夢のシネマパラダイス7番シアター:世界の黒澤シネマスタイルズvol.2
天国と地獄
監督:黒澤明
(1963年・東宝・黒澤プロ・143分)並木座リバイバル上映
評価★★★★★/100点
内容:横浜の高台に豪邸を構える勢靴会社の重役権藤の子供と間違えられ、あろうことか権藤のお抱え運転手の子供が誘拐されてしまう。権藤は悩みぬいた末に3000万円の身代金を払い、子供を救い出す。やがて、警察の捜査線上にある一人の青年が浮かび上がってくるのだった・・・。エド・マクべインの「キングの身代金」が原作。新幹線を借り切って撮影された現金受け渡しのシークエンスは有名で、これを模倣したと思われる誘拐事件が実際に起きるなど、さまざまな反響を呼んだ傑作。
“こらーーそこのもがき苦しんでる女ーッ、トタンの壁をキリキリかきむしるなーーッ”
ホントにやめてくださいよ。マジで。耳に残るんだから・・・。
といってもあのドヤ街はスゴイ。梶原一騎もビックリだ。
さらに山崎努の無表情の踊りはスゴイ。オイラは爆笑だ。緊迫場面であれはないでしょホント。今でも笑いがこみ上げてくるっつーに。
しかし医者を目指そうという男がああいう事件を起こすのかねえ。。
権藤の息子が似てるってのもオカシな話だし。権藤の奥さんも見分けがつかないっていうのは、もう双子としか考えられない・・・はっ!ま、まさか・・・そういうことだったのか・・・。
(ここからはオイラの妄想です。。)
け、警部。権藤はEDだったんですよ。満たされない奥さんは愛人の青木と関係を持ち、身ごもったんです。
青木のことを愛していた奥さんは悩んだ。
しかし、身ごもっているのが双子だということが分かり、彼女は決意するのです。
彼女は権藤に妊娠を打ち明ける。
不思議に思いながらも喜ぶ権藤。
彼はまさか双子とは思いもよらない。青木もまたしかり。
つまり、生まれてきた子供のうち一人は権藤の息子として、もう一人は青木の息子として育てられてきたのです。
そして、青木とその息子真一くんと一緒にいたい奥さんは青木を運転手として雇い入れた・・・真相は奥さんのみが知る。
金を出すことを渋る権藤をまさに悲壮ともいえる執着をもって説得する奥さんの行動もこれで理解できる。
警部、この双子の行く末こそまさに天国と地獄なのでは。
いかがです、警部。
仲代警部「・・・・・。」
黒澤先生ゴメンなさ~い。もう賞賛され尽くしているので、わたくし何も言うことがございません。このような妄想で話を広げることしかできませんですた。。。
でも凄いんです、この映画はホントに。
実は実際のロケ地を見ると、権藤邸の方が、下町よりも下の方にあるという恐るべき事実をテレビを見て知り、注意してみたんですが、、、上に建ってるように見えるーーーッ。
く、く、黒澤天皇は現人神だったんじゃーー。合掌。
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悪い奴ほどよく眠る(1960年・東宝・150分)NHK-BS
監督:黒澤明
出演:三船敏郎、森雅之、志村喬、三橋達也、香川京子
内容:汚職事件の犠牲となった父の仇を討つべく、その遺児が悪徳政治家に復讐していく姿を描いた黒澤プロの第1回作品。
評価★★★/55点
予想のつかない展開に持っていったのはそれなりに引き込まれるが、なんつーか1つ1つのプロットに土台無理がある。新築の家を建てたのはいいが、そこかしこから雨漏りしちゃってます、、この映画は。
もうちょっと重厚なものを期待していたのだけど、昭和初期の少年探偵物でも読んでるような稚拙さには思わず失笑・・・。
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素晴らしき日曜日(1947年・東宝・108分)NHK-BS
監督:黒澤明
出演:沼崎勲、中北千枝子
内容:雨の日曜日、恋人同士の勇造と昌子は敗戦直後の焼け跡がまだ残る街へ出かける。持ち金はたったの35円。やがて2人は無人の野外音楽堂へ歩を進める。そして、聴き損なった交響曲コンサートを始めようと勇造は舞台に立ち、昌子は幻の観客に向かって自分たちへの拍手を求めるのだった・・・。D・W・グリフィス監督の「恋と馬鈴薯」に触発された黒澤監督が、当時無名だった2人を主役に、隠し撮りを多用して仕上げた一品。
評価★★/40点
“この2人にはついて行けません、、黒澤先生”
これが戦争が終わって、復興の礎を築こうとしている古き良き時代の恋人のあるべき日曜日の姿なの?思わず笑っちゃったんですけど・・。
特に後半。これはもう喜劇です。
おそらくあのご婦人はいまだ処女。接吻さえ頑なに拒否する貞節なご婦人。古き良き時代のよくある設定。
が、男の方は欲求不満。まぁそうやろ。
前半は浮浪児と良家のボンボンの対比や、動物園で男が豚などの動物をブルジョアに例えて風刺する場面など、一見すると社会批評はたまたいざ立ち上がらんプロレタリア青年、、といきたいところだが、この男その気配もなく、戦争帰りとはいえ鬱々としていてやる気もない。
後半、その謎が解ける。
なんだ、欲求不満なんじゃん・・・(笑)。
男が住む下宿屋でご婦人に迫る男。下宿屋を飛び出していくご婦人。が、戻ってきて服を脱ごうとして泣き崩れるご婦人。と、なんと彼女ににじり寄って一緒にすすり泣くバカ男。
な、なぜ泣くこの男はーー。オイラも泣かなきゃいけんのかい・・・。ムリだっつうの。
結局何も起こらず、2人でまた外に出て行く。
そして満月の夜。月に向かって“まんまるお月さま”をオペラ調で歌う男。ここでブランコに乗ってるのは「生きる」(1952)につながってるのかしら。
とはいえ、ちょっとおかしくなってる男。
そして午前中のデートで交響曲の演奏会を見ることができなかった2人は闇夜で誰もいない野外音楽堂へ。
何するかと思いきや、「僕が指揮者になる。君は観客。必ず未完成交響曲が聴こえてくるよ!」と男が言う始末。聴こえるわけないやんと思いつつ半ば男に圧倒されて頷くご婦人。意気揚々と指揮者になりきろうとする男。が、しかしあえなく崩れ落ちる男、、、「ぼ、僕にはできない。」(テレビの前で爆笑するオイラ)
ご婦人のもとへうなだれて来る男。指をくわえて悔しがるご婦人。「あなたならできるわ!」(腹抱えて笑っているオイラ)
やる気を出す男。半狂乱で指揮棒を振り上げる男。
と、ご婦人も幻聴で頭がおかしくなり男のもとに走り寄り、接吻!
