夢のシネマパラダイス10番シアター:世界の黒澤シネマスタイルズvol.1
生きる
出演:志村喬、日守新一、田中春男、千秋実、小田切みき、山田巳之助、藤原釜足、小堀誠
監督・脚本:黒澤明
(1952年・東宝・143分)NHK-BS
評価★★★☆/70点
内容:30年間無欠勤の模範的な役人である、市役所の市民課長・渡辺勘治は、ある日、自分が胃ガンのために余命いくばくもないことを知った。早くに妻を失ってから男手ひとつで育て上げてきた息子にも冷たくされ、渡辺は絶望のあまり街をさまよう。生きることの意味を考え始めた渡辺は、翌日から人が変わったように遮二無二働き出し、貧民街の環境を改善してそこに小さな公園を造ることに情熱を注ぐのだった・・・。
“黒澤明の「残酷狂時代」”
定年間近の生ける屍、渡辺課長よりは若く健康でブラックホール並みの胃袋を持つ事務員、小田切みきの方にどこからどう見たって近いだろうと自負できるオイラにとっては、単純に渡辺さんみたいなお方には付きまとわれたくないなという感想しか浮かばなかった・・・。
異様に光った鬼気迫る瞳で、「いや、そ、そんな、私は、ただ、、、私は、、、君、、、私は、、もうすぐ死ぬんだ、、、君は、どうして、そんなに、その、活気があるのか、君を、その、見ていると、何か、何か、、温かくなる。。」なんて切実に訴えられたら、そりゃはっきり言ってキモイ以外の何ものでもないわな(笑)。
1枚のレントゲン写真から幕を開けたこの物語は、後半1枚の遺影を前に集まった人々が、故人について語るドラマへと飛躍し、そして語る彼らの本性が1枚1枚レントゲンに写し出されるように暴かれていき、ラストに至ってはこの映画を観る側の本性さえも暴かれてしまうわけで、この点についてはさすが世界のクロサワだなと感嘆してしまう。
しかし、映画のつくりに感嘆はできても、肝心の物語の核心にまで個人的になかなか入っていけないもどかしさがあって、それはやはり渡辺課長という人物が、自分にとっては何かまだ遠い存在だったということが大きな要因なのかもしれない。
しかし、物語には入り込めなくても映画のつくり自体には感嘆したのと同様、渡辺課長には観てるこっちの方が疲れてきても、それを演じた志村喬には脱帽してしまう。
とにかくあの瞳は、、、恐いです。なんか、「アバウト・シュミット」のJ・ニコルソンの死んだ魚の目を思い出しちゃった。
あと、あの鬼気迫る目を見て、ふとチャップリンを思い浮かべてしまったのだけど、この映画が喜劇にも通じるユーモア要素を兼ね備えていることを考えると何かどこかで繋がっているのかもしれない。奇しくも1952年度のキネ旬の邦画第1位が「生きる」で外国映画第1位が「チャップリンの殺人狂時代」だったり。
チャップリン映画の3大要素といえば、“愛する”“働く”“食べる”と言っていいと思うけど、「生きる」も見事なまでにそれを貫いている。
やはりこの映画は、黒澤明の残酷狂時代ともいうべき傑作なのかもしれないな、なんてことをふと思ってしまいました。
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羅生門(1950年・大映・88分)DVD
監督・脚本:黒澤明
出演:三船敏郎、京マチ子、森雅之、志村喬、千秋実
内容:戦乱と天災地変と疫病の続く平安の乱世、都に近い山科のやぶの中で旅の侍・武弘の死体が発見される。検非違使は関係者である武弘の妻・真砂と盗賊・多襄丸を取り調べ、巫女を使って武弘の霊からも証言を得るが、彼ら3人の陳述はすべて食い違っていた。事件を目撃した杣売(そまうり)は、この様子を羅生門の下で旅法師に語りながら怖れおののき続ける・・・。芥川龍之介の小説「藪の中」に材をとり、人間のエゴや不信感、不条理などを抉り出す心理ドラマ。戦後、日本から初めて正式出品されたヴェネチア映画祭で作品賞受賞。後にアカデミー名誉賞(後の外国語映画賞)も受賞し、クロサワの名を世界に知らしめると同時に、日本映画黄金期の到来を告げる記念碑的作品となった。
