そして父になる
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、二宮慶多、黄升炫、風吹ジュン、國村隼、樹木希林、夏八木勲
監督・脚本:是枝裕和
(2013年・日本・120分)WOWOW
内容:大手建設会社に勤め、都心の高級マンションで妻みどりと6歳の息子・慶多の3人で何不自由ない暮らしを送ってきた勝ち組エリートの野々宮良多。しかしそんなある日、病院から連絡があり、慶多が赤ん坊の時に取り違えられた他人の子だと告げられる。本当の息子は、群馬の小さな電器店を営む斎木家で育てられていた。両家族は戸惑いつつもお互いの息子を交換する方向で動き出すのだが・・・。
評価★★★★/80点
もし今まで大切に育ててきた我が子が実は血がつながっておらず、本当の子供は別にいるということが分かったら、、、あるいは今まで大切に育ててきてくれた両親が実の親でないことを知らされたら、、、自分ならどうするのだろう。
そういうifもしもをどの世代の視点から見ても突きつけられる映画というのはなかなかあるものではなく、良く出来た作品だと思う。
とにかく、いの一番にいえることはシナリオが抜群に上手いということだ。
レクサスと軽ワゴン、すき焼きとギョウザ、タワーマンションとおんぼろ商店、キャノンの一眼レフと安いデジカメ、勝ち組エリートと負け組ヤンキーという面白いくらいに対照的な2つの家族像。
両親が早くに離婚し継母に育てられたものの、いまだにお母さんと呼べないでいる良多と親とのぎくしゃくした関係性。
再婚したおり旦那の連れ子の子育てのストレスから犯行に及んだ看護師に良多の怒りの矛先が向かった時、その連れ子が「僕のお母さんだから」と守ろうとする姿。
「慶多の顔見て琉晴って名前つけたはずなのに、今じゃどっからどう見ても慶多って顔だもんなぁ」「人も馬も同じで血が大事なんだ」「愛せますよ。似てるとか似てないとか、そんなことにこだわってるのは子供とつながってるという実感のない男だけ」などのセリフの数々。
人物の設定からセリフに至るまで緻密に練られたシナリオが、親子の絆と愛情を担保するのは血のつながりなのか、それとも育った環境と一緒に過ごした時間なのかというテーマを常に考えさせるのに一役も二役も買って出ている。
また、独身貴族を謳歌する福山雅治を主役に据えたことで、より物語としてのフィクション性が強調されているし、いたずらに感情をあおらない淡々とした演出が、周到なシナリオが生み出すあざとさを巧く消している。
上手すぎて逆に心地良くなってしまう映画だ。
リリー・フランキーなんてあれは何なんだろう、地なのか!?と思わせる演技者としての巧さと懐の深さに脱帽してしまった。
今回の映画のテーマは答えが簡単に出るような問題ではないけど、「子供は時間だよ!子供は一緒にいてなんぼ!」ということに尽きるんじゃないかなと自分は感じた。
実際自分が親になったらまた違う視点でこの映画を見られるのかもしれない。その時にまた見てみようと思う。
-----------------------
かぞくのくに
出演:安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、大森立嗣、村上淳、宮崎美子、津嘉山正種
監督・脚本:ヤン・ヨンヒ
(2011年・日本・100分)WOWOW
内容:1970年代に16歳で帰国事業に参加して北朝鮮に移住したソンホが、病気治療のため3ヶ月の期限付きで25年ぶりに日本に帰ってきた。日本で生まれ自由に生きてきた妹のリエは、兄との再会を心待ちにしていたが、ソンホの隣には見知らぬ男性が監視役として同行していた・・・。
評価★★★★☆/85点
どんな映画が好き?ときかれたら自分は、例え人殺しをしようともどんなことをしてでも生き抜こうとする、その生への執着や必死さがにじみ出ている映画が好きだと答えるだろう。
しかし、これはどうだ。
生き抜くためには自分を押し殺して考えずにただ従うだけ、生き抜くことイコール思考停止という、、こんな虚しくて悲しい映画が他にあるだろうか。
そして、なぜ?という問いすら許されないような国で死ぬまで生きていかねばならない、そんな理不尽なことが現実にあるのだということに暫し絶句してしまった。
そもそも、北朝鮮の人がああいう形で日本にやって来るということだけでも目が点になってしまったけど、北に関してニュースで見ることといえば国家主席周辺のことだけで、市民レベルの実態が全く分からない中、日本のありふれた街が舞台になっていることで“遠い国”の悲劇がリアルなものとして伝わってきたように思う。
何度も言うようだけど、こんなことが実際にあるなんて、と驚くことばかりだった。
