夢のシネマパラダイス505番シアター:これが歴史上の良い子・悪い子・普通の子!?
清須会議
出演:役所広司、大泉洋、小日向文世、佐藤浩市、妻夫木聡、浅野忠信、寺島進、でんでん、松山ケンイチ、伊勢谷友介、鈴木京香、中谷美紀、剛力彩芽、浅野和之、中村勘九郎、天海祐希、西田敏行
監督・脚本:三谷幸喜
(2013年・東宝・138分)盛岡フォーラム
内容:1582年、織田信長が明智光秀の謀反「本能寺の変」で命を落とした。その直後、電光石火で羽柴秀吉が光秀を討ち取り、信長亡き後の主導権争いの筆頭に躍り出る。しかしそれに危機感を募らせる筆頭家老・柴田勝家は盟友・丹羽長秀の手引きで、清須城で織田家の跡目と領地配分を決める評定を開くことにする。信長の三男で優秀な信孝を推す勝家と、同じく次男でおつむが弱い信雄を推す秀吉の対立が顕在化する中、秀吉に恨みを抱く信長の妹・お市の方は色仕掛けで勝家に秀吉打倒を迫る。一方、秀吉のバックには天才軍師・黒田官兵衛が。かくして織田家四天王のうち滝川一益が大遅刻で清須に着かないまま、代わりに池田恒興を加えた4人(羽柴、柴田、丹羽、池田)が清須会議に臨む。
評価★★★☆/70点
原作読むんじゃなかったーっ!というのが真っ先に思った感想w
映画のキャスティングが決まった後に完全な当て書き状態で原作を読んだことに加えて、原作が各登場人物のモノローグ形式で進み、ほぼ映画のシナリオを読むような感覚だったので、映像化を見てもさしたる驚きがなかったのが正直なところ。
なので豪華キャスト陣のアンサンブルを拠り所に見たかんじだったけど、それだけでも十分元が取れるというのは三谷組のパフォーマンスの妙と安定感のなせるわざではある。
また、教科書からは推し量ることができない歴史上の人物のキャラクターに愛すべきコミカルな人間味を肉付けする三谷節のデフォルメの仕方もやはり魅力的で、戦国という修羅場に棲む者たちのロマンと打算が表裏をなす人間関係を濃密にあぶり出しているのはさすが。
なかでも特に大泉洋の秀吉と役所広司の勝家のハマりっぷりは特筆もので、今後秀吉と勝家の人物像はこの2人をイメージしちゃいそうw
あと、三法師擁立のキーパーソンが武田の血を残さんと執念に燃える松姫だったというところも三谷らしい人物の活かし方で上手いなぁと思った。
返すがえすも原作読むんじゃなかった・・(笑)。
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リンカーン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールド、デヴィッド・ストラザーン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ジェームズ・スペイダー、トミー・リー・ジョーンズ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
(2012年・アメリカ・150分)WOWOW
内容:南北戦争も4年目に入っていた1865年。再選を果たした大統領リンカーンは、奴隷制廃止を定めた合衆国憲法修正第13条の成立に向けて多数派工作に乗り出す。しかし一方、ドロ沼の南北戦争は和平を求める声も強くなり、憲法修正にこだわれば戦争終結を先延ばししなければならなくなってしまう。戦争終結か、奴隷制廃止か、ぎりぎりの選択を迫られるリンカーンだったが・・・。
評価★★★/65点
偉人の生涯を長ったらしく描いていく伝記映画が苦手な自分にとっては、リンカーンはヴァンパイアハンターだったという奇抜な話の方に食指が動いてしまうのだけどもw、今回の南北戦争終戦間近の数カ月に的を絞った構成は伝記映画としては奇抜なアプローチで新鮮ではあった。
しかもそこでひたすら描かれるのは奴隷制を恒久的に廃止するための憲法改正法案を成立させるためにあの手この手を使って行われる多数派工作というのはちょっと呆気にとられた。
しかし、学校で南北戦争を習った時は、北部は奴隷制廃止・保護貿易を旗印に、南部は奴隷制維持・自由貿易を旗印にというキーワードで暗記してた覚えがあるんだけど、奴隷解放が戦争の目的ではなく、あくまで手段でしかなかったこと、そしてそれを法制化することで手段から目的にしようとしたのが憲法修正第13条で、戦争終結=奴隷解放という単純な図式ではなかったことには目が点になった。
さらに、北部の共和党も一枚岩ではなく、奴隷を一気に解放すれば社会が混乱するので廃止しなくていいという考えの人もいたりして、結局リベラルだろうと動かしようのない白人至上主義がはびこっていたんだなといった、自分にとって知られざる歴史の舞台裏に触れられたのは勉強になった。
また、その中で唯一人間の尊厳のことを考えているように描かれていたリンカーンは、純粋な理想主義者という今まで抱いていたイメージと変わらない面を見せる一方、政治課題をクリアにするためには汚い手段に出ることも辞さないしたたかな顔も見せていて、なるほど「平和を実現するためには、犯罪まがいの脅しや、商人が利を追うような奔走といった人脂のべとつくような手練手管がいる。」と言った司馬遼太郎の言葉を思い出して得心がいった。
