ラ・ラ・ランド
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ローズマリー・デウィット、J・K・シモンズ
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
(2016年・アメリカ・128分)東宝シネマズ日本橋
内容:ロサンゼルス。女優を目指すミアは、映画スタジオのカフェで働きながらオーディションを受けるも、なかなか役にありつけない。そんなある日、彼女は場末のバーでピアノを弾いているセバスチャンと出会う。彼も自分の店を持ってジャズを演奏するという夢を持っていた。そして2人はいつしか恋に落ち、互いに夢に向かって奮闘していくのだが・・・。
評価★★★★★/90点
取っつきにくいジャズよりもケニーGやそれこそザ・メッセンジャーズの音の方を大いに好む自分にとって、あんなのニセモノだし不本意だというセブのディスりは耳が痛くなった。。
いや、待て。じゃあアンタはホンモノを聴かせてくれるのか!?80年代ポップスまで揶揄しやがってー!
で、肝心のセブが言うところの本物のジャズが流れるのは、意外にもセブがミアを連れて訪れるジャズバーで演奏されている“ハーマンズ・ハビット”くらいなもので、ジャズピアニストとしてのセブの本気というか本領発揮はついぞ見ることができなかったというオチ(笑)
本物のジャズというのはセブがミアに力説したところから推測するに、個人技のぶつかり合いによる即興性のあるジャムセッション的なものだと思ったんだけど、ライアン・ゴズリングにそこまでの演技パフォを課すのは酷だったのか、そういうシーンがこれっぽちも出てこないんだよね。逆に嫌々やってるバンドシーンの方が記憶に残るというw
さらに、ミュージカルシーン含めた音楽もジャズを基調としながらもかなりマイルドテイストにアレンジされていて、もはやイージーリスニングの域。
でも、その裾野の広さがミーハー初心者な自分の琴線にものの見事に響いて虜になってしまうという逆説は、もうこれは監督の確信犯なのだろう。
「セッション」(2014)の時は思わなかったけど、今回は「ラ・ラ・ランド」を入口にジャズをもっと聴いてみたいと思わせられたし。なにせサントラまで買っちゃったんだから。。
あと感じたのは、ミュージカルシーンが意外に少ないなという印象。
大渋滞のLAの高速道路上で繰り広げられるオープニングのモブシーンミュージカルでガツンとインパクトを与えた後は、オーケストラから徐々にシンプルなピアノ演奏に変わっていく。そして最後はミアの力強いボーカルを主旋律とする“オーディション”(レミゼで5分に満たないパフォーマンスだけでアカデミー助演女優賞をかっさらったアン・ハサウェイのようにエマ・ストーンの受賞を決めた1曲)で締めるという、よりパーソナルなものに落とし込んでいく意図が感じられる。
なんだけど、モブシーンしかり幻想的なマジックアワーのハリウッドヒルズでミアとセブが文字通り心を弾ませる“ア・ラヴリー・ナイト”のアステア&ロジャースを彷彿とさせるダンスシーンしかり、それぞれ1曲かぎりで打ち止めなんだよね。
欲張りな自分はもう数シーン加えてもよかったのではという気持ちになったけど、捨て曲一切なしのクオリティと、四季ごとに章立ててミアとセブのドラマとシンクロさせる構成が間延び感をなくしたことで、終わってみれば腹八分目の非常にバランスの取れた作品になっていたと思う。
考えてみればミュージカル映画って、ミュージカルシーンが多いと満腹すぎて胸焼け起こすんだよねwそれ思うと少々物足りないくらいがちょうどいいのかも。
ラストに関しても、ミアのバイト先のカフェの前が「カサブランカ」に使われた建物という印象的なセリフがあったり、ミアの部屋にイングリッド・バーグマンのポスターが貼られていたり、あからさまなカサブランカ推しがあったので、ラスト見て完全にこれはカサブランカのオマージュなんだなと思って納得。
とにもかくにも映画見てこんな幸せな気分に浸れたのは久しぶりだ。
ヤバイ、、ほんとにジャズバー行ってみたくなってきた・・w
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グレイテスト・ショーマン
出演:ヒュー・ジャックマン、ザック・エフロン、ミシェル・ウィリアムズ、レベッカ・ファーガソン、ゼンデイヤ、キアラ・セトル
監督:マイケル・グレイシー
(2017年・アメリカ・104分)WOWOW
内容:19世紀半ばのアメリカ。ショービズの世界で成功を夢見るP・T・バーナムは、幼なじみの妻チャリティと娘たちを幸せにするために挑戦を続け、いわゆるフリークショーと呼ばれる前代未聞のショーを作り上げて成功を収める。しかしその型破りな内容から反対派も根強く、バーナムは彼らにも認めさせるショーを作ろうと上流階級に名の知れた劇作家フィリップや、イギリスで出会ったソプラノ歌手ジェニーを迎え入れて奮闘していくが・・・。
評価★★★☆/70点
2時間超えが定番のこの手のミュージカル映画で本編が100分弱というのはかなり珍しく、テンポ良くサクサク見られたのはたしか。それでいて満腹感も十分。
