夢のシネマパラダイス237番シアター:藤沢周平時代劇
たそがれ清兵衛
出演:真田広之、宮沢りえ、小林稔侍、大杉漣、吹越満、田中泯、岸恵子
監督・脚本:山田洋次
(2002・松竹・129分)丸の内ピカデリー
評価★★★★/75点
内容:幕末の庄内、海坂藩の平侍・井口清兵衛は妻を病気で亡くし、2人の娘と痴呆の進む老母の3人を養っている。生活は苦しく、下城の太鼓が鳴ると付き合いは断って一目散に帰宅し、家事と内職に励む毎日。そんな清兵衛を同僚たちは“たそがれ清兵衛”とからかっていた。そんなある日、清兵衛は親友の飯沼倫之丞から、清兵衛と幼なじみの妹・朋江を夫の酒乱が激しいので嫁いだばかりなのに離縁させたことを聞かされる。数日後、その朋江がひょっこりと清兵衛の家に姿を見せる。それ以降2人の関係はイイかんじで進んでいくのだが、彼女と離縁させられた元夫に果し合いを申し込まれてしまい・・・。藤沢周平の短編時代小説「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」の3作を基に映画化した、山田洋次監督初の本格時代劇。
“岸恵子の後日談は余計だと思う・・・”
岸恵子が正真正銘の大女優だからこそ余計にジャマに思えてならないラストの後日談。
清兵衛の娘(岸恵子)の語りで物語が進んでいくのは何ら違和感も異論もないのだが・・・。
しかしやはりラスト、岸恵子に、「そして朋江さんは私たちのお母さんになりました。」と言わせしめて間髪入れずに「しかし幸せな日々も3年足らずで終わりました、、、が、2人にとってはこれ以上ない幸せな日々を送ったのです、、、云々。」ときたもんだ。。
観てる側に想像させる余裕を与えてくれないばかりか余韻に浸ることすらやんわり拒絶されてしまったかんじ。
特に朋江が清兵衛の妻になったことをナレーションで言わせたのは全くもっていただけない。
ダウンタウンの松ちゃんが指摘してたけど、朋江が痴呆バアさんに「あんたはどこの身内のもんかえ?」と訊かれた時に「清兵衛の妻です。」と朋江に答えさせるべきだった。
しかしここであえなく「幼なじみの朋江です。」と答えさせたもんだから。。。
でも朋江が清兵衛の妻になったことをどこかで観客に示さなければならないわけで、結局ナレーションに言わせる面白おかしくもない愚行を犯して余計なものがラストにくっついてくる結果となった。
もしあそこで「清兵衛の妻です。」と答えさせていれば、それが伏線となってナレーションに言わせることはしなくてすんだし、後日談だってなくて済んだでしょ。おそらく。
痴呆バアさん相手だとウソ、要するに朋江にとっての素直な願望や希望も言えちゃうわけで、ここで朋江がウソを言ったのかホントのこと、心の中の決心、を口に出したのかは関係ない。
要はラスト、清兵衛が生きて家に帰ってきたシーンの映像、その映像力だけで十分伝わるし、またその映像力で勝負するべきなのだ。
ナレーションの言葉なんていらない。観客の想像力にまかせるべきでした。
観てる側はそんなにバカじゃないっスよ、山田監督。
とにかくこの映画は岸恵子で締めるべきではないと思ったな。それほど真田広之、そして宮沢りえの演技は素晴らしかった。
って別に岸恵子を非難してるわけではないのであしからず。起用法が悪かったということを言いたいのです。
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隠し剣 鬼の爪
出演:永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、田畑智子、高島礼子、田中泯、小林稔侍、緒形拳
監督・脚本:山田洋次
(2004年・松竹・131分)DVD
評価★★★★/75点
内容:時は幕末。東北の小藩、海坂藩。3年前に母を亡くし、いまだ独り身の下級武士・片桐宗蔵はある日、かつて宗蔵の家に奉公に来ていた百姓の娘きえと再会するが、商家に嫁ぎ幸せに暮らしているものと思っていた彼女のやつれて寂しげな姿に唖然とする。数ヵ月後、妹の志乃から、きえが病に伏せっていると聞いた宗蔵は、ついに商家からきえを強引に連れ帰るのだった。日に日に快復していく彼女を見て、喜びを実感する宗蔵だったが、そんな時、藩の江戸屋敷で謀反が発覚。首謀者の一人、狭間弥市郎と宗蔵はかつて戸田寛斎の道場で剣を学び竜虎といわれていたのだが、戸田は秘伝“隠し剣鬼の爪”を宗蔵のみに伝えていたという浅からぬ因縁を持っていた。宗蔵は藩家老に狭間を斬れと命じられ・・・。藤沢周平の「隠し剣鬼の爪」「雪明かり」を基に映画化。
