夢のシネマパラダイス444番シアター:血と骨
出演:ビートたけし、鈴木京香、新井浩文、田畑智子、オダギリジョー、松重豊、中村優子、濱田マリ
監督・脚本:崔洋一
(2004年・日本・144分)2004/11/13・プラゼール
評価★★★★/80点
内容:大正12年、日本で一旗あげることを夢見て済州島から大阪へ渡ってきた金俊平。やがて強靭な肉体と凶暴さでのし上がっていった彼は蒲鉾工場を開業し繁盛させるまでにいたる。しかし、その凶暴かつ強欲な振る舞いと果てなき性欲は収まるところを知らず、妻・李英姫(鈴木京香)や家族でさえただ怯えるばかりの日々だった。そこにある日、朝鮮での落とし子だと名乗る武(オダジョー)が現れる・・・。「月はどっちに出ている」の著者・梁石日が自らの父親をモデルに著した同名小説の映画化。
“バドの血も凍る戦慄”
女に暴力振るう奴は徹底的にぶちのめす!!
「L.A.コンフィデンシャル」でバド・ホワイトの血をたしかに受け継いだオイラは、がしかし「俺の血を飲め!」という金俊平の前に脆くも沈黙した。バドの血が騒ぐことはとうとうなかった。
そして、あろうことかエンディングロールで背景に映し出される家族写真の数々を見た途端、涙が止まらなくなった。なんだか分からないが泣けてきた。自然に涙があふれた。
「さとうきび畑の唄」で明石家さんまが撮った笑顔の写真の数々に涙があふれたのとはわけが違う。
アンタら、よう耐えよったなぁという感慨からなのか、南無阿弥陀仏と祈ることしかできなかった英姫の苦しみの表情に感極まったのか、花子のあまりにもやり切れない境遇への悲嘆の涙なのか、脳腫瘍に倒れた清子の陥没した頭を思い出したからなのか、、、よく分からないが涙が止まらなかった。
ただ、これだけは確かに言える。
金俊平の一生に涙したなんてことは決して断じてない、と。
はっきりいって金俊平に感情移入するなどというバケモノみたいなことは1度たりとてできなかった。不可能だ。この映画の描写はそれを許さない。
ウジ虫のたかった豚の生肉を食らい、燃えたぎった炭を手で鷲づかみにし、斧を振り落とし、自分の生血を無理やり飲まそうとし、殴り、首を絞め、犯る。ハードコアという定義さえぶち壊してしまうほどのバケモノだ。
そんな男が半身不随になろうが、爺さまになって北朝鮮でわびしく死んでいこうが、こいつザマァみろとかいう感情さえ湧いてこなかった。
バケモノが倒れた、ただそれだけだ。この爺さまがあの世に行ったからって英姫や花子が戻ってくるわけではない。
ただ、ここで終わった映画に何か物足りなさを感じたのもたしかで。
それはつまるところ、金俊平の息子、正雄についてである。
在日2世の正雄のモノローグで語られていく在日1世の金俊平という男の生きざま。
俊平が花子に「わしはおのれの何なのや!」と怒声をあげ、花子が「お父さん、、、」と答えブン殴られるシーンがあるが、正雄よ!オレはアンタに訊きたい。
アンタは金俊平の何なのや!と。
俊平が繰り返したあの問いに対する答えは、自分には分からない。だから正雄さん、アンタに訊きたいんだ。
アンタは金俊平の何なのや!
それをはっきりと描いてくれたならば★5っつあげてもよかったのに。
正雄と同じ在日2世の監督さんだからこそ、その思いは強くなる。
(追記)
この映画を観てから数日後、NHKで「フェリーが結ぶ日韓交流、関釜フェリー就航100年」という番組を偶然目にした。
日本に強制連行され新潟の工場で働かされた父をもち、現在は下関に住む在日2世とその息子3世の生き方を追った内容で、映画を観た後だったこともあり、興味深く見た。
金俊平は大正期に新天地を求めて対馬海峡を渡ったわけだが、在日1世の多くにとって対馬海峡は悲しみの海峡だったという。
そして在日として日本で生きていくための礎と在日朝鮮人としての誇りを築いた1世たちのとてつもない艱難辛苦と努力は、おそらく我々の想像を絶する。
その1世のエネルギーの塊が金俊平という男として具現化したのだろうか。
だとすれば、それが正雄にどのようなエネルギーの塊となって受け継がれ、彼のアイデンティティの礎となったのか、そこが知りたい。“悪い血が流れているのかも”という一言では片付けてほしくない。
しかし、豚の解体を生々しく見せるシーンにも象徴されるように、この映画には激しい生のエネルギーが存在していた。
ウォン・カーワイの「天使の涙」で、金城武が死んで伸びきった豚の上に乗っかってマッサージするシーンがあったが、そんなのがおちゃらけて見えるくらいだった。
はぁ、、これで、やっとで言える。
この映画は凄えぇ!
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