夢のシネマパラダイス506番シアター:愛憎渦巻く家族愛
永い言い訳
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、深津絵里
監督・脚本:西川美和
(2016年・日本・124分)WOWOW
内容:人気作家の津村啓(ペンネーム)として活躍する衣笠幸夫。不倫相手と密会していたある日、旅行中の妻・夏子がバス事故で亡くなったとの知らせを受ける。すでに夫婦関係が冷え切っていた中で涙を流すことさえできない幸夫は、遺族への説明会で同じ事故で亡くなった夏子の親友ゆきの死に取り乱す夫・大宮陽一と出会う。トラック運転手の陽一は、まだ手のかかる2人の子どもを抱え、途方に暮れていた。子供のいない幸夫は、ふとした思いつきから子どもたちの世話を買って出るが・・・。
評価★★★★/80点
とりあえず黒木華を濡れ場要員として消費してしまう女優の使い捨て感がハンパない。
しかし、そんな女性不在の映画にもかかわらず、早々に退出したはずの深津絵里の存在感が全編を通して消えないのもある意味凄くて、生者が死者に縛られる構図に最後まで説得力をもたせていたと思う。
ましてや何も語らないはずの死者に「もう愛していない、ひとかけらも」なんてとどめの一撃まで残させるこの監督の情け容赦のなさには、ダメ男の幸夫にさすがに同情w
しかし、身近な人を喪って初めて知る大切さや愛おしさ、そして何より人は一人で生きていくことはできないんだという考えてみれば当たり前のことに気付かされる過程を、麻痺しない程度の毒針でもってチクチクと刺してくる西川美和のいじわるな筆致には相変わらず引き込まれてしまった。
自分の置かれた現実に四面楚歌状態になりながらも、斜に構えたインテリ感が消えない幸夫のカッコ悪い姿は、パーソナリティーが真逆な大宮(竹原ピストル)と比べると感情移入しづらい面はあったけど、だからこそ先述したテーマ性がよく伝わってくる仕掛けになっていたように思う。
その点で竹原ピストルと子役2人の果たした役割は大きかったな。
いやぁ、全てを見透かす西川美和ってやっぱり恐いわーw
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父、帰る
出演:イワン・ドブロヌラヴォフ、ウラジミール・ガーリン、コンスタンチン・ラヴロネンコ
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
(2003年・ロシア・111分)仙台チネラヴィータ
評価★★★/65点
内容:ロシアの片田舎。2人の兄弟アンドレイとイワン母と祖母とつつましくも幸せに暮らしていた。そんな夏のある日、12年間音信不通で写真でしか見たことがなかった父親が突然家に帰ってきた。寡黙な父はこれまでのことを何も語ろうとせず、母も何も説明しようとはしない。兄弟の戸惑いをよそに、翌朝父は彼らを小旅行に連れ出すが・・・。
“役者陣の存在感、詩的な映像美、静謐な音楽とひとつひとつの素材は満点に近いゆえに、なおさら映画の中になかなか入っていけないもどかしさが大きくのしかかってくる。”
旧ソ連時代を含めてロシア映画はほとんど見たことがないのだけど、この映画における役者陣の存在感と質の高さには舌を巻くばかりだった。
兄弟の強い視線が道先案内人としてこの映画を照らし出す光となっているのは言うに及ばず、特筆すべきは父親役コンスタンチン・ラヴロネンコの圧倒的存在感。
ただそこに立っているだけでその場の空気が彼のオーラによって充満し密度が増すのだから。
12年間どこで何をしていたのかが全くの謎に包まれた父親、しかし、その12年という重みと年輪が静かにかつ確実に刻まれていたように見えてしかたなかった。
そして登場時間は少なかったものの兄弟の母親。これがまた素晴らしいのなんの。
夫を12年間待ち続けてきたであろう妻、しかし帰ってきた夫に対してどこかそっけない態度で逆に不安な夜を過ごしてしまう、そんな複雑な心の内を垣間見せる彼女のストーリーをもっと見たかったり。「ジャック・サマースビー」みたいになっちゃうのかな。
また、映像もCM畑出身の監督らしく凝ってはいるが、肌にまとわりついてくることがない美しさで迫ってきて、個人的には好みの画。
と、ここまでべた褒めしてきたように、各々の要素は素晴らしいのだが、映画の中に入っていくことができないというこの映画に対する唯一の不満がはっきりいって全てをチャラにしてしまう・・・。
映画の世界へ入るためのドアが半開きになっていて、爽やかな風が流れてくるのだが、ドアノブに手をかけようとしてもどうしても手が届かず、追いかけても追いかけてもなかなか追いつくことができない。まるで永遠に追いつけないのではないかと思うくらい。
だから自分は途中で追いかけるのをやめた。ひとり車を下ろされ降りしきる雨の中でじっとうずくまるイワン少年のように、ただ目で追うことしかできなかった。
と、ずっと目で追ってたらラストで半開きのドアからモノクロ写真がパラパラと落ちてくる始末。
それを拾って見て、そこで初めてこの映画に触れられた気がしたのだが、あくまでも気がしたであって、その意味するところなど分かろうはずもない。
といってもう一度見る気にもなれず、僕、帰る。。ガクッ
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Mr.&Mrs.スミス
出演:ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー、ヴィンス・ヴォーン
監督:ダグ・リーマン
(2005年・アメリカ・118分)MOVIX仙台