“カミさんに/一度命令/してみたい”
隠したい 隠せるわけない 鬼の妻
この作品に別な夢を抱いていた世のお父さんがたは多かったはず
きえさん、、「それは、ご主人様の命令でございますの?それならば仕方がないですわね。」だと。。カーーーーッ、、罪なお方だよ、きえさん。
こんなこと言えるのはアンタと電車男のエルメスと秋葉のメイドさんだけだよ(笑)。。トホホ・・。
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蝉しぐれ(2005年・東宝・131分)盛岡フォーラム
監督・脚本:黒土三男
出演:市川染五郎、木村佳乃、ふかわりょう、今田耕司、原田美枝子、緒形拳
内容:江戸時代、東北の小藩、海坂藩。15歳の牧文四郎は下級武士である義父・助左衛門のもと、親友たちと剣術や学問に励む日々を送っていたが、助左衛門が世継ぎを巡る陰謀に巻き込まれ、切腹を命じられてしまう。それを境に、罪人の子として辛苦の日々を過ごす文四郎。そんな彼に唯一変わらぬ態度で接してくれたのは親友と、隣家に住む幼なじみのふくだけだったが、ふくもほどなくして江戸の屋敷で奉公するため旅立ってしまう・・・。
評価★★★/65点
“尺を20分(特に後半)増やせば、この作品にとってプラスになることはあってもマイナスになることはおそらくなかっただろう。そう考えるとちょっと惜しい作品ではある。”
土の中から這い上がってきた蝉は、7年間の鬱憤を晴らすかのように鳴きつづけ、残り1週間の命を精一杯光り輝かせようとする。
そこには儚くも静かで強い生命力がたしかに存在する。
そして少なくとも文四郎の少年時代を描いたこの映画の前半には、淡々とした描写の中にも確実にそのような生命力が存在していたと思う。
よくこれだけ棒読み役者を揃えられたもんだと逆にこのキャスティングに努力賞でもあげたい気分の中、頻繁に差し挟まれる風景描写とさすがの名演・緒形拳に助けられた感は強い。
しかし、映画前半のクライマックスというよりはこの映画全体のクライマックスといっても差し支えないであろう名場面、文四郎が汗と涙と蝉しぐれにまみれながら父親の亡骸を乗せた大八車を懸命に引いていく場面。この名場面における文四郎とおふくの姿が強く脳裏に焼きついて離れない。
そして、演技の上手い下手はともかく石田卓也&佐津川愛美の言葉少なながらも強い眼差しの中に宿る様々な想いや意志を秘めた表情が強く印象に残る。
それがスクリーンから何か静かな生命力を抱かせてくれた要因なのかもしれない。
、、と、しかし一転して市川染五郎&木村佳乃の後半。
ふかわりょう&今田耕司についてはここではあえて触れないでおくとしても、役者の力量不足なのか、それとも監督の力量不足なのか、この後半からは生命力といったものを感じ取ることができなかった。
原作を読んでいないので本当の真意は分からないけど、前半をあれだけ丹念に綴っていたのは後半に前半のプロットや伏線、また文四郎とおふくの過酷な運命を説得力をもって一気に昇華させ引き立たせるためだったのではないか。
しかし、肝心の映画がそのようになっていたかというと大いに疑問で、はっきりいって拙速に堕しているといっても過言ではないとさえ感じてしまった。そしてそれが登場人物の失速感にもつながっていると思わざるをえないのだ。
その点で1番気になったのは木村佳乃演じるおふくだ。
決してミスキャストだとは思わないが、満を持して登場したはいいものの、あの妙に達観した表情といい、決して癒されない悲しみを内に抱えてるはずなのにまるで尼さんになる前にすでに菩薩になっちゃってるよみたいな。
断絶された時間によって二人を隔てる壁と内に秘めた素直な心の発露との微妙なバランスがはっきりいって出てないなぁと。
だからラストの二人の対面シーンも妙にあっさりと流れてしまったかんじ。
上映時間を20分(特に後半)でも増やせばよかったのにぃぃ。
150分、何の苦もなく見れちゃうと思うな。それだけ魅力的な要素を兼ね備えた作品であることはたしかなのだけど・・・。
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武士の一分
出演:木村拓哉、檀れい、笹野高史、岡本信人、桃井かおり、緒形拳、坂東三津五郎
監督:山田洋次
(2006年・松竹・121分)2006/12/14・盛岡フォーラム
評価★★★/65点
