夢のシネマパラダイス504番シアター:忘れられない人
思い出のマーニー
声の出演:高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、杉咲花、吉行和子、黒木瞳
監督:米林宏昌
(2014年・東宝・103分)盛岡フォーラム
内容:中1の杏奈は幼い頃に両親を相次いで亡くし、里子に出されて育ったが、心を閉ざし気味で周りから浮いた存在だった。そんな中、ぜんそくの療養を兼ねて養母の親戚が住む海辺の田舎町で夏休みを過ごすことに。そこで彼女は、入江に建つ古い洋館を目にしてなぜか懐かしさを覚える。そして夏祭りの夜、小舟で洋館へやって来た杏奈は、マーニーという金髪の少女と出会う・・・。
評価★★★/65点
主人公アンナの活気と生気のない病んだ魚の目をした顔を見て、ジブリ最大の迷作「ゲド戦記」の主人公アレンを想起してしまい、背中に何かザワザワしたものを感じながら見てしまったのだけど、それは要するにアンナが闇に取り込まれて彼岸からこちらの世界に戻ってこられない危険性を感じ取ったからだ。
つまりマーニーはあちらの世界の住人で、アンナはそれに憑りつかれて引きずり込まれてしまう、となるとそれは完全にホラーだ。
まぁいくら何でもジブリに限ってそれはないとはいえ、そう思わせる不穏さが今のジブリにはあるのかも(笑)。
それは千と千尋なんかと比べると顕著で、親に見捨てられたのかもという不安感や育ての親になじめないなど他人を受け入れることができない主人公のキャラクター設定は、常に親不在の運命をウジウジせず事もなげに受け入れるジブリキャラクターを見慣れている者にとってはやはり違和感を感じてしまったし、いやそこが見たいんじゃないんだけどっていう不満感はずっとくすぶっていたかも。。
しかし、親の愛を受けられずに悩むのって「ゲド戦記」といい今作といい、ジブリの偉大な父・宮崎駿の存在を後進はいまだに払拭できていないってことなのかもね。
そういう点では東京から洋館に引っ越してきた彩香ちゃんの方がよっぽどジブリらしかったと思うけど、生きる意味を探すのに四苦八苦する時代だからこその作劇なのかな。
けど、ジブリに自分探しの旅なんて似合わないよね・・・。
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マイ・ガール
出演:アンナ・クラムスキー、マコーレー・カルキン、ダン・エイクロイド、ジェイミー・リー・カーティス
監督:ハワード・ジフ
(1991年・アメリカ・102分)NHK-BS
評価★★★★/80点
内容:1972年、ペンシルベニア州。葬儀屋を営む父親と祖母の3人暮らしをしている11歳の少女ベーダは、大好きな父にガールフレンドができたことから悩み始める。そして相談相手の幼なじみトーマスとの間に淡い恋が・・・。
“なかなかにシビアな題材を扱っているが、映画のバランスの取り方が絶妙で心に残る作品に仕上がっている。”
ベーダは11歳という設定だったけど、自分自身も8,9歳くらいの時かな。死という恐怖に対して異常ともいえるほど悩み抜いたことを鮮明に覚えているのだけども、自分の抱えていた死のイメージというのが、死とは永遠の孤独という黒沢清の「回路」で描かれたイメージに近いものがあって。
死そのものというよりも家族や友達に永遠に会うことができないという恐怖に打ち震えていたといった方が正しいかも。
だから、11歳の少女ベーダが死について割り切れない複雑な感情を抱いているというのも自分自身の体験と感情に見事にリンクして、ベーダの日常世界に容易に入っていくことができた。
それゆえ、ラストの方で息子トーマス(M・カルキン)の死に打ちひしがれる彼の母親に対して「私の母親が天国でトーマスを見守って一緒にいるから大丈夫よ。」と慰めるベーダの言葉は胸に響いたし、彼女なりにしっかりと死というものを受け止め、成長した姿を見せてくれてうれしかった。
また、一方では、妻と死に別れ男手ひとつでベーダを育ててきた父親(D・エイクロイド)の心情というものもよく描かれていて、父娘の葛藤が繊細に見る者に伝わってくる。
