沢清
クリーピー 偽りの隣人
出演:西島秀俊、竹内結子、川口春奈、藤野涼子、笹野高史、東出昌大、香川照之
監督・脚本:黒沢清
(2016年・松竹・130分)WOWOW
内容:1年前に失態を犯して警察を辞めた高倉は、現在は大学で犯罪心理学を教えている。そして妻の康子と心機一転郊外の一軒家に引っ越し、新生活をスタートさせていた。ある日彼は、警察の後輩だった野上から6年前に起きた未解決の一家失踪事件の捜査協力を頼まれる。そして事件を唯一免れていた長女に会うのだが、彼女には断片的な記憶しかなかった。一方、高倉夫妻は、新居の隣人・西野の言動にストレスと違和感を感じ始めるが・・・。
評価★★★★/80点
曖昧模糊となっていく此岸(この世)と彼岸(あの世)の境界を、死者が飄々と踏み越えてくる恐怖を描くことを得意としてきた黒沢清。
しかし、そんな大げさな非日常よりも、自分の家の垣根ひとつ越えた隣家で何か異常なことが起きているのではないかという不安感の方が、日常と地続きなだけに身近な怖さがあるし、例えば隣人が「私の家、幽霊出るんです」と言うより「あの人お父さんじゃないです。全然知らない人です」と言ってくる方がよっぽど不気味で怖い。
そして、ご近所さんへの違和感が次第に自分たち家族の日常を侵食してくる様は妙な生々しさがあって、その不穏な雰囲気が見てるこちら側にまで漏れ出してきて嫌~なかんじ・・。
なにより香川照之の怪演が凄まじいのなんの。TVドラマでの豪快な悪役っぷりとはまた異なる神経質でヤバそうなかんじが後ろ姿だけ見ても伝わってきて、上手さを感じる以上に背筋がぞわぞわッとしてくる。
妻(竹内結子)の内面がイマイチ伝わってこないといった欠落はあるものの、警察までもが餌食になっていく後半のおどろおどろしさと、頼るものがもう無い世界の終わりの中を車で疾走する時の合成感丸出しのシーンに快哉w
久々の黒沢製サスペンスホラーを思う存分堪能させて頂きました。
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予兆 散歩する侵略者劇場版
出演:夏帆、染谷将太、東出昌大、中村映里子、岸井ゆきの、渡辺真起子、大杉漣
監督・脚本:黒沢清
(2017年・日本・140分)WOWOW
内容:同僚の浅川みゆきから「家に幽霊がいる」と告白された山際悦子は、夫の辰雄が勤務する病院の心療内科にみゆきを連れて行く。診察の結果、彼女は“家族”の概念が欠落していることが分かった。一方、同じ病院で夫から新任の外科医・真壁を紹介されるのだが・・・。
評価★★★/65点
宇宙人が地球侵略の前段階として人間という生き物を理解するために、人間を動かしている根本にある“概念”を奪って集める、というオンリーワンなシチュエーションだけ取ってみれば白眉。で、奪われた人間は廃人同様になってしまうのも面白い。
そこに黒沢清お得意の侵食してくる彼岸のイメージが上手く作用していて絵的にも見所あり。
なのだけど、本格的な侵略前ということか意外に盛り上がらないw
か弱い女性主人公が侵略者の人差し指を受けつけない特異体質の持ち主であるアイデアも意外にキーファクターとはならず、愛する人のためなら人類が滅んでも構わないというパーソナルな思い=愛の強さに話が収れんしていくんだけども、純粋なセカイ系にもなりきれていない中途半端さに最後まで足を引っ張られたかんじ。。
その中で、無表情がしっかり表情になっている逆説を恐ろしいほど体現している東出昌大が、愛の概念を手に入れたらどんな表情になったんだろうというのは見たかったなぁ。
ちなみに1番好きなシーンは、染谷将太がシャベルで東出の頭を後ろからガッツリぶっ叩くのをワンカットで映し出したところw
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散歩する侵略者
出演:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、前田敦子、満島真之介、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己
監督・脚本:黒沢清
(2017年・松竹・129分)WOWOW
