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2008年11月26日 (水)

夢のシネマパラダイス389番シアター:ゲド戦記

Talesfromearthsea 声の出演:岡田准一、手嶌葵、菅原文太、田中裕子、香川照之、風吹ジュン、小林薫

監督:宮崎吾朗

(2006年・東宝・115分)2006/08/21・MOVIX仙台

内容:多島海世界アースシー。人間世界とは別な海域に棲む竜が現れ共食いを始め、作物は枯れていき、世界の均衡が崩れつつあった。大賢人と呼ばれる偉大な魔法使いハイタカ(ゲド)は、その災いをもたらす源を探る旅の途中で、父王を殺した異国の王子アレンと出会う。心に闇を抱えるアレンを伴ない旅を続けるハイタカは、ホート・タウンという都市国家にたどり着く。そして、街外れにある幼なじみのテナーの家に身を寄せ、そこで親に捨てられた少女テルーに出会うのだが・・・。

評価★★/40点

作り手の説明不足と作り手の自己満足が結びついている映画ほどタチの悪いものはないが、この映画はその中でも最悪の部類に入る独りよがり映画。

トンビが鷹を生むという例えはあるが、鷹がトンビを生むというのもまた真だったんだね(笑)。あるいは、バカと天才は紙一重てか。

しっかし、絵が宮崎駿の絵柄そのまんまというのがまた失望を大きくするんだよねぇ。

ジブリアニメという看板の中で見られるのは当然としても、宮崎駿の息子が監督ということで、宮崎駿との比較というさらなる高みのレベルと期待感で見てしまう。さらに絵柄が同じだから、宮崎駿の息子が“宮崎アニメ”を作ったという認識の中で見てしまうんだよね。

つまり、はたして宮崎アニメは2代目に継承されていくのかという視点で見てしまうのだけど、、、今回の結果やはり宮崎アニメはあくまで宮崎駿の作ったアニメであり、宮崎駿という絶対的な個なくしては成り立たないものだということが如実にあらわになってしまったといえよう。

同じ絵柄と同じ文化・文脈で長く継承されてきたディズニーアニメやピクサーアニメとは土台からして違うといえるのかもしれない。

そもそもディズニーアニメやピクサーアニメというくくりの中で比べられるべきはジブリアニメであるはずで、がしかしあまりにも宮崎アニメというブランドが突出し確立されてしまったがゆえの弊害として、育つべき生え抜きのジブリアニメの裾野を広げることがついぞできないままでいるのは、ジブリの将来にとっては危うい以外の何ものでもないだろう。

黒澤明の映画、いわゆるクロサワ映画と全く同じものを作ることなどできないように、宮崎アニメもまたしかりなのはよくよく考えてみれば明らかなんだけどね。

第2のジブリアニメはありうるとしても、第2の宮崎アニメというのは作りえないのだということは観る方としても肝に銘じておかなければならないのだと思うし、政治の世界と同様、世襲というのはロクでもないってことなんだね(笑)。

ジブリという精神風土を共有した中で新たな才能や作品を生み出していき、それがジブリアニメという世界観とブランドになっていかなければならないはずなのだが、絶対専制君主が君臨するジブリ帝国はやはり一代限りで店じまいにならざるをえないのか。

唯一ジブリを継承していくと思われた「耳をすませば」の近藤喜文ももうすでにこの世にいないし・・・。

と、そんな悲観的なことを「ゲド戦記」を観て思ってしまったというか確信してしまったというべきか。。

作り手の説明不足と作り手の自己満足が結びついてしまった独りよがりな映画という意味では、宮崎駿の「紅の豚」以後の作品は全部そうだと思うんだけど(笑)、それでも“宮崎アニメ”という世界観の中で見せきってしまう、まるでブラックホールのごとく観る者を宮崎ワールドに吸い寄せてしまう圧倒的な魔力と魅力が宮崎駿にはある。まさに天才。

しかし、そんな魔力を持たない者が独りよがりな映画のみをマネして作っちゃうというのは単なるバカとしか言いようがないわけで、血のつながりを当てにしたのだとしたらこれはもうホントに救いようがない。

今回の「ゲド戦記」を観て、いの1番に出てくる感想は、「よく分からない」という一語につきると思うのだけど、なぜ畑違いの宮崎吾朗を監督に抜擢したのかというそもそものところからして「よく分からない」わけで、しかもジブリの看板を背負ったこんな大作で。。宮崎駿の息子という血統書のみを信じて期待感を抱いてしまったオイラも単なるバカとしか言いようがないけどさ(笑)。

しかし、ホントよく分からない、内容が飲み込めない映画だったな。

まるでホートタウン西3丁目の町内会の一角で繰り広げられているかのごとく作品世界が広がっていかないのも致命的だし、世界観や登場人物の設定・背景に対する説明がほとんどなされていない中で、登場人物のごもっともな御託をストレートにつらつらと並べ立てるだけで物語を描写していってしまう底の浅さも致命的。

現代の冷めたキレやすい子供たちの投影か、はたまた宮崎吾朗自身の投影なのかとも感じてしまうアレンの父親殺しとはいったい何だったのか・・・。アレンが抱える決して癒されない悲しみとは、そして「命を大切にしないヤツなんか嫌いだ!」とだけ唐突に吐き捨てるテルーの抱える決して癒されない悲しみとは・・・。

