夢のシネマパラダイス212番シアター:のぼうの城
墨攻
出演:アンディ・ラウ、アン・ソンギ、ワン・チーウェン、ファン・ビンビン、ウー・チーロン
監督・脚本:ジェイコブ・チャン
(2006年・中/日/香/韓・133分)盛岡フォーラム
評価★★★★/80点
内容:紀元前370年頃の中国戦国時代。猛将・巷淹中率いる趙の10万の大軍が、燕への侵攻の足がかりとして燕の国境付近にある梁城を包囲していた。落城寸前の梁城にいる住民はわずか4千人。そこで梁王は、守り抜くことにかけては天下一の“墨家”に援軍を求めるが、やって来たのは粗末な身なりの革離ただ一人だった・・・。
“久々に胸躍らせた骨太な歴史エンタメ”
まずもって城をめぐる攻防戦のみに特化し、なおかつこれだけ激しくこれだけ丹念にこれだけ機知に富んだ知略・兵法・戦術を張り巡らした戦いを130分間見せられた映画が今まであっただろうか。
と同時に、歴史の常とはいえ、普遍的とまでいえる人間の愚かさをこれだけ見事にすくい上げた映画もそうざらにはないだろう。
このての中国の歴史劇は近年毎年のように作られていて、「HERO英雄」(2002)から「the Myth神話」(2005)までいろいろあるが、ジャッキー・チェンの「the Myth神話」のトンでもぶりや、「PROMISE無極」(2005)でチャン・ドンゴンの今どきのアニメでもやらないだろというようなアラレちゃん走りを見せられたときにはさすがに辟易してしまって、今回ももしかしてこの流れか!?と不安だったのだけど、蓋を開けてみたら骨太な歴史エンタメになっていて、久々に胸躍らせることができた。
また、墨家の“兼愛”と“非攻”の思想と精神という、およそ非情な命のやり取りをする戦争・戦場とはかけ離れた特殊な要素が映画のキモになっているのも面白い。
「守りに徹し、1ヶ月持ちこたえれば趙はあきらめて帰っていくはず」と実戦経験のない兄ちゃんが何を悠長なこと言ってるんだ(笑)、と普通なら思うはずだけど、それを信頼するに足る威風堂々とした戦術家ぶりは見応えがあったし、革離=アンディ・ラウは見ていて純粋にカッコ良い。
ところで、この墨家だが、“兼愛”“非攻”というとなにかまるで憲法改変問題に揺れる憲法9条を想起させるけど、この映画を見るかぎりでは墨家の考え方や行動規範は、武力放棄や戦争放棄といった非戦ではなく、あくまで攻めてこられたら無条件降伏など言語道断、武力で徹底的に守るという専守防衛の思想のようだ。
これは自衛隊のあり方とも似ているけど、しかし大国の趙に雇われたら趙の城を守ると革離が断言しているように、革離はいわば傭兵ともいえるわけで、自衛隊というよりは戦争を請け負う民間の傭兵集団といった方がいいのかもしれない。
つまるところ、軍事アナリストかつ有能な指揮官という軍事のスペシャリストが同時に反戦活動家でもあるという、いわばキレイゴトを盾にした究極のエゴイストともいえちゃうわけで、そこらへんの自己矛盾をしっかり突いていたのも上手い作り方だったと思う。
また、弱肉強食の世界で強者の侵略から弱者を守り抜こうとする墨家・革離だが、しかし弱者の側の梁の中もエゴが充満していて、さらに梁王が目も当てられないような愚王で、一方エゴの論理で動く強者の側の将軍・巷淹中が話の通じる勇猛な名将として描かれているのも、いつの世も変わらない人間の愚かさをえぐり出すにはうまい対比だったといえよう。
墨家、、、高校の世界史で聞いたことがあるような記憶の片隅に残っていた単語だったけど、“兼愛”“非攻”という彼らの思想は、実力主義が入り乱れる戦乱の世でこそ生きるものだともいえるわけで、秦の天下統一とともに消滅してしまったというのは自然な流れだったのかもしれない。
かわりに強者・支配者の論理を根底から支えていくのが君主への忠義を説いた儒家だったのも当然の成り行きだったのかも。
ただ、グローバリズムという名の熾烈な弱肉強食世界の今この現代にこそ、墨家の思想に価値を見出せるのではないかと思うのは自分だけだろうか。。
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のぼうの城
