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2015年8月14日 (金)

夢のシネマパラダイス129番シアター:日本のいちばん長い日

日本のいちばん長い日

T0019725p3出演:役所広司、本木雅弘、松坂桃李、堤真一、山崎努、蓮佛美沙子、戸田恵梨香、キムラ緑子、松山ケンイチ

監督・脚本:原田眞人

(2015年・松竹・136分)WOWOW

内容:1945年7月。戦局が最悪の一途を辿る中、連合国による日本の無条件降伏を求めるポツダム宣言が発表された。その3か月前に組閣されたばかりの鈴木内閣では連日閣議が開かれるが、降伏か戦争継続かで紛糾したまま8月に入り、広島と長崎に原爆が投下されてしまう。そして8月14日、御前会議で戦争終結という天皇の聖断が下される。しかし、あくまで本土決戦を訴える陸軍の若手将校たちはクーデターを起こすべく決起する・・・。

評価★★★/65点

今から50年前の岡本喜八版が終戦の日の24時間を描いているのに対し、今作は鈴木貫太郎首相就任(昭和20年4月7日)から終戦までの4か月間を描いているのだけど、印象としてはやや間延びしちゃってるかなと。

さらに言えば岡本喜八版がキチガイじみた個性のぶつかり合いが見物の怪優祭りと化していたのに比べると、今回その匂いをまとっていたのは東条英機の中嶋しゅうくらいのもので、あとはかなり律儀かつ真面目でそのおとなしさも薄味たるゆえんか。。

まぁ、昭和天皇を主要な役どころに据えた時点でベクトルが格調に向かうのは致し方ないとはいえるし、あの時代、国家としてのリアリズムを軍機という秘密主義の中に押し込み、軍そのものと国家を神秘的な虚像に覆い隠したその深奥に御座します天皇をあれだけ饒舌なキャラクターとして実体的に描くというのはエポックメイキングなことではあろう。

ただ、これを描くには天皇の戦争責任という刃を突きつけられている覚悟を持たなければならないと思うのだけど、今回の映画は幻想と空想に縁取られた酔狂な思想が幅を利かせる無法国家日本において、あたかも天皇だけが純然たる平和主義者で、そのご聖断によって日本は救われたのだというような言祝ぎと美化に終始する批判精神の無さには、やはり喉に小骨が刺さったような違和感を感じざるをえなかった。

昭和から平成になって約30年、昭和天皇を歴史として咀嚼でき映画で描けるようになったとはいえ、まだ遠慮や難しさといった限界を露呈しているのもたしかで、だとするならばその対峙として8月15日の若手将校による宮城クーデターにもっと焦点を当てて描いてしかるべきだったのではないかと思う。そうすれば何度も叫ばれる国体護持の意味もより鮮明になったのではないか。

あるいは、「私の名によって始められた戦争を、私の本心からの言葉で収拾できるならありがたく思う。」という天皇のお言葉の“私の名によって始められた戦争”について、つまり開戦の経緯とそこでの天皇の開戦の聖断について描かなければならないのかもしれない。

でも、結局最後に1番言いたいのは、戦争は東京の密室で起きてるんじゃないってこと。今の国会議員にも言ってやりたいわw

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終戦のエンペラー

T0016889q出演:マシュー・フォックス、トミー・リー・ジョーンズ、初音映莉子、西田敏行、火野正平、中村雅俊、夏八木勲、桃井かおり、伊武雅刀、片岡孝太郎

監督:ピーター・ウェーバー

(2012年・米/日・107分)WOWOW

内容:1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し、第二次世界大戦が終結する。そして8月30日、GHQ最高司令官ダグラス・マッカーサーが厚木飛行場に降り立った。戦後処理に取り掛かったマッカーサーは、知日家のフェラーズ准将に戦争責任が誰にあったかを10日間で調べ上げるよう命じる・・・。

評価★★★/65点

劇中で1000年経っても真実は分からないというセリフが出てくるけど、おそらく1000年経っても日本人自身の手で総括されることはないであろう天皇の戦争責任というタブーに挑んでいる点で必見の価値がある作品ではある。

が、物足りない。

戦勝国という上から目線ではない日本に対する真摯な眼差しは買いたいけど、地雷原を恐る恐る踏みしめていかなければならないような重いテーマを扱うにはあまりにも行き当たりばったりとサクサク進みすぎだし、なにより主人公と日本人女性の取って付けたようなロマンスが邪魔で邪魔で仕方がないw

昭和天皇が戦犯になるかどうかの瀬戸際の歴史サスペンスを補完するまでの強度が恋愛ドラマには全くないため、映画の中に取り入れる必然性がどうしても感じられないのだ。

これはもう2時間半くらいみっちり時間をかけて証言ドラマを軸に描いてほしかったけど、それは日本人自身の手による映画での宿題とすべきかな。。

結局、天皇の戦争責任は免れえるものではないが確たる証拠がないし、アメリカの占領政策にとって天皇を利用することが都合が良いから罪に問わないという玉虫色的な政治判断の帰結になって、なんかモヤモヤしたものが残ったけど、天皇制に依拠するある種封建的な日本の精神文化を非人称的な法の支配に依拠する合理主義的なアメリカの視点でひも解いていく面白さはあっただけに、もうちょっとそこらへん濃密に描いてほしかったなと。