内容:東北の小藩で藩主の毒見役を勤めていた下級武士、三村新之丞。美しく気立てのいい妻・加代とつましくも幸せな日々を送っていたが、ある日、毒見で貝の毒にあたってしまい失明してしまう。武士としての勤めを果たせなくなった以上、藩の沙汰次第では三十石の家禄が召し抱えられてしまうかもしれない。そこで、加代は藩の実力者の島田藤弥に相談を持ちかけるのだが・・・。
“そろそろ山田時代劇も潮時かと・・・”
藤沢周平原作&山田洋次監督による時代劇3作目ということで、いつもながらの山田洋次の手堅い職人技に安心して見ていられる一本。
しかし、オーソドックスに過ぎるストーリー仕立てのためか、3作目ともなってくるとなにか「男はつらいよ」化してきてるような感も・・・。
なんだろう、心をわしづかみにされて映画の中にグワッと持っていかれるようなシーンに欠けるというか、そういう点では可もなく不可もなくという出来なのだろうけど。
あとはまぁ、頑張ったことは大いに認めるとしても、木村拓哉に生活力が感じられないのはイタイ。
おそらく所帯持ちの役はTVドラマ「華麗なる一族」と今作だけだと思うのだが、「華麗なる一族」の万俵鉄平役は華麗なる財閥一家だけに生活力なんてはなから必要ないだろう。それはいいとしても、今回の三村新之丞は打って変わって東北は山形の下級の田舎侍。う~ん、、、木村拓哉というよりも“キムタク”という表現がピタッとくるところでオイラなんかは受け取らざるをえなかったなぁ。。
いや、ホント彼お得意の射抜くような眼力演技を封印して懸命に頑張ってるのはスクリーンからちゃんと伝わってきたけどね。
ただ、檀れいと笹野高史という脇がこれまた凄かったから。。この2人に支えられた部分も相当あると思う。
あと気になったのは、撮影なのだけど、どう見てもこれってセット&スタジオ撮影が主じゃん。どうも全体的に小ざっぱりしちゃってて、そこら辺も生活力が前2作に比べると感じられない理由なのかも。
山田洋次の一分もだんだん薄まってきたか!?
次は現代劇でお願いいたします。
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山桜
出演:田中麗奈、篠田三郎、檀ふみ、富司純子、村井国夫、東山紀之
監督:篠原哲雄
(2008年・日本・99分)CS
内容:東北の小国、海坂藩。最初の夫に先立たれた後、家中で金貸しと陰口をたたかれる磯村家へと嫁いだ野江。しかし、夫からの愛情は感じられず、出戻りの嫁とさげすむ姑にも辛くあたられる。そんなある日、野江は叔母の墓参りの帰りに一本の美しい山桜の下で手塚弥一郎に声をかけられる。手塚は、野江が磯村に嫁ぐ前に縁談を申し込まれた相手だった・・。
評価★★★★/80点
藤沢周平原作の映画は「たそがれ清兵衛」(2002)から始まり、これで5作目だけど、今回は今までで1番地味ながらも1番良かったかも。
薄紅色の花を凛と咲かせる山桜が清新さと希望の光を見出す春、沸々と静かな情熱をたぎらせる夏の日差し、寂莫と染み入る秋の訪れ、一面雪に覆われた銀世界、風雪に耐えしのぶ山桜のようにひたむきに生きるさまと清らかな心を映し出す冬の白さ。
これら山形・庄内の厳しくも美しい四季折々の風景を登場人物の心象風景に重ね合わせ、チェロとピアノの旋律で丹念に紡いでいく。
セリフを極力排した中で余韻と間合いと風情を感じさせながら、その中に愛情や思いやり、喜怒哀楽といった心の機微を染み渡らせる99分間。
フツーの映画よりもかなりゆったりめのテンポで進む作品なのだけど、これだけ品のある贅沢な映画というのはそうはないだろう。
また、時代劇初出演とは思えない端正な佇まいを見せる田中麗奈はもとより、セリフがほとんどない中で映画に十分な説得力と信頼感をもたせた東山紀之もなかなかのもので、演技で語らせる映画の真骨頂を垣間見たような気がした。他の役者陣もそれぞれの個性がよく出ていて良かったし。
オイラ的には野江(田中麗奈)の再婚先である磯村家の鬼姑を演じた永島暎子が、単なるイビリ役の裏に隠された家紋を守るというプライドと、こんなバカ息子に嫁いできたアータに同情するわwwみたいなところも感じさせて印象的だったな。
小品ながら、なにか心の中に大切にしまいこんでおきたいような、そんな良作だったと思う。
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花のあと(2009年・東映・107分)CS
監督:中西健二
出演:北川景子、甲本雅裕、宮尾俊太郎、市川亀治郎、柄本明、國村隼、藤村志保
