夢のシネマパラダイス557番シアター:嫌われ松子の一生
リップヴァンウィンクルの花嫁
出演:黒木華、Cocco、地曳豪、和田聡宏、原日出子、毬谷友子、金田明夫、りりぃ、綾野剛
監督・脚本:岩井俊二
(2016年・東映・180分)盛岡フォーラム
内容:内気な性格の派遣教師・皆川七海は、ネットで出会った鶴岡鉄也とトントン拍子で結婚することになった。さらに、親族友人が少ないので、結婚式の出席者をこれまたネットで見つけた便利屋の安室に依頼して済ませる。ところが、新婚早々に旦那の浮気が発覚。義母ともめた末に七海の方が家を追い出されてしまう。途方に暮れた彼女は、安室に頼って住み込みのバイトを斡旋してもらうのだが・・・。
評価★★★★/80点
黒木華はまことに稀有な女優さんだ。
21世紀の世にあって誰もが持ちえない昭和の銀幕女優のような古風でおっとりしたオーラをまとっているからだ。
昭和の銀幕女優というのは、切符の買い方さえ知らないような浮世離れした部分があるんだけど、黒木華は池脇千鶴や蒼井優、満島ひかりのような現実社会に真正面からぶつかり合っていく本格派女優の系譜に連なりながら、と同時に世渡りしていくには純粋に過ぎるのではないかというような破格の品の良さも持ち合わせている。
地に足が着いていなさそうに見えて実は肝の据わった芯の強さを持っている、その真逆のベクトルが相殺し合うことなく同居しているところが唯一無二の女優たる所以なのだといえる。それゆえ彼女のキャラクターが映画の格を一段上げているというか、この人が出ていれば大丈夫という安心感を与えてくれる。
その点で今回の映画は主演ということもあって、黒木華の女優としての両面が余すところなく映し出されている。
特段主体性もなくなんとなく生きてきた岩手出身の主人公(自分も岩手出身なので通じるところがあるw)が人生のレールから脱線し、流されるように転落していくんだけど、そこに悲壮感が感じられないのが黒木華らしくて面白いんだよね。
そしてこの黒木華にこれまた特異体質のCoccoを組み合わせたのが白眉で、後半は現実感のない完全なおとぎ話に昇華されている。
スマホでしか繋がれない希薄な現代の虚構世界をたゆたうお嬢さんのメルヘンチックな冒険譚は、まるでスーパーマリオで上に乗った途端に下へ落ちていくブロックをふわりふわりと飛び跳ねていくピーチ姫を想起させる。
しかし、Coccoは何なんだあれは(笑)。素なのか演技なのか、もう完全に何かが憑依しているかんじで、非日常にグイッと持っていかれて少し怖くなっちゃうくらいだった。
P.S.結婚するアテなんて当にあきらめているけど、万に一つ結婚式なんてのがあったら、自分も呼ぶ知り合いがいないことに気づいた・・w
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嫌われ松子の一生
出演:中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介、香川照之、市川実日子、柄本明、木村カエラ、宮藤官九郎、柴咲コウ、片平なぎさ、ゴリ、谷原章介、劇団ひとり、BONNIE PINK、土屋アンナ
監督・脚本:中島哲也
(2006年・東宝・130分)仙台フォーラム
評価★★★★/80点
内容:昭和22年、福岡県に生まれた川尻松子。お姫様のような人生を夢見る明るい少女だった松子だったが、愛情の唯一の対象だった父親は、病弱の妹ばかりを可愛がっていた。やがて20代になって中学校の教師になった松子だったが、万引きをした教え子の罪をかぶりクビに。その後、愛を求めて男性遍歴を重ねるたびにますます不幸になっていくのだった。そしていつしかソープ嬢に身を落とし、果ては同棲中のヒモを殺害するまでに至ってしまう・・・。
“いとしいシト、、そしていとしいエイガ”
川尻松子、享年53歳。
家族からは絶縁をつきつけられ、中学教師をクビになるわ、ソープ嬢になるわ、ヒモを殺害して刑務所に入っちゃうわ、挙句のはてに中学生にバットでボコられて野っ原でおっ死んじゃうわと、傍から見れば悲惨な人生を送った女。
そして彼女の人生についてまわる最悪の男運。
病弱な妹にばかり向けられる父親の愛を大人になってからも追い求め続けた松子の周りに引き寄せられてくる男どもは、暴力男やヤクザ男ばかり。しかし、殴られ蹴飛ばされ裏切られ捨てられても、一人ぼっちになるよりはマシだからと男を追っかけ続ける悲しい性を背負った女。
そして片平なぎさが出てくる火スペの断崖絶壁をエイヤーッと一気に飛び降りるかのごとき後先考えない類まれな決断力(!?)がことごとく裏目に出てしまう哀しい運命を背負った女。
そう、彼女は人生の岐路でことごとく昇りのエスカレーターに乗ることができない、そういうタチらしいのだ。
ある意味確信犯的にいつも下りのエスカレーターに飛び乗ってしまう運命の松子は、しかし下りのエスカレーターに抗うように懸命に駆け上がろうと上を向いてひたすら走りつづける。下を向いて後ろを振り返ったら流されるまま絶望という名のドン底に転落していくだけという中で、松子はスクワットを欠かさない見上げたド根性と決して後ろを振り返らないひたむきさと一途さで突き進む。
しかし、その甲斐もむなしくズッコケてしまう松子は失意のドン底にうつぶせのままズルズルと落ちていき、「これで人生が終わったと思いました。」とあきらめかけ最悪自殺まで考えたりもするのだが、しかし次なる夢を見つけると、スックと立ち上がり、また下りのエスカレーターを必死こいて駆け上がろうとするのだ。
