夢のシネマパラダイス541番シアター:武士はつらいよ
蜩の記(ひぐらしのき)
出演:役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子、青木崇高、寺島しのぶ、三船史郎、井川比佐志
監督・脚本:小泉堯史
(2013年・東宝・129分)WOWOW
内容:郡奉行の戸田秋谷(役所広司)は、藩主側室との不義密通および小姓を切り捨てたことにより、10年後の切腹とその10年で藩の歴史書を編纂せよと命じられる。それから7年後。城内で刃傷沙汰を起こしたものの切腹を免れた檀野庄三郎(岡田准一)は、幽閉中の秋谷の監視役を命じられた。秋谷が7年前の事件について家譜に変なことを書いたり、逃亡のそぶりを見せれば妻子ともども始末せよということだったが、戸田家で暮らし始めた庄三郎は秋谷の人間性に感銘を受けていく・・・。
評価★★★☆/70点
10年後に切腹して果てる運命を粛々と受け入れ、切腹を厳命した藩のお勤めとして歴史書を丹念にまとめ上げる男の生きざまは、地上で1週間しか生きられないヒグラシのごとき切なさと清廉潔白さに染め上げられ胸を打たれるのだけど、しかしここでふと思う。
主君への忠義を全うするため、お家存続のため、そして武士の名に恥じない生き方を貫くためにはどんな理不尽で不条理な運命にも、たとえそれが命であったとしても身を差し出さなければならない、そんな話を美談として捉えるのは日本人だけではないのか!?と。
それは開花してからわずか2週間ほどで散ってしまう桜をこよなく愛する日本人の心にも通じるところだけど、ハリウッド映画とか他の国の映画なら10年後の死を淡々と受け入れるキャラクターなんてありえないだろう。なんとかそれを回避し生き抜くためにあらゆる方策を立ててあがき続けるはずだ。
やはりこれは礼節や作法含めて日本人特有の感性なのだと思う。
現代日本人は普段は忘れてしまっているけど、DNAの奥深くに自己犠牲を美徳とする精神性が刻みつけられていて、こういう凛とした時代劇を見るとそれを思い起こすのかもしれない。
良作である。
、、とはいっても、しゃにむに生きようともがく人間を描いた映画の方が個人的には好みなんだけどね
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一命
出演:市川海老蔵、瑛太、満島ひかり、竹中直人、青木崇高、新井浩文、波岡一喜、中村梅雀、役所広司
監督:三池崇史
(2011年・松竹・126分)WOWOW
内容:寛永7年(1630年)、戦もすっかりなくなった天下太平の世。しかし一方では幕府による大名のお家取り潰しが相次ぎ、職にあぶれた浪人が巷にあふれていた。そして、困窮した浪人たちの間では、裕福な大名屋敷に押しかけ切腹を申し出て金銭を巻き上げる“狂言切腹”が横行していた。そんなある日、井伊家江戸屋敷に切腹を願い出る浪人・津雲半四郎(市川海老蔵)が訪れるのだが・・・。小林正樹監督の62年作品「切腹」の原作である滝口康彦の『異聞浪人記』の再映画化。
評価★★★/60点
そこまでする必要があるのかとドン引きしてしまうくらい凄惨な千々岩求女(瑛太)の竹光での切腹シーンが最後まで尾を引いてしまったけど、終わってみればそこしか印象に残らないほど映画としてのインパクトには欠ける。
自己犠牲精神、礼節、忠義、、日本の心-日本人の美徳として昨今もてはやされている武士道。その裏側に潜む武家社会の非人間性と不条理、そして滅私奉公の対象である権力者の体面を取り繕う偽善を暴き出そうという試みにおいて、あの場面はたしかに必要だったのだろう。
竹光がなかなか腹を貫通しない痛々しさ、その肉体性をことさらに強調することで、大団円の津雲の大立ち回りで厳かに飾られ崇拝の対象になっている中身は空っぽな赤備えの甲冑がいとも簡単に崩れ去る、その形骸化した武士道の脆さが暴き出されるという意図があったのだと思う。
そしてそんなつまらない作り物めいたものにがんじがらめになっている武士の生きざまとやらの馬鹿らしさが、狂言を実行に移したがために文字通り作り物の竹光で切腹するハメになってしまった求女、同じく竹光でもって立ち回ることで身をもって問いただす津雲、さらにはバラバラになった甲冑を元通りに飾り立て何事もなかったかのように取り繕い、建前であってもそれを守っていこうとする家老(役所広司)の“武士に二言はある”体現によってあからさまにされる。