内容:東北の小藩、海坂藩組頭の一人娘・以登は、道場破りしてしまうほどの剣の使い手。ある日彼女は、城下随一の剣士、江口孫四郎と出会う。以登を対等の剣士として認めた孫四郎に憧れ以上の感情を抱くが、以登にはすでに片桐才助という許嫁がいた。やがて孫四郎も藩の重役の家に婿入りしていく。ところが数ヵ月後、孫四郎が大事なお役目で失態を演じ切腹したとの報せが届く・・・。
評価★★★/60点
藤沢周平時代劇もずいぶんこじんまりとしてきちゃったなぁと思っちゃったけど、疲れきった日々を送っている身分からすると、美しい景色の移ろいとゆったりとした時の流れの中、細やかな所作・作法に則った佇まいを見るのはなにか心洗われるようなかんじがして良かった。
ただ、時代劇顔とはいえない北川景子を初々しいととるかいまひとつととるか、あるいは監督・中西健二の演出を手堅いととるか軽いととるか微妙なライン上にあり、執拗なまでの丁寧さには常にぎこちなさが見え隠れしていて、手放しで身を任せられない危うさがあるのもたしかだ。
淡々と展開していく中、孫四郎(宮尾俊太郎)があっけなく退場してしまうのもちょっと唐突なかんじで、観る側の感情の高ぶりを喚起させるまでには至らない平板さも気になるところ。
まぁ、そういうツッコミも才助(甲本雅裕)の満面の笑みを見せられると許せちゃうんだけどw
若葉マーク時代劇っていえばいいのかなこういうのは。。
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必死剣 鳥刺し(2010年・東映・114分)WOWOW
監督:平山秀幸
出演:豊川悦司、池脇千鶴、吉川晃司、戸田菜穂、村上淳、関めぐみ、小日向文世、岸部一徳
内容:東北の海坂藩。足軽頭の兼見三左ェ門は、藩主・右京太夫の側室で藩政混乱の原因となっていた連子を刺殺する。妻を病で亡くし、死に場所を求めていた兼見は、極刑を覚悟で事に及んでいたが、下された処分は意外にも1年の閉門のみという寛大なものだった。腑に落ちないながらも兼見は、身の回りの世話をしてくれる亡妻の姪・里尾の健気な存在を心の拠り所とし刑期を全うし復職する。しかし、そんなある日、減刑を取り成してくれた中老・津田民部からある藩命が下る。それは、謀反の動きありという帯屋隼人正を討てというものだった・・・。
評価★★★☆/70点
連子刺殺シーンを冒頭に持ってきたインパクトは買うとしても、その後時間軸を頻繁に交差させる構成には首をかしげてしまうことしきり・・。
特に、鬼気迫るクライマックスの大殺陣の最中にまでブツ切りにされてはこちらの感情の持っていくリズムも狂うばかりだ。
各シーンごとの丁寧な演出と役者陣の端正な所作・立ち居振る舞いが時代劇としての様式美を格調高いレベルにまで押し上げていただけに、あっち行ったりこっち行ったりな筋立ては少しビミョーだった。
まぁ、そうはいっても良作には違いないんだけどねw
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小川の辺(2011年・東映・104分)WOWOW
監督:篠原哲雄
出演:東山紀之、菊地凛子、勝地涼、片岡愛之助、尾野真千子、笹野高史、西岡徳馬、藤竜也
内容:海坂藩、直心影流の使い手である戊井朔之助に、藩政を批判して脱藩した佐久間森衛を討つよう藩命が下る。しかし、佐久間には妹の田鶴が嫁いでおり、剣の腕に覚えのある気の強い彼女が手向かってくることは間違いなかった。それを覚悟しつつ彼は、田鶴の幼なじみである奉公人の新蔵とともに佐久間を追って旅立つのだが・・・。
評価★★★/60点
親友と斬り合い、血を分けた妹と斬り合わなければならないというのはあまりにも酷な話で、端整で凛とした品格をもつ藤沢周平時代劇という枠組みを取り外してみれば、かなり刺激的かつドラマチックな題材であることには違いない。
のだけども、葛藤もなければ苦悩もない追跡劇は恐ろしくゆったりしているロードムービーにしかなっておらず、悲劇の予感漂う設定とはどうも合っていない。
回想シーン含め同じテンポなので情感の盛り上がりに欠けるし、すぐ脱ぐ菊地凛子wをキャスティングする野心がありながら、こののんびり感覚はもったいない気がしてならない。
まぁ、それでも藤沢周平時代劇の型にハマッていると思えばこれはこれで有りなのかもしれないけど・・。
しかし、、三池崇史に撮らせてたらどエライもんが出来上がってたと思うけどなぁ、と妄想してみたりする(笑)。。
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