夢のシネマパラダイス318番シアター:ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケヴィン・J・オコナー、キアラン・ハインズ、ディロン・フレイジャー
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
(2007年・アメリカ・158分)2008/05/06・盛岡フォーラム
内容:20世紀初頭のカリフォルニア。石油の生み出す莫大な富に取り憑かれた男ダニエル・プレインヴュー。孤児であるHWをパートナーとして連れ歩く彼は、次々と土地を買い叩いていく。そんなある日、ポールという青年から自分の故郷の土地に油田があるはずだとの情報を得る。すぐさま土地の買い占めに乗り出すプレインヴューだったが、彼の前にポールの双子の兄弟で牧師のイーライが立ちはだかる・・・。
評価★★★★/80点
耳をつんざくような不協和音とともに映し出される砂と石と岩だけの荒涼とした大地。そして、その中でたった独り、黙々と採掘に明け暮れる男。
情熱、忍耐、孤独、欲望、信念、競争心、エゴイズム、無感情といったこの映画の全ての要素=ダニエル・プレインヴューという男の全てを表したセリフのないオープニング15分間の圧倒的な画力に一気に引き込まれてしまう。
このオープニングにキューブリックの「2001年宇宙の旅」(1968)を想起したといったら言い過ぎだろうか。。
その後も物語は、常に周囲との不協和音を鳴り響かせながら他を寄せつけない男のむき出しになったまま燃えさかる火柱のように強烈な個性を描きながら進んでいくわけだが、重厚な人間ドラマの体を成してはいるものの、それはまるでホラーのようでもあり、ラストに至っては壮大なコメディとさえ思えてきてしまう。。
なにより、このダニエル・プレインヴューのつき果てることのない事業欲の目的が見えてこないのが恐ろしいところで、それは暗に現代アメリカの構築した資本主義の破壊的で破滅的な暴走を示唆しているともとれる。
とにかく、事業を成功させて名声を得たいだとか、金持ちになりたいだとか、家族や愛する人との幸せな暮らしのために稼ぎまくりたいといった目的のためではなく、この人間不信の塊である男の最終目標は、「金を貯めたら誰もいない所に行って暮らしたい・・・」なのだ。
そして、ラストに映し出される、だだっ広い屋敷の中で、集めた骨董品を的にライフル銃をブッ放す余生を送る男のなんとも虚しい姿は、まさにホラーでもありコメディだ。
また、このダニエル・プレインヴューという男、強欲の塊でありながら、女への欲が皆無なのも恐ろしいところで、ヘンリーと名乗るニセの弟と夜遊びに出かけても何の関心も示さない。
それどころか、女遊びにうつつを抜かすだらしないヘンリーを憮然とした表情で見ていたダニエルは、その直後ヘンリーを殺害してしまうのだ。
そこらへんの「人間を嫌悪し、長年にわたって少しずつ憎悪を積み重ねてきた」「他人に価値を見出すことができない」というダニエルのキャラクターの背景がほとんど語られないところが、彼のストイックな欲望を際立たせて不気味だし、逆に引き込まれてしまうゆえんなのでもあろうが、かといって彼をそういう人間にさせるに至った背景なんて別に知りたいとも思わないわけで(笑)。
ともかく、今までの自分の映画人生の中で、“孤高の狂人”というのを初めて見せられたような気がする。
雄弁とファミリーの絆を説きながら絶対的な個人主義のもと家族を一切持とうとしない男、家族はファミリーではなく単なるパートナーという役割としか考えていない男。
奇しくも、20世紀初頭の同じ頃、アメリカに降り立ったもう一人の男がいた。
イタリア・シチリア島から渡ってきたその男は、家族を守るという信条のもと一大ファミリー帝国を築いていく。
そう、その男とは「ゴッドファーザー」(1972)のビト・コルレオーネだ。
犯罪行為に手を染めながら神のように慕われていくビト・コルレオーネと、神をも恐れぬ悪徳に手を染めながら周囲を徹底的に排除していくダニエル・プレインヴュー。
神聖な教会の洗礼も、前者においては家族の絆を深めるためのものであるのに対し、ダニエルにとっては事業のためだけの屈辱的なものでしかないところなど好対照なところも興味深い。
ま、オイラは断然「ゴッドファーザー」の方が好きだけどねw。
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ジャイアンツ(1956年・アメリカ・201分)NHK-BS
監督:ジョージ・スティーヴンス
出演:エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、ジェームズ・ディーン、サル・ミネオ、デニス・ホッパー
内容:わずか3本の主演作を残してこの世を去ったジェームズ・ディーンの遺作。1920年。テキサスの大牧場主ビックは、東部の名門令嬢レズリーと出会い、恋に落ちた。2人は結婚し、59万エーカーという途方もない広さの牧場で新婚生活を始めるが、レズリーを待っていたのは想像を絶する苛酷な生活だった。そんな彼女に、孤独でひねくれ者の牧童ジェットは恋心を抱くが・・・。
評価★★★☆/70点
“エリザベス・テイラーって凄い女優さんだったんだ、、、”
西部開拓時代を思わせる大牧場の雄大な光景、そこにポツンとしかし悠然と構える大邸宅は、まるで「風とともに去りぬ」を思わせる風格。
しかし、その光景の中をタンクローリーが走っていくシーンの奇妙さに象徴されるように、1920年代から50年代中頃という、アメリカがまさに“アメリカンナイズ”されていく急激な時代背景の移り変わりの中で、ひとつ取り残されたように佇む大牧場の大邸宅は、まるで置き去りにされた存在のように映っていく。
それはつまり近代化という名の物質文明の波に開拓時代の古き良きアメリカが押し流されていく光景なわけで、この映画で描かれた時代より約60年前を舞台にした「風とともに去りぬ」なんかとは全く異なる移ろう時代の混在した面白さがこの映画にはある。
ラスト近くに出てくるドライブイン風レストランなんてまさにアメリカンナイズされた象徴なわけで、そこで牧場主ビック(ロック・ハドソン)と店主が殴り合う壮絶なシーンには、メキシコ人への人種差別に対する怒り以上の何かを感じずにはいられなかった。
しかしまぁ、人種差別問題にまでテーマが拡散していくとは思いもしなかったし、石油成金ジェームズ・ディーンのキャラもかなりのキワモノで、下手をすると中途半端になってしまうリスクもあったと思うのだけど、大家族ドラマという軸がブレずにしっかり根を張っていたので3時間という長尺をほとんど感じさせない安定感のつくりだったのは、さすがハリウッド往年の名作映画というかんじ。
そして、その中で夫ビックに「90歳になっても君を理解できないだろう」と言わせしめる妻レズリー(エリザベス・テイラー)の存在感は圧倒的な魅力にあふれていて非常に印象に残る。
エリザベス・テイラーってやっぱスゴイ大女優さんだったんだなと初めて実感できたような気がした。今の御姿からは想像もつかないけど・・・ww。
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