闇の子供たち
出演:江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、鈴木砂羽、佐藤浩市
監督:阪本順治
(2008年・日本・138分)WOWOW
内容:大手新聞社のタイ特派員・南部浩行は、タイで行われている闇ルートの臓器移植の取材を始める。一方、タイの社会福祉センターにやって来たNGO職員の音羽恵子は、幼児買売春を強制される子供たちの悲惨な現実に打ちのめされながらも、最近センターに姿を見せなくなった少女の救出に奔走するが・・・。
評価★★★/65点
タイにおけるおぞましい幼児の人身売買、売買春の現実を鋭利な筆致であらわにしていく衝撃作といっていいと思うけど、生きたまま心臓をえぐり取られ、幼児性愛者にいたぶられ弄ばれ、ゴミ収集車に捨てられる子供たちの惨状には思わず目を覆いたくなってしまった。
でも、これが東京から地図の上で20cm離れた所にある現実なのか・・・。
しかし、このかなりヘビーな問題に対して目をそらさず真正面から見据えた映画の作り手の志は買いたいものの、終盤になってそれが空回りしている面は否めず、、。
特にデモ中にいきなりドンパチが始まるくだりはわけが分からない(笑)。
また、南部(江口洋介)が過去に幼児買春をしたことがあったというオチと、南部の部屋で幼児買春の事件記事が貼り付けられた鏡を与田(妻夫木聡)が凝視するラストのくだりは、観客の側の心をも暴き立てようとするがごとき強烈な問題意識にあふれていて、他人事ではいられなくなってしまうという意味でそれ自体の描写は理解できるものの、この唐突なオチのさらなる先に落としどころを持ってこなければならないはずなのに、南部が首を吊ってハイ終わりじゃなかろうに・・・。
人がそれぞれ持つ闇の恐さを暴くのも結構な話だが、それ以上に描かなければならないのは臓器売買、人身売買を成立させているシステムなり真相を暴くことなはずで、それを描かないまま中途半端に放り投げるというのは、じゃあそれまでに描かれてきた突撃取材はいったい何だったんだということになりはしまいか。。
しかも、エンディングはこれまた唐突に桑田佳佑のわけの分からん歌謡曲ときたもんだ。サザンは別格に好きだけど、この使い方には完全に辟易・・・。これだけで赤点やってもいいくらいなんだけど。。
なんというか、作り手の感情の方がヒートアップして先走っちゃって、逆に支離滅裂ここに極まれりになっちゃった悪例といえばいいだろうか。そんな映画ですた。。
重たいテーマだけに、後味の悪さは想定内だったけど、この後味の悪さは想定外だったなww。。
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トラフィック
出演:マイケル・ダグラス、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、ベニチオ・デル・トロ、ドン・チードル、デニス・クエイド
監督:スティーブン・ソダーバーグ
(2000年・アメリカ・148分)DVD
評価★★★★☆/85点
内容:メキシコ、サンディエゴ、ワシントンの同時3点ドキュメント調で描かれる麻薬戦争の舞台裏・・・根深く浸透した麻薬の密売ルートに挑む麻薬捜査の物語。当時キャサリン・ゼタ・ジョーンズは実際にマイケル・ダグラスの手にかかり妊娠中であったが、身重の妻役をやけくそで?演じきったことでも有名ww。
“アメリカにおける銃社会が実際問題無くならないのと同様に、実際、国家対策的な麻薬戦争に勝つというのはベトナムあるいは今も続けられているテロ戦争で勝つより難しいということをアメリカ人はおろか日本人である我々もうすうす感じている。。”
需要-生産-加工-流通-消費という需要・供給システムの確立。そこに政府、国際資本、マフィア、地元ゲリラ、いたるところにはびこる腐敗などが複雑に絡み合う。
これはもう一大産業どころの話ではない。想像を絶する世界的規模のものだ。
このタガを崩すのは実際問題ムリだろう。テロ戦争に勝つより難しいといってもいいと思う。
アメリカは中南米(コロンビア、メキシコなど)への軍事援助などを展開し、ドラッグ・ウォー(麻薬戦争)を行ってはいるが、何の成果も上げていないというのが実情なのだ。
だが実は、アメリカ政府自体が何食わぬ顔で麻薬を利用してきたというウラの顔も存在することが、話をややこしくさせる・・・。
この映画でもその一端が語られているが、具体的には、世界各地で反米勢力と親米の地元勢力を戦わせる代理戦争の戦略の中で、アメリカは麻薬栽培を親米勢力の資金源にさせてきたといういわくがある。
それは例えば50年代中国国共内戦におけるゴールデントライアングルでの麻薬栽培。
60年代にかけてのキューバカストロ政権転覆を図ることを目的に、亡命キューバ人勢力の資金作りとしてアメリカ本土への麻薬密輸の容認(結局ピッグス湾事件でこのカストロ転覆作戦は失敗に終わる)。
全く同様のタイプで80年代のニカラグアやレバノンetc.