内容:数日間失踪していた夫・真治が病院で保護された。妻の鳴海はまるで別人のような夫の言動に戸惑いを隠せない。しかし、そんなのお構いなく夫は毎日ふらふらと散歩に出かけ、やがては散歩のガイドになってくれと彼女に頼んでくるのだった。一方、町では一家惨殺事件が発生するなど不穏な出来事が頻発し、フリー記者の桜井は独自調査を始めるのだが・・・。
評価★★★☆/70点
「予兆 散歩する侵略者」の方を先に鑑賞。
かげりのある空間描写が不穏をかき立てる黒沢なじみのホラー系の「予兆~」とは対照的な本作の軽快なコミカルテイストに少々面食らう。
が、予兆~での制御されたアンドロイドのような表情の東出&染谷とは逆に、本能で動く血まみれ女子高生&高校生クイズに出てきそうな生意気男子が殊のほか良くて、それに振り回される長谷川博己も面白い。
また、いつもの飄々とした松田龍平と引きこもりが治った満島真之介のやり取りも面白かったし、愛は地球を救うを体現した長澤まさみがめちゃくちゃイイ💕
絵的に見るべき点はクライマックスの無人爆撃機くらいしかない中で、生き生きとしたキャラクタリゼーションの新鮮さに最後まで引っ張られたかんじ。
あと、予兆~では愛の概念を知らぬまま終わった東出が今回は愛を説く牧師役として出てくるけど、空虚さが全く変わっていないのは笑えたw
シリアスとユーモラスの狭間であやういバランスのとれたウェルメイドな作りは黒沢清の新たな方向性なのか、なw?
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回路
出演:加藤晴彦、麻生久美子、小雪、武田真治、風吹ジュン、役所広司
監督・脚本:黒沢清
(2000年・東宝・118分)2001/02/18・仙台東宝
評価★★★☆/70点
内容:ごく平凡なOL生活を送る工藤ミチ(麻生久美子)の同僚がある日、自殺し、勤め先の社長も失踪してしまう。一方、大学生の川島亮介(加藤晴彦)の周りではインターネットを介して奇妙な現象が起き始める。胸騒ぎを感じた亮介は、同じ大学でインターネットに詳しい研究者の唐沢春江(小雪)に相談を持ちかけるが、次々に友達や家族が消えていく・・・。カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。
“怖いから見たくないと顔を手で隠しても指と指の間から見たくなってしまう、いや、絶対見なければならないと思わせるような世界がそこには広がっていた。”
地球上あるいはこの世界の中で唯一人間のみが“死”というものを発見した。
いつかは必ず“死”が訪れてしまうことを知ってしまった人間。
それこそが宗教や哲学の原点であり、死とは何か、翻ってこの世を生きることとはどのような意味をもつのかという探求、それは決して避けえない“死”を受けとめるために生まれてきたといっても過言ではない。
この作品では生者と死者、此岸と彼岸の境界がネットとパソコンのディスプレイを通して消失していき、2つの世界がジワリジワリと重なっていくさまが描かれている。
そして、あたかも皆既日食のごとく光と闇が重なっていく最大公約数のところに鮮明に見えてくるのは、孤独というキーワードだった。
死とは永遠の孤独であり、死者は永遠に「助けて、助けて」と呟きつづける存在。
しかし実はその“孤独”が現代社会を構築していくシステムの中で大きな存在となりつつある、いや、もうすでになっている現在。
人とのつながり、社会とのつながり、国家とのつながりが希薄になってきたその極端な形を、光と闇という二項対立の壁を取り払った不条理なホラーとして表出させた黒沢清監督の手腕はたしかに大きい。
なぜあちらの世界が侵食してくるのかということを武田真治に語らせた不条理の理はともかく、人と人とのつながりを最後の最後まで求める主人公の一貫した姿から、生きるということに人と人とが理解しあうこと、心と心をつなげることという意味を見出すことが一応できる。
しかし、それは一応という前書きがどうしても付いてしまうくらいの弱々しいものであり、監督の視線の冷たさと突き放し方には、映画を見る側とのつながりさえ拒絶してしまうくらいの投げやりとでもいうような一方的な厳しさがある。春江の描き方なんか特に。
そのため映画と自分との間の回路が半ば開いているようで開いていない状態のまま推移してしまった。
