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2013年4月28日 (日)

夢のシネマパラダイス266番シアター:邦画ミステリーシアター傑作選

悪人

Img_135832_19444962_0 出演:妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、余貴美子、井川比佐志、樹木希林、柄本明

監督:李相日

(2010年・東宝・139分)WOWOW

内容:長崎。土木作業員として働き、年老いた祖父母の世話をしながら味気ない日々を過ごす清水祐一。出会い系サイトで知り合った福岡の保険外交員・石橋佳乃とカタチだけの交際を続けていたが、ある朝、山深い峠で佳乃の他殺体が発見される。捜査線上に浮上したのは福岡の大学生・増尾圭吾だった。そんな中、祐一のもとに一通のメールが届く。それは、同じサイトを通じてメールのやり取りをしたことのある佐賀の女性・馬込光代からのものだった。孤独に押しつぶされそうな毎日を送る2人は引き寄せられるように出会うのだが・・・。

評価★★★☆/70点

WOWOWで録画してから1年以上ほったらかしにしていた映画である

毎日考えることが多すぎて、その中でこんな重たそうな映画見たら頭がパンクしてしまうんじゃないかと躊躇しているうちに時が経ってしまい・・。

そして1年以上経ったある日、覚悟を決めて見たわけだけど、、フタを開けてみたら、アレッ!?と思うほど心も頭の中も揺り動かされることがなく、すんなりと見れてしまった。もっと難しい映画なのかと身構えていたけど、有り体にいえばフツーの映画だった。

それは映画としての凄みに欠けるというか映画的飛躍に乏しいというか・・・。まぁ、勝手に敷居を上げてしまった自分も自分なのだけど、至極真面目な映画だったなと。

とはいえ、見応えがなかったかといえばそういうわけではない。

例えば「あの国道を行ったり来たりしてきただけで、アタシの人生ってこの国道から全然離れんやったとよね。」と言う光代の心象風景、彼女の抱える孤独、また小さな田舎町のロケーションとともに描かれる祐一の人生の選択の余地の無さなどかなりシンクロして感じられたし、“その人の幸せな様子を思うだけで自分まで嬉しくなってくるような大切な人はいるのか”という問いかけは切実に心に響いた。

悪人という題名が大仰に感じられるほどこの映画で描かれる人物はごくごく普通の人々だと思うのだけど、誰もが少なからず持つ小さな悪意や虚栄心、儚い欲望が希薄な人間関係の中で増幅され、ひとつの事件に集約されていくさまはよく描けていると思う。

しかし、そういう外枠をただ誠実になぞっていくだけで、そこをさらに突き抜けていくような映画的飛躍に乏しかったのがフツーの映画だと感じてしまった理由なのかもしれない。

その映画的飛躍とは、人物については感情の飛躍、演出については省略の妙といいかえることができようが、光代にしろ祐一にしろその感情自体が無表情の奥底にしまわれていることが多いため行動原理がなかなか分かりづらく、閉塞した日々の中で澱のように溜まっていく鬱屈した感情がドボドボとあふれ出てくることはついぞなかった。

別に灯台から眼前の海に向かってバカヤロー!と叫べとはいわないけどw、感情の揺らぎや魂の叫びをもっと感じさせてほしかった。

あと、この映画は人物の関係性の経緯や背景などかなり省略している部分があって、藪から棒に感じてしまうところがあったのだけど、アッと驚くインパクトを与え観る側の想像力をかき立てるような省略の妙になっていないのはイタかった。

しかし役者陣は特筆に価する出来だったし、決して悪い映画ではない。

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飢餓海峡

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出演:三國連太郎、左幸子、高倉健、伴淳三郎、三井弘次、加藤嘉、沢村貞子、藤田進

監督:内田吐夢

(1964年・東映・183分)DVD

評価★★★★☆/85点

内容:1946年、函館を襲った台風により洞爺丸が沈没。500人以上の命が犠牲になったが、収容された遺体は乗船名簿より2名多かった。同じ頃、岩内町では質屋一家が殺されるという事件が起きていた。10年後、犯人の犬飼は事業家として成功していたが、犯行直後に下北で金を与えた遊女が彼を訪ねて来たため、犯罪の露見を恐れて遊女を殺害してしまう・・・。日本人を覆う飢餓状況を象徴する、という意図によってわざとモノクロの16ミリフィルムを使用し、さまざまな映像処理を駆使して心理の陰影を巧みに表現した、内田吐夢の代表作。

