夢のシネマパラダイス397番シアター:誰もが必死に生きたあの時
ジョバンニの島
声の出演:市村正親、仲間由紀恵、柳原可奈子、ユースケ・サンタマリア、北島三郎、八千草薫、仲代達矢
監督:西久保瑞穂
(2014年・日本・102分)BS
内容:1945年。10歳と7歳の兄弟、純平と寛太は、北方四島のひとつである色丹島に父・辰夫と祖父・源三と元気に暮らしていた。しかし、終戦とともに穏やかな島は一変。ソ連軍が島を占拠し、島民の住居まで接収されてしまう。そんな混乱の中、兄弟は美しい少女ターニャと知り合い心を通わせていく。しかし、島の防衛隊長だった父がシベリアの収容所に送られてしまい・・・。
評価★★★★★/95点
杉田成道&さだまさしという「北の国から」の鉄板コンビに加え、オープニングでカンちゃんの赤いほっぺの顔立ちを見て「火垂るの墓」の節ちゃんを想起した時点で、泣かせを狙った見え透いた作戦にそう簡単には乗らないぞと一歩引いた目で見てたのだけど、ものの見事に泣かされたw
しかも「リトル・ダンサー」以来15年ぶりくらいの嗚咽
まずもって北方領土がどのようにロシアに乗っ取られたのかという歴史的実状を描いた物語って映画はもとよりテレビなどでも見たことがなかったので初めて知ることばかりだったし、例えば日本人とロシア人が一時期ともに島で暮らしていたとは全くの驚きだった。しかも島民が樺太の収容所へ送られたり、終戦後にも関わらずあんな過酷な体験にさらされていたとは想像を超えていた。
今は亡き自分の祖父もシベリア抑留体験者だったので、そういう話はほとんど聞くことがなかったけど、映画で描かれた極寒の収容所の情景には胸がしめつけられる思いがした。
そして訪れるカンちゃんの死にとうとうこらえきれなくなっちゃったんだけど、やはり子供の視点から捉えた戦争の悲惨さほど身にこたえるものはないなと今回つくづく思い知らされたね。
その上で重要なファクターになったのが宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」なんだけど、例えば「パンズ・ラビリンス」や「ナルニア国物語」がそうであるように、戦争からの現実逃避の手段として空想ファンタジーが用いられることはままあるけど、それを宮沢賢治の童話が担うというのが目から鱗だった。
しかもどこにでも行ける銀河鉄道の切符が強力な効力を発揮して幼き兄弟の心の拠り所になるとともに映画を一段高みに押し上げていたし、それを表現した映像も幻想的で心に残った。
不死身の叔父さん・英夫が、もともと銀河鉄道の夜は宮沢賢治が亡くなった妹への失意の思いをつづるために書いたんだと言っていたように、あの世との交信というファンタジー要素を存分に持っていた物語だったんだなぁと、ものすごく勉強になったな。宮沢賢治と同じ同郷人としてちょっと誇らしくなった
「死んだ人はみんな天に昇って夜空の星になる。星は無数に限りなく降るように光り、その光に照らされて僕たちは今こうして生きている。」
銀河鉄道の夜はどんなお話なのかと訊かれて、おじいさんになった純平が答える言葉が胸に深く染み渡った。
家族みんなで見てもらいたい映画だね。
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少年時代
出演:岩下志麻、細川俊之、芦田伸介、大滝秀治、河原崎長一郎、藤田哲也、堀岡裕二
監督:篠田正浩
(1990年・東宝・117分)DVD
内容:第二次世界大戦中、東京から富山に疎開してきた少年と疎開先で出会った少年たちとの友情と別れを描いた物語。昭和19年夏、小学5年生の風間進二は富山に疎開することになった。富山で最初に仲良くなったのは地元の少年たちのリーダー・武だったが、武は学校の級友たちの前では進二に高圧的な態度をとる。しかし隣町で悪童たちに取り囲まれた進二は武に助けられ、2人の間の友情を改めて確認したのだったが・・・。
評価★★★★★/95点
小学校で3回、中学で1回転校を経験した自分にとって、進二の何も考えてなさそうで実は抜け目のない処世術は、分かるを通り越して自分の記憶神経を痛いほどビリビリ震わせる。
それでいて最も映画的な場面をラストにもってくることによって、井上陽水のいろいろ考えてそうで実際抜かりのない歌が、感動を通り越して自分の顔面神経をこれでもかというほど無茶苦茶に震わせる。
