夢のシネマパラダイス572番シアター:ヒメアノ~ル
ヒメアノ~ル
出演:森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ、駒木根隆介、大竹まこと
監督・脚本:吉田恵輔
(2016年・日活・99分)WOWOW
内容:ビル清掃会社でパート社員として働く冴えない青年・岡田は、退屈で孤独な日々を送っていた。ある日、超ポジティブな先輩・安藤から、カフェ店員ユカとの恋の橋渡し役を頼まれた彼は、訪れたカフェで高校の同級生・森田と再会する。しかし、かつて過酷なイジメを受けていた森田に、岡田は後ろめたさを感じていた。そんな中ユカから、森田にストーキングされていることを相談されるが・・・。
評価★★★★☆/85点
今まで五万と映画を見てきた中でも作品の世界観にこれだけ振れ幅のある映画を見たのは初めてのような気がする。
「メリーに首ったけ」のようなおバカフォーマットのラブコメを見始めたと思ったら、途中から身の毛もよだつサイコスリラーへ変貌を遂げるのだから。
ムロツヨシはベン・スティラーで、森田剛は「ノーカントリー」の無感情の殺人マシンであるアントン・シガー(ハビエル・バルデム)と考えると、同じ映画で2人が共存できているってのはスゴイの一言。
濱田岳はいつもの濱田岳であり、佐津川愛美は計算マコちゃんというステロタイプな童貞&小悪魔カップルなんだけど、かの2人とは対極にある無個性なキャラ造形が、キレると絶対ヤバそうなチェーンソー男と、コンビニ行ってくる感覚で人を殺しまくるサイコパスのキャラクターを増幅させているのは上手いなと思った。
漫画原作は読んだことないけど、これって稲中卓球部描いた人だと知ってビックリ!変人オンリーのギャグマンガからヒミズを経てヒメアノ~ルっていう作風の変遷は、漫画家としてレアケースな部類に入るのは間違いない。
でも、考えてみれば稲中の時から笑いと残酷&狂気は紙一重であるという要素がすでにあった気がする。稲中ではコメディ部分が前面に出ているけど、人間のシリアスな暗黒面と笑いの間を行き来できる人なんだろうね。そう考えると、今回の作品も理解の範疇に入ってくるのかなと。
だから結論としては、日本の漫画はスゴイってことなんだけど、エログロから逃げずに映像化した吉田恵輔監督もさすが。
マコちゃんの部屋に侵入した森田と童貞くんが格闘するシーンなんて緊迫感極まりないはずなのに、バイブのコードで森田の首を絞めるところで思わず脱力してしまうところとか、コメディとシリアスが同居しているという点で上手く描けているなぁと思った。
しかし、ムロツヨシにチェーンソー振り回してほしかったなぁww「シャイニング」のジャック・ニコルソンになっちゃうか。。
P.S.実はこの映画1番の発見は、佐津川愛美だったことを記しておきたい。
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ヒミズ
出演:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、諏訪太朗、吹越満、神楽坂恵、光石研、でんでん、村上淳、窪塚洋介、吉高由里子
監督・脚本:園子温
(2011年・日本・129分)WOWOW
内容:15歳の少年、住田祐一の家は貸しボート小屋。父は蒸発中だったが、ある日、母親も男を作って出て行ってしまう。天涯孤独になった住田だったが、ボート小屋の周りで野宿している震災難民の人たちや、住田に夢中の同級生・茶沢景子の励ましもあって平穏な日々が保たれていたが・・・。
評価★★★/65点
奇しくもこれを見る数日前に「八日目の蝉」を見た。
そしてあまりにも切なく、あまりにも純粋な母性の美しさに胸を打たれたのだが、その余韻は今回の映画を見てあっけなく吹っ飛んだ。
最後の寄る辺である母性でさえもこの映画には不在なのだから・・。
主人公の住田(染谷将太)の母親はオッサンと駆け落ちし蒸発してしまうし、ヒロイン茶沢(二階堂ふみ)の母親は娘を絞首台にかけようとする。
