夢のシネマパラダイス587番シアター:紙の月
紙の月
出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、小林聡美、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司
監督:吉田大八
(2014年・松竹・126分)WOWOW
内容:バブル崩壊直後の1994年。銀行の契約社員として働く梅澤梨花は、地味だが顧客の信頼も得ていて上司の評価も高い。しかし家庭では、エリート商社マンの夫の冷めた態度に空しさを抱き始めていた。そんなある日、彼女は資産家の顧客の孫で大学生の平林光太と出会い恋に落ちる。そして、光太に多額の借金があることを知った彼女は銀行のお金に手をつけて渡してしまう。それをきっかけにあの手この手で着服を繰り返していくのだが・・・。
評価★★★/65点
原作未読。NHKドラマ視聴済。
テレビドラマの方が映画1本分尺が長く、にもかかわらず大金横領(ドラマでは計1億円)に走る主人公・梅澤梨花の行動原理と心情が最後までなかなか理解できずじまいだったので、映画はそれをどう凝縮して描くのか興味津々だったのだけど、文字通り映画1本分、だと何もなくなっちゃうのでw、ドラマ2話分底が浅かったかんじ。
体裁としては、妻を人形みたいにただ家にいればいい存在としか見ていない夫の悪意なき無関心が生み出すモラハラにより、自分の存在証明を喪失した妻が若い男に走って愛のない孤独感を埋めるというのが入口になっていて、そこは定番としてありがちなんだけど、問題はその先。
恋におぼれて男に貢ぐために大金を横領し続ける単純な話かと思いきや、それは表の顔にすぎないことがあらわになってくる。要は、お金があればあるだけ違う自分になれて誰かに必要とされ愛される何者かになれる、つまりお金によってもたらされる万能感におぼれて自分ではない自分を演じ続けるために大金を横領し続けていたというのが本当の顔だったのだ。
高級セレブを装った目で世の中を見ると、みんな笑顔で親切で、そこには悪意も無自覚も乱暴も軽べつもなく、ふわふわとした善意に包まれ、世の中が柔らかく見えるのだと。
しかし、これは普通ならば金持ちの優越感で片付けられるところなのだけど、梅澤梨花にとっての“違う自分になる”本質はそこにはなくて、問題はさらにその先にあるところがやっかいこの上なく・・(笑)。なぜなら彼女はいいとこのお嬢さま育ちで、旦那もカルティエの時計をさらっと買ってこれるような高級取りで何ひとつ不自由のない暮らしをしてきたはずだからだ。
では彼女の違う自分になる本質は何なのか。そこでヒントになるのが彼女がミッション系スクールに通っていた少女時代のエピソードにさかのぼる。
外国の恵まれない子供への募金活動がクラスで先細りになっていった時に、彼女が父親の財布から5万円を抜き取って募金箱に入れて、それがバレて募金活動が中止に追い込まれてしまうが、しかし彼女は悪びれるどころか恵まれない子供のためになるのであれば別にいいではないかと開き直る。
この意味するところは、要するに最終的に本当にお金を必要とする人にお金が渡ればお金の出どころや途中の流れや手段はどうであろうと関係ないということであり、その底流にあるのは、お金はただの紙切れにすぎないのだからモラルや信用に縛られるのはバカバカしいという考え方だ。
これは高級化粧品を買う時に持ち合わせのお金が足りなくて、あとでATMで下ろせばいいやということで預かった顧客のお金で立て替えてしまったり、交際相手の大学生が学費の借金があることが分かった時に学費補助を出し渋る祖父は親族だから別にいいじゃんということで簡単に横領してその大学生に渡してしまうことにつながっている。
そしてその上で最も彼女をつき動かしている“違う自分になる”本質というのは、貧しい弱者にお金を恵んであげることができるほどの高みにいる自分が1番幸せという欲求なのだ。
この純粋な善意と虚栄心、また拝金主義をバカにしながらも誰よりもお金に依存しているという大きな矛盾をわけもなく両立させているところが彼女をつかみどころのない理解しがたい存在にしているのだと思う。