そんなズルイ戦法で攻められて、まんまとそれに引っ掛かっちゃった自分は、しかし全く悪い気はしないのだった
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少年H
出演:水谷豊、伊藤蘭、吉岡竜輝、花田優里音、小栗旬、早乙女太一、原田泰造、佐々木蔵之介、國村隼、岸部一徳
監督:降旗康男
(2012年・東宝・122分)WOWOW
内容:昭和初期の神戸。洋服の仕立て屋の息子・肇は、胸に“H”のイニシャルが入ったセーターをいつも着ていて、両親と2歳下の妹と楽しく幸せな日々を送っていた。しかし、時代は急速に軍国化の道をたどり戦争へと向かっていき、次第に一家にも暗い影が忍び寄る・・・。
評価★★★☆/70点
原作既読でTVドラマ前後編も見た者からすると、各エピソードをスリムにして要領よくまとめたかんじは否めないのだけど、やはりもともとの原作オリジナルが良いのか、そのメッセージはよく伝わってくる良作に仕上がっていたとは思う。
ただ、各エピソードをスリムにしたといった通り、妹尾一家周辺の登場人物(小栗にしろ早乙女にしろ)や重要エピソードの掘り下げは相当に浅く、ストーリーの流れは散発的で、先にも挙げたフジテレビのスペシャルドラマの印象が頭に残っている者とすればやはり物足りないのはたしか。。
まぁ、降旗康男だけに説教臭いんじゃないかなと穿った見方もしてしまったけど、そこまでじゃなかったので良しとするか。
しかし、それもこれもやはりハジメ君の親父さんの人柄と信念のこもった言葉のなせる業なんだろうね。水谷豊も役柄にピッタリ合っていたと思うし。自分ももし父親になることがあったなら、こういう人になりたいな。
あと空襲シーンに関しては、TVドラマを完全に凌駕していて驚いた。いや、ホントに焼夷弾ってああいうふうに地面に突き刺さってポンッと爆発するんだってことを生まれて初めて目にしたので。それが雨のように降ってくるんだから・・・。
それを見れただけでもこの映画を見た価値はあったと思う。
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一枚のハガキ(2010年・日本・114分)NHK-BS
監督・脚本:新藤兼人
出演:豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、柄本明、倍賞美津子、大杉漣、川上麻衣子、津川雅彦
内容:戦争末期に招集された100人の中年兵たち。誰がどの戦地に向かうかは、上官がクジを引いて決めていた。クジ引きが行われた夜、松山啓太(豊川悦司)は仲間の兵士・森川定造(六平直政)から妻・友子(大竹しのぶ)が送ってきた一枚のハガキを手渡される。フィリピンへの赴任が決まり、死を覚悟した定造は、宝塚への赴任が決まった啓太に、もし生き残ったら友子にハガキを読んだと伝えてくれと依頼したのだった。そして戦争が終わり、わずか6人の生き残りのうちのひとりとなった啓太は友子のもとを訪ねるが・・・。
評価★★★/65点
巨匠の遺作に名作なしとはよく聞くフレーズだけど、観る側としてはキャリアの全盛期の凄さを味わっているだけに、晩年にガクンと作品が尻すぼみになってしまう印象は往々にして拭いきれない。
が、100歳にして大往生をとげた新藤兼人監督の遺作はどうしたことか。
遺作とは思えないほどバイタリティーとパワーに満ちあふれていて、この人は最後の最後まで現役監督だったんだなぁと感慨深くなってしまった。
どんなにツラく苦しく惨いことが襲いかかり、たとえ生き恥をさらそうとも生きて生きて生き抜けというメッセージは深く心に染み渡ってきたし、人の織り成す悲しみを可笑しみの中に描き出し、生きる歓びを伝えようという姿勢にこの御大監督だからこそ語れる人生の含蓄を味わわせてもらった気がする。
人生とは“いとおかし”なものなのだね
しかし、どの映画を見ても同じことを言ってるけど、大竹しのぶはこの映画でも凄まじかった。大竹しのぶが画面に現れるたびに不穏な空気に包まれる凄みといったらハンパない。
戦争という最も悲惨な不条理を前にただ立ちすくんで生きるしかない女の魂の叫びにただただ圧倒されるばかり。