出演:野村萬斎、榮倉奈々、成宮寛貴、山口智充、上地雄輔、山田孝之、平岳大、前田吟、尾野真千子、鈴木保奈美、夏八木勲、市村正親、佐藤浩市
監督:犬童一心
(2011年・東宝・145分)WOWOW
内容:天下統一を目前にした豊臣秀吉は、最後の砦となった北条・小田原攻めに乗り出す。支城が次々と落とされる中、、領民から「でくのぼう」略して「のぼう様」と呼ばれ親しまれていた城代の息子・成田長親が守る忍城にも石田三成の手勢2万が押し寄せていた。守備隊はわずか500しかいない絶対不利な状況。三成は利根川の水を用いた水攻めをしかけ開城を迫ってくるが・・・。
評価★★★/65点
エンディングで出てきた実物の史跡群を見て、やっぱりこれってホントにあった話なんだwと納得できたけど、エンタメとしてのダイナミックさと史実としてのリアリティの境界線というか立ち位置がイマイチつかみきれず、やや違和感を感じながら見てしまったかんじ。。
同じ篭城戦というシチュエーションでいえば中国映画の「墨攻」を思い起こすけど、切迫感やスケール感という点で今作は見劣りしてしまうし、500vs2万という絶対的な数の差も、佐藤浩市&山口智充の単騎無双で簡単に押しのけちゃっては映画の醍醐味に欠ける。
これだとただ単に三成の戦下手だけが強調されてしまって、まぁ実際そうなんだけどw、映画としてはイマイチだよねっていう・・。
まぁ、これは合戦の魅力というよりはキャラクタの魅力で押し通す映画なのだろうけど、その点でいえば野村萬斎は別格の存在感を見せていて映画に説得力を持たせていたのはたしか。
ただ、ここも難クセをつければ、のぼう様が戦するぞー!と決断すると農民たち下々の者が笑ってそれを受け入れてしまう、そのカリスマ性に担保となる描写力がほとんどなかったのは痛い。
バカ殿の真の裏の顔(例えばかつて甲斐姫が引き起こした騒動を丸く収めたことがあるというセリフだけで片付けられていたエピソード)をしっかり描くなりすれば理解が深まったと思うんだけど。
また、結局秀吉に召し取られてしまう甲斐姫(榮倉奈々)と長親との関係性もあっさりしすぎていてイマイチだったし。。
まぁ、歴史好きだけに気になる点はあったけど、終わってみれば無難なところに落ち着いた映画だったかな。うーん・・・w
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敦煌(1988年・日本・143分)NHK-BS
監督:佐藤純彌
出演:西田敏行、佐藤浩市、中川安奈、新藤栄作、原田大二郎、三田佳子、柄本明、田村高廣、渡瀬恒彦
内容:11世紀中国。未知の国・西夏に興味を持った青年・趙行徳は、西夏の女を助けたことで通行証を手に入れ、砂漠のシルクロードを進んでいた。途中で西夏の漢人部隊を率いる朱王礼に徴用された彼は、部隊が捕虜にしたウイグル国の王女ツルピアと出会い、互いに惹かれ合っていくが・・・。
評価★★★★/80点
小学校の頃から歴史や地理が好きで、大学で考古学を専攻するまでに至ったのだけど、歴史の中でも考古学の道を選んだルーツをたどっていくと、子供の頃に触れたインディアナ・ジョーンズとNHKスペシャルのシルクロード特集と今回の映画に行き着くのだと思う。
親にせがんでこの映画を劇場に見に行って、子供ごころにスケールの大きさに圧倒されたことはもちろん、三田佳子の妖艶な存在感にドキドキし、中川安奈のお姫様に胸をときめかせ、柄本明のたどる運命に心を打たれ、西田敏行の壮絶な野心に引き込まれた。
そして今回見直して、主人公なのに佐藤浩市が出ていることはすっかり忘れていた・・・(笑)。
しかし、“敦煌”という響きには今でも弱い。“壇密”と同じくらいの魅力的な響きがあるww
今でも敦煌というと、現代社会の時間軸から隔絶し、悠久の歴史の中にひっそりと佇んでいるというイメージがあるのだけど、果てなる西域の辺境にあり、シルクロードの東西交易の要衝というロケーションの魅力はもとより、そこを行き来し生きた人々の思いが今も砂の中に埋まっているのだと思うとロマンをかき立てられてしまうのだ。
