夢のシネマパラダイス157番シアター:日本の家族の風景
東京家族
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優、小林稔侍、風吹ジュン
監督・脚本:山田洋次
(2012年・松竹・146分)WOWOW
内容:瀬戸内の小島に暮らす老夫婦の平山周吉(橋爪功)ととみこ(吉行和子)は、久しぶりに子どもたちに会うために東京へやって来る。郊外で開業医を営む長男・幸一(西村雅彦)と、下町の商店街で美容院を営む長女・滋子(中嶋朋子)はそれぞれに家庭を持ち、日々の暮らしに追われている。そんな中、老夫婦の心配の種はいまだに独身でバイト暮らしのような生活をしている次男の昌次(妻夫木聡)のことだったが・・・。
評価★★★★★/90点
見てビックリした。
小津の東京物語の実質リメイク作といっても差し支えのないほど忠実にトレースしているとは思わなかったからだ。
しかもさらに驚くことに、そのトレースはオリジナルから60年後のスカイツリーそびえる東京を舞台とする中でも違和感なく受け入れられるほど馴染んでいて、東京物語が描いた家族というテーマが時代を軽く超越してしまうほど普遍的なものであることを今さらながらに思い知ったかんじだ。
小津ならではの朴訥なセリフ回しも最初はどうかなと思ったけど、言葉を大切にする山田節と良い意味でつながっていて良かったし。
さらに、この現代に置き換えた物語がすこぶる胸に突き刺さり心を揺さぶられることになろうとは自分でも驚いた。
いやいや、さらに驚いたのは三十路の自分が1番心に響いたのが、広島の小島から子供たちに会いに上京してきた老夫婦の所在なさだったということだ(笑)。
共感というよりは心がつまされたというべきだけど、横浜の高級ホテルに追いやられ部屋のベッドに2人でただ座って窓からじっと空を見上げるところとか、2人で手を取り合って歩く姿とか、なんか自分の親に重ねて見ちゃったのかもしれないけど泣けちゃったなぁ
かといって長男や長女が冷たい人間なわけではなく、親元から巣立って東京に出て家庭を作り懸命に生きている。自分は次男の昌次に近い年齢だけど、昌次だって自分の足で立ってしっかり生きていこうとしているわけで、それに比べていまだに親のスネかじりなパラサイトシングルの自分のなんと未熟なことか、、とメンタル落ちてしまった・・・。
さて、役者陣にも触れておきたい。
総じて女優陣の方が印象深かったけど、特に蒼井優のけなげさと中嶋朋子の悪気のない鬱陶しさが良かった。
ひとつツッコミどころがあるとしたら、やはり妻夫木と橋爪&吉行夫婦は親子には見えないこと。どう見ても祖父母と孫だろっていう
他には3.11を意図的にクローズアップしたり、最近の若いもんは~とか、この国をどげんかせんといかん!みたいな説教臭さがちょっと鼻につくこともあったけど、御年82の大おじいちゃん監督の小言と思えば気にならないww
ていうか82歳だよアータ!山田洋次ってホントにスゴイ。
家族の在り方と日本人の風景を一貫して描き続けてきた山田洋次だからこそできた現代版東京物語は深く心の奥に染み入ってきた。
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HOME 愛しの座敷わらし(2012年・東映・110分)WOWOW
監督:和泉聖治
出演:水谷豊、安田成美、橋本愛、濱田龍臣、草笛光子、高島礼子、石橋蓮司、宇津井健
内容:サラリーマンの父・晃一(水谷豊)の転勤で東京から岩手の田舎町に引っ越してきた高橋一家。しかし、新しい住まいは築200年の古民家で、都会暮らしに慣れていた妻の史子(安田成美)は不満タラタラ。中学生の長女(橋本愛)も学校生活に不安を覚え、小学生の長男(濱田龍臣)も持病のぜんそくでサッカーをやりたくても出来ない日々。おまけに同居する晃一の母親(草笛光子)には認知症の症状が現れ始め、家族の中にぎくしゃくした空気が淀んでいたが・・・。
評価★★★☆/70点
舞台が地元岩手、さらに岩手山とかジョイスとかステラモンテとか岩銀とかおそらく岩手県人にしか分からない見慣れた風景がわんさか出てくるとあれば点数も甘くなるというもの。
映画では滝田村となってたけど、たぶん滝沢村(現滝沢市)のことでしょ。盛岡と滝沢の境界に住んでる身としては嬉しいかぎり♪
ただ、あの古民家のロケ地は遠野だと思うし、そこに岩手山を背景合成して、設定としてはおそらく雫石方面、小岩井農場近辺なのかなぁってかんじはした。岩手高原スキー場が映ってたし、、というこれも岩手県人にしか分からない話ww
でも、実写版ジブリといってもいいくらい癒される映像美に収めてもらえるとは地元民としては嬉しいかぎりだし、こんな素晴らしい所に自分は住んでたんだぁと岩手の田舎の美しさを再認識した。
でも、あんな築200年の曲がり家に住んでる人なんて実際いるのかどうかは知らないけど、冬をあの家で越すのはマジ厳しいぞー!って思ってたら、冬を待たずにそそくさと出て行きやがってーッ
冬の厳しさを知らずにこれ見て田舎の暮らしはいいなぁとかって、見当違いもはなはだしいからな(笑)。この映画の舞台となった季節は夏から秋口という1番住み心地の良い時期だからね。
まるで東京人が岩手に古民家の別荘持ってて夏休みの間だけ楽しみに来たみたいなズルさを感じちゃったな
ていうか早く帰りすぎ
いやまぁ、ちょっとグチっちゃったけど、見てよかったと思える映画ではあったよw
