オーバーフェンス
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、優香
監督:山下敦弘
(2016年・日本・112分)WOWOW
内容:函館の職業訓練校に通っている白岩は、妻子と別れてすっかり生きる意味を見失っていた。そんなある日、路上でダチョウの求愛行動の真似をしている女を見かける。その後、ホステスをしている彼女・聡とキャバクラで再会し、そのままベッドを共にするのだが・・・。
評価★★★★/75点
理想の結婚相手が蒼井優、特に山田洋次の映画に出てくる蒼井優である自分にとって、タバコすっぱーな直情径行キャバ嬢という今回の役どころはかなり新鮮。
また、「花とアリス」「フラガール」といえば蒼井優のバレエ&ダンスシーンを想起するほど鮮烈な印象を残している中で、今回のダチョウ求愛ダンスはめちゃくちゃ強烈。ましてやヌード(後ろ姿だけだったが)まで披露しているのだから、いつもとは違う情緒不安定な蒼井優を見れただけでもこの映画を見た価値は大いにあったというべき。
映画自体も佐藤泰志原作の函館三部作ということで、灰色のどんより空のオープニングからして暗いんだろうなぁと気構えて見たけど、ラストがスカッとした青空だったこともあって読後感は良かった。
まぁ、自分自身若い頃は、フツーに仕事してフツーに結婚してフツーに父親になって、そんなフツーな人生を歩んでいくんだろうなと漠然と思ってたけど、いつまで経ってもそのフツーな人生のルールに乗っかれない中で、地方のやるせない現実に押しつぶされて30代後半で地元を捨てて逃げるように上京するに至った者としては、いろいろ心に突き刺さってくるものはあったw
「この先面白いことなんて何もない」「失うものなんて何もない」とか上京前に自分にドンピシャで重なるセリフが胸に響いて切なくなったなぁ・・。
いつか自分もフェンス越えのホームラン打ちたい!
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そこのみにて光輝く
出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子、田村泰二郎、あがた森魚
監督:呉美保
(2013年・日本・120分)WOWOW
内容:職場の採石場の事故で同僚を死なせてしまい、仕事を辞めて投げやりな毎日を送る達夫。ある日、パチンコ屋で知り合いになった前科持ちの拓児の住むバラック家で彼の姉・千夏と出会う。彼女は、寝たきりの父親に代わって家計を支えるために夜の店で売春までし、さらに仮釈放中の拓児の保証人である中島とも関係を強要されていた。自分の人生をとうに諦めている千夏に想いを寄せる達夫は、彼女と所帯を持ち採石場に戻る決心をするのだが・・・。
評価★★★★/75点
北海道の函館が舞台なのに冬の情景を描かないのはすごくもったいないなぁと思ったんだけど、気だるい夏の残照よりも物憂げな冬の陽光の方が合っているような気がしたし。ていうか鉱山って途中までここって九州?と思ってたくらいだから
ただ、原作が「海炭市叙景」の人と同じということで、生きることがまるで虚無に喰われてしまうかのように逃れようのない悲しみにとらわれてしまう閉塞感は痛いほどよく描けていて納得はできたけど。
しかし、この映画を語る上でそういう情景や演出はささいなことに過ぎないだろう。
なによりもこの映画は役者の力につきる。
主人公の綾野剛ももちろん素晴らしかったけど、虚無の充満する対岸に渡ってしまい、そこから傍観しているだけの主人公よりも、此岸の崖っぷちに踏みとどまって、どうしようもないけどもがくように生を営むしかない池脇千鶴、菅田将暉、高橋和也の3人の方が断然強烈なインパクトを残す。
特に「ジョゼと虎と魚たち」でもそうだったけど、濡れ場で乳首をしっかり見せられる体を張った演技のできる女優さんってエロ目線抜きにして稀少だし女優魂を感じられて引き込まれてしまった。
あと、全くの想定外だったのが菅田将暉の怪演だ。育ちの悪さとガラスのような純粋さを完璧に演じきった凄さに瞠目しっぱなし。正直自分の中でまだ知名度高くなかったんだけど、これで完全に脳にインプットされた。
しかし、海炭市叙景といい今回の映画といい、こうなったらもう函館行くしかないなw
Posted at 2015.3.12