天皇制を維持することは当時の対ソ連、反共産主義の防波堤に日本を置くには必要だったという見方なんかはそうだったのかぁと目が点になったけど、もし天皇が裁かれて戦犯になろうものなら本当に日本は内乱が起こるほどの混乱に陥ったのか想像もつかないことで興味が湧くところだ。

個人的には、例えば開戦にあたって戦争の遂行意志が天皇にあったのかどうかという厳密なところまで追及したときに天皇の戦争責任の有無について明確な答えを出せるのか分からないけど、少なくとも天皇のために命を投げ打ったおびただしい数の尊い犠牲と、国土を灰塵に帰したことに対し、自ら責任をとって退位し、皇位を譲るべきだったと思う。

それが結果責任を負うべき国家元首としてのけじめであり、また日本国としてのけじめではなかったかと。

それがなされていれば、現在のグローバル世界において、福島の原発事故で誰も責任を取らないような矛盾の国であることは許されない中で、もう少し違った日本のかたちが実現していたかもしれない。

いつか日本人の手でこういう映画が作られることを願うばかりだ。

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日本のいちばん長い日

Nihon出演:三船敏郎、山村聰、志村喬、笠智衆、宮口精二、戸浦六宏、高橋悦史、黒沢年男、加藤武、加東大介、天本英世、小林桂樹、加山雄三、松本幸四郎

監督:岡本喜八

(1967年・東宝・157分)NHK-BS

評価★★★★/80点

内容:大宅壮一が終戦当時の政治家、宮内省関係者、元軍人、民間人を取材してまとめたルポルタージュを原作とする、東宝創立35周年記念の戦争超大作。昭和20年8月14日の宮城内地下防空壕の御前会議に始まり、ポツダム宣言受諾をめぐる陸軍省や総理官邸の動き、自刃を覚悟した阿南陸相の心境、玉音放送の準備に大わらわの宮内省とNHK、受諾反対の青年将校の玉音奪還作戦など、玉音放送がなされた翌15日までの24時間を、緊迫感あふれる描写で見せていく。

“黒沢年男のエネルギーで爆弾1個作れそう。。”

あのハイテンションはどう見てもキチガイにしか見えないのだけど、それは戦後70年経った今だから言えるのであって、あの当時はそれが真っ当な青年将校のあるべき姿だったのだろう、、か。いや、バラエティ番組で見る黒沢年男のキャラとたいして変わらないのにもビックリしたんだけど・・・(笑)。

それはともかく祖国を思う純粋な心と信念をあそこまで狂信的に駆り立てたものは何だったのか。

日本人の男子の半分2000万を特攻に出し続ければ必ず勝てます!と言わせしめるまで守り抜こうとしたものとは何だったのか。

祖国、国体護持、神国、天皇、、、すべてが戦後数十年経ってこの国に生まれた自分には現実離れしたものとして映ってしまう。

戦争は始めるのは恐ろしいくらいに簡単だが、やめるのは恐ろしいくらいに難しいというのは、今のアメリカに至るまで連綿として続く常識だが、教科書に載らない歴史の秘話を明かすこの映画を見せられると、このときの日本ほど愚かで無責任な事態はなかったのではないかとさえ思えてくる。

空虚な理念に支配された密室、しかも天皇=神を戴く祭殿の中でその理念は浮世離れしたもののように誇大妄想と化していく。

なによりタチが悪いのは、その理念が全くブレない強固なものであり、それを純粋に真摯に遂行し守ろうとするところにある。

日本教原理主義とでもいうべき宗教的な崇拝の鬼と化した戦争指導者たちの姿は狂気そのもの。

その中で粛々としてあらゆる手続きのもとで進む儀式(日本帝国のお葬式)がまた空しく目に映るわけだが、東京の焼け野原も一般市民の視点も欠如しているこの映画において、密室にこもった戦争指導者の思考停止状態と無知蒙昧ぶりが際立っていく作劇にはかろうじて岡本喜八のシニカルな視点を垣間見ることができる。

とはいえ、題名が出てくるまで20分もかかったこの作品、2時間40分ハイテンションな緊迫感が途切れることなく持続するアツイ映画であったこともたしかで、岡本喜八のテンポ良いリズム感あふれる演出技法が重厚な作品にあっても冴えに冴えわたっている。

そしてなんといってもアクの強い個性派俳優の恐ろしいほどの屹立した存在感のしのぎ合いに目をそらすことができない。

横浜警備隊長役の天本英世や児玉基地飛行団長野中大佐役の伊藤雄之助など、今の役者では到底お目にかかることのできない怪演ぶり。そして壮絶な割腹自殺シーンに息を呑んでしまう阿南陸相・三船敏郎の鬼気迫る力演。

これほど役者というものの力を認識させられる映画もそうはない。

日本の中枢の断末魔しかと見届けたり!

とはいえ、死屍累々たる末端の人々の断末魔に比べればちゃちいものだが。。

でもさ、腹かき切るだけじゃやっぱすぐには死ねないもんなんだねぇ・・。くわばらくわばら。。

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