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はじまりのみち
出演:加瀬亮、田中裕子、ユースケ・サンタマリア、濱田岳、斉木しげる、光石研、濱田マリ、大杉漣、宮崎あおい
監督・脚本:原恵一
(2013年・松竹・96分)WOWOW
内容:太平洋戦争のさなか、戦意高揚の国策映画を作ることを求められていた日本映画界に監督デビューした木下恵介。昭和19年に発表した「陸軍」のラストが女々しいと軍当局から批判を受け、以後の映画製作が出来なくなってしまった木下は、映画会社に辞表を提出し、失意のうちに実家の浜松へと戻る。しかし、そこにも空襲が及んでいたため、病気療養中の母親を連れて山間の村へ疎開することを決意。家族の反対を押し切り、母をリヤカーに乗せて徒歩で疎開先へ向かうことにするのだが・・・。
評価★★★★/80点
木下恵介監督のフィルモグラフィーを懇切丁寧に映し出し引用するのは映画としては反則技だと思うけど、親子の情の清らかな美しさと血も涙もない戦争への嫌悪という映画のテーマに則っていえば、この手法は正解だったというしかない。
少なくともその意図するところは非常によく伝わってきたと思う。
前者については、進軍ラッパとともに意気揚々と戦場へ向けて行進していく息子を母親が必死に追いかける「陸軍」のシーンと、息子が母親を乗せたリヤカーを戦火から逃れるために必死に引いていく今回の映画のシーンが対比としてうまく描き出されている。
また、後者についても、「新・喜びも悲しみも幾歳月」での海上保安庁の観覧式で息子の門出を見守る母親が「戦争に行く船じゃなくてよかった」とつぶやくシーンが、「陸軍」の行進シーンと合わせ鏡のようになっていて、監督木下恵介の戦争に対する一貫した姿勢がうかがえるものになっている。
劇映画としてみても、古き良き日本映画を思わせる佳品だったし、木下恵介入門映画としてみても見る価値がある作品だった。
とはいえ、この監督さんの映画ってほとんど見たことがないんだけど・・
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我が母の記
出演:役所広司、樹木希林、宮崎あおい、南果歩、キムラ緑子、ミムラ、三浦貴大、三國連太郎
監督・脚本:原田眞人
(2011年・松竹・118分)WOWOW
内容:人気作家の伊上洪作は、妻と3人の娘がいるが、亭主関白で厳格な家長として家族に接していた。そんな中、洪作の妹夫婦が面倒を見ていた母・八重を洪作が引き取ることになるが、夫を亡くして以来、認知症が出始めていた。さらに、幼少期、曽祖父の愛人に預けられ親元を離れて育てられた洪作は、母に捨てられたという複雑な感情をいまだに抱えていた・・・。
評価★★★☆/70点
1スジ2ヌケ3動作という言葉がある。
良い映画を作る条件で、1番目に大事なのはシナリオで、2番目が撮影、3番目が役者の演技ということなのだけど、この3つが完璧に揃った映画にはめったにお目にかかれるものではない。
しかし、この中の1つでも突出していれば映画としての面白さと見応えは格段に増すというもので、1スジでいえば三谷幸喜が真っ先に思い浮かぶ。
では2ヌケは?ということになると、ここに入ってくるのが原田眞人なのである。
群像劇を描ける数少ない映画監督である原田眞人は、特に室内における奥行きを意識した空間演出と、陰影に厚みを持たせた格調高い画作りが特色で、その中で3動作となる役者はまるであらかじめ決められた動線に従うかのような動きをする。自由を与えられているのはカメラだけで、その統制の取れた演出は歴史劇としての様式美と群像劇としてのダイナミックさが両立した骨太な舞台空間を生み出す。
そこで今回の映画を見ると、邸宅や別荘など比較的狭い空間を主としたホームドラマという点で新境地を開いていると思うのだけど、ここでも演出力が違和感なく発揮されているのは見所だし、予定調和に抗うかのような役者陣のアンサンブルは見事にハマっていたと思う。
しかし、2ヌケは完璧なのだけど、1スジが庶民には理解しにくい浮世離れした家庭環境なので感情移入しづらかったというのがあって・・。主人公の少年時代をもうちょっと多くカットバックしてくれてもよかった気がする。
まぁ、個人的にはセーラー服から喪服まで着こなしてしまう宮崎あおいを見れただけで十分だけどねww
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間宮兄弟
出演:佐々木蔵之介、塚地武雄、常盤貴子、沢尻エリカ、北川景子、戸田菜穂、中島みゆき
監督・脚本:森田芳光
(2006年・日本・119分)WOWOW
評価★★★☆/70点
内容:東京の下町のマンションで一緒に暮らしている間宮兄弟。兄・明信(佐々木蔵之介)はビール会社の商品開発研究員。弟・徹信(塚地武雄)は小学校の校務員。商店街を歩くときは必ずグリコじゃんけんをするような間柄の2人は、横浜ベイスターズの試合をスコアをつけながらテレビ観戦したり、ポップコーン片手にDVD観賞したり、紙飛行機を作って飛ばしたりといつも一緒に行動しては楽しく暮らしていた。で、2人に足りないものは恋人・・。そこで2人は、弟の働いている小学校の葛原先生(常盤貴子)と、兄の行きつけのレンタルビデオ屋のバイト店員・直美(沢尻エリカ)をカレーパーティに招くのだが・・・。
“中島みゆきのお腹の中から生まれてくるのは間違いなく間宮兄弟だ!”