その後、駅での別れ際。「また来週の日曜日ねん」とご婦人。妙に艶かしい目つき。
来週ヤッタるぞーーッと意気込む男。(まだ笑いが治まらないオイラ)
チャンチャン。満月の夜は何かが起こる、、、黒澤先生どう観ればよろしいのですかーーー。。。
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酔いどれ天使
監督:黒澤明
(1948年・東宝・98分)DVD
内容:闇市の住人を診療する酔いどれの医者真田は、顔役・松永の銃傷を治療して以来、彼の肺病の心配をするようになる。松永の病は進行していたが、彼は真田の忠告を受け入れようとしない。しかし、兄貴分の岡田が出所した頃には、松永は極道の世界は空しいものだと認め始めるのだった・・・。
評価★★★☆/70点
「結核ほど理性のいる病はない。」
口酸っぱく志村喬が仰せになっているが、薬用のアルコールを水で薄めてまで飲むオッサンに言われたくねーよ。と思いつつ三船敏郎演じる松永を見てるとまさに言い得て妙なわけで。
とにかく三船敏郎の存在感が凄い。たしかこれが映画出演2作目、しかも初主役。いやはや驚く。
特に兄貴分・岡田との鬼気迫る格闘シーンは見もの。
鈍い光を放つナイフ。生への執着。白いペンキ。生きるか、死ぬか。ドロドロとした渇望。だって死にたくねーーもん俺ぁよーという切実な息遣い。
「羅生門」(1950)での森雅之との格闘とともに必見のシーンだろう。
本物の悪には染まっていない、すなわち理性がまだ僅かに残っていた松永。そういう中途半端さというかある種の悲哀がうまく表現されていたし、それを引き出した志村喬がまたイイ!
松永に幾度となく引っぱたかれながらも奴等と対等以上に我を通すオッサン。
やはり黒澤―三船―志村。セットで真の黒澤映画なのだな、と自分で納得。
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野良犬(1949年・東宝・122分)NHK-BS
監督:黒澤明
出演:三船敏郎、志村喬、淡路恵子
内容:上着のポケットに拳銃を無造作に入れたままバスに乗っていた刑事の村上は、そのバスの中で拳銃を盗まれてしまう。必死になって拳銃を探す村上、だがしかしその盗まれた拳銃が使用された強盗事件が発生してしまう・・・。拳銃を盗まれてしまった若い刑事が必死に犯人を追う姿を描いたサスペンス。
評価★★★★/80点
“みんな野良犬だった。あの時代を生き抜くために。そしてときに野良犬は狂犬になる。”
冒頭、野良犬の顔。
鋭くささくれ立った眼光。口から這い出すザラザラした赤い舌。獲物を嗅ぎ分けるヒクヒク動いている鼻。むさ苦しい呼吸。いつ襲ってくるともしれない危険な臭い。
この冒頭から一気に引き込まれてしまう。
そして、東京の雑踏。飯を必死でむさぼりガッツキ食う人々。うだるような暑さ。村上の目。犬小屋並みのバラック小屋。密閉空間にひしめき合う人々。じわじわと滲み出る汗。虚ろな目で無心に呼吸する踊り子たち。
凄まじいまでの東京の風景。こいつらたしかに野良犬だ。
みんな生きるのに必死なのだ。
恐ろしいまでの黒澤の観察眼にただただ唖然とするばかり。
しかし、その中で登場人物でただ一人だけ浮いている男がいる。奥さんと3人の子供、くつろげる家。志村喬演ずる佐藤警部、彼だけがいわば正常といえよう。
映画の中におけるその絶妙な配置とバランス。
村上だけではこの作品は成り立たなかったのは言うまでもない。
しかし、村上という男はホントに野良犬だ。なにせ、あいつから吐かせるまで食いついて離れません!と怒り狂った土佐犬あるいはドーベルマンのような顔つきで言われちゃあね・・。
佐藤警部と行動をともにするうちにだんだん飼い馴らされていくとはいっても、やはり戦争に行き復員してきた村上とそうではない佐藤との世代間対立といったものも浮き出てきて興味深かった。そういった社会背景までも取り込むこの映画はやはりスゴイ!
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