しかし、その言わんとするところは伝わってはくるのだけれど、いかんせん津雲一家の困窮生活を描く中盤があまりにも感傷的であざとくダレダレで、しかもそこに鬱積していく怨念が前フリとなって後半爆発するのかと思いきや、最後まで屁理屈問答で終わってしまい、どうしてもモヤモヤ感が残ってしまう。
これを単純な復讐劇にしないのは、津雲もまた窮屈な規範の枠の中でしか生きていけないことを表しているともいえるのだけど、もうちょっと見る側のパッションを揺り動かしてもらいたかったかなと。
しかしまぁ、市川海老蔵はさすがの存在感を出していたとは思う。03年に大河ドラマで宮本武蔵を演じた時は役に風格がイマイチ追いついていっていなかったけど、あれから8年、歌舞伎役者としてのオーラが存分に増してきた今回は、静かなる憤怒の佇まいと眼力に吸い寄せられるように見入ってしまった。
凛然としたホンモノを前にしてはさすがの竹中直人もおフザケを封印せざるをえなかったようだ(笑)。
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切腹(1962年・松竹・108分)NHK-BS
監督:小林正樹
出演:仲代達矢、岩下志麻、石浜朗、稲葉義男、三國連太郎、丹波哲郎
内容:寛永7年。幕府が諸藩の改易を進めた結果、世の中には大量の浪人があふれていた。ある日、津雲半四郎と名乗る浪人が井伊家の屋敷を訪れ、庭先で切腹させてほしいと申し出る。巷では、切腹する気など毛頭ない食い詰め浪人が迷惑事を嫌う諸藩から金品を受け取ってその場を引き取るという狂言切腹が横行していた。なので対応した家老の斎藤勘解由は、どうせまた今流行りのゆすり行為だろうと考え、先日やって来た若い浪人を見せしめのために実際に切腹させたことを告げる。それを聞いた津雲は自分の身の上話を始めるのだが・・・。
評価★★★/65点
2011年公開の三池崇史版の方はすでに観賞済。
三池版での千々岩求女(瑛太)の竹光でのリアリスティックな切腹シーンのインパクトがあまりにも強烈すぎて、今となってはそれしか頭に残っていない・・・(笑)。でもってあの凄絶シーンゆえに津雲半四郎の復讐譚に肩入れして見ていたわけだけど、今回そういう誇張のぜい肉を削ぎ落としてみると、例えば忠臣蔵のような勧善懲悪としては見られないところも正直あって、なんか求女の自業自得感というのを少なからず感じてしまった。
要するに井伊家側の視点で見てみると、非道ではあれど筋は通っているわけだし、せっかくの仕官の道をむげに断る津雲の頑固爺っぷりも今の感覚でいえば自業自得だし。
もちろんこの映画のテーマとして体制側をもひっくるめた封建的武家社会の理不尽なシステムを糾弾しているわけだけど、ちょっと描写が紋切り型すぎてイマイチ上辺だけしか伝わってくるものがなかったかなぁ。。役者は言うまでもなく完璧だったけどね。
でも、仲代達矢の手をクロスさせる必殺剣の構えだけは失笑ものだったなww
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武士の献立
出演:上戸彩、高良健吾、余貴美子、成海璃子、柄本佑、夏川結衣、緒形直人、鹿賀丈史、西田敏行
監督:朝原雄三
(2013年・松竹・121分)WOWOW
内容:江戸時代の加賀藩。プロ級の料理の腕を持ちながら、気の強さから1年で離縁された春(上戸彩)は、加賀藩藩主側室・お貞の方(夏川結衣)に女中として仕えていた。そんなある日、料理方である舟木伝内(西田敏行)にその才を買われ、息子の嫁にと懇願された春は二度目の結婚を決意する。ところが、舟木家の跡取りで夫となる安信(高良健吾)は料理が大の苦手だった。4つ年上の春は夫に料理指南を始めるのだが・・・。
評価★★★★/75点
EXILEのHIROが羨ましい(爆)。
その一語に尽きるというのが真っ正直な感想だけど、それくらい上戸彩が、イイ
料理が抜群にうまく、キレイな着物姿で三つ指をついてかしずく姉さん女房って、男の夢だろww
なのにそんな健気な嫁さんを「覚悟はできてるな」と恫喝して刀を振り上げるなんて安信テメェー、俺が後ろからたたっ斬ってやる!