さらに母なる大地は無残に打ち砕かれ、種蒔く人である男たちはそこに呆然と立ちつくすしかない。
3.11の東日本大震災の生々しい爪跡を映画に取り入れるのは一歩間違えればそのセンスを疑われかねないと思うのだけど、母性の欠如というテーマに則っていえばその必然性はあったといっていい。
しかして、父性はおろか母性も欠如している中にあって、かろうじて父性を見出せたのは、でんでん演じるヤクザの親分であり、母性を見出せるのはさしずめ茶沢さんしかいないのだけれど、茶沢さんにしても懸命にそれを演じようとしているにすぎず、どう見ても空回りしている。
しかしその空回りが、過剰な自意識にがんじがらめになって生きることが苦痛になっている住田が他者に向き合うための動力源になっているのだ。
例えば、五七五で言葉をつなげ言葉につまったらビンタするゲームも、住田に酷いことをされたら石を1個ずつポケットに詰めていき溜まったらそれを投げつけるというのも、強制的に関係性を作り上げて他者を意識させる呪縛としているのだ。
その後、住田は池で拳銃自殺したとみせかけ、茶沢さんに石を投げ捨てさせ呪縛を解き放ち自ら他者に向き合う。
そしてラストの「がんばれ!!」と叫びながらの並走となる。
並走であることが良い。
道を導く父も見守る母もいない中では並んで走るしか他に道はないのではあるけれども、希望を見出せる締めくくりにひとまずホッと安堵した。
しかし、、とはいってもこの点数が限界(笑)。
やっぱり少女を平気で張り倒す常軌を逸した暴力は受け入れがたかったし、全体的に過剰すぎる演出は自分の求める波長とは正直ズレていたからだ。
全てが過剰なわりにはその半分も響いてこない映画だった・・w
少なくとも親に愛されてきたと自負できる自分とはあまりにもかけ離れた彼らの抱える文脈の理解に苦しんだというのもあるけど、ワンパターンな空回り感は最後まで拭えなかったかなぁと。。
しかし、何度も言うけどラストは良い
ラストを見て、あーやっぱこの映画見てよかったと思えた。
でも、、もう一度「八日目の蝉」見よっかな(笑)。。
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愛のむきだし(2008年・日本・237分)WOWOW
監督・脚本:園子温
出演:西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ、尾上寛之、清水優、渡辺真起子、渡部篤郎
内容:敬虔なクリスチャンの一家に生まれた青年ユウ。母を早くに亡くした彼は、理想の女性“マリア”に出会う日を夢見ていた。しかし、神父の父から毎日懺悔を強要されるユウは、懺悔ネタを集めるために罪作りに励むようになる。そして、最も下劣な罪“盗撮”に没頭し出した。そんなある日、彼はついに理想のマリア、ヨーコと出会い一瞬で恋に落ちるのだったが・・・。
評価★★☆/50点
非常にきつい4時間だった。
ゆらゆら帝国が歌うように、まさに見終わった時の自分は“空洞でした”。
まるで山上たつひこを想起させるような過激なナンセンスコメディタッチをさらに突き抜けてしまうハイテンションにほとほとついて行けなかったんだけど、ドスケベと変態の境界線をまたいで勃っている自分にとってはw、そもそもパンチラってところからして興味がわかないわけで(笑)。
じゃあ何だったら良かったのかって?
うん、胸チラだったら!ってアホか
いや、なんだろ、70-80年代のサブカルに78年生まれの自分が引っかからないはずはないんだけど、ことごとくリンクしてこなかったなぁ・・・。ただ、満島ひかりと安藤サクラの怪演に引っ張られるようにダラダラと見続けたかんじ。
タイトル出るまで1時間ていう映画を見たことくらいしか経験値として得たものないんだけど、4時間を2時間に圧縮してくれたらまだ見れたかも。
って何?すでに6時間を4時間に圧縮してるって!?
え゛っ!?さらに何?実話がネタ元になってるって!?