さらには、何といってもアフガニスタン。
ソ連が侵攻した際、アメリカのてこ入れによりオサマ・ビン・ラディンなどに代表されるゲリラが作られるが(後に周知の通り911同時テロでアメリカはこの飼い犬に咬まれてしまうのだが)、その資金源として麻薬栽培が行われた。そして現在、アフガンは世界最大のアヘン生産国となってしまった・・・。
アメリカのウラの顔。
と同時に、「麻薬カルテルを壊滅してやる!」と高らかに謳いあげているアメリカのオモテの顔。
、、、どう考えても救いようのない話である。
アメリカ社会の内深くまで侵攻している麻薬を消滅させるという麻薬戦争に勝つというのは、テロ戦争に勝つよりというよりも、ほとんど不可能といってもいいのではないか。
このへんのコノテーションをおそらく内包しているアメリカとまだ切実な問題となっていない日本とではこの映画の見方も違ってくるのではないだろうか。
ということで、映画の話に戻すと、この映画の凄いところは、あまりにも救いようがなくやりきれない麻薬戦争の絶望的な現実というマクロ的観点へ話を収束させ、そこに至るまでを至極客観的に描写している点にあると思う。
1つ1つの話は、家庭にドラッグが忍び込んでいくといったようにミクロ的なものだが、それらが並行・交錯して語られていくことにより、最終的にはマクロ的なものへと標榜する。
しかも別段難しいストーリーではない中で2時間30分近くで収めてしまうというのは、この監督ちょっと伊達じゃないな、と。
加えて実は最初から救いようのない話になることは自明の理であったこの映画において、ラストで差し込む微かな光は唯一の救いであるし、この終わらせ方の演出、この監督心憎いな、と。
要するにこの監督すげぇなと感心してしまいました。
もちろん、デル・トロとゼタ・ジョーンズの特筆ものの演技にも感心しなければなりませんが。
いずれにせよ、我々のいる現実世界も、そして映画の中の彼らもこの終わりなき戦いをこれからも続けていくことだろう。
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明日への遺言(2007年・日本・110分)CS
監督・脚本:小泉堯史
出演:藤田まこと、ロバート・レッサー、フレッド・マックイーン、リチャード・ニール、富司純子
内容:1945年5月、米軍による名古屋への大空襲の際に、撃墜されパラシュートで降下した米軍搭乗員が日本軍により拘束され、略式裁判によって処刑された。戦後、東海軍司令官・岡田資中将は捕虜を殺害したとしてB級戦犯と認められ裁判にかけられた。これに対し岡田中将は、この裁判を「法戦」と名付けて徹底的に争う意志を貫いていく・・・。
評価★★★/65点
東京裁判はまだしもBC級戦犯の裁判についてはほとんど知らず、ましてや本土空襲を行った米軍機が撃墜され、脱出した搭乗員が処刑されていたという事例があったなんて初めて知ったし、その処刑に関わった日本軍兵士たちが戦犯として裁判にかけられていたなんてことも全く知らなかった。
しかし、そもそものところで、爆弾を雨あられのごとく落としまくった搭乗員が、その敵地で袋叩きにあうのは自明の理ではなかろうか。
正式な公判だろうが略式だろうが、日本刀によろうが銃剣によろうがそんなのおかまいなしに処刑されるのは当然だと思うんだけど。
オイラの感覚でいえば、この処刑を戦争犯罪といわれたら立つ瀬がない。日本軍がアジア各地で行った虐殺虐待の類の戦争犯罪とはわけが違うと思う。
しかして、その処刑に関わった者たちが相手当事国に裁かれるというのは単なる見せしめと復讐でしかなく、初めから答えは出ているものだったのではなかろうか。
その上で、米軍の行った本土空爆は無差別爆撃であり国際法違反であること、また、それを行った搭乗員を略式裁判にかけて処刑したのは正当なもので、それを命令した自分に全責任があるという岡田資中将の主張はどっからどう見たってもっともなものだろう。
その中で、映画を見るかぎり、裁判はかなり公平なものであったことがうかがえ、その点では驚いたし、米軍の無差別爆撃はハーグ条約に違反するものなのかどうか、搭乗員の処刑は戦争犯罪への処罰か、それともジュネーブ条約に違反する捕虜の虐待かという論点も明確で、かなり興味を引く見応えのある内容だったとは思う。
しかし、それを法廷劇のみに絞って淡々と静謐に描いていくわけだけど、途中から“法戦”に独り立ち向かう岡田中将の信念と品格に焦点がいつの間にかブレていき、肝心の先の論点がボヤけてしまったのはいただけない。
それゆえ、ルールに則ってやれば人殺しをしても構わないのかという戦争の馬鹿らしさがイマイチ伝わってきたとはいいがたいのが難点。。