“握り飯を必死で頬張る姿と荒んだ画にリアリティがあった時代。またその鬼気迫る姿をスクリーンに焼き付けられる役者がいた時代。この映画のリメイクができる時代に、今はない。”

メル・ギブソン監督作「パッション」のレビューで自分は次のように書いたことがある。

あなたはどんな映画が好きかと訊かれたら自分は間違いなくこう答えるだろう、、、ぶっちゃけ人殺しをしようが何をしようがとにかく生への執着、生きることへの必死さ、そういう思いが伝わってくる映画を観るのが最も好きだと、、、、。

その観点からいうと、この「飢餓海峡」はまさにそれに当てはまる自分好みの映画だ。

犬飼、弓坂、八重、三者三様の執念、執着が16ミリ白黒フィルムにものの見事に焼き付けられている。そして今の日本映画にはない何か言葉では表すことのできない凄みが画面全体にみなぎっているのだ。

それはもはや戦後ではないと言われながらも、いまだそこに取り残された人々がいてもがき苦しんでいた時代性、ウチのオカンに昔の三國連太郎はギトギトしていて嫌いだったと言わせしめた怪演ぶり、また伴淳の名演を引き出し高倉健を見出した内田吐夢の演出と作家性、それらが渾然一体となって画面から迫ってくる。

それは既に冒頭の荒れ狂う波の描写で如実に表れていたのではないだろうか。

凄い日本映画だと思う。いや、思うというよりは体感したと言った方が正しいだろう。

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事件(1978年・松竹・138分)WOWOW

 監督:野村芳太郎

 出演:松坂慶子、永島敏行、大竹しのぶ、渡瀬恒彦、佐分利信、丹波哲郎、北林谷栄、乙羽信子、森繁久彌

 内容:厚木の山林でスナックを経営していた坂井ハツ子(松坂慶子)の刺殺体が発見された。容疑者として被害者の妹・ヨシ子(大竹しのぶ)と同棲していた19歳の工員・上田宏(永島敏行)が逮捕される。宏は殺しの事実は認めたが、殺意の有無をめぐって検察、弁護双方が法廷で激しく争う。公判は二転三転していくが、やがて思わぬ事件の真相が明らかにされていく・・・。

評価★★★★/80点

オイラが寅さん映画が好きなのはなぜか、もとい山田洋次の映画全般が好きなのはなぜか。

それはつまるところ昭和という時代の空気、香り、匂いが画面いっぱいに滲み出ているからだ。

風景が時代を証言するということであるならば、昭和の風景を余すところなく切り取った監督というのは山田洋次をおいて他にはいないのではなかろうか。

しかし、その山田洋次が師事を受けた野村芳太郎もまた昭和の風景を色濃く映し出した監督といえるだろう。

昭和の温かさだけではない暗さ、哀しさといった負の側面をも強烈に焼き付け、その不快指数濃度は相当に濃い。

家族と人情が売りの山田洋次とサスペンスと愛憎が売りの野村芳太郎、温かな風景と湿り気のある風景、両者を見比べてみるのも面白いかもしれない。

そういう視点で今回の作品を見ると、ヘリの空撮にかぶさる印象的なテーマ曲から幕を開けるオープニングからして一気に引きずり込まれてしまうくらい強烈な昭和臭にもうクッラクラ。

ちょうどこの映画が公開された年に生まれた自分のDNAにねっとりと張り付いてくるような懐かしい香りに瞬時にとりつかれてしまった。

そしてその中で繰り広げられる法廷劇にいち傍聴人としてただただ見入るばかり。しかして法廷劇といっても、そこにあるのは感情の入り込む余地のないコトバで埋めつくされた冷徹なまでの“理”と、男と女あるいは女と女の複雑に絡み合ったコトバでは語りきれない“情”のえげつない対峙だ。

そしてそのせめぎ合いの中で検察が作り上げた理路整然とした辻褄が実は隠匿、歪曲、誇張されたものであることが明るみになっていき、“藪の中”から真実が顔を出していく過程はすこぶる面白い。