ていうか、めちゃくちゃ衝撃的なシーンなんですけど、あれって。どんだけ男尊女卑が酷かったんだよっていう・・・。
そんな仕打ちをされても安信を想い続ける春さん、って現代なら完全な仮面夫婦だろうから、今ではこんな日本女性はいないけどね
でも、血生臭い加賀騒動を後半前面に出しておきながら、安信と親友・定之進の木刀での腕比べ以外に殺陣や切腹シーンなどの殺生を意図的に排除している中で(なにせニワトリさえ殺せないんだからw)、あのシーンだけが突出して強烈なインパクトを放ったかんじ。
しかも定之進も大槻(緒形直人)もお貞の方も悲惨な末路をたどったのに、その黒幕・土佐守(鹿賀丈史)が料理の鉄人の美食アカデミーの主宰になって「私の記憶がたしかならば、この夕日が血に見えるようなことはもうやめなければならない!」とかのたまって一件落着ってのも、安信の心の許嫁・佐代(成海璃子)が夫と子供を亡くしてどこぞの養女となったのもさらりと受け流されて、どこか小骨がのどに引っかかったような印象も受ける。
のだけれども、おしんのように健気な春さんに全部持ってかれた。その一点買いでこの評価ww
言っとくけどオレ全然甘くないからね(笑)。
いやいや、おもてなしは争い事を収めるんですから。
しかし、饗応の宴の冒頭に安信が片手に刀のような長っい包丁、もう片手に長っい菜箸を持って舞を踊るかのように魚をさばく儀式は目が点になったな。
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武士の家計簿
出演:堺雅人、仲間由紀恵、松坂慶子、西村雅彦、草笛光子、中村雅俊
監督:森田芳光
(2010年・松竹・129分)CS
内容:幕末の加賀藩。御算用者(経理係)として代々仕えてきた猪山家。父親の信之(中村雅俊)の跡を継いだ直之(堺雅人)は、そろばんバカと呼ばれるほど算術一筋の男。やがて、妻・お駒(仲間由紀恵)をめとり、めでたく出世も果たす。が、昇進に伴う祝い事や散財がたたって借金が年収の2倍にまで膨れ上がってしまう。そこで直之は、克明に家計簿をつけ、借金返済計画を実行に移していくのだが・・・。
評価★★★/60点
時代劇という体裁をとったホームドラマだけど、あまりにも生真面目すぎて味気なさすぎる感が。。
下級武士の生きざまは山田洋次にさんざん見せられてきたので、そろばんバカという一風変わったユニークな視点で語られる武士の暮らしについて目からウロコがボロボロ落ちてくるのかと思いきや、かわりにあくびを連発してしまうことになろうとは・・。
ありそうでなかった時代劇を期待していたんだけど、新鮮味のない手垢のついた時代劇だったというオチ。
なんか何もかもがすんなり収まってしまって生々しさが感じられないんだよね。
森田芳光の主眼が家族愛にあることは明白だけど、猪山家の人々が相次いで亡くなっていくシーンに何の感慨も抱かなかったところにこの映画の掘り下げの浅さと物足りなさがあるように思う。
これはユーモアたっぷりの喜劇にアレンジするべき作品だったな。
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