そのかわりにクローズアップされる、死を目前にして「本望である。」と13階段に向かっていく岡田中将の孤高の美しさは、藤田まことの印象的な佇まいによって心に響かないわけではないのだけれど、なんか押しの弱い作品になっちゃったような・・。
まぁ、それがこの監督さんの特徴でもあるんだけど、個人的にはもったいない映画だったなぁというのが先についてしまったかんじ。
でも、こういう寡黙で一本芯の通ったリーダーなり上司がいたらいいんだけどねぇ。とてもじゃないが命を預けられるような人にはお目にかかったことがないわww
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インサイダー
出演:ラッセル・クロウ、アル・パチーノ、クリストファー・プラマー、ダイアン・ヴェノーラ
監督・脚本:マイケル・マン
(1999年・アメリカ・158分)仙台第1東宝
評価★★★★★/90点
内容:大手のタバコ会社の企業秘密を暴こうと立ち上がった報道番組プロデューサーと元タバコ会社役員の姿を追った実録社会派ドラマ。
“もう一度見る価値があるかと問われれば、、、あると答えます。”
バシバシ実名が出てくる社会派の映画はもともと好きな部類ではある。しかし、ここまでズシリと重心の重い作品には最近そうは出会わない。
TV局にまで及んでくる巨大な見えざる圧力に苦しみつづけ、自分の家族の未来が人質にとられてしまうという不条理な現実を突きつけられる普通の男の闘いを静かな眼差しで見つめていく。
それは例えばマフィア犯罪の重要証人になり、マフィアに命を狙われるといった話でさえ薄っぺらく見えてしまうくらい重苦しいものだ。
勝利を勝ち取ったというヒーロー像はこの映画にはない。長く苦しい孤独ともいえる闘いが続くのみ。そして、それを演じきったラッセル・クロウの凄さ。
さらに、低音で鳴り響く音楽と凝りに凝ったカメラアングルがさらなる効果を演出していて、特に回転ドアのショットや、バーグマン(アル・パチーノ)とワイガンド(ラッセル・クロウ)が初めて会う場所での待ち合わせシーンのカメラ位置など強烈に印象に残る。
この監督に恋愛映画撮らせたらどうなるんだろうと思うくらい臨場感たっぷりのバリバリ骨太な映画だ。
しかしまぁ、硬派ネタを追い求めるバーグマンにアル・パチーノ+硬派ネタ専門家マイケル・マンとくりゃ女の出る幕はないわなぁww
ワイガンドの奥さんの気持ちと彼女がとった行動はそれが理由なんだと勝手に決めつけたいが、、、これって実話だったのね。。
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ペリカン文書(1993年・アメリカ・141分)WOWOW
監督・脚本:アラン・J・パクラ
出演:ジュリア・ロバーツ、デンゼル・ワシントン、サム・シェパード
内容:法科の女子大生ダービーは、最高裁判事殺人事件に対して大胆な仮説をレポートで提出。しかし、その“ペリカン文書”と呼ばれるそのレポートは、事件の核心に迫っていた。国家上層部の黒幕に命を狙われるハメになった孤立無援の彼女は、ジャーナリストのグランサムに助けを求める・・・。
評価★★★☆/70点
社会悪の糾弾という社会派としての側面と、スリルとサスペンスとしての娯楽面が3:7、いわば広く一般受けするような興収重視の割合でブレンドされていて、非常に見やすい作品になっている。
初めて見たのが高1の時だったこともあって、オイラにとってのハリウッド製サスペンス・ミステリー映画の基準点になっている、そんな作品でっス。
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逃亡者(1993年・アメリカ・130分)NHK-BS
監督:アンドリュー・デイビス
出演:ハリソン・フォード、トミー・リー・ジョーンズ、ジュリアン・ムーア
内容:シカゴの著名な外科医リチャード・キンブルは、ある夜、自宅に押し入った片腕の男に襲われ、妻を殺害される。ところが、キンブルは妻殺しの容疑で逮捕されてしまい、不利な状況証拠を突きつけられて死刑判決を受けてしまう。が、護送中に交通事故に巻き込まれたキンブルは混乱に乗じてその場から逃走、身の潔白を証明しようと奔走する・・・。
評価★★★★☆/85点
追う者と追われる者という普通対立すべき相容れない両者が、お互い執念のかぎりを尽くした逃走劇をこれでもかと繰り広げる様が非常によく描かれている極上のエンターテイメント。
そして、その相容れないはずの両者が執念から解放されたとき、お互いを認め合い妙な連帯感で結ばれていくラストに思わず拍手。
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