また一方では、“藪の中”をかき分けていく証人の証言の裏にも意図的な誇張、ウソが隠されていることを赤裸々に描き出しているのがこの映画のミソでもあり、法廷劇を一筋縄ではいかないものにしている。

「地球は女で回ってる」ていうウディ・アレンの映画もあったけど、歴史の裏に女ありってのはホントなんだなww

複雑に絡み合った男女の心理のあや、、こんなの裁判員制度で裁けるのかよーっ

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ゆれる

Wfryawzfwl 出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、木村祐一、蟹江敬三

監督・脚本:西川美和

(2006年・日本・119分)2007/04/11・盛岡フォーラム

評価★★★★/80点

内容:東京で写真家として忙しい日々を送る弟・猛(オダジョー)は、母の葬式に出られず、一周忌になってようやく帰郷してきた。が、父親(伊武雅刀)とは事あるごとに折り合いが悪く、ガソリンスタンドを経営する温厚な兄・稔(香川照之)がいつも間に入って2人の仲をとりもっていた。そんなある日、兄弟はガソリンスタンドで働く幼なじみの智恵子(真木よう子)と3人で近くの渓谷に出かける。ところが、川にかかる吊り橋で稔と一緒に歩いていた智恵子が下の渓流に転落死してしまう。当初は事故と思われたが、稔の突然の自供により裁判が始まることに。猛は弁護士である伯父(蟹江敬三)を立てて、兄の無実を晴らそうと努めるが、兄は猛にこれまでとは別人のような一面を見せ始め・・・。

“偏差値は異常に高くて上手すぎるくらいに上手い映画だが、あまりにも西川美和の作り上げた世界観が理路整然としていて、その計算高さが垣間見えてしまうのが逆に鼻についてしまう、、とイジワルな見方をしちゃいたいくらい完璧な作品。”

荒戸源次郎の「赤目四十八瀧心中未遂」(2003)のような人間の心のひだを深くえぐるような映画に1年に1本は出会いたい者としては、オリジナル脚本でなおかつ完成度が非常に高い非の打ちどころのない出来栄えの映画を見ることができたのは素直にうれしい。

登場人物の心のゆれが、映画を観る側にまで伝播してくるプロセスには舌を巻くばかりだ。

脚本を書き下ろして小説にまでしてしまう西川美和監督の底知れぬ才能は、SEXシーンの撮り方ひとつとっても推して知るべしだが、彼女の構築した完璧な世界観にものの見事に応えた香川照之&オダギリジョーのセンスにも脱帽する以外にない。

最初は兄弟に見えないほど背格好はもちろん性格も対照的な誠実な兄・稔と自由人の弟・猛の人物造型。

その陰と陽の関係性が次第に合わせ鏡のように反転していくのを見せられるのは兄弟がいる自分にとっては何か見透かされているようで、うすら寒い思いもしてしまったが、ラストで「兄ちゃん!一緒に家に帰ろう!」と叫ぶに至る弟・猛の心のゆれ、そして兄・稔のラストの微笑によって、ああやっぱり正真正銘の兄弟なんだと心震わせながら納得させられてしまい、余韻がいつまでも尾を引く。

なんともスゴイ映画だと思う。

が、そこであえて物足りないところを言わさせてもらえば、全く穴のないシナリオ、全くブレることのない演出がそれこそ神の意図でつくられた試行錯誤の一切ない設計図のように見え、その図面上で現実が理路整然と組み立てられていくさまは、恐ろしいくらいに“ゆれる”ことがない。

観る側の心をゆれさせると書いておいて何か矛盾しているようだが、これだけ“ゆれる”ことがない映画も珍しいのではないか。

ここでいう“ゆれる”とは、監督のこの映画に向かう姿勢の軸とでもいえばいいだろうか。まったくブレがなくて、あれこれ悩むことなくパズルを一片一片手際よくはめこんでいくのだ。