これはオーバーアクトではない。彼女にしかできない全力演技であるとともに女の逞しくしたたかな強さをも体現しているのだ。
なによりガタイのいいトヨエツを背負って歩いてしまうのが何よりの証拠ではないか(笑)。
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キャタピラー
出演:寺島しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、河原さぶ、ARATA
監督:若松孝二
(2010年・日本・84分)WOWOW
内容:中国戦線から生きて帰還した黒川久蔵(大西信満)。しかし、その姿は両手足をなくし、顔半分は焼けただれ、耳も聴こえず言葉も話せない、まるで芋虫のようなものだった。そんな久蔵を新聞や周りの村人たちは「生ける軍神」と祀り上げる。久蔵の妻・シゲ子(寺島しのぶ)は軍神に尽くすことはお国のためだと説かれ、献身的に世話をする日々を送るのだが・・・。
評価★★★/60点
戦地で中国人女性を強姦しまくっていた最中に家の下敷きになって四肢を失ってしまった自業自得の男、ところがお国のためによく頑張ったと称えられ3つも勲章をもらって故郷で軍神と崇められる名誉の男、が全く身動きがとれない中で寝床で食べて寝て排泄してセックスするだけの日々を送る無残な男、そしてかつてDVしまくっていた嫁はんに復讐される哀しい男・・・。
寺島しのぶの熱演もスゴかったが、久蔵を演じた大西信満のリアリズムあってこその映画だったように思う。
まぁ、作品全体としては、おそろしく重く、そしておそろしく倦怠感を覚えてしまう退屈な映画だったけど・・。
「実録・連合赤軍」(2007)はあと20分延ばしてもよかったけど、今回のはあと20分短くしてもよかったな。。
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美しい夏キリシマ
出演:柄本佑、小田エリカ、石田エリ、香川照之、左時枝、牧瀬里穂
監督:黒木和雄
(2002年・日本・118分)岩波ホール
内容:1945年夏の霧島地方。15歳の中学生・日高康夫は、満州から霧島の祖父母の家に戻り、跡取りとして暮らしていた。村には本土決戦に備え日本軍が駐屯し、村の人々の生活にも戦争の影は忍び込んでいた。夫を亡くした日高家の小作人イネ(石田えり)は駐屯兵(香川照之)との情事に溺れ、一方、日高家の女中はる(中島ひろ子)は片足を失った帰還兵(寺島進)のもとに複雑な心境になりながらも嫁いでいく。また、康夫もかつて空襲で親友が爆死するのを目の当たりにし一人生き残ったことに罪悪感を抱いて苦悩し続け、すっかり心を閉ざしていたのだった・・・。
評価★★★★/80点
戦争というバカでっかい罪から雨後のタケノコのごとく生み落とされる罪過の数々は、ほんの小さな日常にまでも染み出してくる。
そして、それらを大きく包み込み静かに見定めるキリシマの自然と風景。
その対比が何よりも罪で残酷だ。
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カンゾー先生(1998年・東映・129分)NHK-BS
監督:今村昌平
出演:柄本明、麻生久美子、ジャック・ガンブラン、松坂慶子、世良公則、唐十郎、小沢昭一
内容:昭和20年、瀬戸内の田舎町。開業医の赤城風雨は何でもかんでも肝臓炎だと診断するので「カンゾー先生」と揶揄されていたが、患者のために町を走り回り無償でも診療してくれる人望家でもあった。看護婦として雇うことにした娼婦のソノ子やモルヒネ中毒の医者、酔っ払い住職たちの協力を得て、赤城は肝臓炎撲滅のための研究に没頭していく・・・。
評価★★★/65点
太平洋戦争の敗戦直前とは思えないような大らかな生の営みが今村昌平お得意の重喜劇ならぬ軽喜劇調で描かれていてサクサク見られる。
なにより生命力あふれる明朗な女性像が印象的で良い。まぁ、銃後の若い女性の役割がタダマンていうのもすごい話だけどね
ただ、原爆のキノコ雲までコメディタッチの俎上に乗せる徹底ぶりには若干引き気味w
ゆで卵はさらに引き気味ww
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鬼が来た!
