夢のシネマパラダイス570番シアター:ライフ・オブ・パイ
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
出演:スラージ・シャルマ、イルファン・カーン、アディル・フセイン、タブー、レイフ・スポール、ジェラール・ドパルデュー
監督:アン・リー
(2012年・アメリカ・127分)盛岡フォーラム
内容:インドで動物園を営む一家に育ったパイ少年。16歳の時に一家はカナダに移住することになり、動物たちと一緒に貨物船に乗り込むことに。しかし、途中で嵐に巻き込まれ船は沈没。ただひとり救命ボートに乗り移ることができたパイだったが、ボートには他に逃げ延びたシマウマやハイエナ、オランウータン、そしてベンガルトラが乗り合わせていた・・・。
評価★★★★/75点
「アバター」をしのぐ映像という謳い文句にホイホイ乗せられて劇場に足を運んだわけだけど、それに見合う映像だったかといえば当初はそんなスゴイかぁ!?って感じてしまって。。
それは少年とトラがただ漂流するだけという単調な物語性に中だるみを感じてしまったことが大きく、さらにそれはつまるところ自分に宗教観念がほとんどないために哲学的、宗教的なメタファーや伏線などを深読みすることをはなっから除外してしまったことが大きい。
それゆえ、トラとの漂流が実はパイの創作であり、トラは人を殺めた自身の姿を表していたというオチがパイの口から語られたのには思わず目が点になってしまった。
そういえば、トラと心が通じ合ったと思ってるのは「トラの瞳に映った自分自身の姿を反映しているにすぎない」という父親の言葉があったっけと思い出したり、この漂流が一貫して救命ボートといかだの、あるいは帆布一枚隔てられた船の中でのパイとトラとの縄張り争いを描いていることからすれば、パイの中にある理性と野性(本能)の対峙を表現していたのかもなぁなんてことを考えさせられた。
しかし、かといってどっちの話がホントなのかということにはこれまたはなっから興味がなく・・w
そもそも証人のいないパイにしか語ることができない話についてどっちがホントなのかなど意味をなさないわけで、だからパイは最後にこう問いかける。
「どっちの話が好きですか?」と。
どっちの話が本当かではなく、どっちの話が好きかと。
深く考えずにファンタジーとして見ていた自分の答えは、かろうじてトラのいる方だけど、それに対しパイはこう答える。
「ありがとう。そっちこそ神が存在する物語だ!」と。
これはもう一度見なければならない映画だ(笑)。
P.S. 当初それほどスゴイ映像とは思っていなかったけど、映画を見て数日経ってからあることをきっかけに、漂流してからの時に残酷で時に幻想的な映像の数々が鮮明に脳裏に甦ってきて自分でも驚いてしまった。
それは、自分が小学4年生の時に少年少女友情の船ってやつでグアム・サイパンに行ったことがあるのだけども、ある日、甲板に寝そべっていたら真っ青な空と大洋の海原が円のように一体になり迫ってきて眩暈に襲われ、この世界にたった自分一人しかいないという錯覚にとらわれ急に怖くなってホームシックにかかってしまったことを思い出したからだった。
ついでにいうとグアムからの帰路で台風に遭って嵐にうねり狂う海を見たことも思い出したけど、映画のような雷は見なかった。
しかし、映画を見た1週間後くらいに、世界有数の雷発生地帯であるオーストラリアのノーザンテリトリーの雷を取り上げたNHKのグレートネイチャーという番組を見て、映画にあったような雷があるんだなと仰天してしまった。1秒間に1回雷が起こり、稲妻が空を走り何本も地に落ちる異様な光景はまさに神の領域というにふさわしいものだった。
今では言える。
この映画の映像は凄い!