しかも、そこにあるのはきちっとした“理”であり、“情”はほとんど感じられない。

この映画は“情”を排した“理”で作られた映画だと思う。

パーフェクトたる所以はそこにあると思うのだが、どうもそれが垣間見えてつまらなさを感じてしまうというか・・。すごいイジワルな見方なのだけど。。

ただ例えば西川美和自身のオリジナル脚本じゃなくて、出来合いの原作やシナリオをもとに撮った彼女の映画というのもいったいどういう風になるのか見てみたい気がする。

高く重ねられた積み木を引っこ抜いていって上に再構築していき、崩れたら負けというバランスゲーム“ジェンガ”のごとく、出来合いの世界観を自分色に染めていく過程で様々な取捨選択に直面するはずで、そこで“ゆれ”が生じてくるはずなのだが、、、それでもなお“理”で映画を作れるのだとしたらこの人は正真正銘のバケモノだな。

いずれにせよ、オイラは完全にこの人のとりこになってます。。

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赤目四十八瀧心中未遂

Asinb0007g8dlk出演:大西滝次郎、寺島しのぶ、新井浩文、大森南朋、大楠道代、内田裕也

監督:荒戸源次郎

(2003年・日本・159分)2004/04/29・仙台フォーラム

評価★★★☆/70点

内容:生島与一は、人生に絶望し、この世に自分の居場所はないと思い定め、尼崎に流れ着いた。焼き鳥屋の女主人である勢子姐さんに、臓物を捌いて串にモツを刺す仕事をあてがわれ、娼婦や刺青師など不気味な住人たちが暮らす古いアパートの4畳半の部屋を世話された与一は、来る日も来る日も部屋にこもって作業をする。そんなある日、同じアパートに住む女・綾が現れる。彼女に惹かれた与一は、やがて、この世の外へ連れて行ってと言う綾に誘われて死出の旅路へと向かっていく・・・。

“北野映画+湿気90%+均整の崩れかかった女の肢体”

いや、完全な肥満女も出てきたんだけど。。

それはともかくとして、とにかく息を潜めてジィッと見入ってしまったこの映画。

日の光の当たらない四畳半のアパートの一室で、無言で臓物を捌き串に刺し続ける男。

たとえそのシーンだけが延々とスクリーンに映され続けたとしても、おそらく息を潜めながら異様な怪しい空間を凝視しつづけてしまったことだろう。

自分がパンパンだったという過去を吐露する寂しくも強い女、人生の十字架を背負っているからこそ「隠すということは、ツライことや」「お前はこんなとこでこんなことをしてる人間じゃない」という言葉をサラリと言ってのけることができる女性。蜜柑の皮を灰皿がわりに、生ける言葉たちを味わい深く語り続けるこの勢子姐さんが延々スクリーンに映され続けたとしても、間違いなく耳を傾けつづけてしまったことだろう。

生島の部屋に牛豚の臓物の塊の入った袋を無造作に置きに来ては無言で生島のことを睨みつづける男、その男の顔が延々スクリーンに映され続けたとしても、男の眼力から目をそらすことができなかったことだろう。

異世界、尼の門番をつとめる刺青師・彫眉がボロ食堂で酒を飲んでいる姿が延々スクリーンに映され続けたとしても、この門番の発する尋常ではないオーラにどこまでも引きずり込まれてしまったことだろう。

迦陵頻伽を身にまとった女、人間の皮をかぶった獣にもなれば夢うつつの幻想的な蝶にもなる女・綾の均整の崩れかかり始めている裸体、そして生島を時にはあざ笑うかのような、時にはじぃっと見定めるような目が延々スクリーンに映され続けたとしても、決して目をそらすことはできなかっただろう。

正直物語はどうでもいい。というか自分の頭では理解しがたい。

とにかく異世界の底の底にある尼とその住人たちから一時も目を離すことができなかった。

それだけでもう十分だろう。

しかしそれゆえか、尼から一歩出た生島と綾の2人の道行きの道程はどこからどう見ても正常な世界であるわけで、一気に憂いの国から引き戻されてしまったかんじで、ふと我に返って何見てたんだっけオレ、、と少々お寒くなってしまった。

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復讐するは我にあり(1979年・松竹・140分)WOWOW