出演:チアン・ウェン、香川照之、チアン・ホンポー、ユエン・ティン、澤田謙也
監督・脚本:チアン・ウェン
(2000年・中国・140分)2002/05/07・イメージフォーラム
評価★★★★★/100点
内容:第2次世界大戦末期の中国のとある小村を舞台に、ひょんなことから日本兵を匿うことになってしまった村人の困惑と日本兵との奇妙な交流を、ときにユーモラスに、そして衝撃的に描いた問題作。1945年冬の旧正月直前、中国華北地方の寒村・掛甲台村。深夜、青年マーのもとに男が突然現れ、2つの麻袋を押し付け、大晦日までそれを預かるように脅して去って行った。そして、その麻袋の中に入っていたのは、日本兵・花屋小三郎と通訳の中国人・トンだった。マーはあわてて村の長老たちに相談し、結局約束の日まで2人をかくまうことになるが・・・。2000年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したが、中国では上映禁止処分になっており、チアン・ウェン監督も映画製作活動を数年間禁止されたが、07年に新作を発表し、ベネチア映画祭にも出品された。また、チアン・ウェンがこの映画を撮ろうと思い立ったのは、1997年に靖国神社の一角で花見をしていた旧日本軍の兵士と話をしたところ、彼らが中国での侵略行為に何の罪も感じていないことに驚愕したことがきっかけになっているという。
“初めて分かった。無条件降伏ってどういうことなのか。。”
自分は今まで一度も戦争映画に降伏したことがない。
涙を流して敗走したことはあっても、両手を挙げて降伏したことはなかった。
しかし、この映画で自分は初めて降伏した。
しかも両手を挙げる気も失せ投降することもできず、ただじっとその場にどっかと座り込むことしかできなかった。
人は完膚なきまでの完敗を喫したときに思わず笑みを浮かべるというが、まさにそんな余韻を味わわされたのだ。
話は脱線するが、映画公開当時に新聞でこの映画の紹介記事みたいなのを読んだことがあって、その中で日本、中国のスタッフの間で歴史観や映画の中の描写などで様々な衝突があり、撮影現場も大変だったという説明がされていたのを覚えている。
そしてつい先日、この映画に出演していた香川照之の「中国魅録/鬼が来た!撮影日記」という本を読んだのだが、これがまた映画に負けず劣らずもの凄いのである。
香川さんはこの中で、「この作品の狂気が100だとすれば、撮影現場の狂気は1000くらい凄いものだった」と述べている。
まさに撮影現場も文字通りの生の戦場だったのだ。
狂気から狂気は生まれる。狂気を生み出すには自分が狂気に染まるしかない。
その点で、監督・主演を務めたチアン・ウェンの狂気と闘気と意気と血気に勝るものはない。
スクリーン全体からもそれがよく伝わってくるのだが、ここでも面白いエピソードがあって、香川さんはチアン・ウェンのことを“天皇”と呼んでいたというのだ。別な映画(「ヘブン・アンド・アース」)では中井貴一がチアン・ウェンのことを“皇帝”と呼んでいたのも有名な話で、黒澤明が黒澤天皇と呼ばれていたのと同様な呼称であろう。
恐るべしチアン・ウェン。
しかしこの映画、あまりにも観ている人が少なすぎる。
この映画を周りに広めるくらいの闘気は自分も出そう。
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