ただ、そうはいっても映画としては地味だったなぁ、という印象も強くて、国会中継に2時間半どころか20分も付き合ったことがない自分にとっては、見せ場といった見せ場のない室内劇は少々キツかったかな・・
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ガンジー
出演:ベン・キングスレー、キャンディス・バーゲン、ジョン・ギールグッド、マーティン・シーン、ダニエル・デイ・ルイス
監督:リチャード・アッテンボロー
(1982年・英/インド・188分)DVD
評価★★★/65点
内容:無抵抗主義を貫き、インドを独立に導いた指導者ガンジーの生涯を、壮大な映像で綴った伝記映画。1893年、インド人が人種差別を受けていた南アフリカで、イギリスの大学を出た青年弁護士ガンジーは、身分証明焼き捨て運動を始める。その後1915年、インドに帰ったガンジーは英雄として迎えられ、後の首相ネールら若者たちと全国を巡回し、インドの独立を志すのだった。。アカデミー作品賞ほか8部門で受賞。
“映画の冒頭で述べられたごとく、記録に忠実に描きその人の心をうかがい知るのみであるというこの映画のスタンスにおいてはひとまず成功している。”
実は自分は、一歩間違えると時系列ごとに対象となる人の一生をただなぞっただけの薄っぺらい記述に陥りやすい伝記映画というジャンル自体あまり好みではないのだが、3時間という長さにやや辟易しながら観たこの映画も、やはりそのそしりを免れ得ないという印象を抱いてしまった。
しかし、この作品、ガンジーの内面描写が大甘なかわりに、のべ30万人ともいわれるエキストラを動員して活写した圧倒的な行動描写によってガンジーの心をうかがい知るというレベルに到達させているのは伝記映画として一応成功しているといえるのではないかと思う。
将軍でも地主でもなく科学者や芸術家でもない、富も地位もない一個の人間として自らの信ずる精神を世に知らしめたガンジーの信念はやはり偉大だし、それに触れられたのは良かったと思う。
余談になるけど、DVDの特典にガンジー語録というのがあって、ガンジーの不滅の精神を表した崇高な言葉ばかりが並んでいたが、ただ1つ承服できかねるお言葉が・・・。
「人間は生きるために食べるべきであって、味覚を楽しむために食べてはならない」
えーーっ、グ、グルメ否定なんですか
ああ~、やっぱ自分はあなたほど善良な人間にはなれないです。。
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ヒトラー~最期の12日間~
出演:ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ララ、ユリアーネ・ケーラー
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
(2004年・独/伊・155分)WOWOW
内容:1945年4月、ヒトラーが地下壕の要塞で過ごした最期の12日間に焦点を当て、彼の個人秘書を務めたトラウドゥル・ユンゲの目を通して歴史的独裁者の知られざる側面を浮き彫りにしていく実録ドラマ。
評価★★★☆/70点
ヒトラーといえば、ヒトラーをコケにしまくったチャップリンの独壇場が痛快に響き渡る「チャップリンの独裁者」。また、チャップリン以上に不気味で毒気たっぷりのブラックさが異様なユーモアを醸し出し増幅させていたキューブリックの「博士の異常な愛情」を思い浮かべてしまう。
また、「シンドラーのリスト」ではユダヤ人全滅作戦という人類史上最凶の狂気と悲劇の元凶となり、「ライフ・イズ・ビューティフル」では美しい人生をいとも容易く破壊してしまう存在として描かれたヒトラー率いるナチス。
デビッド・フィンチャーの「セブン」では、図書館の貸し出し記録から犯人の足がつくわけだが、手掛かりとなりそうな本に「神曲」や「失楽園」と並んでヒトラーの「我が闘争」が挙げられ、この地上に降り立った悪魔のシンボルとして犯人が重ね合わされていたりもする。
はたまたミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」や痛快アクション群像劇「大脱走」から「インディ・ジョーンズ」に至るまで、まさに悪の記号として描かれてきたナチスドイツ。
そう、少なくとも自分はナチスというものをその内部から眺めた視線で描かれた作品というものに出会ったことがなかったし、ひたすら戯画化されてデフォルメされてきたヒトラーを真正面から見据えた作品にも出会ったことがなかった。
だから、戦後ずっと封印され続けてきた、いわばタブーに挑んだ今回のドイツ映画を見て、純粋に新鮮な興味と驚きをもって見てしまった。
徹底した禁酒・禁煙の菜食主義者でヒステリックで神経質な一見弱々しそうなジジイ、、またそのジジイが時おり見せる優しげな眼差し。
今まで人間性のかけらも見出すことさえタブーとされてきたであろうヒトラーに人間性の光が当てられていたのは正直驚いたし、それをドイツ自らが描いちゃったというのはどう理解すればいいのか。。