 監督:今村昌平

 出演:緒形拳、小川真由美、三國連太郎、倍賞美津子、清川虹子、白川和子、殿山泰司

評価★★★★/85点

内容:5人を殺害した後全国を逃走した稀代の殺人鬼・西口彰の半生を描き、1975年下期の直木賞を受賞した佐木隆三のノンフィクション小説の映画化。九州の日豊本線の築橋駅近くで、車でたばこの集金に回っていた2人の男が惨殺され、現金41万円が奪われた。犯人はたばこの配送に従事していた運転手の榎津という流れ者で、警察に追われた彼は、宇高連絡線の甲板から投身自殺を装い、姿を消す。浜松、千葉と転々としながら殺人や詐欺を繰り返す榎津は、浜松へ戻って旅館経営者の女性の情夫となるが・・・。

“今村昌平はやっぱりこうでなくっちゃ。”

榎津のアパートの部屋の襖に貼ってある色褪せたヌードのピンナップ。

よどんだ川べりに引っかかっているドジョウの死骸。

閉めても勝手に開いてくる爺さんの死体が入っている古びた箪笥の戸。

金づちと釘。

細かいところまでが異様に生々しくそしてどぎつい。

しかも多分に重要な要素となるはずのカラーが、この映画ではほとんど印象に残らない。

観終わってから数日経ってふと思い返してみると、あれっ?白黒映画だったっけ?と思ってしまうくらい暗く陰鬱だ。

教授の名を騙って泊まっていた宿の2階の部屋のごとく、昼でも明かりをつけないとダメなような、そんな陰鬱さがこの映画を支配している色であり、徹底して陰影にこだわっているそんな映画なのだ。

なのに生々しい、、そしてどぎつい。

それはひとえにみなぎる生と性を一貫して描き続けてきた監督今村昌平のなせる業である。

しかもその中で描かれる本質というのは、みなぎる生と性の裏側にある人間の生態のグロテスクさと、人間の内に持つ醜悪さといった暗黒面である。

それが例えばブラックユーモアとして表れる作品もあれば、本作のように陰影をリアルにとらえたピカレスクドラマに徹した形として表れる作品もあるわけで、まさにマエストロ今村昌平の今村昌平たる精力あふれんばかりの強烈なエネルギーの旋律に奏でられた紛うことなき作品なのである。

マエストロの指揮のリズムの傾向はどの作品もさほど変わらない。

この映画が合わないという人はおそらく今村昌平のその他の作品も合わないと思われるのだが。。

まずはとくとご賞味あれ!

2013年4月21日 (日)

夢のシネマパラダイス402番シアター:トロピック・サンダー

トロピック・サンダー/史上最低の作戦

08070902_tropic_thunder_poster_01 出演:ベン・スティラー、ジャック・ブラック、ロバート・ダウニー・Jr、ブランドン・T・ジャクソン、ニック・ノルティ、マシュー・マコノヒー、トム・クルーズ

監督・脚本:ベン・スティラー

(2008年・アメリカ・107分)WOWOW

内容:ベトナム戦争で英雄的な活躍をした兵士の回顧録をもとに製作されることになった映画「トロピック・サンダー」。出演は落ち目のアクション俳優タグ、屁こきコメディアン?のジェフ、アカデミー賞5回受賞の演技派カーク。が、彼らのワガママなどで撮影5日目にして予算オーバーとなってしまう。そこで監督は、仕方なく東南アジアのジャングル“黄金の三角地帯”で撮影を再開することにするが、そこは凶悪な麻薬組織が支配する本物の戦場だった・・・。

評価★★★★/75点

史上最低の映画だ。それは間違いない。

であるとともに最高に危険な映画だ。それも間違いない。

しかし、最高に面白い。たぶん間違いない(笑)。

これだから映画はやめられない。おいおい・・

地獄の黙示録、プラトーンをはじめとする数々の戦争映画のパロディや、ハリウッドの業界ネタ、役者ネタはもとより、人種差別や戦争の悲惨さ、陰うつな過去に縛られつづけるベトナム帰還兵、子供や動物を手にかけてはいけない倫理コード、そしてハゲてはいけないトム・クルーズw、、に至るまで映画の定石というものをことごとくコケにしまくり、あげくの果てにはオスカーにまで手をかけてしまった・・・。合掌。

いや、しかし、ベン・スティラーはコメディ俳優としても映画監督としてもIQはかなり高いと思うんだけど、、ここまでベタ褒めしちゃっていいのかしらとはばかられてしまうくらいのグロさ、エグさにどこまでついて来れるかがこの映画の評価の分かれ目かも。