ただ、それでもテレビドラマは彼女の心の闇に説得力をもたせるだけの小さな要素の積み重ねを描くことで正義感と罪悪感の葛藤といった等身大のキャラクターに寄せていこうとしているのだけど、一方映画の方は、そういう心情をスルーして昼の顔と夜の顔をこともなげに使い分け横領をさらりとやってのける身軽さが前面に出ていて、より能動的な悪女感が強調されている。
そのファム・ファタールが颯爽と堕ちていく転落劇は2時間枠の中では一応の形を成しているものの、彼女が大学生と不倫関係になる過程の内面など端折りすぎで腑に落ちない点も多く、全体的に突き抜けた面白さはなかったかなぁ、と。。
テレビドラマの質量にかなわない中で、バレバレの手口で横領に手を染める動機に説得力をもたせるには、やはり少女時代の生い立ちにもっと焦点を当てるとかした方がよかったような気がするし、悪女感より透明感の方が勝っている宮沢りえのキャスティングもどうだったんだろうという気も・・・。
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夢売るふたり
出演:松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈、鈴木砂羽、安藤玉恵、木村多江、倉科カナ、伊勢谷友介、香川照之、笑福亭鶴瓶
監督・脚本:西川美和
(2012年・日本・137分)WOWOW
内容:東京の片隅で小料理屋を営む貫也と妻の里子。ところが開店5周年の日に店が全焼してしまう。前向きな里子はパートに出ながら家計を支えるが、すっかりヤル気を失くした貫也は店の常連客と浮気してしまう始末。里子はそんな夫の浮気に怒りながらも、再び店を持つ夢をかなえるための資金集めに、夫を使って結婚詐欺をすることを思いつく・・・。
評価★★★/65点
この監督の撮る濡れ場はなんでこんなに生々しいんだろうというのが真っ先に思い浮かぶ感想だけど、それは置いといて、、いややっぱり置いとかなくてw、気だるい自慰行為とか生理用ショーツを履くシーンも含めてホント女性にしか描けない生々しさというのがあるんだけど、個人的には阿部サダヲが旦那だし、もっとライトなコメディ路線でいくのかと思っていた。
またそっちの方を期待していたので、ここまでシリアス路線だとはちょっと意外だったし、な~んかビミョー
というか、里子(松たか子)の複雑怪奇でおどろおどろしい女のサガや内面というのが、男の自分からするとなかなか掴めなくてイマイチ乗り切れなかったというかんじかな。
1番理解に苦しんだのが結婚詐欺に手を染めていくきっかけになった里子の内面描写だ。
貫也(阿部サダヲ)の一夜の過ちに対し何かタガが外れたような表情をするのだけども、これが貫也への復讐の決意なのか、それとも小料理屋を再建しさえすれば幸せな日々を取り戻すことができると考え、その資金を得るためなら何だってしてやるという開き直りなのか、いやそのどちらも真なのだろうけど、その時点ですでに旦那に見切りをつけてもいいはずなのになぜそこまで執着するのか、といったことがない交ぜになっていて、男の自分には何かこうストンと胸に落ちてこないのだ。
それが複雑怪奇な女のサガと呼ぶべきものなのだろうが、お金を手に入れてもまだ足りないとボヤく里子の心情とは一体どういうことなのか。いったい何をもって心を満たそうとしているのか、、分からなくて怖い(笑)。
いや、実はだんだん見ていくうちに、里子の本当のオンターゲットは貫也ではなく、結婚詐欺にハメる独身女性たちそのものだったのだということは分かってくるのだけども。。
要は、自分は幸せな結婚生活を送っていたはずなのに、という傷ついたステータスを修復するためのオンターゲットが結婚できない独身女性に対する優越感であり、そこから金を巻き上げることに快感を覚えていったということなのだろう。
さらにその際、旦那を駒にして自分の思い通りにコントロールする、端的には他の女と寝て金獲ってこいと命令することで旦那に復讐を果たし、しかもちゃんと自分の元に旦那が帰ってくることで傷ついた自尊心をも満たしてしまおうという魂胆だったのだろう。