その懸命な姿にはある種のもの悲しさと哀愁だけではない滑稽さと可笑しみが漂っている。
それが人間的な魅力に包まれた松子として見る者を魅了し、挙句のはてには感動すら覚えさせてしまったりするのだ・・・。
しかし、そんな必死こいて走りつづけてきた松子もついに走ることをハタと止め後ろを振り向き、下りのエスカレーターに下を向きながら従順に流されていく時を迎える。
中学校のときの元教え子と同棲していた松子が、4年間服役した彼の出所の日に堀の外に迎えに行くと、なななんとブン殴られてKOを喫し、逃げられてしまった、その時だ。文字通りドン底に落ちた松子は駆け上がることをやめ、ゴミ溜めのようなボロ部屋で食いものをむさぼり食い、酒をあおり、寝て起きるだけのなすがままの生活を始める。
そして、十数年にわたる引きこもりは松子を野ブタのような姿形に変えてしまう。。
ここで唐突に出てくる光ゲンジの内海くんとやらの追っかけにはつい爆笑してしまうが、それはさておき七転び八起きの松子は長い雌伏のときを経てもう一度美容師になる夢を見つけ、さあ、また下りのエスカレーターを駆け上がるゾーーッ(あのブヨブヨの体で・・)と決意を新たにし、2階のアパートの部屋を出て階段を降り公園に捨ててしまった名刺を拾いに行く、、そして前のめりにブッ倒れてそのまま起き上がることはなかった松子・・・。
いつもならそこでスックと立ち上がって夢に向かって走り出す松子は、夢の切符をしっかり握りしめたまま長い眠りにつくのだった。
はたから見れば、悲惨な転落人生には違いない。
しかし、そこには愛の血潮に染まって幸せをつかむために駆け上がっていこうとする人間臭さにまみれた女の、懸命に必死こいて生きる剥き出しの姿があった。
だが、なんといってもこの物語をミュージカル調で描いてしまおうという中島哲也監督のイマジネーションにも度肝を抜かれてしまう。おそらく松子と同じくエイヤーーッと一気に飛び降りるかのごとき後先考えない類まれな決断力と見上げたド根性を持っているんだろうね。
正直自分の頭の引き出しの中にはミュージカルという道具立ては全くなかったからなぁ・・。
普通この手の人間ドラマを描くなら、例えば荒戸源次郎の「赤目四十八瀧心中未遂」(2003)のような幻想とエロの世界に彼岸(あの世)の入口がポッカリと穴を開けている異界ワールド(そこに堕ちていく男女)だとか、例えミュージカル調でいくにしても、この悲惨さと暗さはラース・フォン・トリアーの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)だろう。
しかし、この中島哲也という男は「アメリ」(2001)のファンタジー調で描いちゃうんだよなぁ。。
はっきりいって好きです(笑)。こういう人間を肯定的に見ることができる人って好き。ラース・フォン・トリアーとは真逆なんだねたぶん。
そしてミュージカルも、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」におけるミュージカルが主人公セルマの現実逃避の道具にしかすぎなかったのに対し、本作では映画のテンポとリズムを高める変速ギアのような役割も果たしていて良かったし、何より松子がコミカルに歌い踊る姿は最高に楽しかった。BONNIE PINKの“LOVE IS BUBBLE”とかAIの“What Is A Life”も最高だったし。
下りのエスカレーターを必死こいて駆け上がる姿の滑稽さと可笑しみを音楽と歌で花いっぱい幸せいっぱいに歌い踊って表現する。
なんて愛おしいんだ。
川尻松子は自分にとっての“いとしいシト”(byゴラム)になっちゃったかも・・・。そしてこの映画が自分にとって愛しいエイガになっちゃったかもしれないぞ。
さてさて、最後はこの言葉で締めくくろう。
1986年アパルトヘイト吹き荒れる南アフリカの黒人居住区で起こった学生運動を女子高生の視点で描いたミュージカル映画「サラフィナ」(1992)のマイレビューから。
人は泣き、笑い、叫び、そして歌うんだ!!ジャーーン♪
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鬼龍院花子の生涯(1982年・東映・146分)CS
監督:五社英雄
出演:仲代達矢、夏目雅子、高杉かほり、岩下志麻、夏木マリ、仙道敦子、山本圭、丹波哲郎、夏八木勲
内容:土佐の侠客・鬼政こと鬼龍院政五郎の奔放な半生を、養女・松恵の目を通して描いた任侠ロマン。闘犬場でのいざこざから宿敵・末長の娘つるを強奪した鬼政は、彼女が産んだ花子を溺愛するようになる。一方、養女・松恵は女学校を出て小学校教師となり、労働争議を支援する高校教師・田辺と結婚、高知を出て大阪で暮らし始めるが・・・。
評価★★★/60点
“なめられたいぜよっ!”
いろんな意味でww
しかし、花子のブスっぷりは度を越しすぎ!あれはヒドイだろ(笑)。
仙道敦子-夏目雅子の松恵役は良かったし、ふくよかなオッパイには目を奪われっぱなしだったし(まさか湯婆婆のを見せられるとは・・)、それらを全て呑みこむほどの圧巻の演技を見せた仲代達矢もスゴかったけど、花子の捨て駒っぷりだけはいかんともしがたかったな。
まぁ、哀れさを出すには格好のキャスティングだったのかもしれないけど・・。
まぁでも、五社映画って濃ゆすぎてあまり好きじゃないんだけど、薄幸の夏目雅子のおかげもあってこれは最後まで見れますた。。
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