帰国事業のことも知らなければ、北と南と日本をルーツに持ち否応なく向き合わなければならない人たちがいることも知らなかった。
16歳で自分の意思とは関係なく北に渡ったソンホの絶望的な諦念と、北に家族を送らなければならないと決心させた親の苦悩、そしてその根底にあったであろう在日の被ってきた差別や貧困の歴史、そのどれもが自分の想像の域を超えたところにあって、なんだかこういう言い方もあれだけど、日本に日本人として生まれてきて良かったとつくづく思えた。
「どう生きるかたくさん考えて、納得しながら生きろ!誰にも指図されず自分の好きな所に行って、毎日感動してわがままに生きればいいんだよ。」
人間らしく生きるとはこういうことなんだというソンホの大切な妹へのメッセージは、恵まれた環境にいる自分に対するメッセージにも思えた。
それにしてもだ。何度も言うようだけど、こんな悲しい映画は見たことがない。
だからこそ多くの人に見てもらいたい映画だ。
-----------------------
ファミリー・ツリー
出演:ジョージ・クルーニー、シェイリーン・ウッドリー、アマラ・ミラー、ニック・クラウス、ボー・ブリッジス、ロバート・フォスター
監督・脚本:アレクサンダー・ペイン
(2011年・アメリカ・115分)WOWOW
内容:ハワイに暮らす弁護士のマット・キングは苦境に立たされていた。先祖から受け継いできた広大な土地の売却問題に直面していた矢先、妻のエリザベスがボート事故で意識不明の重体になってしまったのだ。家のことは任せきりだったマットは、情緒不安定の10歳の次女スコッティにどう接すればいいのか苦慮するばかり。さらに、高校生の長女アレックスから妻が浮気していたという思いもよらぬ事実を告げられる・・・。
評価★★★☆/70点
基本線はどこにでもある在り来たりな家族ドラマなのだけど、素朴で時間の流れ方がゆったりとしているハワイの大らかなロケーションが独特な味わい深さを醸し出していて、ある種心地良い映画になっていたと思う。
殺伐とした都会では感じにくい自分のルーツのたしかな感触、そしてそれを継承していくことの大切さがハワイの風通しの中に描かれているからこそ、主人公の家族の絆の再構築に説得力が生まれたのだと思う。
あとはなんといってもジョージ・クルーニーだろう。ドタバタ走りが様になっている愛すべきへタレ親父ぶりはドンピシャのはまり具合だった。
娘2人と娘のボーイフレンドも良かったし、安心して見ていられる良品だったな。
ただ、申し開きのできない妻だけはなんか可哀想だったけど・・。
-----------------------
幸せへのキセキ
出演:マット・デイモン、スカーレット・ヨハンソン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、パトリック・フュジット、エル・ファニング
監督・脚本:キャメロン・クロウ
(2011年・アメリカ・124分)WOWOW
内容:LAの新聞社に勤めていたベンジャミンは半年前に愛妻を亡くしたショックからいまだ立ち直れないでいたが、これではダメだと心機一転、新天地での再スタートを決意する。さっそく郊外に理想的な物件を見つけるが、そこは閉園中の動物園付きの超ワケアリ物件だった。周囲の反対を押し切って購入した彼は、思春期の息子ディランと幼い娘ロージーとともに移り住むのだったが・・・。
評価★★★☆/70点
バナナマン日村、動物園を買うw!とまではいかないまでも、この邦題の付け方ははっきりいってセンスないと思う。
まぁ、映画の中身の方はキャメロン・クロウだけにセンス有りだっただけに、将来、隠れた良作として紹介されてそう(笑)。
素人が動物園のオーナーになるという無謀なお話はユーモアたっぷりのドタバタ劇でも、あるいは奇跡と感動の押し売り作としても格好のネタだと思うのだけど、あくまで家族の再生ドラマを軸として飾り気なく描いているのがキャメロン・クロウのセンス。
観終わったあとの清々しい読後感はさすがの一言だ。
平凡な親父然が板についていたずんぐりむっくりのマット・デイモンも、胸元を隠し続けるスカヨハも新鮮味があって良かったし、あとはなんといってもエル・ファニングの奇跡的な輝きだろう。
「スーパーエイト」の時と変わらず、そのまばゆさは最高ですた
-----------------------
トウキョウソナタ(2008年・日本・119分)WOWOW
監督・脚本:黒沢清
出演:香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海、井川遥、津田寛治、児嶋一哉、役所広司