評価★★★★★/100点
“死闘と呼ぶにふさわしい多襄丸と侍の斬り合いが目に焼きついて離れない。あれは殺陣ではなく、まさに殺人だった。”
「用心棒」でのラグビー並みの斬り合い肉弾戦も、「椿三十郎」での0.3秒瞬殺斬りも非常に印象的だが、それらとは対照的なこの映画の型も何もあったものではないヘッピリ腰バトルが1番好きかも。
両者のジリジリしたにらみ合いの最中のんきに首スジを掻く多襄丸。と思ったらヘッピリ腰同士ヒィヒィ息をあげて、時には野獣のごとき叫び声をあげながら、のたうち這いずり転げ回り足を引っ張り合いながら斬り合う両者。
土に突き刺さる剣、切り株に刺さったまま抜けない剣、そして侍に突き刺さる多襄丸の投げた剣。
死闘から生還してへたり込む多襄丸に覆いかぶさるように鳴り響くセミの声がまた印象深い。
人を一人殺めるってこういうことなんだという実感を眼前で見せられたような気がしてしまった。
ドシャ降りの豪雨と焼けつく太陽の生々しい陽光の下で繰り広げられる人間模様もまた実に生々しかった。
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用心棒
出演:三船敏郎、仲代達矢、山田五十鈴、東野英治郎、加東大介、志村喬、藤原釜足
監督:脚本:黒澤明
(1961年・東宝・110分)NHK-BS
評価★★★★☆/85点
内容:2人の親分が縄張り争いを続ける宿場町に、桑畑三十郎と名乗る浪人がやって来た。男は両方の親分に自分を売り込み、高く買ってくれた方に用心棒として味方につくと持ちかける。浪人は、腕も立つが頭もよく切れる男で、巧みな策略で双方を戦わせていくが・・・。アクションの切れ味に加え、ユーモアたっぷりの黒澤演出が冴えわたる娯楽活劇。
“傑物黒澤と怪物三船が暴れまくる娯楽劇。これを見ずしていつ死ねる!”
日米安保問題など激しい政治闘争が渦巻き、やがてカラーテレビ放送など経済成長への端緒を開いた節目となった時代、世の中のパッションがそのまま反映された映画は数多い。
日本映画が最も輝いていた時代だ。
その中でもこの「用心棒」は、娯楽性という面で翌年公開の続編「椿三十郎」とならんで珠玉の中の珠玉ともいえる一本だ。
砂じん吹きすさぶ中、悠然と立ち構える三船敏郎、イギリス製のマフラーを首に巻きつけ拳銃を携えた、いったいどこぞの時代やねんという仲代達矢、棺おけ担いでそそくさそそくさ東野英治郎、アホ丸出しの剛力男・加東大介、紅一点の司葉子、そしてどこまでもヘッピリ腰なヤクザたち。
このメンツでルパン3世撮れるだろ(笑)。
それくらい魅力的なキャラクターたちが入り乱れるシマ争いは、ユーモアも満点、しかし命がけ・・・。
高見の見物を決めこむ三十郎が物見はしごを降りて地上に降り立ったとき、一陣の風の中、怪物の疾風怒濤の大立ち回りのもと、辺りは地獄絵図と化す。
拳銃を向ける卯之助(仲代達矢)にズッズッと近寄っていく三十郎(三船)の凄みたるや、思わず卯之助が躊躇して後ずさりしてしまうのも分かるほどのリアリティが画面から伝わってくる。
このシーンを観る側に力づくで納得させてしまうこの映画は、やはり正真正銘のホンモノだと言うほかない。
一度斬っただけでは人は死なないということから生まれた衝撃の2度斬り3度斬りの殺陣、そしてドスッバツッという効果音。舞い上がる砂じんには砂以外に塩ときな粉が混ぜられていたという演出の凝りよう。
伸び伸びと楽しんで撮ったと黒澤は語っているが、役者は相当に大変だったようだ。
暴れるだけ暴れまわったあげく、「あばよ!」と捨て台詞を残して後片付けもせずにさっさと町を去っていく三十郎の後ろ姿は、これが娯楽だ!見たかお前ら!と言わんばかりのやりきった黒澤明の颯爽とした自信の表れとダブって見えてしまう気がしてならない。
傑物黒澤と怪物三船が暴れまくる娯楽劇。これを見ずしていつ死ねる!