内容:結婚5年目のスミス夫妻。表向きはアツアツの夫婦だったが、裏の顔は2人とも別組織に属する一流の殺し屋だった。互いにその正体を隠し結婚生活を送っていた2人だったが、ある時ついに仕事の現場でバッタリ出くわしてしまい・・・。
評価★★★/60点
う~ん、宮川大助・花子のドツキ漫才の方が面白い。そんなレベル。。
最強サド・マゾ夫婦の幸せ家族計画、もとい異常性欲の発露を徹底的に暴いた真実の映画、とも言えなくもない・・。良い子のみなさんは決してマネしないように
でもジョン(ブラピ)とジェーン(アンジー)の大格闘シーンでやけになったブラピのマジ蹴り連発にはさすがに吹いちゃったけどね(笑)
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幻の光(1995年・日本・110分)NHK-BS
監督:是枝裕和
出演:江角マキコ、内藤剛志、浅野忠信、柄本明、柏山剛毅
内容:12歳の時、祖母が失踪してしまったゆみ子は、その事件以来、祖母を引き留められなかったことを深く悔やんでいる。やがて25歳で郁夫と結婚し、息子も生まれ幸せな日々を送っていたが、ある日、郁夫は自転車の鍵だけを残して列車に飛び込み命を絶ってしまった。5年後、ゆみ子は民雄と再婚して奥能登の小さな村に移り住む・・・。生と死、喪失と再生をテーマに、宮本輝の同名小説を映画化したヒューマン・ドラマ。
評価★★★☆/70点
“宮崎駿は、すべては闇から生まれ闇に帰るとナウシカに言わせしめたが、もしかしたら幻の光とは生命も清浄も汚濁も苦悩も善も悪もすべてが溶け合った原初の源から生まれた最初の光だったのかもしれない。”
永遠に打ち寄せる波のごとく繰り返される彼女の喪失への問いに対する答えを彼女は永遠に知ることはできないだろう。
しかし永遠に鳴り止まない波の音色がいつしか日常に溶け合っていくように、彼女の決して癒されない悲しみは、能登の厳しい自然にゆっくりと吸い込まれ取り込まれ溶け合っていく。
宮崎駿が言うように、命は闇の中のまたたく光なのだとしたら、漆黒の闇をまとっていた彼女の中にうっすらと光が差し込み、闇を背負ってなおそれがまぶしく光り輝き、いつしか色鮮やかな衣を身にまとうことができる日がやって来るような気がする。
そうほのかに感じさせる静かだが確かなラストだったように思う。
P.S.黒い服は死者に祈る時にだけ着るの~~♪っていう宇多田ヒカルの歌が頭の中で鳴り響いてしまった。。
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楢山節考
出演:坂本スミ子、緒形拳、あき竹城、倍賞美津子、左とん平、清川虹子
監督・脚本:今村昌平
(1983年・東映・131分)WOWOW
評価★★★★/75点
内容:ある山奥の寒村では、食料不足のために70歳を過ぎた老人は子供に背負われて近くの楢山の頂に捨てられるという掟があった。“楢山さま”と呼ばれる神様を信じている老女おりんは、捨てられに行くことを神のもとに召されることだと信じ、その日を待っていた・・・。カンヌ国際映画祭作品賞。
“蛾と蛇と蛙と蝙蝠と、清川虹子。。人間が蟲になる夜、蟲祭りの夜、、”
こいつらを土鍋に放り込み今村風ゴッタ煮でグツグツ煮込む。
すると今まで見たことも感じたこともないような強烈な色とにおいのするアクがゴボコポと吹き出してくるのだ。
それは日本人の生と性の営みの根源的な部分が土気色の泡状となったものであり、取れども取れどもそのアクは吹き出してくる。
しかも今村風ゴッタ煮は、煮汁が煮詰まりアクが壁面にこびり付くまで煮詰めるしつこさが売りで、その熱と執着は見ている者の芯深くに眠っている影を呼び覚まし恐怖さえ抱かせる。
人間を動物でも獣でもなく、虫のように描いてしまう今村昌平のどぎつい眼力に、見てはいけないものを見ているような、蛇ににらまれた蛙状態になってしまった・・。
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生きたい(1999年・日本・119分)NHK-BS
監督・脚本:新藤兼人
出演:三國連太郎、大竹しのぶ、吉田日出子、塩野谷正幸
内容:姥捨て山伝説と現代の高齢化社会における老人の置かれた現状を交錯させ、ユーモラスなタッチで描いた社会派人間ドラマ。
評価★★★/65点
弟の苦悩を描いた方が面白い映画になりそうだけど・・。
それはともかく、さんまが怖れる女優、大竹しのぶ。
普段のキャラがこの作品にちょっとでも含まれているのだろうか。彼女の映画を見るたびにどんどん分からなくなる。
これを天才と呼ばずして何と呼ぼう。
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ホワイト・オランダー(2002年・アメリカ・109分)NHK-BS
監督:ピーター・コズミンスキー
出演:ミシェル・ファイファー、レニー・ゼルウィガー、アリソン・ローマン、ロビン・ライト=ペン
内容:15歳のアストリッドは、才能豊かな芸術家の母と2人暮らし。恋人殺しの罪で服役する母は、娘に手紙で「私だけを信じて」と訴え続ける。しかしそれは、才能、美貌などすべてを手にした母親の独善的な愛だった。。。
評価★★★/65点
“石の上にも三年を、文字通り悩み苦しみながら、しかし凛々しさとたくましさをもって見事に体現しきったアリソン・ローマンに魅入られた男ここにあり”
ミシェル・ファイファーも適役で見事にハマっていたと思う。
くもりのないクリーンな白みを湛え、華奢でどこか可憐ではかなげでありながら、蒼い瞳と額に浮かぶ青スジで冷徹な面を醸し出す。
なんかジョジョの奇妙な冒険に出てくる、ブチ切れてスイッチが入ると豹変するアブない香りのする女キャラに似てたな・・。
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