内容:東京に暮らす平凡な4人家族の佐々木家。ある日、サラリーマンの父・竜平がリストラされてしまう。その事実を家族にひた隠しにし、毎朝スーツで家を出ては公園などで時間をつぶす日々。一方、大学生の長男・貴は米軍に入隊、小学生の次男・健二は給食費を勝手に使ってピアノ教室に通う。そして母・恵も徐々に壊れていき・・・。
評価★★★/65点
10年ぶりに目覚めた男がバラバラになっていた家族を再生させようと四苦八苦する「ニンゲン合格」から10年。今度はごく普通に食卓を囲んでいた家族がいつの間にかバラバラになっていく様を描く。
会社からリストラされたことを家族に言えない父親というステロタイプな人物像は黒沢清らしくないけど、ゆえに家庭崩壊のドラマは絵に描いたようにオーソドックスで分かりやすい。
ただ、エゴをむき出しにした家族の内面のぶつかり合いは「ニンゲン合格」同様になく、彼らは秘密を抱えたまま何事もなかったかのように食卓に舞い戻ってくるだけだ。
家族とはそういうものなのだという一種シニカルな視点は少々肌に合わないけど、逆にいえばどんなに信頼をなくし落ちるとこまで落ちても切っても切れないのが家族の縁というのが逆説的にあらわになっていくのは面白い。
役所広司登場後から黒沢節がエスカレートして家族のバランス同様映画のバランスも難ありかなと思ったけど、ラストのあまりにも美しいピアノの旋律に上手くだまくらかされた気も・・・w
-----------------------
蛇イチゴ(2003年・日本・108分)NHK-BS
監督・脚本:西川美和
出演:宮迫博之、つみきみほ、平泉成、大谷直子、手塚とおる、寺島進、笑福亭松之助
内容:働き者の父、優しい母、ボケてはいるが明るい祖父、小学校教師の娘・倫子の平穏な明智家。だがある日、祖父が亡くなり、その葬式に10年間も行方知れずだった長男・周治が姿を現す。それをきっかけに一家の調和は乱れ始め・・・。
評価★★★★/75点
なんとこれが監督デビュー作である。オリジナルの作劇でここまでのクオリティの高さはスゴイの一言。
映画映画したいという新人ならではのフレッシュさが全くない落ち着き払った演出も驚きだけど、かといって重すぎることもなく気楽に見れるテイストにしてしまうセンスの良さはピカイチだ。
家族の平穏な日常がガタガタと音を立てて崩れ去っていく絶望的な状況でさえも親子でフラフープに興じれてしまったり、痴呆の義父が亡くなった途端テンションが上がって抑えきれなくなった嫁とか、随所にブラックなユーモアが散りばめられていて、その中で父とはこうあらねば、母はこうあらねば、娘は、、という家族を成す役割のタガが外れていくとともに本性が露わになっていく様は容赦がないけれども実に面白い。
甘い綺麗事を並べた建前で取り繕っていた一家の懐に毒々しい本音爆弾を落としまくる関西の親戚とか、面白おかしくというより思わず苦笑いしながら見てしまうというかんじだった。
そういうディテールのリアリティがこの映画を支えているのだけど、28歳でこれを撮れちゃうというのはやはりスゴイの一言。
ちなみに本物のヘビイチゴ。
花言葉は“可憐”で、その名の通り黄色くてかわいい花を咲かせるのだそう。でもイチゴのような実を食べてみると不味くて二度と食えたものじゃないってw
見た目と中身は全然違うという、ヘビイチゴなんて気の毒な名前は付けられるべくして付けられたのかもしれない。
毒を持ったヘビと甘~いイチゴ。題名の付け方もセンスありだ。
-----------------------
ホーホケキョ となりの山田くん(1999年・松竹・110分)WOWOW
監督・脚本:高畑勲
声の出演:朝丘雪路、益岡徹、荒木雅子、五十畑迅人、宇野なおみ、矢野顕子
内容:朝日新聞に連載されていた4コマ漫画「となりの山田くん」をジブリの高畑勲監督で映画化した作品。ごくありふれた山田家の人々が織り成す日常の日々を、松尾芭蕉・与謝蕪村・種田山頭火などの俳句を挟んで描いた家族の歳時記。
評価★★★/60点
21の時に映画館でこれ見たときはツマンネーってグチってたけど、あれから14年。
なかなか面白かった(笑)。
中年のオッサンになって家庭というものに憧憬を抱いているせいなのか、日曜夜にサザエさんを見なくなって長いこと経つ自分が久々に古き良き家族像に触れて懐かしさを覚えたからなのか。。
いや、まぁただ単に自分が年くっただけなんだけどね・・
ただ、4コマ漫画のテンポを長編映画に置換することに上手く成功しているとはいえ、やはりこれを100分以上の尺で見るにはどうしてもしんどくなってくるのはたしか。ペーソスとほのぼの感だけでは45分が限界だな。
ま、こういうのは藤原先生の言う通り、“適っ当”に見るのがいいのかもしれない(笑)。
最近のコメント