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レッドタートル ある島の物語
(2016年・日/仏/ベルギー・81分)WOWOW
内容:嵐で海を漂流し、無人島に流れ着いたひとりの男。いかだを作って幾度も脱出を試みるも何者かに壊されて失敗。アカウミガメのしわざだと思った男は、そのウミガメを殺めてしまう。すると数日後、ウミガメの甲羅の腹の中にひとりの女性が横たわっているのを見つける。やがて男と女は恋に落ち、数年後には男の子が産まれ、3人での暮らしが始まる・・。セリフ一切無しで、美しく詩的な映像と音楽のみで綴っていく長編アニメ。
評価★★★★/80点
見ていて「ライフ・オブ・パイ」と似たような感触を得たけど、あちらにあってこちらに無いものは“言葉”である。
主人公の男には名前さえ与えられず、独り言さえ発しない。
この徹底さは実験的手法ではあるのだろうけど、これはもう言葉のない世界と考えた方がいいのかもしれない。
まぁ、フツーに瓶が流れ着いているので外の世界には文明がちゃんとありそうだけど、言葉がないことで昔々あるところに云々といった物語性すら排除されていて、映画としてかなり特殊な部類に入る作品になっていると思う。
そういう点で副題が“ある男の物語”ではなく、“ある島の物語”になっているにも合点がいく。
つまり語り手が人間ではなく島であり海なのだ。人は自然の一部でありアカウミガメは自然の化身という視点。
こうなるとメタファーとか難しいことを類推するのもあまり意味をなさないというか、身を任せてありのままを眺めていくしかない。
個人的にはこういう作りは新鮮だったし、セリフ無しの中で、泳ぐ・よじ登る・走る・歩く・引っ張るetc.アニメの原点であるキャラクターの動きだけを追う80分は面白かった。
カリオストロ以来の身体表現と言ったら誉めすぎだろうかw
あと、抑え目かつシンプルでありながら独特な色彩感覚も含めて、長く心に残る貴重な映画体験をさせてもらった気がする。
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白鯨との闘い
出演:クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィ、トム・ホランド、ベン・ウィショー
監督:ロン・ハワード
(2015年・アメリカ・122分)WOWOW
内容:1850年港町ナンケット。新進作家ハーマン・メルヴィルは、次回作のヒントを得るため30年前に起きた海難事故の生き残りであるトーマスを訪ねる。そして重い口を開いたトーマスの話は1819年に遡る・・。一等航海士のチェイスは、捕鯨船エセックス号の出航に際し船会社と船長契約を結んでいたはずが、経験の浅い名家のポラードがコネで船長に選ばれて大きな不満を抱えていた。そして、新米船員トーマスも乗船するエセックス号は一攫千金を夢見て船出するのだが・・・。
評価★★★/60点
何の前知識もなしに見たので、グレゴリー・ペック演じるエイハブ船長が打倒モビー・ディックのために片脚の狂人と化す「白鯨」(1956)のリメイクと勝手に思い込んでいた。なので、作家ハーマン・メルヴィルの古典小説のネタ元になったノンフィクションの映画化だったとは思いもよらず。。
ただ、この見当違いのハンデは特に悪影響を与えたというわけではなく、一個の海洋アドベンチャー映画として見られる作品になっていたとは思う。
しかし、そうは言っても、パイレーツオブカリビアンでのクラーケンとのスペクタクルな死闘にも、ジョーズの決して逃れられない恐怖にも、ライフオブパイの寓意に満ちた絶望にも遠く及ばない作劇は中途半端で、これといった特筆すべき強みがないのが玉にキズ・・。
そういう点では、主人公の一等航海士チェイスと船長ポラードの対立軸をもっと明確にメインに据えていればドラマとして芯の通った作品になっていたと思う。映像面は創意工夫があって見応えがあっただけに、少しもったいなかったね。
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ジャングル・ブック
声の出演:ビル・マーレイ、ベン・キングズレー、イドリス・エルバ、ルピタ・ニョンゴ、スカーレット・ヨハンソン、クリストファー・ウォーケン
監督:ジョン・ファヴロー
(2016年・アメリカ・106分)WOWOW
内容:ジャングルに取り残されていた人間の赤ん坊モーグリは、黒ヒョウのバギーラに拾われ、アキーラが率いるオオカミの群れに託された。そして母親代わりのラクシャの愛情を受けてたくましく成長していった。ところがある日、人間への復讐を募らせるトラのシア・カーンが現われ、モーグリは命を狙われてしまう・・・。
評価★★★★/75点
ディズニーの王道アニメのテイストを損なわずにバランスの取れた案配で実写化している良作。
要は実写とアニメの境をきっちり線引きしていない作り方が、意図してのものなのかは分からないけれど個人的には好感触。
主人公のモーグリ少年以外フルCGというのも驚きだけど、「ライフオブパイ」のジャングル版というくらい映像クオリティが高く、すんなり童心に帰って楽しむことができた。動物の擬人化を違和感なくCGで実写表現してしまったという点ではライフオブパイより進化してるかも。
逆にいえば映像の一点張り映画なんだけど、ここまで超絶レベルだと見といて損はないw
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