パッと感想が思い浮かばないほどにつかみどころがなく、しかし今まで感じたことがないような魅力にあふれた、なんとも不思議な映画だった。
まるで移動図書館ばりに部屋の中をグルリと取り囲む本棚に整然と並べられたバラエティに富んだ本の数々から推測される趣味や興味の範囲の広さ、また、ちゃんとした定職に就きそこそこの社交性もあることから、この三十路の兄(佐々木蔵之介)と弟(塚地武雄)は電車男ばりの引きこもりアキバオタクというよりは雑学好きのインドア派ということができると思う。ただ、アフターファイブを兄弟2人っきりで過ごすというところが異様なだけで・・・。
しかも、その精神構造はまるで小学校5,6年生とでもいわんばかりの、性に目覚める前の少年といったかんじで、どこかほのぼのとした懐かしさを匂わせているところが、この映画の不思議な感触につながっているのだと思う。
例えば、兄弟があれこれクイズを出し合うところなんかは、まんま自分の小学生の頃を思い出したし。父親とよく登山に行ってたのだけど、下山するまで延々と親にクイズを出し続けてたもん(笑)。
そして、その少年がそのまま大人になったらどうなるか、しかも兄弟で、、というおとぎ話のような有り得なさを、有り得るぞこれはと思わせているのが中島みゆき
このキャスティング以外考えられない。
中島みゆきのお腹の中からだったらこの兄弟も生まれてくるだろという、いやこの兄弟以外生まれてこないだろ(笑)、うん。キャスティングの妙だね。
ストーリー展開としては女性にとってはイイ人どまりのモテない間宮兄弟の生態と失恋を描いていくのだけど、ネガティブではなく幸せな空気感に満ちた日常としてとらえていて、見る方としては妙な親近感がわいてしまう。
まぁ、自分も似たようなもんだけど・・・。
弟が自分で編集したMDを憧れの人妻に手渡そうとしたら、胸のファスナーを意味ありげに下げて「MDは聴かないの。」とipodを見せながら冷たくあしらわれてしまうシーンは自分にも痛かったなぁ。自分もMD編集するの大好きだからさ。
でも、モテなくても楽しもうと思えば日常は楽しめるんだ、と生きる勇気をもらった、かなw
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故郷(1972年・松竹・96分)BS
監督・脚本:山田洋次
出演:井川比佐志、倍賞千恵子、伊藤千秋、伊藤まゆみ、笠智衆、前田吟、渥美清
内容:瀬戸内海の小島で石船と呼ばれる小さな砕石運搬船を操り暮らしている石崎家。船長の精一と妻で機関長の民子、祖父の仙造と二人の子どもたち一家はささやかながらも幸せな日々を送っていた。しかし、工事の大規模化と造船技術の発展で小さな石船の仕事は割に合わなくなっていき、さらに建造から20年経つ石船の老エンジンの調子もどんどん悪くなってしまう・・・。
評価★★★★/80点
1978(昭和53)年生まれの自分は、山田洋次の撮る昭和の日本の風景を見ると、胸がキュッとしめつけられ郷愁に駆られてしまう。もうどうしようもないくらいに
自分のDNAにしっかと“昭和”が浸みついている証なのだろうけど、まだコンクリートに覆われていない土と木のある瀬戸内の島々から、それとは打って変わって都会の広島の街並みに至るまで日常風景の全てが胸に染み渡る。
映画公開から40数年。大都市への一極集中はますます強まり、過疎化はおろか地方消滅というセンセーショナルな言葉まで現実的に語られ始めている昨今。
「朝から晩まで汗水たらして働いて、何一つ悪いことしていないのに、どうしてこんな綺麗な故郷を出ていかなくてはならないのか。なぜみんな出ていっちゃうんだろうねぇ・・」という渥美清の言葉が忘れられない。
また、渥美清が良い仕事してるんだよねぇ
それにしても、あんな北朝鮮のボロ船みたいな木造船wで砕石を運んでたなんて驚きだけど、海にドバーッと落とす時の船の傾き方は異常だろww転覆するかと思った
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