「クモ、再び過ちを犯すつもりか」とだけ説明されたハイタカとクモの因縁の過去・・・。「アチュアンの墓所の中からハイタカが光の中に連れ出してくれた」とボソッと漏らすテナーとハイタカの背景・・・。なぜハイタカはアレンに固執し、気にかけるのか・・・。

それらすべてに対する説明も描写もほとんどない・・・。

ゆえに作品世界を支えるべき背景がものの見事に抜き取られているので、深みも奥行きもあったもんじゃない。

その中で、永遠の命だとか世界の均衡が崩れている原因を探るための旅だとか大仰に風呂敷を広げられても、てんで実感がわかないわけで・・・。あげくのはてにクモの作画が媒図かずお、はたまた諸星大二郎に変容していくし。

あまりにも本作の世界観や内容が分かりづらかったので、DVDで出ているアメリカで2004年に製作された実写版TVムービー「ゲド/戦いのはじまり」を速攻で借りてきて見ちまったじゃないか。。全6巻あるゲド戦記の1・2巻を基にしていて、アニメの方は第3巻が主ということだから知識を深めるにはいいかなと。

んで見てみたらなるほど、アチュアンの墓所で巫女の一人として邪悪な“名無き者”を祈りで封印しているテナーと、割れた平和の腕環を1つにするべく予言に導かれてアチュアンの墓所へ向かう魔法使いハイタカの物語、そしてアチュアンの墓所の封印を解き放ち永遠の命を得ようとするカルガド王との対決が初心者にも分かりやすく噛み砕いて描かれている。

全体的な印象としては、ロード・オブ・ザ・リングとハリポタを足して2で割ったようなかんじだけど、なかなか楽しめるファンタジーものに仕上がっていたと思う。とはいえ、原作者のル・グウィンに無断で作ったらしく、さらに内容に対しても酷評してるらしいけど。

でも、宮崎吾朗のよく分からない作品世界の背景を知るにはもってこいの作品ではないだろうか。

ただ、原作はどうか知らないけど、影(ゲベス)の解釈というか設定が両者では異なっていて、実写版の方は心の闇として描かれていて、一方今回の映画の方は心の闇に喰われたアレンの身体から心の光が分離してそれが彷徨う影になった、すなわち心の光として描かれている。

この違いは、コミック版ナウシカでナウシカが「命は光だ。」という言葉を否定して、「命は闇の中にまたたく光だ。全ては闇から生まれ闇に帰る。」という言葉とつながっている気もしたり、闇に支配された恐ろしく暗い主人公が光を取り戻すという構図は現代の若者や社会に対する反映や主張なのかなとも思ったり。

また、クモの顛末なんかも同じくナウシカに出てくる不老不死に固執する皇弟の姿を連想してしまった。

まぁとにかくあれだな、もうちょっと整理してじっくり煮込んでもう1回出直してきなさいとは言いたいわな。

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(おまけ)

エラゴン/遺志を継ぐ者(2006年・アメリカ・104分)WOWOW

 監督:シュテフェン・ファンマイアー

 出演:エド・スペリーアス、ジェレミー・アイアンズ、シエンナ・ギロリー、ロバート・カーライル、ジョン・マルコヴィッチ

 内容:アラゲイシア帝国は、かつてドラゴンとそれを乗りこなすドラゴンライダーによって平和に統治されていた。が、ひとりのドラゴンライダー、ガルバトリックスの裏切りによって帝国は暗黒の時代を迎えていた。そんなある日、辺境の村で暮らしていた少年エラゴンは、森の中で青い球体を見つける。しかしそれは、ドラゴンの卵で、やがて中からメスのドラゴンが誕生する・・・。

評価★★/40点

“この映画を見て良かったことはたった1つ。ゲド戦記の実写化は可能だということ・・・それだけ。”

ドラゴンを飛ばして、剣を持たせて、青い目を光らせればファンタジーになると思ったら大間違いで、しっかりと世界観やキャラクターを描き込んでくれないとただのお遊戯にしか見えなくなる。

この映画は、そこらへんのことを全く認識していない人たちが作ったとしか思えないし、しかも大ベストセラーの原作ものをここまでスカスカに作ってしまうというのも普通ではありえない。原作に対する愛情というのが微塵も感じられない。

ファンタジーブームに便乗して金を稼ごうという映画会社の浅はかな考えにはホトホト呆れるわな。20世紀フォックス、、、メジャー会社のくせして。。

しかもこれ3部作ですか!?ムリだろもう・・・。

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ダンジョン&ドラゴン(2000年・アメリカ・107分)WOWOW

 監督:コートニー・ソロモン

 出演:ジェレミー・アイアンズ、ソーラ・バーチ、エドワード・ジューズベリー、ブルース・ペイン

 内容:魔法を操る貴族“メイジ”が支配するイズメール王国で、魔法を使うことのできない平民達は奴隷のように扱われていた。ドラゴンを自由に扱える杖を持つ若き女王は、常々そのことに心を痛めていて、改革に着手しようとするが、宰相プロフィオンの魔の手が伸びていた・・・。人気RPGゲームを原作にしたアクション・ファンタジー。

評価★☆/35点

いろいろな要素のゴッタ煮という印象が強い。魅力的な引き出しをいくつも持っているのだが、それらを全て小出しにしてきた感が・・・。

そして結果としてそれが全体として魅力的になるのかというと全くそうではないという悪い意味での好例。

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