自分としては、人と人とが理解し合うことの難しさと対になる、それゆえに生まれる心と心の交流の温かさを描いてこそ、より説得力をもって伝わってくるものだと考えているのだが、ホラーにそこまで求めるのも酷か・・。
だが、そういう要求を思わず求めてしまうほどのある種哲学的な世界、見たくないと顔を手で覆っても絶対指と指の間から見たくなってしまう、いや、見なければならないと思わせるような世界がそこには広がっていた。
まるで救いを求めるかのごとく無機質な携帯を片手に持った人々であふれかえる街、しかしそこにあふれかえる情報の波の中で他者とコミュニケーションをとることにもはや肉体(身体)は完全に不用となっている。
そんな中、間接的な形の中で次第にコミュニケーションを苦手とし、あるいは苦しみさえ抱き閉じこもって、そういう力を無くしていく人々と社会・・・。
これって、たしかにホラーなのかもしれない。。
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叫
出演:役所広司、小西真奈美、伊原剛志、葉月里緒菜、オダギリジョー、奥貫薫、加瀬亮
監督・脚本:黒沢清
(2006年・日本・104分)2007/03/01・盛岡フォーラム
評価★★★★/80点
内容:有明の埋立地で、身元不明の赤い服の女が殺害された。死因は溺死。この事件の捜査に当たった刑事の吉岡は、被害者の周辺に残る自分の痕跡と不確かな記憶に「自分が犯人ではないのか?」という妙な感情に襲われる。苦悩を深める吉岡は、殺害現場に舞い戻るが、そこで不気味な女の叫び声を耳にする・・・。
“これぞ<映画>!”
「私は死んだ。だからみんなも死んでください」という、映画を締めくくる言葉とは到底相容れないような衝撃的なセリフで終わる作品だが、新聞紙が吹きすさぶゴーストタウンを独りさまよう役所広司の姿を捉えたワンカットで世界の崩壊を表現してしまう、これを“映画”と言わずして何と言おう。
そういう意味でもまさに素晴らしい映画体験を満喫できたと思う。
冒頭、男が水たまりに女の顔を押し付けて殺害するシーンがワンカットで描かれていることからして、今まで見たことがないようなヘンな違和感を感じたものだが、ワンカットで撮った(?)男の飛び降り、瞬きしない赤い服の幽霊(葉月里緒菜)の形相、奥貫薫が凶器でゴツンと男の頭をブッ叩くシーンなど微妙な違和感が見る側に侵食してくる。
この違和感は今までの映画の文法から外れたもの、それはつまるところ“本当のこと”が違和感として感じられてしまうのだろう。
かと思えば、その幽霊がわざわざドアを開けて出て行ったり、空をドッヒューンと飛んでいったり、吉岡(役所広司)が真顔で幽霊が出る相手を間違えることってあるんでしょうか?と言ったり、そういう滑稽なシーンも平気で繰り出してくる。
そっくり丸ごとホンモノと、とてつもないバカバカしさの奇妙な融合がこれほどまでに新鮮な世界観として映ってしまうというのも珍しい。
これぞ“映画”!
20世紀に我々日本人が捨て去ってきたもの、見て見ぬふりをしてきたもの、ひた隠してきたものが21世紀に入ってボロボロと露わになってきている中で、この映画で描かれる赤い服の幽霊が内包するテーマというのは非常に示唆的であるように思う。
そういう時代性も含めて、見応えがあったし、さらに黒沢清にありがちな支離滅裂さがなかったのも見やすくて良かった。
“目の前にいる人が、全然私を見てくれない”呪縛、ゾゾーッ・・。
いったいどれだけの人を、モノを見過ごしやり過ごしてきたのだろう自分は・・・。
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ドッペルゲンガー(2002年・日本・107分)WOWOW
監督:黒沢清
出演:役所広司、永作博美、ユースケ・サンタマリア、柄本明
内容:早崎道夫は、医療機器メーカーで人工人体の開発にあたっているエリート研究者。10年前に開発した血圧計が大ヒットして以来、スランプ状態に陥った彼はストレスを募らせていた。そんなある日、早崎の前に突然、彼に瓜二つの外見を持つ分身ドッペルゲンガーが出現。早崎は必死でその存在を否定しようとするが・・・。
評価★★/40点
コメディだと気付くのが、遅すぎた・・w
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