あとはやっぱトム・クルーズっしょ。途中までトム・クルーズって分からなかったんだけど・・

しかし、ハリウッドのシンボル的存在にハゲヅラデブのろくでなしプロデューサーを演じさせ、ハリウッドくそ喰らえとコケにするシンボルにしてしまうのだから恐れ入る。それを分かった上で怪演を披露するトムもまたスゴイんだけど。。

あらゆる方向にブラック爆弾を落としまくるこの全力バカ映画が受け入れられてしまうアメリカのコメディ文化、あるいは受け入れてしまうキチガイハリウッドwの懐の深さにしばし脱帽・・。

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ディア・ハンター

Nliyuarkq 出演:ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、ジョン・カザール、ジョン・サヴェージ、メリル・ストリープ、ジョージ・ズンザ

監督:マイケル・チミノ

(1978年・アメリカ・183分)DVD

評価★★★★/80点

内容:1968年、ペンシルベニアのスラブ系移民の町クレアトンから3人の若者が徴兵されて狂乱のベトナム戦線へ旅立った。親友同士だったマイケル、ニック、スティーヴンの3人は、1970年に地獄の戦場で再会したが、北側の激しい攻撃に遭い捕虜となってしまう。彼らを待ち受けていたのは、べトコンが金を賭けて興じるロシアン・ルーレットであった。隙を見てべトコンを打ち倒したマイケルは2人とともに濁流を下って脱出するが、途中で互いに離ればなれになってしまう・・・。ベトナムにロシアン・ルーレットなどなかったという非難や、主人公たちがロシア系であるが故に、当時のソ連など社会主義国など内外で大きな非難を浴びたが、アカデミー賞で作品・監督・助演男優など5部門で受賞した。

“戦場を描いた「ディア・ハンター」と戦場を描かなかった「ビッグ・ウェンズデイ」。”

奇しくも同年に公開された両作。

移民の田舎町クレアトンとカリフォルニアの海岸沿いの町。

鹿狩りとサーフィン。

そしてベトナム。出征、帰郷。

しかし本作は戦争の狂気としてのメタファーとして、ある意味姑息で短絡的だが、ある意味で最も端的なロシアン・ルーレットというスリラーゲームを持ち出してきた。

そして、その意図するところは成功した。と個人的には思う。

役者陣の迫真の演技も相まって如実に戦争の狂気を導き出し、その狂気によって若者が変貌してしまう様を描き出した。

一方の「ビッグ・ウェンズデイ」は、本作と同様の構図をとりつつもベトナムにおける戦争の狂気を省き、10年の歳月という時間の流れを経た後のもう若くはないサーフィン仲間の再会を描いた。

それにより逆に直に狂気を描くよりも、なまじ語らないことで彼らの抱えた傷と青春を奪われた苦しみを無言の変貌として描き出したのだ。

その点でも「ビッグ・ウェンズデイ」はまぎれもない青春映画なのだが、この本作「ディア・ハンター」は、戦争映画でもあり青春映画でもあり、ホラー映画でもあるというなんだかゴッタ煮的な要素が強い映画だといえる。

しかしそこはさすがのマイケル・チミノ。

完璧主義者ぶりがこの作品では吉と出ていて、しっかりこの作品の元締め役を果たしている。

そしてなにはともあれロシアン・ルーレット。

良くも悪くもこの一言に尽きる。

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独立愚連隊(1959年・東宝・109分)WOWOW

 監督・脚本:岡本喜八

 出演:佐藤允、中谷一郎、雪村いづみ、鶴田浩二、中丸忠雄、三船敏郎

 内容:終戦間近の北支戦線。各隊の問題児ばかりが集められた通称“独立愚連隊”に1人の従軍記者が現れた。荒木というその男は、実は弟の死の真相を究明するため病院を脱走してきた軍曹だった。荒木は弟が使っていた部屋の壁から何発もの銃弾を発見し、弟の死に陰謀が絡んでいることを確信するのだが・・・。

評価★★★☆/70点

こんなこと言ったらあれだけど、こんなに生き生きとした戦争映画は見たことないというくらい娯楽活劇していて目が点になってしまった。ていうか戦争してないじゃんみたいな(笑)。まるで西部劇ではないか。