、、どうやら自分、およびでなかったようだ
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カナリア
出演:石田法嗣、谷村美月、西島秀俊、りょう、つぐみ、甲田益也子、井上雪子
監督・脚本:塩田明彦
(2004年・日本・132分)DVD
評価★★★★/80点
内容:都内で無差別テロ事件を起こしたカルト教団「ニルヴァーナ」から保護された12歳の少年・光一は、関西の児童相談所に預けられたものの、いまだ洗脳が解けないでいる。が、祖父に引き取られた幼い妹を取り戻すべく、ある日施設を脱走した光一は、援交相手から逃げていた少女・由希と一緒に祖父のいる東京へ向かう・・・。オウム真理教をめぐる事件をモチーフに、少年の悲痛な運命と癒えない心の傷を描いた問題作。
“飛び方を忘れてしまった親鳥から生まれた小鳥は、しかししっかりと飛び立つことができるのだ。”
出たとこ勝負で旅を続ける少年と少女よりも、大人たちの茫洋を漂うような漂流ぶりの方が印象に残る。
たぶん、いや確実にこの作品は、今を生きる大人たちに向けられた作品なのだ。
例えば、社会と教団信者を単純に「被害者」と「加害者」というボーダーで明確に対峙させず、逆に曖昧にしているのはこの映画の特筆すべき点だと思うが、「被害者」という真っ白なベールで覆われた中に「加害者」の顔を潜ませた社会の姿をもあぶり出していく手法は、ある意味アブない題材を扱った映画であるにもかかわらず非常に客観的で、こういう手法をとった勇気と態度は買いたいし、ただの陳腐なロードムービーという枠に収まらない重みを与えていると思う。
特に盲目のおばあちゃんのエピソードにはつい考えさせられてしまうものがある。
子供に全財産を教団に寄進された、ある意味被害者のはずだった彼女を、しかし社会はつまはじきにして行き場所を失わせてしまう。
同じことが光一少年の祖父にもいえるのだが、実は「被害者」の顔の裏に「加害者」の姿=無責任な親の姿を潜ませたとんでもないジイさんだったことが光一との対面で明らかになる。
この映画の中で問われているのは、教団信者というよりは彼らも含めた社会の大人たち、親たちなのではなかろうか。
少女・由希を虐待している父親、子供を泣かせているレズビアンの女、光一の母親・道子、道子の父親である光一の祖父、あげくの果てに由希の援交の相手は手錠を持った警察官・・・。
ミスチルの歌の中にこういうフレーズがある。
子供らを被害者に、加害者にもせずにこの街で暮らすため、まず何をすべきだろう/
でももしも被害者に、加害者になったとき出来ることといえば涙を流し、まぶたを腫らし祈るほかにないのか・・・/
いや、かろうじて出来ることは、相変わらず性懲りもなく愛すこと以外にないのだ/
ただただ抱き合って、手を取って抱き合って・・・。
無責任で身勝手な親たち、大人たちが子供らに手を差し伸べることができるのかどうか、ここにこの映画の物語の行く末は握られている。
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ニンゲン合格(1999年・松竹・109分)NHK-BS
監督・脚本:黒沢清
出演:西島秀俊、役所広司、菅田俊、りりぃ、麻生久美子、哀川翔、大杉漣
内容:14歳で事故に遭った吉井豊は、昏睡状態から10年の時を経てある日目を覚ました。しかし、彼を迎え入れたのは父親の友人・藤森だけで、肝心の家族の姿はどこにもない。両親は離婚し、一家はバラバラになっていたのだ。失われた時間の空白感をなんとか埋めようと豊はかつての家業であったポニー牧場を造り始めるが・・・。
評価★★★/60点
非常に居心地の悪い映画だ。
生き返ってハッピーエンドではなく、生き返ったら笑えない現実が広がっていたという哀しいお話。
そして、いつ帰ってくるか分からない寅さんを優しく迎えてくれる「男はつらいよ」のような家族のあり様はもはや欺瞞でしかないという冷徹な視点は、見ていてなんだか虚しくなってくるばかり・・・。
それに加えて人物に感情移入させないほど物語の説明の省略具合もあからさまで、あえてはぐらかし×2している意地の悪さはどうもイマイチだった。
映画を見て“わけが分かりたい”性分の自分には正直よく分からない映画だった、かな
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