当の旦那にとっては、浮気はバレないから浮気なのであって、妻から強制され報酬までもぎ取ってこなければならないというのはただの強制労働でしかないわけだ。
しかし、そんな彼女の思惑も最初は結婚というステータスが欲しくて欲しくてたまらないOL(田中麗奈)たちからまんまと金を巻き上げることで味をしめていくのだけど、次第に貫也が里子の手綱を放れて羽を伸ばし始めたことで、夫を支える良妻賢母という理想にどっぷり浸かっていた自分の生き方の空虚さに気づかされていく。
それを物語るシーンで最も強烈だったのが、ウエイトリフティングをしている女性アスリートを引っかける際に里子が貫也に「気の毒だから止めよっか」と言うシーン。
純真な彼女をダマすのは可哀想という意味なのかと思いきや、あんな図体のデカい女とSEXするのは不憫だろうという意味で、そんな最低発言を平気でかましてしまう里子にはさすがにドン引き
自分の足でしっかりと立ち自分の人生を歩いている独身女性たちと、自分の夢や生きる目的ひっくるめて全て旦那に任せて生きることを選んだ女の対比は、貫也に里子の方がよっぽど気の毒だと言わせしめるに至る。
そして、シングルマザーの女性が持ちうる団らんという最強の武器を前に、自分を保っていた優越感が崩れ去り、旦那への殺意へと変容していくのは当然の流れであった。
独身女性の孤独につけ込んでいたはずが逆に自分が孤独の中に落ちていく悲哀・・。
港でフォークリフトを操る里子の漆黒の闇を湛えた瞳は、他人の力ではなく自分の力で生きていくという凛とした決意に見えた。
とはいえ、後味はビミョーに悪いw
やはり里子の秘めた愛憎があまりにも屈折しすぎていて、自分の価値観とは決定的に相容れない一線をゆうに踏み越えていってしまう彼女を理解できない自分がいる。
まぁ、でも最低なのはやっぱ旦那なんだけどねww
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後妻業の女
出演:大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、津川雅彦、泉谷しげる、柄本明、笑福亭鶴瓶、永瀬正敏
監督・脚本:鶴橋康夫
(2016年・東宝・128分)WOWOW
内容:後妻業とは、高齢資産家男性をたぶらかして後妻に収まり、最期を看取って遺産を根こそぎ奪うこと。そんな悪行に手を染める女・小夜子は、結婚相談所の所長・柏木と組んで次々と獲物をモノにしてきた。そして9番目の夫・耕造が結婚2年後に脳梗塞で死亡する。葬儀の席で小夜子は、全財産を小夜子に譲るとした公正証書の遺言を耕造の2人の娘に突きつけた。納得いかない娘は、元刑事の探偵とともに小夜子の過去を調べ始めるが、当の小夜子は次なるターゲットに狙いを定めていた・・・。
評価★★★☆/70点
大枠ではピカレスク映画といっていいけど、レベル的には品のないエロ週刊誌に連載されるような娯楽小説テイストでかなり軽め。といっても5人も殺しちゃってるのだがw
社会に対する憎悪だとか男への復讐だとか小夜子目線のバックグラウンドがスルーされているので、お金しか目がない罪悪感ゼロの醜悪女にしか見えないはずなんだけど、それが大竹しのぶの手にかかると後妻業をまさに天職として変幻自在に顔を使い分ける生き生きとした大阪のオバハンになるのだから恐れ入る。
お笑いモンスターの明石家さんまも敵わないわけだ(笑)。
そいえば2人の交際がバレないように、さんまが大竹しのぶをスーツケースに入れて運んだことがあるってテレビで面白おかしく言ってたけど、ホントに納まっちゃうんだねw
もっと尾野真千子とのガチバトルを見たかったし、ブラックコメディ寄りにするならもっと笑わせてほしかったという不満はあるけど、ストーリーよりキャスティングで見る映画とすれば十分及第点。
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