あの時代にこういう痛快な戦争エンタメといえるものを作れたというのも驚きだけど、説教臭くなく、暗く悲惨なかんじも全くせず、慰安婦をはじめとする女性たちも表情豊かになかなかしぶとく明朗に生きているではないか。

これが真実ともいえないとは思うけど、「人間の条件」とは逆にコミカルな人間味を前面に押し出したこういう戦争映画があってもいいと思う。

役者がまた良いんだよね。三船敏郎のイカレっぷりも最高だったけど、やはり主役の佐藤允の怪演がこの映画のキモだろう。

日本人離れした顔立ちで不敵な笑みをこぼす様は、戦争の空虚さや愚かさを笑い飛ばしているように見えて印象的だった。

2013年4月12日 (金)

夢のシネマパラダイス73番シアター:旅は道連れ世は情け

あなたへ

E38182e381aae3819fe381b8efbc8812_8_出演:高倉健、田中裕子、佐藤浩市、草彅剛、余貴美子、綾瀬はるか、三浦貴大、大滝秀治、長塚京三、原田美枝子、浅野忠信、ビートたけし

監督:降旗康男

(2012年・東宝・111分)CS

内容:富山の刑務所で定年後も指導技官をしている倉島英二のもとに、ある日、亡き妻・洋子から遺言状が2通届いた。1通目には遺骨を故郷の長崎の海に散骨してほしいとあり、もう1通は長崎の平戸に局留めになっていて現地で受け取らなければならないという。そこで英二は自分製のキャンピングカーで妻の故郷・長崎へ向かうことに・・・。

評価★★★/65点

幸福の黄色いハンカチが刑務所から出所した受刑者が妻の待つ家へ帰る旅だったのに対し、今回は刑務所に勤めている刑務官が妻の遺骨を胸に彼女の故郷へ赴く旅というロードムービーとして好対照をなす作品になっている。

しかし、“旅をするのは帰る家があるからだ、、さすらいの旅ほど淋しいものはない”と長渕剛が歌っているけど、今回の映画は後者の色彩が強く、もっといえば亡き妻との道行きの旅という印象を受けてしまう。

つまりは高倉健を送る旅なのだ、という感覚に陥ったのは自分だけではあるまい。これが高倉健の最後の映画になるのかもしれないと。。

普通、寅さん風に作れば、長崎に一気に舞台を飛ばして食堂を切り盛りする女性(余貴美子)と娘(綾瀬はるか)、そして借金返済のために海難事故を装って失踪した夫(佐藤浩市)の話のみにシフトし、高倉健には“鳩を飛ばす”キューピットの役割をはなっから与えれば済む話だろう。

これをロードムービーにしたことで中だるみ感が強くなったことは否めないし、変に感傷的すぎてツマラない映画になってしまったと思う。

しかし、それでも高倉健である。

飾らず謙虚で不器用な人柄、そして人生の切なさを奥歯でグッとかみしめた者を一貫して演じ続けてきた高倉健という役者の集大成がこの映画の主人公なのだ。生きるとは切ないことなのだと伝え続けてきた高倉健という生きざま。

健さんは寅さんにはなりえなかった。それでいいのだと思う。

“日本人”の一方に寅さんがいて、もう一方に健さんがいた。

2人の映画を無性に見たくなってしまう時があるのはそういうことなのだと思う。

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星守る犬

3821 出演:西田敏行、玉山鉄二、川島海荷、余貴美子、中村獅童、岸本加世子、藤竜也、三浦友和

監督:瀧本智行

(2011年・東宝・128分)WOWOW

内容:夏の北海道。山中に放置されたワゴン車の中から死後半年ほど経った身元不明の中年男性の白骨死体が発見される。さらに、そばにはつい最近まで生きていたと思われる犬の亡骸も。遺体の処理を請け負った市役所の奥津は、見つかったレシートを手がかりに、男性と犬の足どりをたどる旅に出る・・。

評価★★★/60点

これ見て真っ先に思い浮かべたのが山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」なのだけど、あちらが北海道を旅するのに対し、今回は東京→北海道とかなりの長旅。