こういう流れでいくと、ともすれば重くなりそうなものだが、それをコメディのベクトルにうまく舵取りしたJ・リー・カーティスの存在も素晴らしい。
この映画における描写は、あくまでも子供の日常世界を軸としながらも、まるで水平線から朝日が昇るかのように確実に大人の世界が広がってくる。そして次第に少女の頃の世界は太陽が出ている青空にうっすらと浮かぶ真昼の月のごとく淡い思い出となっていくのだろう。
そういう微妙なバランスが絶妙なサジ加減でとれているのが、この映画が心にいつまでも残る所以なのだろう。
名作です。
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マイ・フレンド・フォーエバー(1995年・アメリカ・100分)CS
監督:ピーター・ホルトン
出演:ブラッド・レンフロ、ジョゼフ・マゼロ、アナベラ・シオラ、ダイアナ・スカーウィッド
内容:母子家庭の孤独な12歳のエリックの隣に住むのは、輸血が原因でエイズ感染した11歳のデクスター。2人は打ち解け合うようになり、エイズ治療の特効薬発見の記事を頼りに旅に出るが・・・。
評価★★★★☆/85点
“我が映画人生で1番泣いた映画”
エリック(ブラッド・レンフロ)とデクスター(ジョゼフ・マゼロ)のひと夏のかけがえのない思い出を、ありふれた演出で描いていくプロットには別段感傷にひたることもなく見ていたのだけど、ラストの“スニーカー”には思わずヤラレてしまった。
全ての思い出と友情の証の象徴としてスニーカー、しかも片方のスニーカーというアイテムを持ち出してくるとは全くの予想の範囲外で、完全に無防備だったマイハートはめちゃくちゃに揺れまくり、後はもうゲリラ豪雨のごとく泣き崩れてしまいますた。。
声をあげて泣いた初めての映画だな。でも、先日、久方ぶりに泣く気マンマンで見たっけ、もう泣けないのね(笑)。
そっかぁ、やっぱ不意打ちというのが1番効果があるんだなぁ。不意打ち以外で泣けるのは「火垂るの墓」だけだな。
しかし、、その泣かせてくれたブラッド・レンフロも25歳という若さで逝っちゃうんだから、、現実の方がツライね・・。
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きみに読む物語
出演:ライアン・ゴズリング、レイチェル・マクアダムス、ジーナ・ローランズ、ジェームズ・ガーナー
監督:ニック・カサヴェテス
(2004年・アメリカ・123分)MOVIX仙台
評価★★★★/75点
内容:療養施設で暮らす老婦人を初老の男が訪ね、物語を読み聞かせる・・・。現代からの回想形式で、1940年のアメリカ南部、裕福な少女アリーと地元の青年ノアの恋物語が綴られていく。
“終わり良ければ全てよし、、もとい始め良ければ全てよし。”
珠玉のラブストーリーとまでは言えないかもしれないが、心に響く純粋な愛の物語だったとは確実に言える、そんな映画だったと思う。
特に真っ赤な夕映えの湖をゆっくりボートが進んでいくオープニングはピカイチだった。
映画としては、先の展開が読めるというありがちなストーリーでありながら、オープニングから滞ることのないしかも透明度の高い流れをしっかり作り出していて、変なつっかかりや邪推などに陥る前に純粋にその流れに乗れてしまう。
美しい映像と音楽にただただ身を任せながら物語の中に入っていくことができた。
この映画には“流れ”がある。この映画はそれに尽きると思う。それがなければただの平凡な映画に終わっていたことだろう。
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マイ・ルーム(1996年・アメリカ・99分)NHK-BS
監督:ジェリー・ザックス
出演:レオナルド・ディカプリオ、ダイアン・キートン、メリル・ストリープ、ロバート・デ・ニーロ
内容:20年間連絡を取っていなかった姉ベッシーから電話を受けたリー。姉は白血病で、親類からの骨髄移植以外に助かる望みはなかったが・・・。
評価★★★★/80点
絆を縛り付ける負の連鎖を優しい眼差しと素直な心が解きほぐしていく。家族にとって1番の良薬は皆の笑顔なんだね。納得!