実際、描かれている要素は、家族愛、夫婦の絆、許されぬ恋、成功と挫折、仲間の友情、マイノリティと多様性、偏見と差別、芸術とエンタメは相容れないのかetc..めちゃくちゃテンコ盛り(笑)。
で、短い尺の中でこれらを見せきる力技、もっと正確にいえば見たと思わせるトリックがこの映画の醍醐味なのだと思う。
それは端的にいえばミュージカルシーンにあって、通常はキャラクターの個性や内面の強力な発露として表現されるのに対し、今作ではそれプラス時空を操り物語を進める強力なツールとしての役割も担っているのがミソ。
例えば、冒頭の“ア・ミリオン・ドリームズ”では、バーナムとチャリティの子供時代の出会いから大人になって結婚し子供も産まれ幸せな家庭を築くまでを一気に見せる。
また、オペラ歌手ジェニー・リンドがNY公演で歌う“ネヴァー・イナフ”では、バーナム、チャリティ、ジェニーの危うい三角関係を匂わせたり、フィリップとアンの恋の始まりと葛藤をいずれも会場での視線の交錯と細かなカットバックで描いていく。
しかも、両曲とも歌詞とキャラクターの心情およびカットが生み出すストーリーが完全にシンクロしているのに加えて、楽曲がポップでエモーショナルなので没入感がハンパない。
ハイテンポでありながら快感指数高めで見た気にさせる要因には、そういうかなり綿密に作り込まれたカラクリがある。
他にも妻チャリティの複雑な心情を歌い上げる“タイトロープ”も印象的だったし、トランプ以降急速に世界中に広まっている不寛容な社会への糾弾にまでイメージを飛ばさせられる“ディス・イズ・ミー”にも圧倒される。
今作のミュージカルは捨て曲が一切ない、まさに名盤といっていい出来🎵
ただ一方では、2時間半の長尺でテーマをじっくり掘り下げた方がより良かったのではないかという思いも芽生えてきたり・・w
あるいは、穴のあいた靴下を履く浮浪児がチャリティを迎えに行く夢を抱きながら鉄道事業によって財を成していくアメリカンドリームの方も見たかったり。
まぁ、芸術ではなく祝祭=エンターテインメントなんだ!最も崇高な芸術とは人を幸せにすることだ!と豪語するバーナムの言を借りれば、今作はまさにその通りの映画だったと言えるのはたしかだろう。
とはいっても、ラ・ラ・ランドの方が好きだけどww
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レ・ミゼラブル
出演:ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン、ヘレナ・ボナム=カーター、サシャ・バロン・コーエン
監督:トム・フーパー
(2012年・イギリス・158分)DVD
内容:19世紀フランス。妹の子供のためにひと切れのパンを盗んだ罪で19年獄中生活を送ったジャン・バルジャン。出獄した彼は施しを与えてくれた村の司教から銀の燭台を盗んでしまうが、司教がかばってくれたことで良心を取り戻し、真人間になることを誓う。そしてマドレーヌと名前を変えながらも市長にまで上りつめる。しかし、法に忠誠を誓うジャベール警部の執拗な追跡に逃亡を余儀なくされ、パリで身を隠しながら養女コゼットと暮らし始める。その一方、パリでは学生運動の嵐が吹き荒れていた・・・。
評価★★★/60点
今までめぼしいミュージカル映画は見てきたつもりだけど、全てのセリフをミュージカルで通すオペラ調の映画は初めて見た気がする。
で、これが自分にはちょっと合わなかったなと。
登場人物の感情の高ぶりや物語の重要な場面展開などポイント×2で歌いだすことに見慣れていた自分にとっては、ドラマと歌が常に一体となった今回のつくりは抑揚がなくてイマイチ乗り切れなかったし、妙に疲れた
まるで役者たちの生歌のど自慢大会を見に行った趣だったけど、物語の方もすごい駆け足で、なんか底が浅いというか。。非ミュージカルだった98年公開のレミゼの方がじっくり見れる余裕があったと思う。
で、レミゼは何度も映画化されているほど誰もが知っている古典中の古典なのだから、物語構成の焦点を大胆に絞ってもよかった気がする。
具体的にはコゼット、マリウス、エポニーヌを主体とする市民革命の盛り上がりを軸にして、ジャン・バルジャンの過去やジャベールとの確執を回想シーンなどを使って複合的に組み合わせていく方が、全編歌づくしには合っていたと思う。
でも、唯一この映画を見た価値があったのが、ファンテーヌ役のアン・ハサウェイだ。登場シーンは15分にも満たないものだったけど、幼い娘を育てるため髪を切って売り、歯を抜いて売り、娼婦にまで身をやつす結核に冒された極貧のシングルマザーを鬼気迫る演技で体現。絶望に打ちひしがれながら歌う“夢やぶれて”には思わず涙
この1曲だけでアカデミー賞獲ったようなものだけど、大納得した。
あと、ラストのジャン・バルジャンの死の間際に彼を神のみもとに誘う聖女として出てきた時の穢れのない神々しさにも息を飲んだ。
この映画は、アン・ハサウェイの一点押し!というのが自分の偽らざる感想だ。
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