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海炭市叙景
出演:谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、南果歩、小林薫
監督:熊切和嘉
(2010年・日本・152分)WOWOW
内容:造船所をリストラされた青年とその妹。再開発地区にただ一軒残る古い家に住み、立ち退きを拒みつづける老婆。水商売の仕事を始めた妻との溝が深まるばかりの夫。家業のガス屋を継いだものの事業が行き詰まり苛立ちを募らせる夫と、夫の不倫を知る妻。東京で暮らす息子と再会する路面電車の運転手。北の港町、海炭市に暮らす人々の冬の情景を綴ったオムニバス。
評価★★★★/80点
尋常ではない既視感だ。
画面を自分が横切ったとしても何ら違和感がない情景。
これは自分の住む町ではないか。
東北の片田舎に暮らす自分だけではない、多くの成長することを止めた地方都市に共通するであろう既視感。
しかし、そこにはノスタルジーの欠片など何ひとつない。
しんしんと身に染みてくる師走の寒々しい空気の中に何か決定的なものが失われてしまった喪失感が満ち満ちているだけだ。
それは、変わりゆく街並みと時代の中で、置いてけぼりにされた日常にいつのまにか染みついてしまったやり場のない悲しみや苦しみだ。
それを振り払うためには今ある日常を捨てて出て行くしかないのかもしれないが、彼らはそこから逃れることができない。あるいはその自由がありながら逃れようとしない。
そのある種のあきらめこそが閉塞感を生み出していくゆえんなのだろうが、故郷という土地にがんじがらめになりながらもそこで生活を営みつづけるとはそういうことなのかもしれない。
優しく温かく懐かしく思いを馳せる代名詞ともいえる故郷とはかくも残酷なものだったのか。
日々流されている日々の中で見ないようにしていることを俯瞰でジィーッと見せられているようなかんじがして気が気ではなかった・・。
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ジョゼと虎と魚たち
出演:妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里、新屋英子、新井浩文
監督:犬童一心
(2004年・日本・116分)仙台フォーラム
評価★★★☆/70点
内容:雀荘でアルバイトをしている大学生の恒夫がある日、オーナーの犬を散歩させていると、我が目を疑うようなモノを目撃してしまう。いきなり坂の上から乳母車が爆走してきて、ガードレールに激突!しかもその乳母車に乗っていたのは包丁を片手に握り締めた19,20歳と思われる女のコだった。。自らをジョゼと名乗る彼女は生まれつき足が不自由で、外に出るときはいつも乳母車に乗って祖母に押してもらっているのだという。こうして出会った2人はやがて恋に落ちていくが・・・。
“とにかく腹減った。。”
サルモネラ菌入り!?のダシ巻き卵とモリモリご飯とワカメいっぱいお味噌汁と匂いプンプン焼き魚。セフレとヤッた後にツネオが自分で作って食べる妙にからまったスパゲティミートソース。
ジョゼが椅子からダイブする音、押し入れの戸を閉める音、八つ当たりで投げた本がガラス窓に当たる音、かなえにビンタされる音。
ジョゼの小ぶりのおっぱい。
風を切る乳母車。ジョゼの重さ。ツネオがジョゼの目にかかった前髪をかき分けてやる仕草。
これらホンモノたち。
乳母車が坂道から転がり落ちてくるありえねー、学食でフェラの真似する女のコありえねー、何よりツネオみたいな奴とジョゼが付き合うこと自体ありえねー、ラストでかなえの前で泣くツネオありえねー、ついでに板尾創路の異様ビミョーな存在感も、、そんなありえねーことがホンモノたちを前にすると極めて従順になってしまうのがこの映画の凄んげぇところ。
しかし、ちょっと見ていて実にイタイというか。ツネオと自分が妙に重なってしまってなんだか見てるのがイヤになってしまった。
ホンモノたちに良くも悪くもやられちゃったな。
自分自身、過去のことを良い思い出として回想できるくらいの心の余裕ができたときにまた見てみたいです。
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