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トニー滝谷
監督・脚本:市川準
(2004年・日本・75分)仙台フォーラム
内容:トニー滝谷の名前は、本当にトニー滝谷だった・・・。太平洋戦争時、上海のナイトクラブでトロンボーン吹きをしていた父親にトニーと名付けられたトニー滝谷。生まれて3日で母親が死に、孤独な幼少期を送ったトニーは、やがて美大に進みデザイン会社に就職。その後独立してイラストレーターになったトニーは、彼の家に出入りする編集者の一人、小沼英子に恋をし結婚する。しかし、幸せな日々は長くは続かなかった・・・。村上春樹の短編集「レキシントンの幽霊」に収められた同名小説を映画化した切ない愛の物語。
評価★★★★☆/85点
「トニー滝谷の名前は、本当にトニー滝谷だった。」で始まるストーリーテリング。微細な音まで丁寧に拾い上げ収めている映像。孤独を背負う男トニー滝谷と、恐いくらい幸せな在りし日々の思い出が影として残るほどの残り香を漂わせる妻を見事に体現しきったイッセー尾形と宮沢りえ。
それら3つの要素が全くぶつかり合うこともなく本当に自然に融けあっている。
こういう映画を見たのはもしかして初めてかもしれない。
ほとんどの映画は3つの要素のうちどれかひとつが突出していて他をカバーしているか、あるいはそれぞれの要素がぶつかり合って互いに強め合ったり弱め合ったりする中から映画という眼差しや面白さを抽出しようとするか、またはそうせざるを得ない映画が大半だと思う。
しかし、この「トニー滝谷」という映画には、それが恐いくらいに無いのだ。よどみと衝突と干渉というものが一切ない。
だから恐いくらいに心地良い。
それでいて世界観は恐いくらいにしっかりと確立されているという。。これが完璧ということなのだろうか。
市川準は村上春樹という透明な地肌に静かで柔らかなタッチで映画の香りを浸透させていき、スクリーンという鏡に見事に投影させたといえるのではないだろうか。
これほどの技量をもったメイクアップアーティストを自分は他に知らない。
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ぼくの伯父さん(1958年・フランス・120分)NHK-BS
監督・脚本:ジャック・タチ
出演:ジャック・タチ、ジャン=ピエール・ゾラ
内容:ユニークな詩情と文明批評、アバンギャルド風の構成などをない交ぜにし、場面の動きと音楽によって進行していく独特の喜劇映画で、ジャック・タチ監督によるユロ氏を主人公とした一連のシリーズの代表作。プラスチック工場の社長の息子はモダン住宅の自宅が大嫌いで、ユロ伯父さんと彼が住む庶民街を好んでいた。社長夫妻にはそれが面白くなく、就職やお嫁さんを世話してなんとかユロ氏を一人前の人物にしようとするが・・・。
評価★★★/65点
“映画を見るというよりは上質の4コマ漫画をパラパラめくって読むかんじに似ている。”
ひとつひとつのエピソードの中には面白くないエピソードもあるのだけども、全体を通して1つの作品としてみれば面白かったといえる、そんなちょっと不思議な魅力に彩られたクスッと笑える映画。
ユロ伯父さんがアパートの部屋の窓ガラスに反射した太陽光を向かいの日陰の鳥小屋に当ててあげるところなど、どこか優しいタッチがいいね。
世の中には、ビリー・ワイルダーの「情婦」(1957)で、自分のメガネに太陽光を反射させてわざと他人の目に向けるクソジジイもいるからな(笑)。いや、もとい、法曹界の大御所ウィルフレッド卿(チャールズ・ロートン)でございますた。。
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