その中で、リストラに遭い妻子にも去られ、愛犬とともに旅に出るおとうさんの物語とその旅の軌跡をたどる青年の物語の二つのストーリーが並行して描かれるのだけども、かなりテンポが悪く、おとうさんの感情の流れがいちいち断ち切られてしまい映画に入り込むことができない。

原作通りなのかは知らないけど、玉山&川島海荷の旅のくだりはいらなかったのではなかろうか。この旅で2人が何を得て、どう成長したのかが全く伝わってこないでは意味がない。

それよりも、いわきにしろ遠野にしろ風景をもっとちゃんと撮ってくれよと言いたい。岩手県人の自分からすると遠野があれっぽっちじゃ殺風景も甚だしい。

あとは、やっぱ物語の組み立てがなぁ・・・。

例えば弘前で岸本加世子と娘が出てきて、おとうさんは会わずにスルーしちゃうんだけど、この3人の関係というのが、おとうさんが亡くなる間際になって回想されるって、描く順番が逆だろと思うわけ・・。どうもちぐはぐなんだよなぁ。

泣けないです。。

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幸福の黄色いハンカチ

Hankachi1  出演:高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり、渥美清

監督・脚本:山田洋次

(1977年・松竹・108分)NHK-BS

内容:失恋した工員の欽也は仕事を辞め、無理して中古車を買って北海道にやって来た。欽也は網走で一人旅をしていた若い娘・朱実を車に乗せ、さらに海岸で寡黙な中年男・勇作と出会い、一緒に旅を続ける。実は勇作はちょっとした喧嘩でチンピラを殺してしまった罪で服役し、網走の刑務所から6年ぶりに出所したばかりであった。旅を続けるうち、勇作はようやく重い口を開いて、夕張に残してきた妻のことを語り始める。彼は「迎えてくれるなら家の前に黄色いハンカチを掲げてほしい。ハンカチがなかったら、あきらめる」という手紙を妻宛てに送っていた。その話を聞いた欽也は一路夕張に向けて走り出す・・・。

評価★★★★★/100点

予定調和がこれほど痛快愉快にハマっている映画はないし、登場人物がことごとく善人であることがこれほど清々しい映画もない。

一転すれば駄作の根拠になってしまうこれらの要素を傑作に導く山田洋次の話の持って行き方はやはり素晴らしい。

あとはやはり3人の役者のアンサンブルだろう。

強さと真心を芯に持ち、どっしりと構えた存在感で映画にリアリティを与えている高倉健、愛すべき軽薄さでコメディリリーフ役を務める武田鉄也、そして不器用だけど純な桃井かおり。

最高です!

P.S.40代も後半になってから種子島でなんとか運転免許を取ったはずの武田鉄矢が、なんで20代の時に新車で北海道をドライブしてるのよ(笑)。

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イエロー・ハンカチーフ(2008年・アメリカ・96分)WOWOW

 監督:ウダヤン・プラサッド

 出演:ウィリアム・ハート、マリア・ベロ、エディ・レッドメイン、クリステン・スチュワート、桃井かおり

 内容:6年の刑期を終え出所した中年男ブレットは、ミシシッピー川のほとりで2人の若い男女ゴーディとマーティーンに出会う。意気投合した3人はゴーディの車でドライブへ繰り出すことに。やがてブレットは自分の過去を語り始め、妻メイが暮らすニューオリンズに行って確かめなければならないことがあると言うのだった・・。

評価★★★/60点

山田洋次のユーモアあふれる人情喜劇を感傷漬けにどっぷり浸して描くとこうなっちゃうんだ、みたいな。。陰気くさすぎてイマイチ好きになれなかった・・。

顔面が感傷と哀しさだけでしかできていないウィリアム・ハートが、その陰気くささを倍増させていて個人的にはミスキャスト。もう断然ケビン・コスナーだろ!

白人青年ゴーディもユーモアのかけらもないただのウザキャラにしかなっていなかったし・・。

「リトル・ミス・サンシャイン」のような笑ってたのにいつの間にか泣いちゃってるような、そんなロードムービーを期待していただけにかなり残念。。

とはいえ、イエローハンカチーフがいくつもたなびくラストを見ると涙が出るようにセッティングされている自分は幾分点数を甘くせざるを得ないのだった・・w

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