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姿三四郎(1943年・東宝・97分)NHK-BS
監督・脚本:黒澤明
出演:藤田進、大河内傳次郎、月形龍之介、志村喬、轟夕起子
内容:明治15年、修道館・矢野正五郎の闇討ちで柔術と柔道の闘いに直面した三四郎は、柔道に誠実な矢野の門下生となった。己の力量に慢心する三四郎は矢野の教えを受け、心身共により鍛えられていく。様々な対戦者に打ち勝った三四郎は、柔術派の檜垣の挑戦を受け、右京ヶ原の決闘に挑む。。原作の出版広告を見た黒澤が自ら企画、脚色した監督デビュー作で、同じ年にデビューした木下恵介と並んで、優れた新人監督に贈られる山中貞雄賞を同時受賞した。
評価★★★★/75点
“笑撃の黒澤柔道ダンス”
柔道とは思えない、まるでジャパニーズ・ダンスと呼んだ方がしっくりくるようなダイナミックさにまずは度肝を抜かれるというか、それはもう漫画の世界で思わず笑っちゃうくらいなんだけど、黒澤映画が黒澤映画たるゆえんの「面白い映画を作るんだ!」という意気込みや躍動感が作風としてすでにデビュー作から感じられるというのは正直驚いた。
黒澤明は最初っから黒澤明だったんだ。やっぱスゴイ監督さんなんだな。
お寺の境内に上がっていく石階段で、ヒロインの娘の下駄の鼻緒を三四郎が手ぬぐいですげ替えてあげるシーンのカット転換のなんと美しいことよ。藤田進と轟夕起子の淡い恋はなんともカビの生えたような古風な恋愛劇だったけど、あのシーンはホレボレしちゃった。
間の作り方が恐ろしいほど巧いんだよなぁ。
そして、敵役の月形龍之介の洋装風のシャレた出で立ちは後の黒澤映画でおなじみの悪役、仲代達矢にもつながると思うんだけど、ラストの右京ヶ原の対決なんかも黒澤映画の原点を見ているようで見ていて興奮してしまった。
強風吹きすさぶ中、駆けるように流れる白い雲と揺れ動くようにさんざめくススキ野の群れ、そこに睨み合いながら佇む2人の男。ビリビリと震えがくるようなシーン、、、監督1作目で撮れねぇよフツー。。しかも戦時中だってさ。
黒澤明、、、神っス。
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続姿三四郎(1945年・日本・83分)NHK-BS
監督・脚本:黒澤明
出演:藤田進、月形龍之介、河野秋武、轟夕起子、森雅之、大河内傳次郎
内容:前作で檜垣源之助を倒した三四郎に、今度は檜垣の弟で復讐に燃える空手家・鉄心&源三郎兄弟が牙をむく!
評価★★★/65点
“弟、、、怖っ。。”
公開が昭和20年4月ということらしいけど、東京大空襲の翌月に映画なんて観れたのかという疑問はさておき、雨あられと降り注ぐ爆撃の中でこういう娯楽映画を作ってしまう黒澤はやはり初めっからただ者ではなかったということなのだろう。
アメリカ人ボクサーとの異種格闘技戦、そして空手の使い手である檜垣鉄心・源三郎兄弟との決闘など画面の荒さはあるものの見応えのあるシーンがつづくし、前作で三四郎が打ち破り病床のふちにある檜垣源之助と三四郎、小夜との哀しい三角関係のシーンも非常に印象に残る。
また、能装束を纏った言葉を発しない源三郎の造型はモノクロ画面の中ではかなり不気味で、一方、鉄心の方は江頭2:50とオッパッピーを掛け合わせたような動きでこれまたかなり滑稽で、それを考えると、もっと檜垣兄弟をクローズアップさせてほしかった気もする。
しかし、、あのご時世にどうやってあんなに外人集めたんだろ。。
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どですかでん(1970年・東宝・126分)NHK-BS
監督・脚本:黒澤明
出演:頭師佳孝、伴淳三郎、井川比佐志、田中邦衛、三波伸介、渡辺篤、三谷昇
内容:電車バカの六ちゃんは、毎日、電車の走る音を「どですかでん」と口マネしながら、町内を回っている。六ちゃんの住む集落には、暗い過去を背負ったり、苦しい現在に打ちのめされ悩んだりしながらも、優しい心を持って懸命に生きている人たちがたくさん住んでいた・・・。黒澤映画初のカラー作品。
評価★/20点
日本はもとより、世界に通用する映画を世に送り出そうと結成された四騎の会の企画作品がこれかよ。。何も言葉が浮かんで来ん・・・。
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