朱王礼や漢人兵士たちが趙行徳から文字を教わり、自分の名前を書き残すことに強い興味を持つシーンが印象的だったけど、自分は何者であったのか、自分がここに生きていたという証を残すというのは、はてなき砂漠の中に消えゆく運命にある者にとってはこの上ない願いだったのだろう。
そして、そういう人々の夢や希望、祈りや願いの集合体がエネルギーとなり文化として残されていったのだ。
その上で主役になったのは歴史の中で語られぬ者たちなのだという映画の視点は切に正しい。
莫高窟の石窟の中に隙間なく積まれていた膨大な数の古文書、その砂の中に埋もれていた名もなき人々の熱き思いに胸を打たれた。
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PROMISE 無極(2005年・中/韓/日・124分)DVD
監督・脚本:チェン・カイコー
出演:真田広之、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、ニコラス・ツェー、リィウ・イエ
内容:戦乱の世で親を亡くし、行き倒れになった少女・傾城(セシリア・チャン)は、女神と全てを手に入れるかわりに、真実の愛を永遠に手放すという誓いを立て、やがて王妃の座についた。一方、王を支える大将軍・光明(真田広之)は、異常な脚力を持つ奴隷の男・崑崙(チャン・ドンゴン)を従者とし、北の公爵・無歓(ニコラス・ツェー)の反乱を鎮めに向かうのだが・・・。
評価★★☆/45点
「あなたがァズキだからーー、ジヌほどトゥきだからーーッ」と叫びながら壁面を爆走するチャン・ドンゴンを思い浮かべただけで思い出し笑いが止まらない・・ww
完全にこれっておバカ映画でB級の王道いってると思うのだけど、肝心の作り手は完全にA級だと意気込んでやってるところが何とも救いようがない。。
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ヘブン・アンド・アース(2003年・中国・118分)WOWOW
監督:ハー・ピン
出演:チアン・ウェン、中井貴一、ヴィッキー・チャオ、ワン・シュエチー
内容:紀元700年頃の中国。西域警備隊の隊長・李は、唐王朝最大の脅威である突厥の女子供を命令に背いて逃がしたため、逆賊となってしまう。これに対し皇帝は、13歳で遣唐使として唐に渡り、現在は直属の刺客として皇帝に仕える一人の日本人剣士・来栖に、25年ぶりの帰郷を許すかわりに李を討てと命令を下す。一方、その頃、李は天竺から皇帝へ献上する仏教聖典を運ぶキャラバンの護衛として長安を目指していた・・・。
評価★★/40点
“この映画にひとことアドバイスするなら、こう言いたい。”
落・ち・つ・け!
映画のペース配分が完全に狂っとるやんけ。
しかも、キャラの掘り下げが壊滅的に浅い。李隊長の部下なんて、せっかくご立派なお名前があるのに、それぞれ個性を際立たせて欲しかったのだけども。その方が物語に深みも出るのに。
来栖にしても同様。あれじゃ日本人である設定にする必要がないやろ。
終盤それなりに見れただけに、そこに至るまでのプロセスの描き方に難がありすぎてどーしょーもない・・。
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蒼き狼 地果て海尽きるまで(2006年・松竹・136分)WOWOW
監督:澤井信一郎
出演:反町隆史、菊川怜、若村麻由美、Ara、松山ケンイチ、榎木孝明、津川雅彦、松方弘樹
内容:部族間で激しい闘争が繰り返されていた12世紀末モンゴルで一躍頭角を現し、後に史上最大の帝国を築くことになる男チンギス・ハーンの生涯を描く歴史劇。
評価★★/40点
青々と広がる果てしなき平原はアラビアのロレンスの永遠に広がる砂漠を想起させるが、そこにはスペクタクルもなければロマンのかけらもなく、起伏もなければ変化もない。
エキストラ2万人を動員した絵づらの薄っぺらさはもはや奇跡的だ。
こんな駄作を見せられるくらいなら、源義経の北方伝説を描いた珍作の方がよっぽど見る価値があったと思う。。
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