ドイツの過去の歴史の清算が広くヨーロッパで受け入れられているとみればいいのだろうか・・。
さらに、ナチスを内部から見た作品としても大変興味深く見ることができたのも確かで、そのぶざまな崩壊の過程で、今まで記号でしかなかったナチスの悪魔たちが人間性の光を異常なほど肉付けされていく情景と人間模様には思わず見入ってしまった。
そういう意味では非常に画期的で意義深い作品であるのはたしかだろう。
しかし、ベルリン市民が傷つくことなど全く意に介さない冷酷さと、逃げ惑い死体の山となる市民の映像が重なるにつけ、ユダヤ人大量虐殺と合わせ考えても、何がヒトラーを狂気の独裁者たらしめたのかがいまだに見えてこなかったのはちょっと怖かった。
ただこれだけは言えるだろう。
地下に引きこもり、その密室の机上で戦線図を眺めながら無意味な命令を叫びまくる愚かな姿は、戦争の狂気そのものであり、決して戦場へ出て行くことがない戦争指導者の脳内妄想につき合わされたあげく、割りを食って悲劇をみるのはいつも女子供や一般市民であり、駆り出された少年兵であり、兵隊にとられた若者たちなのだと。
しかもこれはナチスに限った話ではない。戦争を遂行する国すべてに言えることだ。
ふと「シン・レッド・ライン」に出てくるブチ切れながら無謀な命令を下しつづけるニック・ノルティ扮する鬼中佐を思い出してしまった・・・。
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太陽
出演:イッセー尾形、ロバート・ドーソン、佐野史郎、桃井かおり
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
(2005年・露/伊/仏/スイス・115分)盛岡フォーラム
評価★★★/65点
内容:1945年8月。疎開した皇后や皇太子らとも離れ、地下の防空壕か唯一の息抜きの場所である海洋生物研究所での生活を送る裕仁天皇は空襲の悪夢にうなされていた。しかし、敗戦が決定的となる中、御前会議では陸軍と海軍がああでもないこうでもないと息巻く。やがて、連合国占領軍総司令官ダグラス・マッカーサーとの会見の日がやって来る・・・。
“究極の不条理劇”
口をパクパクするだけのナマズと喜劇王チャップリンを足したキャラクターが実際の裕仁天皇その人だったのかは知るよしもないが、明らかにどこぞやのおとぎの国の道化か、はたまた裸の王様にしか見れない人物造型に正直ウププッと吹き出してしまうところだった・・・。いや、思わず笑っちゃったシーンもあったけど。。
日本人にはやんごとなきお方をこんな風に描くなんて到底想像の域を超えてるだろう。例えば、天皇の口の中は臭い!なんてことをフツーに描けちゃうというのはタブーの中のタブーだろう(笑)。
でも、子供の時分にテレビで見た80歳を越えた御老人はたしかにナマズに似ていたような気もするな。
でもホントこう言っちゃぁなんだけど、脳の回路のネジが2,3本吹っ飛んじゃってるようなオカシな人に見えかねないぞこれ。
しかし、一般国民の前に姿はおろか声を聞かせることさえせず(玉音放送で歴代天皇で史上初めて国民に天皇の声を聞かせた)、現人神として崇めたてまつられたいわば“肖像”として、人格はおろか人間性まで否定された中で生きていかなければならない“人間”=裕仁の悲哀がいやが上にも滲み出てくるという意味では、滑稽に過ぎる人物造型は的を射ているのかもしれない。
例えば「あ、そう。。」という呟きに象徴される、闇巣食う虚無の監獄に喰われてしまうかのような絶対的な孤独はよく伝わってくるし。
しかしだ。この作品。どこか心に引っかかりも覚えてしまう。
それは、最も多くの虚無を生み出すのは戦争だということに全く触れることさえしていないことだ。
天皇陛下バンザイ!と叫んで死んでいった兵士220万人、一面焼け野原と化した中で亡くなっていった一般市民110万人、そしてアジアの国々で2000万人が日本軍との戦闘で犠牲になった事実と、為政者としての責任問題を完全無視して、“早く人間になりた~~い”と願う妖怪人間べムばりに個人的問題に2時間ブッ続けで没頭していくことに何か消化不良なかんじも・・・。
どうせだったら、アメリカ大使公邸でロウソクをコップで消したり、楽しげに踊ったりするだけじゃなく、風船型の地球儀で遊べばよかったのに。「チャップリンの独裁者」のパロディとしては最高かつ衝撃のシチュエーションになっただろう(笑)。。
まぁこんなことロシア人に言ってもな。
天皇の問題というのは日本人自身の手で描かなければならない問題なのだから。
現人神から解放され人間になった、自由になった天皇は今現在日本国の象徴として位置づけられている。
しかし、時々テレビで天皇を見ると可哀想に見えてしまうことがある。“現人神”から“象徴”に変わったとはいえ、それは言葉のアヤだけが変わっただけのような。
“象徴”という名の囲いの中で生きていかなければならない“人間”。正直ツライものがあると思う・・・。
ま、いろいろ考えさせられた映画ではあった。
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